|
山田 修氏
Osamu Yamada
有限会社MBA経営
代表取締役 社長 |
学習院大学修士課程を経てサンダーバード国際経営大学院でMBAを取得するなど、複数の大学院で学ぶ。外資系企業4社と日本企業1社の企業のトップを歴任し、いずれも業績向上を実現させて「再建請負経営者」と評された。近著『あなたの会社が買われる日』(PHP研究所刊)では、トップとして経験してきた修羅場、交渉の現場がリアルに描かれている |
|
|
私が外資系光学機器メーカーの日本法人トップだった頃、日本の大手電機メーカーへ納入するランプ機器の供給が滞るという事態に陥ったことがありました。そのころはPCプロジェクターが普及し始めた時期で、それにあわせてランプ機器への需要も爆発的に増えていたのです。
工場をフル稼働させてもまるで生産が追いつかない。ランプは増産に莫大な設備投資がかかる製品だったため、工場を増設することもできない。窮地に追い込まれた私は、窮余の策として顧客メーカーと一緒に騒ぐという戦略を立てました。
私は顧客担当者たちを連れてまず、欧州の本社へ、その後アジア本社がある香港へ行って「本社の生産品を何とか日本に回してもらえないか」と直談判したのです。
香港を訪れたとき、アジア本社の社長に対して、これ以上日本のメーカーに迷惑をかけたら信用を失ってしまうこと、大口顧客を失ったらアジア本社の責任が問われることを強調して伝えました。彼が動けば事態が変わるかもしれないと思ったからです。案の定、アジア本社の社長が欧州の本社に飛んでいって交渉してくれました。
結果的に、欧州本社で製造されるはずのプロジェクターが減産され、その分のランプが日本に回ってくることになりました。事態を動かせる可能性を持ったキーマンを動かしたこと、緊急事態であることをアナウンスしたことが事態を動かすキッカケにつながったのです。
仕事を続ける以上、事の大小はともかく、不利な交渉に遭遇することは必ずあります。そうした状況を切り抜けるためには、事前に交渉の流れをシミュレーションしてシナリオを作っておくことが大事です。その方法として私が実践しているのは、直面している事象を1つずつカードに書き込んで並べ、予測可能なリスクを洗い出すというもの。状況を体系的に整理できるので、交渉におけるリスクをイメージしやすくなるでしょう。
いずれにしても、ハードな交渉において、最後に求められるのは結局その人の“意志”です。何としても相手との関係を『Win-Win』に持っていく気概、不可能かもしれないがやってみようという覚悟が窮地を脱するカギだと思います。 |
|