有澤樟太郎が大舞台にも“自然体”で立ち向かえる理由「一度恥をかけば、恐れは消える」/ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』
※この記事は姉妹媒体『Woman type』より転載しています
キャリアを積めば、リーダーに抜擢されたり、重要なプロジェクトにアサインされたり、どんどん責任のある仕事を任されていく。
俳優・有澤樟太郎さんも、今まさに大きな仕事に立ち向かっている。
19歳で俳優デビュー。その後、ミュージカル『刀剣乱舞』など人気舞台で頭角を現し、近年は舞台『キングダム』やミュージカル『のだめカンタービレ』などの大作で、次から次へと重要な役を任されている。
現在28歳。有澤さんは、のしかかるプレッシャーと日々どう向き合っているのだろうか。
世界が注目する“ジョジョ”。でも、重圧はあまり感じていない
出演作が相次ぐ有澤さんが次に挑むのは、2024年2月6日から開幕のミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』。
誰もが知る世界的大ヒットコミックの第1部主人公、ジョナサン・ジョースターを演じる。
東京公演の会場は、日本ミュージカル界の最高峰と言われる帝国劇場(帝劇)。その舞台のセンターに立つ役者は「0番」と呼ばれ、ミュージカル俳優にとって最高の名誉でもある。
超有名作品の主演に、帝劇の0番。プレッシャーは想像するに余りあるが、意外にも有澤さんは自然体だ。
実は自分の中ではあまり背負いすぎてはいないんですよね。と言うのも、周りで支えてくださるキャストがみなさん頼もしい方ばかり。
男性キャストの中では僕が一番年下なんです。ここはもう頼もしいお兄さん方に頼っていこうと(笑)。
だから、それほどプレッシャーみたいなものは感じていないです。
にこやかな笑顔には、力んだところがまるでない。そのタフさに思わず「鋼メンタル」と評したくなるけど、有澤さんの考えはむしろ真逆。
鋼のように思考を硬直させても行き詰まるだけ。できる限り心を伸びやかに、柔軟にすることで、のしかかるプレッシャーを受け流していく。
もちろん、世界初演となる作品をゼロから作っていくというプレッシャーはあります。
でも、作品はみんなで作るものなので、僕ひとりがそのプレッシャーを背負い込む必要はない。
みんなで背負うものだと思うと、気持ちも軽くなるんですよね
仕事は、ひとりでするものじゃない。そんな信条が、大作に挑む不安や緊張を緩和させている。
だが、役の責任を負うのは俳優自身。35年以上にわたって愛され続ける“ジョジョ”第1部の主役であるジョナサン・ジョースターという偉大な役が、行く手に立ちはだかっている。
たぶんファンの皆さんの中で、ジョナサンを嫌いだと言う人ってほとんどいない。それくらい誰もが共感して、成長を見守りたくなる主人公なんです。
未熟なところから始まって、話が進んでいくごとに見る見る心構えが変わっていく。
その研ぎ澄まされていくキャラクターをしっかりと表現することが、第一に僕の目指すところかなと思います。
これまでも数々の人気キャラクターを演じてきた有澤さん。原作ファンの厳しい目に応え、声援に変えてきた実績がある。
世界初演ということで、現場でもみんな悩みながら手探りで作品をつくっていくことになると思うんですけど、その状況に飛び込んだ自分とジョナサンの成長がリンクするところがあるなと思っていて。
だから、今からあまり考えすぎず、稽古場でいろいろ試しながら見つけていけたらと考えています。
そうフランクに語りつつ、できる準備にも余念はない。
まず取り組んでいるのが肉体改造。平常時より10kg近く増量し、ジョナサン・ジョースターの鍛え上げられた肉体を追求する。
やっぱりパッと見たときの説得力って大事だと思うんですよ。だから、役が決まった次の日からジムに通いはじめました。
週3〜4ペースで、主に胸と背中を鍛えて、あとは肩と腕も大きくしたいなと。
ベンチプレスも最初は自分の体重を上げるので精いっぱいだったんですけど、今は80kgくらいまで上がるようになりました。
「頼られる」ことが何よりのモチベーション
普通なら緊張で縮み上がるような大仕事を前に、有澤さんはむしろその状況さえ楽しんでいるようだった。
どうしてここまで強い心を保つことができるのだろうか。
聞くと「昔はプレッシャーに飲み込まれそうになることがあった」と打ち明ける。
それを一番強く感じたのは、ミュージカル『刀剣乱舞』の頃。役を演じることはできるけど、中身の部分をもっと突きつめていくにはまだ経験が足りないと感じてしまって。
当時23歳くらいでしたから、周りの先輩たちと比較すると未熟な部分があったのかもしれません。
技術なら努力で伸ばすことはできるけど、人としての魅力というか、人間力ってそう簡単には身につかないものじゃないですか。
だから当時は、正直焦っていましたね。
でも、そんな自分を頼ってくれる人がいて。それが心の励みになったんです。
