22歳で23億円調達したタイミー代表が振り返る「身の丈に合わない意思表明」の大切さ
橋本環奈さんのCMでもおなじみのワークシェアリングアプリ『Timee(タイミー)』。空いた時間に面接なしでバイトができて、すぐに給与がもらえることで、若い世代を中心に人気を集めている。
このアプリを生み出した株式会社タイミーの代表取締役・小川嶺さんは、若干23歳。立教大学在学中に起業し、わずか2年間で23億円もの資金調達を果たした。2019年には『Forbes 30 Under 30 Asia(アジアを代表する30歳以下の30人)』にも選出し、急成長していくサービスの舵を取っている。
そんな小川さんはタイミーをリリースするとき「身の丈に合わないことをやってでも、周りの期待に応えようと思った」と、振り返る。自分にとっては“分不相応なチャレンジ”を続けてきた結果、事業は成長し、見える景色も変わってきた。
自分に自信が持てず、新しい一歩を踏み出せないとき。でも何かを変えたいとき。20’sはどんなふうにそのターニングポイントと向き合えばいいのか、小川さんのチャレンジヒストリーからヒントをもらおう。
「身の丈に合わない」と思いながらも開いた記者会見で、周りの期待を強く感じた
――株式会社タイミーを起こしたのが、大学3年生のとき。起業家としては早いスタートですが、そもそも普通に就職しようと考えていた時期はなかったのでしょうか?
リスクヘッジとして就活はしていましたよ。大学1年生のときからいろいろな企業を見て、いくつかインターンにも参加して。「自分の会社がダメだったときは、失敗の経験を就活に生かそう」とも考えていました。
――在学中にタイミーが軌道に乗り始めたから、卒業後も起業一本でいくことを決意したわけですね。では、その中で小川さんが「一歩を踏み出した」と思う瞬間は、いつでしたか?
やっぱりタイミーをリリースしたときだと思います。タイミーは、日雇いバイトをたくさんしてきた自分自身が「このサービスがあったら絶対に使いたい」と本気で思えた、自信のあるサービス。すでに数千万円の資金調達ができていたこともあり、「世の中の“働く常識”になるようなサービスをリリースします」という記者会見を開いたんです。
自分としては、記者会見なんて身の丈に合わないことをやっちゃっている、という感覚があったんですが……でも、自分から話していない友達のInstagramにタイミーのニュースが紹介されているのを見て、驚きました。メディアを通じて、自分たちのサービスが多くの人に届いていると感じたんです。
――「身の丈に合わないことをしている」という意識があったのは、なぜでしょう。
タイミーの前にもさまざまなサービスを手掛けていて、うまくいかなかった経験があったから「自分は起業家に向いていない」「自分は成功している人間ではない」という思いが強かったんです。
でも、資金調達やメディアでの露出が成功し始めたこのタイミングで、ようやく周りからの期待を感じられるようになりました。ここまで期待されているのなら恩返しをしなくては、と責任感が強まり、さらに覚悟が決まっていったように思います。実際、タイミーは広告を打たずに3万ユーザーを獲得し、世の中に求められているプロダクトだと確信できました。
――分不相応だと感じていた一歩でも、あえて踏み出すことで覚悟が決まっていく。行動に状況が追いついていくようなイメージですね。
SNSでも何でもいいけれど、公に「自分はこういうことをやるんだ」って意思表明するのが大事なんだなと思います。悩んでいるだけだと、やっぱり一生踏み出せないんですよね。
サッカーの本田圭佑選手も、試合が始まる前から「点が入っている」と言葉にして、シュートが決まるイメージを強く持っているそうです。そういう発言をして脳に刷り込むのは、脳科学的にも成功確度が高まる行動だとか。
口にすることで、周りの期待値も高まるでしょう。自分自身もその目標を達成しなくちゃいけない、と本気で思える。そうすると、勝手に成長していくスパイラルが生まれるんじゃないかなと信じています。
――言葉に出すことで「行動しなきゃいけない状況」を作り出すんですね。
自分の人生の時間をどう使っていくか、
ベストなバランスをいつも考えていたい
――有言実行のマインドを持つことは、とても意義があると思います。が、大きなプレッシャーと闘うことにもなりますよね……。
そうですね。事業を伸ばす方法を考えたら、びびっている時間はない。タイミーは、いま世間が働き方改革に乗り出しているこのタイミングでアクセルを踏むしかないと思い、リリース直後からどんどん資金を投入しアップデートをしていきました。
――資金に限らず、自分の持っているスキルや時間をいつどんなふうに投資するのかを考えるのは、キャリアを考える上で役に立ちそうな視点です。
僕の場合は会社のお金の使い方だったけれど、一人一人が“人生のプライオリティー”を決めることって非常に大事ですよね。いつ死んでも後悔のない生き方ができるように、3年後・5年後・10年後どんなビジネスパーソンでいたいかを、明確にイメージしたい。そして、それに向けてきちんと歩みを進めていきたいと思っています。
自分の理想像が見えていたら、あとは人生の時間をどう配分していくか。「心から胸を張れる武器を持ちたい」「日本の課題を解決したい」「家族を大切にしたい」など、志は人によってさまざまだから、人生の配分に唯一の正解はありません。
でも、僕自身は自分が描いている理想に向けて、どんな道を進むのかをいつも考えるようにするのが大切だと思っています。そうやって意識しているだけで、世の中にあふれている情報の受け取り方も変わってくるし、インプット・アウトプットの質が高まる気がするんですよね。
――理想を持って突き進んでいても、くじけそうになったり、つらくなったりするときはありませんか?
