現役アナウンサーが伝授する「興味がない相手」に興味を持ってもらうためのプレゼン術その2【連載:長谷川豊】
フリーアナウンサー
長谷川 豊フジテレビ出身のフリーアナウンサー。13年間、朝の情報番組「情報プレゼンターとくダネ!」で、現場取材やニュースのリポートを担当。ニュースプレゼンテーションのプロフェッショナルとして活躍。現在はアナウンサーだけではなく、講演・執筆など、多方面で活躍中
公式ブログ:http://ameblo.jp/yutaka-hasegawa/
「サービスに興味を持っていない顧客に、興味を持ってもらいたい」
そんな多くの営業マンが共有して抱えているであろうお悩みにお答えすべく、僕がセミナーなどでお話しているプレゼンの時に使えるテクニックをご紹介します。
前回の「比較法」に続いてお話するのは、皆さんもよくテレビなどで目にする手法です。ひょっとしたら、一番簡単に使用でき、一番効果がある方法かもしれません。特に「日本人相手」には。
■第2回「アンケートが有効な理由」
日本人の特徴を少しおさらいしておくと、全体論でしかありませんが、
「長いものに巻かれる」
という部分は否定できないものがあります。否定できないというよりは相当その傾向があると考えていいと思います。
もし同じクラスにあまり接点のない人間がいたとして、その人間のネガティブな情報を誰かが言っていたとしましょう。クラスの少なくない人たちが「あ~そうなんだ……」とその人間から距離を置く。そんな光景、目にしたことあるんじゃないでしょうか?
ただの悪口ならば、あまり誰も気にしません。むしろ、その悪口を言っている人間の評価が下がったりします。「あの人、陰で悪口言う人だよね」的な。
でも、もしそれが巧妙に別の話し方をしていたらどうでしょう?
例えばこんな場面があったとします。
あなたのクラスに田中さんと佐藤さんがいたとします。2人とも、あまり接点がない人たちだとしましょう。ある日、田中さんが珍しくあなたを誘ってきました。「お茶でもしようよ」と。
あなたも「うん、いいよ」と応対。そして、ファミレスにでも行って、あーだこーだとおしゃべりしている中でクラスの子たちの話題になった。その時に田中さん、こう言い始めました。
「私、佐藤さんのこと、少し苦手かな~。ちょっとわがままというか……。こないだね、こんなことやあんなことがあったって○○ちゃんが言っていたよ」 ふんふん、と聞くあなたに田中さんが一言。
「みんな、けっこう苦手って言っているよね。佐藤さんのこと、心配だよね」
これが今回取り上げたいプレゼン技術です。
先に田中さんと佐藤さんのことを少しだけ紐解いておきますと、お分かりの通り、最も性格が悪いのは紛れもなく田中さんです。本当に性格の良い人というのは、その人のいない場所でその人の評価が下がるようなことを言いません。絶対です。
その人の評価が下がったらかわいそうだなーって思うからです。本人を目の前にしたら言っても構わないですが、本人のいない所で言うのは本来マナー違反です。
じゃあなぜ、田中さんはそんなことをあなたに言ったのでしょう? それは田中さんの言葉のラストが巧妙に仕掛けられたプレゼンの技術であり、それによってクラスでの佐藤さんの評価を下げることができると分かっているからです。
要するに田中さんは「佐藤さんの評価を下げ、佐藤さんを嫌われ者にせんがため」、あなたをファミレスに誘ったのです。最悪なのは「みんなが嫌い」と田中さんが言った佐藤さんではなく、佐藤さんのネガティブ情報を周りに広めている田中さんの方なのです。本当はね。
こんな簡単で、冷静に言えば分かっちゃうことなのに、日本人は結構簡単に引っ掛かる傾向が強いのです。しかもこれは世界的に圧倒的に強いと言える傾向です。
え? 私は違う?
え? そんなことないって?
