キャリア Vol.900

「夢だったアフリカ移住。実現したら、見える景色が変わった」20代最大の挑戦“ルワンダ単身勤務”で得たもの

叶えたい夢や、チャレンジしてみたい仕事はあるけど、なかなか自信は持てないし、タイミングだって分からない。そこで、20代のトップランナーたちが、どうやって“始めの一歩”を踏み出したのかを聞いてみた。今の活躍に到るまで、どんな不安や葛藤があったのか、そして踏み出した先には何があるのか−−。同年代の言葉に耳を傾けてみよう

「地球最後のフロンティア」とも言われ、今後も著しい経済発展が期待されるアフリカ。とはいえ、貧困や治安の悪さなど、ネガティブなイメージも強い。

そんな開発途上国のアフリカ・ルワンダで、海外駐在員として働く20代の日本人女性がいる。Twitterでアフリカ情報を発信する「ぴきちん」さんだ。

大学生時代から旅行で何度もアフリカを訪れ、いつしか「アフリカで働きたい」という夢を抱くようになった彼女は、2020年2月、念願だったアフリカ移住を果たし、事業責任者として現地でフィンテック事業に携わっている。

初めてだらけの環境で一歩を踏み出したぴきちんさんは、どのようにして海外移住という大きな夢を叶えたのか。また、そのチャレンジはキャリアにどのような影響を与えたのか。「彼女なりの新しい一歩の踏み出し方」を伺った。

ぴきちんさん

ぴきちんさん(@h723_

2014年にリクルート住まいカンパニーに新卒入社。約3年半営業職を経験し、17年、メルカリに転職。プロデューサーとしてアプリ『メルカリ』の改善や新規機能開発に従事。20年2月、フィンテック系のスタートアップに転職し、海外駐在員として学生の頃から夢だったアフリカ・ルワンダへの海外移住を実現

婚約破棄から心機一転!念願のアフリカ移住へ

ーーぴきちんさんが、ルワンダで働くまでのキャリアについて教えてください。

新卒ではリクルート住まいカンパニーに入社し、不動産領域のソリューション営業として3年半勤務しました。その後メルカリに転職し、研究開発のプロデューサーやプロダクトマネジャーを2年ほど経験しました。現在はフィンテック系ベンチャーに転職し、アフリカのルワンダで海外駐在員として働いています。

ーー現在は、どのようなお仕事をされているのでしょうか?

ルワンダでは、お給料を現金で手渡しするのがスタンダードなのですが、それをモバイルマネーで送金できるサービスを広めようとしています。今は準備段階のため、現地企業にヒアリングをしたり、金融庁などと打ち合わせをしたり、といった仕事がメインです。

まだオフィスもなく、出張者のビザで滞在している状態なのですが、現在は新型コロナウイルスの影響で、一時的に日本に帰国しています。

ーーオフィスもない状態!?

そうなんです。弊社のサービスはベトナムやイギリスではすでに展開されていて、海外拠点もいくつかあるんですよ。でも、ルワンダはこれからサービスを開始する段階なので、Airbnbで借りた部屋が自宅、兼オフィスです(笑)

しかも、現地社員は私1人なんです。

ーールワンダに移住して1人で働くって、ものすごくチャレンジャーですね! 不安はなかったんですか?

ビジネススキルや英語力の心配はありましたが、以前から「いつかアフリカで働きたい」と思っていたので、移住自体はむしろ楽しみでした。

ーーそう思うようになったきっかけは何だったのでしょう?

