若手が押さえておくべきマネジメントの心得

マネジメントといってもプロジェクトの管理から部下の指導まで、その意味は幅広い。IT業界では、PMBOKなどの知識体系とリーダーとしての人間力の両方が試される。若手がマネジメントを始めるにあたって押さえておくべきポイントとは?

土谷政則氏

株式会社富士通ラーニングメディア
研修事業部
シニアインストラクタ
1976年富士通に入社。金融機関向けのDBシステム開発、勘定系システム開発、リスク管理システム、ローン自動審査システムなど、約30年にわたり銀行系のプロジェクトに従事。2003年より富士通ラーニングメディアへ。プロジェクトマネジメント、ヒューマンスキルに関する研修を担当。PMPなど保有資格多数



IT業界でプロジェクトマネジメントが注目されている理由。それは、プロジェクトの遂行中に起こる問題のほとんどが、人間の行動に起因しているからだ。

「技術的な間違いが大問題に発展するということは、ほぼゼロに等しいですね。行動の問題というのは、ある現象に対し、そのままにしておくとまずいと感じたにもかかわらず、様子見に徹してしまって手遅れになったというもの。プロジェクトマネジメントの必要性を知っていれば防げたと言われるような内容のものです」

こう語るのは、富士通ラーニングメディアで講師を務める土谷政則氏。プロジェクトマネジメントに関する講義を行っており、ここ1〜2年は、目に見えて受講者が増えているという。

「組織のラインマネジメントとプロジェクトマネジメントは分けて考えなくてはいけません。ただ、優秀なマネジャーの前提としては、まず、プロジェクトのプロセスを熟知していることが挙げられますね」

そのマネジメントスキルのガイドラインとして、急激に広まったのがPMBOKョだ。すでに日本のIT業界ではデファクトスタンダードになりつつあり、この知識があるとないとでは、今後、仕事の幅が変わってくる可能性もある。

「人には、問題を自分の経験から判断しようとしてしまう傾向がある。そうではなく、お客様とプロジェクトを成功させる共通の判断基準、モノサシとして必要とされているのが、PMBOKョの知識体系なのです」

ここ2〜3年でPMBOKョに準拠した国際的な資格であるPMP取得者も急増中だ。

さらに最近の特徴として、メンバークラスのエンジニアにも、プロジェクトマネジメントスキルが求められていることが挙げられる。今IT業界で注目されているのがリスクマネジメントの考え方。問題を起こさないためにどう手を打つべきか。プロジェクトに関わるすべての人に対して、そのノウハウが求められてきている。

「リスクを想定するというのは、一見消極的で弱気な発想のように捉えられがち。だからこそ、上司を含めたチームメンバー全員で、リスクマネジメントのスキルを共有することが大切だという認識が広がっているのです」

土谷氏は、若手メンバーであっても、PMBOKョを前提としたマネジメントの本を1冊読んでおくべきだと奨める。

「コミュニケーションは情報の伝達だけではなく共有化であり、プロジェクトは会社あげての組織活動であると言い換えることができます。進捗報告は何のために行うのか、問題の兆候とはどのようなものかなどを全員が前提として知っておけば、コミュニケーションのズレも減ってくるはずです」

リスクマネジメントのコツは、問題を考える時間軸を前倒しすること。プロジェクトが複雑になればなるほど、注力すべきポイントも前倒しで現れてくる。メンバー全員がポイントをはずさないためにも、プロジェクトマネジメントスキルは、あらゆる年代、階層のエンジニアに必要とされているのだ。



平尾誠二氏
Seiji Hirao

株式会社神戸製鋼所
神戸製鋼ラグビー部 ゼネラルマネージャー

1963年生まれ。伏見工業高校3年時、全国高校ラグビー大会優勝。同志社大学在学中、大学選手権を3連覇。神戸製鋼所に入社後3年目から、チームを7年連続日本一に導く(V1〜V3まではキャプテン)。現役引退後は、1997年2月から2000年11月まで日本代表監督を務めた。現在、神戸製鋼ラグビー部ゼネラルマネージャーとしてチームの運営に当たる
強い組織を作るためには、まずチームの目標をハッキリさせることが重要です。迷いが生じたとき、目標が明確であれば「何を優先すべきか」がわかってくるからです。

