夏は浴衣で男を磨く!「男の着物専門店」で知る“着くずし”の粋【男の美学塾】
夏と言えば浴衣! 日本の伝統を粋に着こなすため『銀座もとじ』へ
着物を着こなすことは、見た目が良くなるだけでなく心も磨かれるという。一流のビジネスマンたるもの、常に自分を磨いていきたいもの。そこで今回は、2002年に日本初の男性用着物店を開いた『銀座もとじ 男のきもの』へ、着物への入り口として「浴衣」を作りに行く!
と、勢い勇んで来てみたはいいが、いざ反物を前にすると何をどうしていいのやら……。そもそも何で営業マンが着物屋に来るのかさえ疑問に思えてきたぞ。
すると、そんな困惑を察してくれた「銀座もとじ」社長の泉二(もとじ)弘明さんが、こんなお話をしてくれた。
「ビジネスの世界でバリバリ働く方が、海外に出た時に日本文化を知らずに恥をかいたという人は多くいます。その経験から『和』の世界に親しもうと着物を選びに来る方が大勢いらっしゃいますよ」
なるほど、グローバル化する現代だからこそ日本文化への理解がビジネスマン一人一人に求められているようだ。
「また、着物で街を歩くと、心地よい“人目のシャワー”を感じます。見られることで、所作や歩き方、姿勢に気を使うようになり、自然と自分が磨かれます。特に男性は、20代半ばからが男磨きの時期なので、ぜひ着ていただきたいですね」
確かに、着物を着た人を見るとつい目で追ってしまう。それゆえ、着物はハードルが高いと感じてしまうのだろう。
「最初は着物でなくて良いと思います。むしろ、浴衣からが良いでしょう。ただ、浴衣も着物も、『着方』がとても重要ですね」
せっかく男を磨くのだから、そこはカッコよくないと! ということで、早速、浴衣選びから着こなしについて教えてもらおう。
帯の締め方で差を付ける。知っておきたい“着くずし術”
洋服であれば、ある程度の流行や好みもあるので選びやすい。では、浴衣の場合、何を基準に選べば良いのだろうか。
「浴衣も洋服と同じく好みで選んでよいのです。生地は薄い色か濃い色か、柄の大きさはどのくらいかなど。うちではお客さまの好みを伺いつつ、気に入ったものを選んでいただき、鏡の前で仮着付けをし『顔映り』を見ます。そこで、『これならオレに合う』というのを確認してもらいます」
なるほど! 生地が決まれば、お次は採寸。着物は「寸法が命」と言われ、男性は着た時にくるぶしが隠れるぐらいがちょうど良いとされる。そのため帯を締めない状態で、裾が床に着くぐらいが目安だそうだ。
「特に浴衣は洗うと縮むので、少し長めに仕立てておくのがコツですね。」
こうして仕立てた浴衣は、出来上がりまでに3週間ほどとのこと。
そしていよいよ、浴衣のカッコいい着こなしについてご教授いただく! 今回は『銀座もとじ』の2代目泉二啓太さんにモデルとして御協力をいただいた。
「まずは、背縫いの位置を背中の真ん中に合わせます。やっこさんのように浴衣に袖を通して両方の袖を指でつまんで外に引くと合いますよ。そのあとで前を合わせます」
前を合わせるには、まず浴衣の右前を合わせる。右手で浴衣の右衿の端を持ち、体の左側へ合わせる。この時、合わせた浴衣を少し上にずらすことで、帯を締めた時に浴衣の裾がキレイにそろうとのこと。
続けて、左手で持った浴衣の左衿を体の右側へ持ってくるようにして、体を包み込んだら、右手を浴衣の腰の部分に移して抑えながら、左手で腰紐を回していく。
そして最後に帯を締める。この帯の締め方こそが着こなしを左右するのだとか。
「男の着物で重要なのは帯です。男性の帯の締め方は結び方の違いで、大きく2種類、こちらの『片ばさみ』(写真参照)のほかに『貝の口』があります。好きな方で良いですが、片ばさみは若干リラックスした雰囲気で、貝の口は昔からある一般的な結び方です」
さらに、片ばさみにしても貝の口にしても、帯を結んだ時に、より「粋」に見せる着くずし術があるという。
「帯を横から見た時にお腹側を下げて、背中側を上げ、前下がり後ろ上がりになるようにします。それから貝の口であれば結び目を背中の中心から少し左にずらすと粋な着こなしになります」
これで完了かと思いきや最後に重要なポイントが1つ。
「帯を締めたあと、そのままでは足を前後に動かしづらく男らしく堂々と歩けません。そこで、最後に足を肩幅に開き、腰を落として裾を開く。これを『股割り』と言うのですが、これでかなり歩きやすく、裾さばきが良くなります。これに慣れておくと旅館などで浴衣を着る際にも差が出ますね」
なるほど、着方をマスターするには多少時間が掛かりそうだが、粋なポイントは身に付いたぞ。あとは着慣れるまで練習あるのみ!
