キャリア Vol.873

“仕事以外の体験”がバリューになる。子育てをしなかった経営者が20代男性に「育休取得」を勧める理由

「男性育休」という言葉を耳にする機会が増えてきた。2017年の調査では男性新入社員の約8割が「子どもが生まれたときには、育休を取得したい」と回答するなど、20代男性の育休への意識も高まっている。

だが、現状の男性の育休取得率はわずか5.14%。取りたくても取れないケースがまだまだ多いのが現状だろう。

そんな中、現場主義が根強く、かつ男性が多い建設コンサルタント業にも関わらず、男性育休100%を宣言したパシフィックコンサルタンツ代表取締役社長の重永智之さんにお話を伺った。男性育休を応援するキャンペーン「#もっと一緒にいたかった」に参加するなど、男性の育休取得の推進に力を入れている。

「仕事ばかりで子育てをしなかった」という重永さんが、いまの若手男性に育休の取得をすすめる理由とは?

パシフィックコンサルタンツ株式会社 代表取締役社長  重永 智之さん
パシフィックコンサルタンツ株式会社 代表取締役社長  重永 智之さん
1981年大阪大学工学部造船学科卒。メーカー勤務を経て、87年5月パシフィックコンサルタンツ入社。取締役事業開発室長、事業開発本部長などを歴任し、2016年12月常務、17年10月専務。18年10月から現職

当時の社会の「当たり前」を、いまは後悔している

わずか30年ほど前は「結婚したら女性は退社して、家事育児を担う」というのが一般的な感覚でした。だから、我が家の妻も同じ会社で東京と大阪で離れていたことから寿退社をしています。

子どもが生まれたのは、私が30歳ごろのこと。子どもが生まれた日、私は出張に出ていました。

産後の女性がどれだけ大変かなんて、当時は考えたこともなかったです。自分の役割は働くことだと信じていましたから、週末も当然のように仕事をしていました。

子どもをお風呂に入れることもなかったし、妻が熱を出して寝込んだときも、私はゴルフに行っていた。子どもが2歳くらいになるまでは、正直あまり子どもとの思い出がありません。

当時は「これが当たり前」だと思っていたけれど、いまはとても後悔しています。

「どうして私だけが育休をとって、夫は会社に行くんでしょうか?」

あのころに比べて、社会はずいぶん変わりました。

ここ10年ほどで当社にも女性社員が増え、新卒の約半分近くが女性という年もあります。彼女たちを見ていると、結婚・出産をしても働き続けるのが当たり前の時代になったのだと実感します。

あるとき時、女性社員から「どうして私だけが育休をとって、夫は会社に行くんでしょうか? 私だって働きたいのに」と言われたことがありました。

パシフィックコンサルタンツ株式会社 代表取締役社長  重永 智之さん

なるほど、キャリアアップしたい気持ちは、女性も男性も同じです。一方で、若い世代には立ち合い出産も増え、子育てに参加したいと考える男性社員も多くなりました。

会社が多様な社員のパフォーマンスを最大化するには、彼ら彼女らのさまざまな事情を受け入れなければなりません。妊娠・出産・育児といったライフイベントによって、誰かのキャリアが分断されてはならない。

そう考えたことが、当社が男性育休を推奨するきっかけとなっています。男女どちらも育児休業がとれれば、お互いが休みをずらして、キャリアを守り合うこともできますから。

また、働き方をコンサルする会社「ワーク・ライフバランス」代表取締役の小室さんに声を掛けていただき、「男性育休100%宣言」プロジェクトにも参加しています。まずは手を挙げて、細かい制度は後から整えていこう、という見切り発車でしたが(笑)

その一環として行われた動画キャンペーン「#もっと一緒にいたかった」には、とても大きな反響がありました。私たち現役の経営者が、自身の若いころを振り返りながら、男性の育児休業取得の必要性を啓発する内容です。

そのほとんどがポジティブな声。好意的に受け入れてもらったことに、世の中の変化を感じています。

テレワークも、最初は「できるわけない」と言われていた

私たち建設コンサルタンツ業界は現場主義で、男性が育休を取るなんて考えられない世界。それでもいまは、産後2週間だけでも休暇をとるようにすすめています。産後2週間が、もっとも産後うつのリスクが高いからです。

