“ロマンチックな出会い”をつくる29歳があえて「孤独な起業」を選んだ理由
プロの書店員が選んだ「本のリスト」が手元に届き、そこから好きな本を2冊選ぶ。2カ月間、自分の選んだ2冊をじっくり味わったら、3カ月目に同じ本を選んだ男女数人でディナーをする。出会いは、そのたった一度きり。出会いそのものの質よりも、「出会い方」にとことんこだわったサービスを提供したい。
そんな思いから‟スローでメロウ”なマッチングサービス『MISSION ROMANTIC book』を立ち上げたのは、もともと新卒で大手広告代理店に務めていた森本萌乃さんだ。
ディズニープリンセスとジブリアニメ『耳をすませば』をこよなく愛するロマンチスト。そんな彼女が「最初の一歩」を踏み出した時、“現実”はちっともロマンチックなんかじゃなかったと笑う。ただひたすら現実を突き進んだ、森本さんのファーストステップを、覗いてみよう。
スペックを見ただけで人を‟スワイプ”している自分に嫌気がさした
――森本さんは新卒で大手広告代理店に入社したんですよね。
はい。主にリアルイベントを企画するプロモーション畑のプランナーでした。4年務めて、その後は代表の方とのご縁があって、My Little Boxというパリ発のスタートアップ企業の日本支社に転職したんです。
そこからもう1回転職して、今はオーダーメイドスーツを展開するFABRIC TOKYOという会社で週4日、契約社員として働きながら、『MISSION ROMANTIC』の代表としてパラレルワークをしています。
――パラレルワークを始めたのはなぜ?
「いつかは自分で何かをやりたい」と考えていたんですけど、具体的には何も決められていなくって。自分の「何か」も考えたいし、組織人としても働きたい。そう考えていた時にたまたまFABRIC TOKYOの代表に出会って、「挑戦したいっていう気持ちは大切だから」と今の働き方を提案してもらったことが2度目の転職のきっかけになりました。
――自分で何かを始めるためにまず、週4日勤務の体制にしたと。
はい。Googleなどでも「就業時間のうち20%は、普段と違う仕事や、クリエーティブな活動に時間を使っていい」って言いますよね。だからまだ何をやりたいか決まっていない時は、「水曜日だけニート!」とか言って、ライティングやPRの仕事をスポットで受けたり、考えごとをしたりしてました。
――その後、なぜマッチングサービスに注目したのでしょう。
私、いわゆる男女の出会いの場へ行っても第一印象で「かわいい」とか「守ってあげたい」みたいに選ばれるタイプではないんです。むしろ強そうって思われて、そういう場では恋愛対象に全く入れてもらえないことが多いんですよね、悲しいかな(笑)。それである時、マッチングサービスにいくつか登録したんですよ。
だけどその中に、使い続けたいマッチングサービスがありませんでした。学歴や年齢、身長や年収など、相手のスペックだけを見て「はい、次!」ってスマホをスワイプしている自分が嫌になっちゃったんです。だってそんなの、全然ロマンチックじゃないですよね。
その人の、思いもよらないところに突然心惹かれるのが、恋のセンサーじゃないですか。それでスペックで人を選ばない「ロマンチックになれるマッチングサービス」をつくりたいと思うようになりました。
――ロマンチックになれる?
はい。私、そういえば生まれつきロマンチストだったなぁってその時思いました(笑)。ディズニープリンセスと『金曜ロードショー』が好きで。中でも、ジブリの『耳をすませば』が大好きなんです。
主人公の聖司くんと雫ちゃんが、自分の夢という前向きな障壁に悩み、成長していく姿はほんといつ見ても飽きないです。そんな気持ちに浸る瞬間が、私の人生にとってすごく大事なことだって気付いたんです。
――『耳をすませば』いいですよね。あんな恋をしてみたい……。
でしょ? 図書室の本の貸出カードに書かれた名前を眺めながら、「この本を借りたのはどんな人かなぁ」って思いを馳せる。そして偶然、本人に出会う。こういう出会いがあれば、スペックに振り回されずに恋愛ができそうだなって思いましたし、「私の“何か”はコレだ!」って直感的に思ったんです。
「ロマンチック」と起業って一見するとかけ離れている感じですが、この熱量ならイケる!って、いろんなロジックすっ飛ばしてその時は確信しました。
「ロマンチックな出会い」は2020年の12月まで予約でいっぱい
――自分のなかの「何か」を見つけて、そのあとどうやって起業に乗り出したのでしょうか?
先ほども言ったとおり、私は「水曜ニート」だったので(笑)。平日1日は自分の事業の日だと決めて、「どんな風に出会えたら、一番ロマンチックでワクワクできるんだろう」ということをひたすら考えていました。
――そこからどうやって事業化を?
まず友人を集めて、サービスの検証をさせてもらいました。
事業化やお金、という話でいくと、起業の費用なども踏まえてトータルで200万円くらい身銭切ってますね。
――え。
とにもかくにもカタチにせねばと、会社を登記しにいって、Webページを作って、サービスのテストをして、同時にいろんな方とお会いして、移動して、また会って……お金がなくなるのってほんと一瞬!(笑)
――なるほど……。
『MISSION ROMANTIC Book』は、本を2カ月かけて2冊読み、3カ月目にディナーに男女数名をご招待する仕組みです。まだ世の中にないサービスですし、人の手が結構かかるので、思った以上にお金はかかりましたね。
――自分の銀行口座からどんどんお金が減っていくって、怖くなかったですか?
