「99%の人は、他人の夢に乗っかればいい」“やりたいことがない”と悩む20代に『転職2.0』村上臣が送るメッセージ
コロナ禍を受けての早期退職者の募集、老舗企業の倒産……。
企業が個人を守り切れない時代の到来が明らかになった今、将来に不安を感じ、転職を現実的な選択肢として考えている20代は少なくないだろう。
ところが、いざ転職をしようにも、「自分のやりたいことが分からない」と嘆く若手は多い。
2021年4月発売予定の書籍『転職2.0 日本人のキャリアの新・ルール』(SBクリエイティブ)の著者で、リンクトイン日本代表の村上臣さんは、転職を「自分の市場価値を最大化するための手段」と説く。
では、転職という手段の先に、「なりたい自分」を描けない人はどうしたら良いのだろうか?
そう問うと、村上さんは意外にも、「20代のうちから『やりたいことがない』なんて悩む必要は全くない」と言う。一体どういうことなのだろうか。『転職2.0』時代のキャリアの考え方について、村上さんに詳しく聞いた。
現代の必須スキル「変化への対応力」は、“早めの転職”で獲得する
「変化の時代」というキーワードが聞かれるようになって久しいですが、今を生きていく上で最も大切なスキルの一つが、「変化への対応力」です。20代の方は、これを早いうちに身に付けることを意識してほしいと思います。
「変化への対応力」を獲得する上で最も手っ取り早いのは、転職です。
ガラッと変わった環境に適応する経験を一度やり切ると、「自分は環境が変わってもやっていけるんだ」という自信を持てるようになります。その感覚があるのとないのとでは、その後の人生のフットワークが大きく変わってくるはずです。
また、日本の雇用形態は今、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へとシフトしつつあります。
職務内容がよりいっそう明確化し、スキルセットやアウトプットの質が一層問われるようになる社会で、できるだけストレスなく働き続けていくためには、自分自身を「商品」と捉え、その特性を誰よりも理解することが大切です。
コツコツ進めるのが好きなタイプの人もいるし、営業で一気に数字を上げるのが好きなタイプの人もいる。お客さまの感謝の声に何より心を動かされる人もいれば、作り上げたものが期待通り動くことに感動する人もいます。
自分がどういうタイプで、何をやりがいと感じるのか。それは人によってさまざまです。
そうした自分の特性を知るために、特別なことをする必要はありません。大切なのは、与えられた仕事に真剣に向き合うこと。期待以上のアウトプットを出そうともがく過程で、自分が提供できるバリューは徐々に明らかになっていきます。
市場価値の高い人は、他者に提供できる明確なバリューを持っているものです。それは、「あなたは入社後何ができますか?」という問いに、シンプルに回答できることを意味します。
仕事で成果を出したり、他の職場に適応したりする経験を通じて、まずは自分自身を知る。そして、自分のバリューと市場の要求を一致させていく。これが、変化の時代を生き抜く上で必要となる、基本的なキャリア戦略です。
20代で志がある人なんて、ほとんどいない
終身雇用が前提だった時代では、転職をしてもせいぜい一度という人が大半でしたから、多くの人は「一回の転職での成功」そのものを「目的」と捉えていました。
しかし、会社よりも人間の寿命の方が長くなった現代においては、転職が目的というわけにはいきません。今や転職は、自分の市場価値を最大化し、景気に左右されず働き続けるための「手段」です。
ただ、そんなことを言われても、どんな目的を持って転職活動をすれば良いのか分からない人は多いですよね。「自分が何をしたいか分からない」という若手の悩みは、頻繁に耳にします。
そんな人に伝えたいのは、いわゆる「志」がなかったとしても、20代のうちは全く悩む必要がないということ。
僕自身、20代の頃は志なんてゼロでしたからね(笑)。仕事は好きでしたが、自分の知見を生かして世の中を良くしたいと思い始めたのは、つい最近です。
早くから明確な志を持っている人は、起業するケースが多いと思いますが、そうした人は全体の1%にも満たないのではないでしょうか。
では、残りの99%の人たちはどうするか。現実的な戦略は、1%の人たちの夢に乗っかることです。
自分を例に出すと、僕は起業家のようにゼロからイチを生み出すのは苦手でしたが、ビジョナリーな人と一緒に働くのが好きでした。0.1ぐらいの事業のタネを10や100に成長させていく仕事を突き詰めてきた結果、今に辿り着いたというわけです。
だから、自分に志がないことを嘆いたり、「誰かのようにならなきゃ」なんて焦る必要はありません。自分がワクワクすることをしている人の近くに行き、そこでできることをやればいいんです。
