技術力はあるのに内定が出ないというITエンジニアは少なくない。そこで求められるのが「技術力＋α」、つまり、ヒューマンスキルである。よく聞く言葉ではあるが、このヒューマンスキルとは一体どんな能力を指すのだろうか。

大坪隆志氏 株式会社オイコス　 メンター 1987年に株式会社資生堂に入社。9年間システムエンジニアとして幅広くネットワーク系の構築やサポート業務、社内システムの環境整備などを担当。その間に慶応大学大学院で人事・組織論を専攻し、修士号取得。その後、システムコンサルティング会社を経て、03年からオイコスに所属。ＩＴ企業を中心にプロジェクトマネジメント研修ほか多数を実施 「27歳くらいまでは『技術力がしっかりしていれば採用』という企業もありますが、30歳前後になると、どの職種でも「技術力プラスα」が求められます。どのIT企業も、自社に利益をもたらす提案力や交渉力を持った将来のプロマネ候補を探しているのです」 キャリアデザインセンターでキャリアアドバイザーを務める酒井康弘氏がこう指摘するように、30歳前後のITエンジニアが転職に成功するためには、技術力もさることながら、それ以外の「プラスα」すなわちヒューマンスキルが求められるようになる。では、ITエンジニアに必要な「ヒューマンスキル」とはどんな能力を指すのだろうか。IT人材向けの研修で豊富な実績を持つオイコスでコーチングなどの講師を務める大坪隆志氏は、「ヒューマンスキルとは仕事をうまく進める力」だと語る。 「ただし、その能力の実体は非常に多様です。1つのスキルを指すものではなく、持っている知識や技術を成果に結びつける力を総称してヒューマンスキルといえるのではないでしょうか」 この指摘にあるとおり、「ヒューマンスキルとはこの能力」と中身を特定するのは難しい。そこでこの企画では、ITエンジニアにとって特に必要な能力をコミュニケーション力、マネジメント力、交渉力と定義。それぞれのスキルの重要性と磨き方、基本的なノウハウを紹介していきたい。 まず、これら3つのスキルが必要な理由を、大坪氏は業界の特徴を踏まえて説明する。 「そもそも、ソフトウエアやシステムは自動車や家電といったハードウエアと異なり、プロダクトを目で確認できないもの。そのため、システムを構築していくあらゆる局面で十分な意志の疎通が必要なのです」 さらに近年、ユーザーやデザイナー、プログラマー、パッケージベンダー、海外のエンジニアなど、開発に関わる人数が劇的に増え、属性も多様化した。だから、スムーズな意志疎通を可能にするコミュニケーション力はよりその重要性を増しているのだ。 プログラマーからSE、ITアーキテクト、システムアナリストと、開発の上流工程に携わるようになっていくほど、深いコミュニケーションが求められるようになる。と同時に、顧客とのタフな交渉の機会も増えてくる。 「そうした場面では、問題解決に向けた提案をしながら、顧客と自社をうまく合意に導いていく交渉力が必要になっていきます」(大坪氏) 酒井康弘氏 株式会社キャリアデザインセンター 人材紹介事業部 大学卒業後、素材系メーカーで法人営業に関わる。その後システムエンジニアを経て、IT業界とコンサルティング業界を中心にした人材紹介に関わる。その後、独立を経てキャリアデザインセンター人材紹介事業部へ また、「年齢が上がれば上がるほど、同じ企業に長くいればいるほど、リーダーとして交渉やマネジメントを任される機会は増える」（酒井氏）。チームとして評価される機会が増えてくれば、組織やプロジェクトを率いるマネジメント力が当然のように求められるのだ。30代以降のキャリアの幅を広げてくれるのはこのマネジメント力だといっても過言ではない。 こうしたスキルを身に付けていれば、転職活動で自分の能力をアピールできないという事態が避けられるだけでなく、普段の仕事の成果も大幅にアップするはずだ。 ITエンジニアのなかには、こうした能力を先天的な資質によるものと考える人も多い。しかし、これらは個人の意識付けによって後天的に開発できる能力である。たとえ、今コミュニケーションを苦手にしていても、決して「どうせ自分にはムリ」とあきらめてはいけないのだ。 次ページでは、まずコンピテンシー（高い成果を上げる人の行動特性）の側面からコミュニケーション力、マネジメント力、交渉力を解説。チェックシートで自己分析をすると同時に、それぞれのスキルに関する認識を深めてほしい。