それがまったく! 私の場合、週4日はパラレルワークで居場所と仕事をいただいていたので、キャッシュフローがあるから大丈夫かなって感じでした。
それよりも自分の中での「何か」が見つかったことの方が嬉しかったですし、まだ見たことのない世界を見てみたいっていう気持ちの方が大きかったですね。それに200万円って、時間をかけて頑張ったらなんとかなりそうな気がしません?
――そ、そうですか……? 銀行やベンチャーキャピタルなど、誰かにお金を出してもらおうとは思いませんでしたか。
思いませんでした。むしろ、安易に投資してもらって、お金をたくさん持っちゃう方が怖い。身銭を切ってるからこそ、「この事業を絶対収益化するんだ」という覚悟を持てますし。投資家も銀行もいないからこそ、コンセプトメイキングからサービスの運用まで、ほぼ全てを自分でイメージ通りにやることができました。
絶対的なストーリーさえつくれれば、お金は後から付いてくるって思っていたし、今も思っています。まだ全然ついてきていないですけどね(笑)
――全てを自分一人で?
もちろん、多くの友達や知り合いの手助けなしにはできなかったことがたくさんあります。でも、自分でできることは自分でやる。そう決めて、全ての責任を自分が持つんだって思ってやってきました。
――実際このサービスを始めてみて、どんな反応が多いですか?
新しい素敵な出会い方ができるって多くのユーザーさんが言ってくださいます。参加者は、本が好き、新しいものが好き、おしゃれが好きという人たちが多いですね。ディナーをするレストランはすべて東京なのに、全国各地から上京してくれるんですよ。
その後「カップルが成立したか」までは追跡していないです。私は「出会い方」に興味があるので。大切なのは「ロマンチックに出会うこと」。私と同じような悩みを持っている女の子たちや、スペックで切られてる男の子たちのためになることができたらという思いを、創業当初から一番大事にしています。
――ちなみに、春頃までに恋人をつくりたいと思ったら、予約枠って空いています……?
それが、ありがたいことに2020年の12月まで予約でいっぱいなんです……! 女性がたくさん並んでくださっていて、今は聖司くんを急募中ですね(笑)
――そうなんですか、残念……。 大人気のようですが、収益化の目処は立っているんですか?
立っていません、笑。未だに本の発送作業も、「この男女が合いそうだな」っていうマッチングも、全て手作業でやっているくらいです。2022年ぐらいに収益化すればいいかな、と。大切なのはロマンチックのストーリーからブレないことなので、急いで利益を追わずに大事に育てていければいいなと思っています。
誰でも思いつくビジネスをしたって、私がやる意味ないじゃないですか? だからこそ、収益化したら強いですよ、きっと!
自信や勇気が欲しいなら、「孤独」を愛そう
――起業への一歩を踏み出してからもうすぐ1年が経ちますが、振り返ってみていかがですか?
世界に漕ぎ出していくって、もっとつらいことばっかりだと思っていたけれど、思ったよりみんな優しかった。私が恐る恐る差し出した世の中へのギフトを、たくさんの人が喜んで受け取ってくれた。そんな感覚がありとても嬉しいです。
――契約社員になり、200万円の身銭を切って、会社を立ち上げたことに後悔はない?
全くないですね! 当時の自分に「あの時踏み出した君は間違ってなかったよ!」って言ってぎゅっとしてあげたいくらい。身銭を切ることに怖気づいて、融資をもらうことや目先の収益化に突っ走っていたら、このサービスをとりまくストーリーを掘り下げることに時間を費やせなかったと思うから。
事業にきちんと向き合って「私は何がしたいんだっけ」と考えることにリソースを使ったことで、このサービスの強みは磨かれたんだと思っています。
――森本さんみたいに、新しいチャレンジに踏み出せる人ってすごく素敵ですけど、いざ自分がやるとなると難しいものです。‟はじめの一歩”を踏み出すときに大事なことって、何だと思いますか?
偉そうなことを言えた立場では全くないのですし人それぞれですが、「前向きな孤独を愛する」ことは意識していました。よく、起業したいとか何かやりたいっていうと、「人脈作った方がいいよ」「成功した起業家に会いにいった方がいいよ」と言われるんですけど、私はそれは重要ではないと思う。
むしろ、不安な時ほど人に会わない方がいい。自分の軸がぶれたり、その人たちと自分のギャップに打ちのめされて落ち込むだけだから。
「あえて孤独になる」「あえて水曜日を一日あける」「あえて自分の時間をつくる」。そんな風に、なんてことなさそうな余白を生活の中につくってみることで、いろんなことを改めて意識でき、自分の勇気とか自信に繋がっていくんだと思います、多分。
取材・文/石川 香苗子 撮影/赤松洋太
RELATED POSTSあわせて読みたい
Forbesが選んだ起業家・BASE鶴岡裕太が語る等身大のキャリア論「怒って何かが良くなるケースなんてほぼない」
「皆一緒」の環境で20代が失うもの――新卒も一人ひとりで給与が違う時代だ【サイボウズ・メルカリ人事対談】
【hey佐藤裕介】「苦手や不得意はそう簡単に変わらない」時間を無駄にする前に、20代は“期待ローン”をつくるべき
“最恐エゴイスト”だった社会起業家が20代で下した一大決心「早く行きたいなら一人でもいい。でも遠くに行きたいなら皆で行け」【安部敏樹】
「会社員時代の何倍も毎日が楽しい。でも、私の人生が正解とは思わない」パラレルワーカー・横塚まよが“副業を勧めない”理由