2017年の春頃に、交際していた人と婚約破棄になってしまったんです。そこで改めて「自分がやりたいことって何だろう」と考えたときに、「アフリカに住みたいな」って思ったんですよ。

学生の頃からアフリカには何度か旅行で訪れたことがあり、現地で働く人たちから話を聞くうちに、アフリカでの生活に興味を持ったんです。

物価がすごく安いから、日本企業の海外駐在員としてアフリカで働けば、かなりいい暮らしができるし。それに、アフリカに住む日本人は少ないので話題性もバツグンだし、ライバルが少ない分、もし今後起業とかをしても成功しやすいんじゃないかなと思ったんですよね。

当時もアフリカ移住ができる企業への転職を試みたものの、そちらの方向へは縁がなく、結局メルカリへ転職することに。でもメルカリで働いている間も「チャンスがあればいつかは」とずっと思っていました。

ーーじゃあ、メルカリで働きながらも移住のチャンスに備えていたんですね。

はい。夢を叶えるために、主に二つの準備をしていました。

一つはコツコツと英語学習を重ねていたこと。アフリカは英語が公用語なので(※)、現地で生活をするなら英語力はマストです。 ※フランス語圏もあり

メルカリでは外国人従業員が多いこともあり、英会話の授業を受けることができたんですよ。私はもともと英語が得意ではなかったのですが、そこで2年半ほどみっちり勉強して、会話ができるレベルになりました。

もう一つは、Twitterでのブランディングです。この頃から、移住の夢を叶えるために「アフリカ好きな女性」として、アフリカに関する発信を続けるようにしたんです。

すると周囲から「アフリカに興味がある人」だと認知してもらえるようになって。そのおかげでアフリカで働く日本人ともたくさん知り合うことができ、そのうちの一人に今の会社を紹介してもらいました。

「自分はこういう人である」と発信し続けたことが今回のチャンスにつながったので、SNSを活用して本当に良かったと思います。

挑戦して見えた景色は「ただの夢」とは全く違う

ーー実際のルワンダでの働き方について教えてください。

最初の1カ月は上司もルワンダに来てくれて、OJTで仕事の進め方や打ち合わせの仕方を教えてもらいました。2カ月目からは私一人になったので、働く場所やスケジュールは全て自分の裁量で決めています。

打ち合わせやヒアリング以外だと、現地の暮らしやWebの使い方をリサーチするために、現地でできたルワンダ人の友達の家に遊びに行く、なんてこともあります。

ぴきちんさん

仕事中の様子

ーー初めての海外移住に、たった一人きりの海外駐在員ということで、なかなか苦労がありそうですが。

確かに言葉の面では、英語での会話についていけなかったり、言いたいことが伝わらなかったり……といったことはありました。でも、ルワンダも英語は第二外国語なのでゆっくり簡単な言葉でしゃべってくれるし、ルワンダ人は基本的に外国人に対してやさしいので、「どうにもならない!」 ということはなかったです。

時差の関係で朝5時に日本とのオンラインミーティングでプレゼンをしなきゃいけないとか、洗濯機がなくて洗濯物を手洗いしなきゃいけない、といった小さな苦労はありますが(笑)

「タワマンに住む」とか、世間の方がイメージするような優雅な海外駐在員の暮らしとは違いますが、それほど大変なことはないですよ。

ーーアフリカって日本とは文化がまるで違いそうですが、コミュニケーションや仕事の仕方にギャップはありませんでしたか?

実は、ルワンダ人ってシャイで恥ずかしがり屋で、仲良くなるまでに少し時間がかかるんです。なんとなく日本人に性格が似ているので、コミュニケーションの取り方にギャップを感じることはなくて。

ただ、いい意味で裏切られたのは、ルワンダ人がものすごくマジメに働くこと。アフリカの人って大らかな印象があったので、きっとアポを取っても待ち合わせ時間に遅れて来るんだろうなと思っていたら、みんな約束の時間ピッタリに来て(笑)。メールの返信も早いし、これは意外でしたね。

ーールワンダって「超未知」なイメージでしたが、思いの外苦労はないんですね。

そうなんですよ。やっぱり行ってみないと分からないことが多いし、むしろ現地に行ったことで「ルワンダのために頑張ろう」という思いはとても強くなりました。

例えば、私が友達になった女性は、フルタイムの仕事をしながら通信制大学に通うような頑張り屋さんなんです。でも現地人の所得は日本に比べてすごく低いので、彼女も日本では考えられないような生活を送っているんですよ。