僕は、自分で自分を認めるより、人から認められることで自分を認められるタイプ。
だから、必要としてもらえることがめちゃくちゃうれしいし、頼られることでもっと頑張ろうという気持ちが湧いてくるんです。
俳優である有澤さんにとって、最も頼りにされていると感じる瞬間とはいつか。それは、新しいオファーをもらったときだと言う。
作品のプロデューサーさんは、自分の可能性を信じてオファーをくれる。
「次はこういう作品を一緒にやりたいんです」と言ってもらえることがモチベーションにもなるし、その期待に応えたいという思いが自分のギアを上げてくれるんです。
弱さを見せれば、プレッシャーなんて感じない
有澤さんにとって、プレッシャーは決してマイナスなものではない。自分に期待してくれる人がいるとポジティブに転換することで、今まで以上の力を引き出すカギにもなる。
しかしそれでも重圧に負けそうな時は、どんな心構えで仕事に臨めば良いのだろうか。有澤さんの答えは、とてもシンプルなものだった。
周りの人に、自分の弱いところを思い切り見せる。
プレッシャーを感じるのって、結局は失敗したくないとか、カッコ悪いところを見せたくないとか、そういう自分のプライドが作用していることが多いと思うんですね。
だから、どう見られたいという欲は捨てて、早めに自分のダメなところを全部見せてしまう。
そしたらもう不安に感じることなんてないですから。
恥をかくこと、失敗することが、プレッシャーを取っ払う一番の方法だと思います。
そう言い終えて、「きれい事に聞こえるかもしれないけど」と照れくさそうに少しはにかみながら、有澤さんはこう付け加えた。
そのためには、人に頼ることを恐れないことが大切だと思いますね。
人に頼ってばかりではいられない。そう思って助けを求めることに抵抗感を覚える人も少なくないだろう。でも、人の力を借りることで越えられる壁がある。
そう実感したのは、有澤さんが本格的にミュージカル俳優の道を歩みはじめた頃。
大劇場の最後列まで届く、艶やかで芯のある歌声を求めて、有澤さんは研鑽を積んだ。
当時は人に頼りっぱなしでした。歌唱指導の先生や作品の音楽監督の方にひたすら話を聞いて、特訓に特訓を重ねる毎日。
「教えてもらうのが恥ずかしい」なんて言ってられないですから、分からないことは聞きまくるしかない。
そうやっていろんな人に教えてもらうことで分かったんです、一人じゃ何もできないって。
有澤さんはこれまでを振り返って、「人との出会いに恵まれてきた」と噛みしめる。
やっぱり仕事って、出会いと縁。いい仕事をしたいなら、人との出会いや縁を大事にしなくちゃいけないなと思うんですね。
僕自身も、「またこの人たちと一緒に仕事をしたいな」と思える人との出会いが頑張る原動力になっているし、そんなふうに誰かからまた一緒に仕事をしたいと思える人間でありたい、といつも心掛けています。
ついプレッシャーに押しつぶされそうになるのは、有澤さんの言う通り、カッコ悪いところを見せたくないというプライドで自分を縛ってしまうからだろう。
でも、どんな仕事でも一人でするものではない。
大事なのは、自分を開示すること。上手に人を頼ることが、心に余裕を生み、さらなる成長へとつながっていく。
取材・文/横川良明 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) 編集/柴田捺美(編集部)
ヘアメイク:田中紫央 スタイリスト:山田安莉沙
作品情報
ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』
有澤樟太郎
原作:荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社ジャンプ(半角アケ)コミックス刊)
演出・振付:長谷川寧
音楽:ドーヴ・アチア
脚本・歌詞:元吉庸泰
出演:松下優也/有澤樟太郎、宮野真守、清水美依紗、YOUNG DAIS、東山義久/廣瀬友祐、河内大和、島田惇平、コング桑田、別所哲也、ほか
※松下優也と有澤樟太郎、東山義久と廣瀬友祐はWキャスト。
製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社
■公演情報
<東京公演>
上演期間:2024年2月6日(火)~2月28日(水)
場所:帝国劇場
住所:東京都千代田区丸の内3-1-1
<北海道公演>
上演期間:2023年3月26日(火)~3月30日(土)
場所:札幌文化芸術劇場 hitaru
住所:北海道札幌市中央区北1条西1
<兵庫公演>
上演期間:2024年4月9日(火)~4月14日(日)
場所:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
住所:兵庫県西宮市高松町2-22
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