プロ営業師が教える20代が‟断ってもいい”3つのパターンと、関係が円滑に続く断り方
今回話を聞いたのは、株式会社おくりバントの代表で「プロ営業師」の異名を持つ高山洋平さん。彼は「パソコンどころか、デスクの整頓や議事録作成などの簡単な作業もできない」にも関わらず、その営業力だけでのし上がってきた人物だ。
営業職というと「お客さまの仕事はできるだけ断らない」人も少なくないだろう。高山さん自身も、20代の頃は「何があっても断わらない」スタイルだったという。
そんな高山さんにあえて「20代の断り方」について聞いてみたら、「断るべき依頼なのかそうでないのかを見極めることが重要」という返事が。
プロ営業師が考える、「20代が仕事を断わる/断わらないのボーダーライン」はどこにあるのだろうか?
時間が経てば不毛な仕事さえ美化されやすい。負のループは今断ち切るべき
まず、前提として「若者なら頼まれた仕事は何でも引き受けなくちゃいけない」という考え方は不健全だと思っています。これは自分が「頼まれた仕事は何でも引き受けていた若者」側だったからこそ言えることですね。
というのも俺は若い頃、投資用不動産会社で営業をしていたんですが、当時は「土日でも深夜でも、お客さまのためなら何でもやります!」という風潮があって。今みたいに長時間労働に厳しくなかったんですよね。
「言われたことは何でも聞け」という雰囲気のなかで「取引先の偉い人に書類を渡しにいくだけの業務」みたいな意味分かんない仕事を毎日やらされていたりもしました(笑)
そのときから「アポが取れるまで帰れない」みたいな不毛な風習は淘汰されるべきだと思っていて。
これは日本全体で取り組むべき問題だと思ったから、元総理の中曽根さんに直接電話をかけたこともあります。結局、秘書の方で止められてしまい、中曽根さんに直訴することは叶いませんでしたが(笑)
これは20年ほど前の話ですが、今も現場では同じようなことが起きている。ブラック企業って完全になくなったわけではないですよね。何でこの現代において、そんな前時代的な風習が残っているのか。
これはあくまで持論ですが、「過去の体験って美化されやすいから」だと思っています。
過去味わった苦しさや悲しさって、暮らしの中で忘れていくものです。さらに自分の現在を正当化するために、「今があるのは昔の経験のおかげ」「だからあのつらい時期にも意義があった」と過去を美化する。
オジサンたちのそんな考えが「今の若者も自分たちと同じような経験をするべき」という思考に繋がっているんじゃないですかね。
だけど、これじゃあ負のループは繰り返されていきます。気付いた人から断ち切っていかないといけない。俺はそんな旧価値観を今の若い人たちに押し付けたくはないし、そうやって嫌々仕事したところで成果が上がるはずもないですから。
誰かに損をさせるくらいなら断ってもいい。ただしカバーすることも忘れずに
とはいえ若いビジネスパーソンが「この仕事は無駄、これは無駄じゃない」って判断することは難しいですよね。社会人歴20年の俺だってその判断が正確にできるようになったのはつい最近のことです。
そこで、「これは断ってもいいだろう」と思う仕事の指標を自分なりに3つ考えてきました。
<こんな仕事は断っていい!>
1.犯罪・悪いこと
2.縁が切れてもいい相手からの頼み
3.誰かに損をさせてしまうこと
1.犯罪・悪いこと
これは何も直接的に犯罪に関わることだけじゃなく「働き方改革が叫ばれるこの時代に、強制的に残業させられてる」とかも悪いことですからね。違法レベルの長時間労働を強いられた場合は、ぜひ労働基準監督署に駆け込んでください。
「悪は決して栄えない」っていうのは、世の中の真理です。俺はこれまで多くの会社を見てきましたが、悪いことをしている会社って必ず業績悪化したり、社員がどんどん辞めていったりしていますから。
そんな環境に若いうちから身を染める必要なんてありません。ですが、なかには「俺はそんなの関係なく稼ぎたいのだ!」的なマインドの方もいると思うので、そこは自己判断でお願いします。
2.縁が切れてもいい相手からの依頼
これは人付き合いの基本ですが、嫌な奴のために自分が苦労することはないんです。
シンプルに考えてください。嫌な奴と仕事を続けていても、成果が上がるわけないですからね。
3.誰かに損をさせてしまうこと
例えばお客さんがめっちゃ怒っているのに、上司から「一人で謝りに行ってきて」と言われたとします。もしも言われた通り若手の自分だけで謝りに行って事態を収拾できなかったら、最悪の場合、会社に損害を与える可能性もある。
それなら上司から言われた時点で「一人で行くのは無理です」と断わった方がいいでしょう。
これは俺の事例ですが、昔「みんなで持ち回りでメルマガを作りましょう」という仕事を与えられたことがあって。でも当時の俺は、指を一本一本使いながらでしかパソコンに文字を打ち込めなかったので、当然人の数倍時間がかかってしまった。