「食事中に袖にしょうゆが付いたり、袖口がドアノブに引っかかったりと、最初は失敗をすると思います。そういう経験を繰り返し、所作が身に付きます。女性とデートで浴衣を着て花火を見に行く時に、失敗ばかりじゃ格好がつきませんから、ぜひ家で練習してください」
小物使いで個性を出す
せっかく仕立てた浴衣。どうせなら、人とは違った着こなしをしたいもの。そんな時は「小物」が役立つそうだ。
「まずは下駄です。浴衣なら素足で履いてください。それから夏には、扇子かうちわ、あとは小物を入れる信玄袋。小さいタバコ入れにスマホを入れるというのも良いかもしれませんね」
さて、これで粋な男にかなり近づいた訳だが、全て揃えるのに予算はどれぐらい必要なのだろう。
「浴衣も着物も、通常は生地の値段と仕立て代が別途です。うちでは仕立て代込みで、浴衣はだいたい3〜5万円、帯が綿のもので7千円台からですね。下駄は1万円ほどで扇子は2000円ぐらいからなので、5万円ほどで揃います。また、仮着付けをするので仕上がりの雰囲気も事前に分りますよ」
さらに、仕立てを行わない量販店の既製品であれば、1万円以下の浴衣もあるそうだ。まずは練習用として、既製品もアリかも。
「着物は実によくできていて、夏でも、熱のこもりやすい袖口や裾からも風が通ります。それに浴衣は自宅で洗濯も可能なので、浴衣から和服に慣れてもらい、ぜひ着物を楽しんでいただきたいですね。日本人にとって最大の自己表現は着物です。2020年の東京五輪に向けて、これからもっと着物が注目されるでしょうから、一足先に粋な着こなしを身に付け、男を磨いてはいかがでしょうか」
この夏は、心地よい人目のシャワーを浴びながら、男を磨く着物の世界へ一歩踏み込んでみてはいかがだろうか?
今回の美学が見つかるのはここだ!
銀座もとじ 男のきもの
和服業界では初の試みとして、男性専用の着物店を開いて13年。当時は業界内で「うまくいくはずがない」とまで言われていたが、今ではさまざまな業界に多くのファンを持つ。
多くの著名人やファッションに敏感な若い世代からの注目度も高く、今もなお新しい挑戦をし続ける泉二親子。粋な男であるのは間違いないが、物腰はやわらかく、初めての浴衣選びにも親切に応対してくれることだろう。
DATA
銀座もとじ 男のきもの
住所:東京都中央区銀座3−8−15
TEL:03−5524−7472
営業時間:11:00〜19:00
定休日:無休 ※2015年7月31日(金)のみメンテナンスのため休業
アクセス:東京メトロ 「銀座駅」A12出口より徒歩3分
URL:http://www.motoji.co.jp/otokonokimono/
取材・文/questroom inc.、頓所直人 撮影/柴田ひろあき
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