もちろんありますよ。でも、タイミーを始めるまでの芽が出ない数年間が本当に苦しかったから、タイミーでは基本的に何をやっても楽しいです。ただ、強いメンバーが入ってくるにつれて、自分の存在価値について悩むことは増えました。自分にしか出せない強みは何なのか悩んだりして……。
――そういうときはどうするんですか?
周りに相談したら「モチベーションが低いときは、落ちるところまで落ちるしかない」って言われたので、最近はそうしてます。ネカフェに行って、3日間『キングダム』だけをひたすら読む生活をしたこともあります(笑)
でもどん底までいくと「俺は何をしてるんだ。やってやる!」って復活できるんですよ。それに、投資家の方々からも「起業家はみんな同じこと悩んでるよ」って言われて、これは王道な悩みなんだなってちょっと安心しました。
見えてくる山の高さが変わって、
ビジネスの主語が「自分」から「世界」になった
――タイミーをリリースした”一歩”から、サービスが大きく成長したこの数年で、小川さん自身のマインドに変化はありましたか。
事業に対する向き合い方は、少しずつ変わってきました。例えば2018年末には、サイバーエージェントの「藤田ファンド」から3億円を資金調達。サラリーマンの生涯年収に匹敵する金額を、タイミー創業2年目の22歳の時に預かったわけです。
そこでまた「この事業は生涯かけて取り組んでいいものなんだ」と、自信が湧いてきた。藤田晋さんという憧れのビジネスパーソンから認めてもらえて、改めて「この仕事をやり切ろう」と思いました。
そうすると、“起業家として見えてくる山の高さ”が変わってきたんです。最初は地元にあるような小さな山を見ていた感覚でしたが、応援してくれる人が増えて、良い仲間にも恵まれて、どんどん標高の高い山に登れるようになってきた。視座が高くなるにつれて、自分がビジネスで成し遂げたいことが変わっていきました。
――成し遂げたいことが変わったというと?
起業当初は「身近な人が幸せになってくれたらいい」くらいしか考えていなかったんですが、ここしばらくは「タイミーを世界に発信していきたい」「世の中を良くしたい」と思うようになったんです。
今までの主語が「自分」だとしたら、これからの主語は「国民」や「世界」。単純にタイミーを伸ばすだけでなく、僕らは世の中に対してどんなバリューを発揮できるかということを考えるようになりました。
――壮大な夢ができましたね。
はい。これが、最初から壮大じゃなくてよかったとも思います。起業に限らず、初めての挑戦で何が起きるか分からない状態なのに主語を大きくしすぎると、苦しくなってしまう。それに、目標が高すぎると、小さな成功に達成感を感じられないと思いますから。
だから、はじめのうちは身近なところから。良いプロダクトや仲間ができたあとで、状況に応じて少しずつ夢を大きくしていったのがよかったのかなって思います。ほら、モンハンとかだっていい武器がないと強い敵は倒せないじゃないですか! そんな感じで、クエストのように挑戦していけばいいんだと思います。
――挑戦の一つ一つを小さな「クエスト」と考えるのは面白いですね。
あと今振り返ってみると、当たり前かもしれないけど、好きなことに取り組むことって本当に大事だって感じます。やっぱり自分が好きじゃないとエネルギーが発揮できないんですよね。好きだからこそ、思っている以上のパワーが出せる。
僕も最初はタイミーが「自分が使いたいサービス」だったから動けました。主語が「自分」であるうちは余計に、自分の興味があることを突き詰めていくのがいいんじゃないかなと思っています。
取材・文/菅原さくら 撮影/赤松洋太
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