ラグビー日本代表の監督を務めていたころ、私の方針に反発するメンバーがいました。私も人間ですから、いい気持ちはしなかった(笑)。でも、「試合に勝つ」というチームの目的があるから、リーダーとしては、彼の力を認めてチームに活かす術を考えないといけない。必要とあらば、ときには譲歩することもありましたね。すべては目標を達成するための行動です。そこに好き嫌いを挟みこむ余地はありません。

試合に勝てば、チームとしての達成感が、メンバーとの関係を劇的に変えてくれます。そして、苦労が報われたという成功体験が組織を強くしていくのです。だからこそ、達成感を味わえる目標を設定すること、そして目標達成に向けてぶれない姿勢がリーダーには必要だと思います。

強い組織には強い個が必要ですが、メンバーと接するうえで意識してきたのは、「距離感」ですね。メンバーとの距離感は、近すぎると緊張感がなくなり、遠すぎるとコミュニケーションが取りにくくなる。自分の言葉がメンバーの心に響く距離感を見つけ、それをうまく保てれば、リーダーの仕事はグッとしやすくなるはずです。

メンバー育成という意味では、「気づき」がポイントだと思います。神戸製鋼に大畑大介という選手がいますが、私が日本代表監督に就任した頃、彼はディフェンスが弱点だといわれていました。でも、私はその弱点を意識して指導はしなかった。得意なオフェンスで持ち前のスピードとパワーを発揮してもらおうと思ったからです。

そのうち実力を発揮できるようになると、今度は大畑選手自身が弱点克服に前向きに取り組み出した。今では、「実は大畑はディフェンスの方がいいんじゃないか」と思うほどにまで成長しました。

リーダーはどうしてもメンバーの弱点についてうるさく言ってしまいがちです。大畑選手のケースは一例に過ぎませんが、メンバーの性格を見極めてどうしたら自発的に取り組んでくれるかを、リーダーはよく考える必要があるのではないでしょうか。


× 成果を出すためには名より実を取るべき
○ いかなるときもリーダーは愚直に誠実を貫く!
ITのシステムは形が見えないだけに費用などがグレーになりがち。コストやスケジュールの超過を避けるあまり、開発規模を水増ししたり、生産性を下げたりして見積もる行為はプロジェクトマネジャーとして失格だ。技術のわからない顧客は技術を持つプロフェッショナルを信頼するしかない。成果を出そうとテクニックに走ることなく、プロとしての倫理観を持つことがリーダーの第一条件だ。
× リーダーたるもの、どっしりと構えているべきだ
○ リスクの芽は現場にあり。足を動かして現場を見る
人間はついうっかり問題をやり過ごすことが多い。しかし、そのままにしておくと、本当のトラブルに発展してしまう。そうした問題の芽や情報はメンバーから自動的に上がってくるものではない。むしろ、自分から動いてメンバーに話しかけ、足を使って集めるという意識を持ちたい。現場を歩くことで、初めてわかるメンバーの性格や仕事への考え方もあるはずだ。
× リスクは初期段階のうちに潰しておけ
○ リスクは変化していく。継続的に想定し続けろ
起こりうるリスクを想定し、事前に対処しておくのがリスクマネジメントの鉄則。しかし、プロジェクトの初期段階にはできていたのに、走り出すにつれて直近の“火消し”に翻弄され、うやむやになっていく問題が多い。リスクはプロジェクトの進行と共に変化していくもの。常にリスクを想像して、先回りして対処するクセをつけよう。
× メンバーには「報・連・相」を徹底せよ
○ リーダーにこそ、「報・連・相」が求められる
新人のころに習った「ほう(報告)・れん(連絡)・そう(相談)」の重要性。これは、部下を持った今こそ重視すべき心構えだ。問題を見つけたら、即座に上層部やメンバーに対して、わかりやすく見せる(報告する)ことが大切。顧客は技術はわからなくても、モラルは理解できる。こうしたプロジェクトの“見せる化”が信頼感につながることも往々にしてあるのだ。





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