いえいえ、皆さんも簡単に引っ掛かってきたはずです。少なくとも、僕たちテレビや新聞の人間はそれを分かった上で、こんな技術を用いているのです。それがニュースでよく見掛ける、
「世論調査」
です。そう、勘の良い人はもう分かったと思います。
日本人に最適な「みんなが言っている」というプレゼン手段
テレビをやる上で、自分たちは絶対的に安定したポジションにいたいと、少なくともマスコミの人間は思っています。
理由は簡単。真実を伝えるとかどうとかよりも、まずは自分の出世の方がずっと大切だからです。出世するためには「ミスが少ない」ことが大事です。であれば、ニュースも、「不特定多数の人間が同意する」内容を流す方が安心です。そこで使われるのがこのプレゼン技術、というわけです。
僕も何度も経験してきたことですが、判断が分かれそうだったり、ひょっとしたら一方的な意見に聞こえてしまったりしそうな内容であれば、
「世論調査によると……」
と、とりあえずアンケート結果を使うようにしていました。これによって、
「大多数はそう思っているんだよ」
という保険を掛け、あくまで自分たちが一方的な意見なのではない、というセーフティーネットを張ることができます。ね? テレビでも見たことあるでしょ? みんなやっているでしょ?
この世論誘導って、世界的にはほとんど通用しないプレゼン技術だったりします。でも、日本人って驚くほどに簡単なので、使いまくれます。どんどん使った方がいいと思います。
キレイ事を言ってもしょうがなくて、相手の心を動かさなければいけない場合、この方法によって日本人はいともたやすく、僕たちテレビメディアの向かってほしい方向に向いてくれる訳です。
……そう考えると、なんて簡単で素敵な国民性(汗)。
難点を1つ言いますと、あまりにも簡単に引っ掛かり過ぎてしまって後々、エラいことになるってことくらいでしょうか?
何かといいますと、この世論調査って手法は特にテレビの世界ではニュースで使うんですけど、その中で「一番多かった結果」に、日本人は真っ直ぐに進み過ぎるんですよね。
“誘導”の恐るべき効果
例えば、首相が小泉さんだった時の郵政解散選挙。もうね、郵便がどうとかもはや考えない。とにかく、小泉さんらしい、と。とにもかくにも「小泉さん、最高!」、「もう、小泉さんしかありえないわぁぁぁぁ!」となるわけです。で、結果はあんな感じになっちゃって、自民党、暴走、みたいな。
で、その反動が来て、2009年にはとにもかくにも「自民党叩きゃいいんでしょ」と。「自民党、最悪!」と。「民主党、民主党ーーー!」「きゃっほう! 民主党バンザーーーイ!」。そんなこんなで、民主党単独で309議席、みたいな。その後、あんな感じになりましたけど。
で、今度は自・公政権でしょ? 両党合わせて、何議席いきましたっけ? 313だっけ? もうちょっとありましたっけ?(編集部注:326議席)あまりにもバカらしいので、あんまり見てないんですよね。
まあそんなわけで、その時々にばっちり有効なプレゼン手段こそが「世論誘導」という技術です。「ほら? みんなそう言っているよ?」ってことです。
ニュースでこれをやり過ぎると、さっき言ったみたいなえらい感じになるんですが、でも一応、ことプレゼンの世界においてはこんなに使える有効な方法ってないんです。あくまで日本人相手って条件ですが。
話を戻して、先ほどお話した佐藤さんと田中さんのお話。覚えていますか? 田中さんが性格悪いって話? ええ、そうすね。それで大体合っています(涙)。で、田中さんの何が素晴らし(く性格が悪)いかって話なんですが、ここです。
「みんな、けっこう苦手って言っているよね。佐藤さんのこと、心配だよね」
これです! これ!!
この技法こそが、プレゼンにおける、「誘導」です。ま、田中さんは「心配だよね」という一言を付け加えることによって見事に自分が悪役から逃げきっているんですが、その前の「みんな苦手って言っている」という文言は日本人相手には効果がてきめんなのです。
では次回、その効果的な使い方をお話ししましょう。
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