日本初“物が壊せるサービス”をはじめた25歳起業家の原動力「どんな決断も“ワクワク”が最優先です」
2019年、日本初上陸となる「物が壊せるサービス」が話題を呼んだ。
『REEAST ROOM(リーストルーム)』は空き瓶や家電など、部屋に置いてあるものを叩き壊すことができ、「やってはいけないことを、より楽しく、よりFUNNYに!!」をコンセプトにした新感覚エンターテインメント。「ストレス発散になる」と多くのTV番組でも取り上げられ、若者を中心に男女問わず人気を集めている。
海外で生まれたこのサービスを日本に持ち込み、起業した現在25歳の河東誠さんは、かつてはプロバスケットボール選手を志していた。しかしある事情からその道は諦めざるを得ず、一般企業に就職して半年で起業家という新たな夢に踏み出したという。
ビジネス経験もまだ少ない中、河東さんはなぜ一歩を踏み出すことができたのか。意外にも「不安はなくて、全てが想定内だった」と話す河東さんに、そのチャレンジの軌跡を聞いた。
愚痴をこぼすような人生はもったいない
――24歳という若さで会社を設立した河東さん。昔から起業を意識していたのでしょうか?
起業するなんて全く考えていなかったです。僕は子どもの頃からずっとバスケをしていて、高校までは本気でプロの道を目指していました。その頃は「バスケが上手くなること」を人生最大の目的に設定していて、「成績が悪かったらバスケ禁止」と言われるから勉強をする……みたいな生活でした。
――バスケットボール選手から起業家に夢が変わったのは、どういった経緯だったのですか?
よほど実力がない限り「バスケは高校まで」と決めていたんです。母子家庭だったので、さすがに大学でも続けるほどのお金はなくて。それで大学進学と同時にバスケはきっぱりと辞め、これからの人生は何を目的に生きていこうかと考えたときに、「人生を心の底から楽しみたい」と思いました。
本当なら、誰もが人生を心の底から楽しみたいはずですよね。でも実践できている人はごくわずか。愚痴をこぼしている人を見ると「人生もったいないなぁ」って素直に思います。僕はそんなふうになりたくないから、この目的を達成するために、3つの目標を立てました。
――人生を心の底から楽しむための3つの目標。どんな内容ですか?
1つ目は「母への恩返し」、2つ目は「グローバルブランドをゼロから創ること」、3つ目は「世界の絶品グルメを食べ尽くす」。3つ目は完全に私利私欲ですが(笑)。特に「母への恩返し」は最重要な目標です。僕と兄を養うために、母はずっと働き詰めだったので。
――お母さまは生活のために苦労されたのですね。
はい。僕は奨学金を借りて大学に進学し、バイトをしながら自分で学費を払っていたんですけど、かなり大変で……。どんなに働いても収入は月20万円程度。「お金を稼ぐのって想像以上に大変だな」と思いました。
冷静に振り返ってみると、バスケの遠征代や学費であれだけお金がかかっていたんだと。母に経済的な負担をかけてきたことを自覚し、愕然としました。
――起業家になる道を選んだのは、お母さまへの恩返しを含めた3つの夢を叶えるためなのですね。
そうです。この目標を達成するためには、普通に会社員として毎月決まった給料を貰うだけでは無理だなと。そこでまず起業して、経済的に裕福になって恩返しをしようと考えました。
そこで事業選定の軸になったのが「自分自身がワクワクするかどうか」です。僕はずっと自分の好きなことをやってきたので、バスケくらい熱量を持ってワクワクできることじゃないと打ち込めないと思いました。
――REEAST ROOMのサービスは何がきっかけで知ることになったのですか?
ニュースアプリで偶然知りました。REEAST ROOMを知った瞬間、すごくワクワクして。海外で流行している“物を壊すサービス”が、日本にはまだ上陸していなかったんです。
そこで、このサービスが日本で求められているかを知るために、100人にインタビューをしました。ポジネガ両方の意見がありましたが、その結果分かったのは、確かにニーズはあるということ。「自分がワクワクしていて、かつ世の中から求められている。これはやるべきだ」と思い、大学4年生の終わりに起業を決意しました。
最優先すべきは「ワクワクできるかどうか」
――REEAST ROOMをやろうと決めて、すぐに起業したのですか?
当時はまだ学生でお金がなかったので、一旦就職してるんです。学生時代の友人3人と一緒にやろうと決めていたので、4人とも就職して1年かけて100万円ずつ貯めて、その資金をもとに2019年1月に会社を立ち上げました。足りない分はクラウドファンディングや融資で補いました。
――起業前はどんな仕事を?
もともと就活では「自分の情熱を注げる”何か”が見つかったときに、起業できる力をつけていたい」と思って会社を選んでいました。そこで内定をいただいたのが、Web広告関連の大手ベンチャー企業の営業職です。
資金集めという目的もありましたが、入ったからには会社に貢献したかったし、自分の力も付けたいと思っていたので前のめりで働いていましたね。半年で辞めてしまったことで本当に申し訳ない気持ちもありましたが、自分の信念を通したいという気持ちの方が強かったですし、辞めるからには起業を成功させなければと思っていました。
――ビジネス経験の少ない中、起業に不安はなかったのでしょうか?
