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「ハンコもらってこい、では女性は動かない」業界平均4.8倍の客単価を支えるママ支店長の後輩育成術
国を挙げて女性の活躍推進が行われている昨今、営業の現場でも優秀な営業ウーマンに注目が集まりつつある。しかし、一方で、マネジメントの観点から見たとき、女性営業をどう指導すればいいのか頭を抱えている管理職も多い。後輩の男性には通用した育成論が、女性にはまったく刺さらない。そんな難題に右往左往しているのが日本企業の現状だ。
そんな中、女性だけの営業チームで、5年連続増収、全国平均の4.8倍の客単価を誇る企業がある。
それが、東京・八王子市を中心に3拠点を展開する住宅リフォーム会社・株式会社エンラージだ。躍進を支える営業スタッフは8人。全員が女性だ。
中でも日野支店店長の小宮佑実さんは同社唯一の女性店長として活躍している。女性の営業と聞けば、男性顔負けの勝気なバリキャリ像が浮かぶかもしれない。しかし、小宮さんの朗らかな語り口、柔和な笑顔はそんなイメージとはかけ離れている。
一体、彼女はどのようなマネジメントで女性チームの売上を下支えしているのだろうか。
自然体で働ける環境で、女性は結果を出す
「たとえ営業の締め日が近づいても、私は部下に『絶対に契約取ってきて』という言い方はしません。その代わりよく話をするのが、どうすればお客さまが幸せになれるかということ。私自身も数字のためじゃなく、お客さまに喜んでもらいたくて営業をしています。ハンコもらってこいじゃ、女性は動きません。『こんなふうにしたら、お客さまは喜んでくれるんじゃないかな』というアドバイスをして送り出すだけで、お客さま先での会話がまったく変わってくるんです」
お客さまに喜んでもらいたい――。それは彼女が同社に入社した時から持ち続けている信念でもある。
美術大学を卒業した小宮さんは住まいづくりに憧れ、住宅業界へ。都内の新築分譲会社に入社し、内装・外装のデザインを手掛けていた。
転機は2010年だった。30代というキャリアの節目に立った小宮さんは、同じ会社で働いていた鈴木大介氏(現・株式会社エンラージ取締役)から引き抜きの誘いを受けた。そのとき、同社の代表取締役社長・石井誠氏が掲げていた創業の理念が「リフォームでお客さまを幸せにすること」だった。
「ビジネスなのでしかたがないとは思いつつも、それまでの会社での数字を追う、という働き方に疑問を感じていたんです。石井社長の話を聞いて、ここなら無理なく働ける、と転職を決意しました」
それ以降、その気持ちを信条に働いてきたという小宮さん。彼女は自然体で働ける環境を選んだ。そのせいか、彼女は部下の育成においても、極力ストレスを溜め込ませないように心掛けている。
「ちょっと大型の案件でも、『一緒にやってみる?』と必ず声を掛けるようにしています。人を育てるには、本人がやりたいことをやらせてあげるのが一番。『分からないことは私がしっかりフォローするから』と言って、どんどんチャンスを与えていきます」
同社のショールーム内に飾るディスプレイ小物なども季節に応じて、女性スタッフが作っているのだという。こうしたディスプレイは業務の息抜きになるだけでなく、来店客とのコミュニケーションも豊かになる効果もある。
右肩上がりの業績を支えるのは、女性ならではの共感力
女性の強みを生かし、業績を伸ばすエンラージ。営業活動の主導を女性に任せる決断をしたのは、同社社長の石井氏だった。
「石井社長が『女性が一緒にいるのと自分ひとりではお客さまの反応が全然違う』っておっしゃって。お客さまのご自宅に伺うときも、私がいるとお客さまの警戒心がぐっと和らぐんだそうです。それで設立初年度に大きく方向転換し、営業スタッフは女性をメインに切り替えました」
女性特有の柔らかな物腰は、相手への緊張を解き、安心感を与えるにはうってつけだ。同社ではショールームの来訪客に対しては必ず最初に女性スタッフが対応するなど、初期印象には特に心を配っている。
だが、これだけ女性営業が活躍する理由は、そうしたファーストインプレッションの良さだけにとどまらない。小宮さんはその強みを「生活者としての共感力」と話す。
「やっぱり住まいに関するこだわりって、家の滞在時間が長い女性の方が強いんです。私も一昨年結婚し、家を建てた一家の主婦でもあります。だから同じ主婦目線で奥さまといろんなお話ができるんです。『玄関からキッチンが遠いと買い物帰りは大変ですよね』なんて話ができるのも生活者としての実感があるから。そうした何気ない会話がお客さまの共感につながり、信頼に変わっていくんだと思います」
差別にも、優遇にも、反発したって何もメリットはない
女性の社会進出が進む現代だが、少なくない現場で、女性に対する風当たりの厳しいシチュエーションはまだまだ存在している。小宮さんも若い頃は「女性だからナメられているのかなと感じることはあった」と明かす。
アンフェアな社会で戦う後輩女性たちに、小宮さんは温かなエールを送る。
「ナメられていると感じても、あまりそこだけにとらわれすぎないでと言ってあげたいですね。変に虚勢を張る必要もないし、ましてや怯えることもない。昔の自分を振り返って思うのですが、ナメられているなって感じるときって、どこかまだ自分に自信がなかったりするんですよね。しっかり経験値を積めば、プロとしてどんなお客さまにも堂々と向き合える。だから差別や偏見を気にするのではなく、スキルを磨くことに力を注げばいいと思います」
「女性だからナメられている?」という反発と同等に付きまとう「女性だから甘やかされている?」という違和感にも、小宮さんは自然体だ。
「甘やかされているって感じるときはありますよ。でもそこに遠慮したり、意固地になったりしても、良い結果にはならないんですよね。会社にとって一番大事なのはお客さまを幸せにすること。私たち女性が仮に優遇されたとしても、それはそうした会社の大きな目標を達成するために必要な手段のひとつ。優遇されているなと感じるなら、引け目に思うんじゃなく、その分、目標達成のために貢献すればいい。だから、私がいつも考えているのは、“お客さまを幸せにすること”だけなんです」
現在、小宮さんは1児の母。保育園や祖父母の力を借りながら、営業職を続けている。スーパーウーマン的にバリバリ働く女性像ではない、等身大の姿がここにある。
「よく同じ年代の子どもを持つお母さん方から、『子育てしながら働いてすごいね』と言われることもあるんですが、私自身が大事にしているのは無理をしないことなんです。育児では祖父母や保育園にサポートしてもらっています。女性をマネジメントする時も同じで、無理をさせない、ストレスを溜め込まないような働き方をさせてあげることがいいと思います」
女性らしい共感力を武器に、部下に無理させないようにサポートをして自分のペースで成果を出させる。小宮さんのような自然体の営業マネージャーが、きっとこれからの日本の社会を盛り上げていくことだろう。
取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太
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