ただ、その際に道しるべとなる「ワクワクの芽」は、何もないところからは育ちません。
20代の頃は、「自分の仕事は歯車の一つに過ぎない」と卑下してしまう人は多いかもしれませんが、そうではなく、「この仕事はどのように社会と繋がり、世間の人々に影響を与えているのだろう」という視点を持って、自分の仕事を捉えるようにしてください。
自分は社会に価値を提供する過程で、どこに関わると楽しさを感じるんだろうと考えてみる。そうやって育てた「ワクワクの芽」は、きっと今後のキャリアを良い方向に導いてくれますよ。
自分の仕事に「自信がない」日本人。まずはネット上に“存在する”ことから始めてみる
転職活動を始めた際に足を引っ張ってしまいがちなのが、日本人特有の「自信のなさ」です。リンクトインの調査では、日本人は22カ国の中で最も仕事に自信がないというデータが出ています。
面接では、「自分に何ができるのか」をアピールする必要がありますが、自信がないためにそれが十分にできていない人が多いのではないでしょうか。
たとえ社内トップの成績ではなかったとしても、与えられた目標を毎期クリアしてきたのなら、それは立派な実績です。面接では「目標達成率100%でした」と堂々と伝えればいい。自分のやってきたことに正しく自信を持ってください。
そして、自信のなさによるものなのか、転職活動にSNSを活用している人も、日本ではまだ少ないように思います。オフラインのイベントではためらうことなく名刺を配れるのに、ネットになると急に黙ってしまうのは、なぜでしょうか?
今、リクルーターは基本的にネットで人材を探しています。ネット上に存在していないということは、転職市場に存在していないのも同然。これは非常にもったいない状態と言わざるを得ません。
じゃあ、早速SNSを始めようと思っても、毎日ネタを投稿しなければいけないと思うと、ハードルが高過ぎますよね。
何もSNSインフルエンサーの真似をする必要はありません。キャリアアップを目的にSNSを使う場合は、「自分は何ができる人なのか」を、無理のない範囲で発信すれば十分です。
まずはプロフィールを作成し、何かあったときに見つけてもらえる状態にするのが第一歩。全公開が怖いのであれば、公開範囲を限定しましょう。SNSはTwitterやFacebookだけではありません。自分がやりやすそうなプラットフォームを選んでください。
そして、コメントをつけてニュースをシェアするなどして、自分の声を少しずつネットに染み出させていく。慣れてきたら、オンラインで交流してみるのも良いでしょう。
こうした活動を積み重ねていくと、ネット上での人脈がどんどん広がり、何かあったときに声をかけてもらいやすくなります。
例えば、「モバイルなら村上だよね」というように、何かのキーワードに対して第一想起してもらえる存在になれると、さまざまな機会が巡ってくるはずです。
ウェルビーイングな生き方を実現するために、「自分のご機嫌は自分で取る」
SNSを使っていると、他人のことをうらやましいと感じたり、「あの人は自分と同い年なのにこんなに出世してる」と思ったりして、気持ちがざわつくこともあるでしょう。
でも、焦ったところで何になるのでしょうか。SNS上ではいいことしか言わない人も多いです。ロールモデルはキラキラした遠くの人ではなく、「知り合いの知り合い」ぐらいの身近な範囲から探すのがいいと思います。
そもそも、自分自身がきちんと満たされていれば、人のことはあまり気になりません。
僕自身の若い頃を振り返ってみても、ガラケーのサービス開発の仕事にあまりに没頭していたので、自分と人と比べて落ち込むようなことはありませんでした。
これからは他人と比べて自分を擦り減らすのではなく、ウェルビーイングな生き方を目指すべきです。
それを実現するために大切なのは、「自分のご機嫌を取る力」だと考えています。
僕のように、好きな仕事にフォーカスするのもいいし、本業とは別の仕事をするのもいい。コンビニのアイスを食べるのだって構いません。どうすれば自分のご機嫌を取れるのか。その正解は、自分の中にしかありません。
自分を徹底的に知ることは、ウェルビーイングな生き方を実現するために必要なことでもあるのです。
最後に、20代の皆さんに改めて伝えたいのは、まずは目の前の仕事での成果にこだわってほしいということ。それが中途半端なまま、「なんとなくやる気が出ない」とか、「上司が合わない」といった理由で会社を転々としてしまうのが、一番良くありません。
やりたいことが見つからないと焦るのではなく、時間をかけて「ワクワクの芽」を育てていくつもりで、20代を過ごしてみてはいかがでしょうか。人生を費やしたいと思える「志」は、そうした時間を積み重ねた先で見つかるのかもしれません。
取材・文/一本麻衣 人物写真/ご本人提供
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