全くなかったです。もともと大学時代にインターンを通してビジネスの経験も積んでいましたし、それよりも自分がやりたいことに嘘をつくことの方が怖かったです。現状を維持しているだけの自分は嫌だったし、起業して前に進んでいかないと、先ほどいった3つの目標が叶えられないですから。友人3人がとても優秀なので心強く、絶対にニーズがあるとも思っていました。
――自分に嘘をつく方が怖い?
はい。何事も「自分自身がワクワクできるかどうか」が最優先です。僕たちのチームではこれを「ワクワクドリブン」と呼んでいて、事業でも「心がワクワクできるかどうか」を第一にしているんですよ。
今、チーム4人でルームシェアをしているんですけど、自分たちのワクワクを具現化するために、毎日いろいろなアイディアや意見が飛び交い、とても刺激的な毎日を過ごせています。
――REEAST ROOMには、どんな人が来るのでしょうか?
浅草が近いので観光客の方はよくいらっしゃいますし、子ども連れの家族も来ますよ。年末には店を丸ごと貸し切った忘年会の予約も入っています。かなり汗を掻くので「スポーツみたい」と楽しんでくださっていますね。
――想定通り、ニーズがあったのですね。
そうですね。人間誰しも「やってはいけないことをしてみたい」気持ちってあると思うんですよ。そんな根本的な欲求に、“エンタメ”という切り口で「楽しく、FUNNYに」表現できることを目指しています。その表現方法が今の世の中に上手くフィットしているのだと思います。
自分にとっての幸せを考えれば、一歩は自然と踏み出せる
――「自分がやりたいことに嘘をつくのが嫌だ」と一歩を踏み出した河東さんですが、実際にサービスを開始したときのことを振り返ってみていかがですか?
「儲かる」かどうかの軸で事業を選定するのではなく、まずは自分たちが「楽しめるかどうか」が最も大事だな、と再認識しましたね。事業を構築したり、拡大したりするロジックは誰でもつくれますし、そこで圧倒的な成果を生み出すには、圧倒的なパッションが必要だと思っています。
――なるほど。「こんなはずじゃなかったのに」みたいなことはありましたか?
なんだろう。あまり思いつかないです。
――ということは、全てが想定内だったということでしょうか?
いや、そういうカッコいい感じではないです(笑)。逆に思い通りにいったことなんて一つもありません。でもそれを前提に仮説を立てて、検証・修正することを繰り返してきたので、ある意味全てが想定内でした。
そもそも日本でまだ誰もやったことのないビジネスですし、僕自身も経験が少ないわけですから、自分が立てる仮説の精度なんてたかが知れているんです。だからあらかじめプランA、B、Cくらいまでつくっておいて、うまくいかなければすぐ別のプランに切り替えるというように、立てた仮説を検証して素早く修正するように進めてきました。
――そうした仮説&検証の思考はどのように身に付けたのでしょうか?
ビジネス書をたくさん読んだり、人に会って話を聞いてきました。そこでしっかり知識を身に付けて、同時にアウトプットの場も大事にする。「あの時読んだり聞いたりした内容を、実践してみたらどうなるか」というのは常に意識していましたね。
――インプットとアウトプット、両方を繰り返すことが大事?
そうですね。本を読んだり、人に会って話を聞くだけだと、頭でっかちになってしまうと思うので。そこで得られた情報って断片的な「点」の情報じゃないですか。
ある程度のインプット量がないと、その「点」同士が結ばれないし、アウトプットをしないとそれが「線・面・立体」にならない。でも逆に「点」がなかったら「線・面・立体」もできないので、インプットもアウトプットも両方大事だということを学ぶことができました。
――実際に起業してみて、心境に変化はありましたか?
もともと「人生を心の底から楽しみたい」という気持ちで始めたので、毎日試行錯誤しながらも充実した日々を送ることができて幸せです。これも事業を「ワクワク」という軸で進めてこれたからだと思っていますね。
そしてこうやって取材してもらえるようになるなど、事業としても大きくなっていることを実感していて。母への恩返しができたかと言われたらまだまだですけど、これからもっとチャレンジを続けて喜ばせてあげたいって思っています。
――素敵なお話ですね。かつての河東さんのように、「何かにチャレンジしてみたい」と考える20代は多いと思います。「一歩踏み出す」ために大事なことって何だと思いますか?
「自分にとって何が幸せなのか」を考えることじゃないかなと思います。例えばやり方一つとっても僕と同じようにする必要はなくって、自分なりの幸せを見つけられたら、その幸せに向かってやるべきことはおのずと見えてくる。僕が言うのもおこがましいですけど、自分の価値観が分かれば、自分にとって最適な一歩を踏み出せるんじゃないでしょうか。
取材・文/一本麻衣 編集・撮影/大室倫子
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