男性育休への取り組みは、社員からも好評。産休や育休から復帰した社員には、男女問わず、私から直筆の手紙を贈るようにもしています。手前味噌ながら、これも喜んでもらえていて……。キャリアも子育ても大切にしてほしいという気持ちが、ほんの少しでも伝わっているようです。

ただ、世の中を見ると、まだまだ男性が育休を取りにくい会社の方が多いですよね。自分が所属しているチームのメンバーを仲間にしないと、男性が気持ちよく育休を取るのはなかなか大変でしょう。

上司の立場からすると、一番の心配は「あなたがいなくなったら、この仕事は誰がやるの?」ということ。できれば先駆けて根回しをするなど、代替案を考えておくと、話が早いと思います。

自分の部署よりも男性育休取得率が高い部署があるなら、その部署のリーダーから、自分の部署のリーダーに話をつけてもらうのも一つの手。家庭でも会社でも、支え合える関係性が一番です。

男性が育休を取得した実績がない会社にいるのなら、いっそこれを機に、改革を目指してみてください。

何事も、ルールや慣例を変えるときには、ファーストステップが一番難しいもの。前例さえできれば、良いことは勝手に広まっていきます。

「残業は禁止」と言われたときだって、誰もが「できるわけがない」と思ったけれど、いまはみんなノー残業デーが守れるようになりました。今回のコロナ・ショックで一気に進んだ、テレワークもそうです。

最初は否定的な意見が多かったとしても、意外とできることが分かれば、会社も社会も変わっていけます。風土を変えれば、制度も後からついてきます。「この会社のためにそこまでしたくない」という場合は、転職を考えるのもありだと思います。

いまの若者は真面目。もっと“遊びしろ”を持っていい

パシフィックコンサルタンツ株式会社 代表取締役社長  重永 智之さん

いまの若い人たちを見ていて思うのは、すごく真面目だということ。仕事を一生懸命した上で、自分磨きやボランティアにも余念がない。

だけど、そんなふうにすべて全力で取り組むのは、苦しくないでしょうか?

真面目だからこそ「育休を取ったら仕事で成長できないのでは?」など、一瞬でも仕事を手放すことが怖いと感じる人もいるのかもしれません。

だけど、人生もキャリアも、すごく長いんです。

私自身は育児には参加していないけれど、この業界に入ったのは28歳で、技術職のわりには遅めのスタート。でも、振り返ってみると、中途・転職のビハインドはマイナスになりませんでした。人と違うルートを通ることが、いつも回り道になるとは限りません

同様に、普通に仕事をする「直接的なキャリア」と、子育てや趣味に打ち込んだ経験を業務に生かす「間接的なキャリア」は、どちらもとても有意義なもの。両者を有機的に生かしていく方法を、ぜひ考えていきましょう。

目先の案件だけが“仕事”ではないのです。仕事というものを柔軟にとらえて、アンテナを立てていれば、どこにでも学びはあります。

例えば私たちのようなまちづくりの仕事であれば、ベビーカーを押しながら街並みを眺めるのも勉強。保育園や学校、児童館で、いままでとは違う層の友人ができることもあるでしょう。子育てを通じて、視野が広がる経験は少なくないと思います。

私も、仕事以外のさまざまな場で生まれた人付き合いには、ずいぶん助けられてきました。仕事で困ったときには、異業種の友人や知人が、いつもサポートしてくれたものです。

もちろん、子育てに全力投球するのも素晴らしいことだと思います。短い間なんですから、ちょっとくらい仕事のことを忘れたってかまいません。いまの真面目な若者たちは、それくらいの“余白”や“遊びしろ”を持っていていいと思います。

男性育休は、数年後、十数年後には、もっと当たり前のものになるはず。そんな時代の先駆けとなるいまの若手には、もちろん苦労もあるでしょう。

けれど「育休とキャリアを両立できるのだろうか」と構えすぎず、もっとゆるく考えても大丈夫。むしろこれからの時代は、育休を始め“仕事以外の体験”を持っていることがバリューになるはずです。だからこそ、これからの若い世代は育休をとった方がいいと私は思います。

取材・文/菅原さくら 企画・編集/天野夏海

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