毎日の夕飯の予算は20円ほど、衛生的にも少し心配になるようなお店で買ったものを食べるしかない。トイレやシャワーは自宅にはなくて、地域の人と共用。しかもシャワーはお湯が出ません。不便なだけではなく、生活には常に危険が伴うわけです。

所得レベルがまったく違う国に住む人と知り合い、彼らの暮らしを目の当たりにして、それを知った上で友達になったことで、「将来的にはルワンダの平均月収や生活水準を上げることに貢献していきたい」と思うようになりました。

ぴきちんさん

ルワンダでできたお友達と

ーー現地に行って、初めて分かったことや、得られたことも多いんですね。

そうですね。同じことは仕事についても言えると思っていて。

ルワンダに行く前は「事業責任者」と言われても、オフィスもなく同僚もいない中で、一人で何をすればいいのか全く分からなかったんです(笑)。でも現地の人に話を聞くうちに、だんだんと自分がやるべきことや、今の自分に何が足りていないのかが理解できるようになりました。

漠然と「ルワンダに移住したい」と夢を掲げていたときにはまだ見えていなかったことが、実際に移住をしたことによってたくさん見えるようになったんです。

「何もかも初めて」という状況であっても、ただ夢を見ているだけじゃなくて、実際にそこに一歩踏み出すだけで、得られるものは必ずある。それに、結局飛び込んでみた方が成長が早いんだな、と実感しましたね。

アフリカで生きていけたら、もう怖いものはない

ーー「アフリカ移住」という大きな夢を叶えたことで、ぴきちんさんのキャリアに、どんな影響が生まれていますか?

移住してまだ2カ月ですが、キャリアの選択肢が広がったと思います。もし今の会社がルワンダでの事業を撤退したり、自ら退職するという選択をしたりしても、起業とか、別の日系企業に現地採用してもらうこともできるだろうなって。

たとえ短い期間でも「英語を使って仕事をした」「ルワンダで海外駐在員として働いた」という実績ができたことが、自分にとって大きな自信になりました。

ーー現在もTwitterやnoteで積極的にアフリカの情報を発信されていますが、移住してから周囲の反応に変化はありましたか?

周囲の変化で一番大きかったのはTwitterですね。「ルワンダに移住しました」というツイートをしたときに、1日で3,000人ぐらいフォロワーが増えたんですよ。応援してくれる人がたくさんいて、すごくうれしかったです。

今、私はアフリカのネガティブなイメージを変えるため、そして海外で働くことをいろんな人に勧めるためにSNSでの積極的な発信を続けているんです。

特に女性の場合、結婚や出産などの未来を考えると、海外駐在はおろか、海外への長期出張さえ行きづらい現実があります。でも、「やってみたい」という興味があるなら、挑戦をせずにあきらめてしまうのはもったいないなって思うんですよ。

私自身は婚約破棄がきっかけでしたが、一歩踏み出してみて本当によかったです。アフリカで生きていけたら、もう怖いものないかなって(笑)

ぴきちんさん

ーー移住を決断する前、ぴきちんさんにも多少の迷いはあったと思いますが、今振り返ってみてどうですか?

移住をしてみて強く思ったのは、「人生には、やらないで後悔することはあっても、やってみて後悔することってあんまりない」ってこと。それに、年齢を重ねるほどいろいろな制限が出てきてしまうと思うので、挑戦するなら若い20代のうちにした方がいいってことです。

繰り返しになりますが、新しい一歩を踏み出すことで結果的に早く成長できるのもメリットだと思います。

私の場合、日本にいたら一社員のままでしたが、アフリカに移住したことで「事業責任者」という肩書が付き、現地での仕事を任せてもらえるようになりました。「やる」と決めて自分を追い込むことで、想像していたよりも早く、目指すところに近づけるチャンスを手に入れることができたんです。

だから、挑戦に足踏みしている方にも「不安なままでもいいから、勇気を出して飛び込んでみて」と伝えたいですね。

取材・文/小林香織 編集/河西ことみ(編集部) 写真/本人提供


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