おまけに「保存形式が違います」とか「日本語ヘンです」とか言われて、結果的に確認者の手も煩わせてしまいました。結局、携わった全員が無駄に時間を過ごしてしまったんです。
これって会社にとっても損害でしかないですよね。それなら苦手なメルマガ作成業務は断わって、得意な営業に集中して売上をつくった方が会社にとってもよかったんです。
こんな風に「明らかに俺じゃない」と感じる仕事を振られたときは「この業務を自分がすることで、どれだけ会社に損害を与えるか」という理由を添えて断われば、さすがに相手も納得してくれると思います。
ただし、これはあくまで苦手な業務をカバーできるスキルがある場合に限ります。苦手な仕事を断るなら、得意分野で結果を出すことが前提にはなってきますね。
ユーモアを交える・嘆き苦しむ……断わり方にも工夫が必要
断るときに大切なのが「言い方」です。例えば商談でお客さんに「これってもっと安くできないの?」って言われたとき。簡単に「できますよ」って言っても舐められるし、「できません」って言うだけじゃ感じ悪いじゃないですか。
それなら「いや~そう言われるかなと思って、実はもう値引きしてきたんですよ! すでに上司にめちゃくちゃ頼み込んできたんで、自分の力じゃこれ以上はできないっす……」って言う。そしたら、断るにしても相手に悪い印象は与えないですよね。
例えば広告業界の営業パーソンなら、クライアントから無理な修正依頼が来たときは、例え話をするのも効果的です。
「このデザインは、言わば甘い卵焼きです。その修正をするなら塩からい卵焼きにする必要がある。一見同じに見えるかもしれないですが、一から作り直さなくちゃいけないんです」という感じで。
また、仕事以外にも休日に会社のバーベキューに誘われることがあるかもしれない。それを断りたいなら「何で3時間前に言ってくれないんですか!」と半ば怒りながら残念そうに言う。「結婚を考えてる彼女の父親が地方から出てくるので、その日は東京を案内しなくちゃいけないんです」と続けて、その予定がつい3時間前に決まったことにするんです。
こんな風に、断るときは言葉選びや態度が重要になります。ときにユーモアを交え、ときに嘆き苦しむ。
ちなみにブラック企業に勤めていたという俺のパパ友は、就業時間後なのに上司から無理な依頼をされそうになって、とっさに「実は、友達が事故に遭ってしまって……」とウソを付き、その場で涙を流したらしいんです。ウソなのに、まさかの号泣(笑)
でもそしたら、上司ももらい泣きして「すぐ行ってやれ……!」と言ってくれたらしい。
さすがに彼はやりすぎですけど(笑)、相手と円滑に関係を続けたいなら、ある程度の嘘も方便です。ですがこれは場数を踏むことも必要だから、そこは練習が必要ですけどね。
「何で俺がこんなことやんなきゃいけないんだよ」愚痴るくらいなら議論しよう
ここまで、断る際の指標や断り方を自分なりに提案しました。ただ、なかには一度断ったとしても、そのコミュニティーにいる限り永遠に付きまとうルールがあったりしますよね。
例えば「新入社員は朝30分早く出社して、トイレ掃除をしなくてはいけない」なんていう風習。その風習に自分が納得できないのなら「それは本当に重要なのか?」という議論を持ち出すことも時には必要です。
一人で言いづらいのなら同意見の人と一緒に、反対意見の人とディスカッションをしてみる。反対意見を持つ人にも言い分はあるはずです。それぞれの意見を照らし合わせたうえで、そのルールを存続させるべきなのかを判断すればいい。
先にも言ったように、会社に残る古くからの風習は伝統として美談にされてしまいがちです。でもその伝統は、現在の当事者にとっては不必要なことかもしれない。
同僚と「何で俺がこんなことやんなきゃいけないんだよ」って愚痴っても、状況は好転しません。
結局のところ「断る/断らないの基準」って、「自分が納得できる仕事かどうか」だと思うんですよ。納得している仕事なら断わらないし、成果も出しやすい。でも何のためにやるのか分からない仕事って断わりたいし、断われなかったら嫌々やるから、高いパフォーマンスが出にくい。
若い人は仕事をするときに都度腹落ちさせながら、「断る/断らない」のラインを探っていけば生きやすくなるのではないでしょうか。
偉そうにいろいろ言っちゃいましたが、 別に難しく考える必要はなくって、迷ったら周りの人に気軽に聞いてみればといいと思います。
それでも、「断る/断らない」のラインに迷ったら俺に相談してくれてもいいですよ。酒代奢ってくれるなら、いくらでも付き合いますから(笑)
企画・取材・文/大室倫子(編集部) 撮影/桑原美樹 編集/いちじく舞
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