「売り上げ目標8割君」だった25歳・営業マンの僕が見つけたデキるビジネスマンの“絶対勝ちシナリオ”/サイバーエージェント曽山哲人氏
本特集の一人目は、サイバーエージェント取締役であり、人事統括を務める曽山哲人氏。曽山氏は新卒で入社した伊勢丹(現・三越伊勢丹ホールディングス)を1年で辞め、当時まだ社員20名の小さなベンチャー企業だったサイバーエージェントに転職し、営業として活躍したキャリアを持つ。その転職を決意したのが、ちょうど25歳の時。当時は自分のキャリアについてどんな思いを抱いていたのか、振り返ってもらった。
“モヤモヤ”から飛び出した25歳。とにかくガムシャラに働きたかった
——曽山さんは25歳の時、前職の伊勢丹から転職を決意されました。当時は自分のキャリアについて、どんな考えをお持ちでしたか。
転職前の仕事自体は楽しかったのですが、「自分はもっとやれるはずだ」という根拠のない自信と、「このままでいいのか」という焦りでとにかくモヤモヤしていましたね。百貨店業界はすでに成熟していて、ベンチャー企業のような、がむしゃらな働き方は求められていなかった一方で、若かった僕はとにかくエネルギーがあり余っていて、「思い切り働く」という経験をしてみたかった。それが25歳の頃の状況でした。
——それで結果的には、サイバーエージェントに転職する訳ですね。何が決断のきっかけになったのでしょうか。
伊勢丹でeコマース事業の立ち上げに参加したのですが、その時にインターネットビジネスの面白さに取りつかれてしまったんです。「このビジネスは必ず伸びる」と直感し、自分もネット業界で働きたい気持ちが高まっていった。その思いが募り、ついに会社を辞めて、第二新卒を募集していたサイバーエージェントに転職しました。
——当時のサイバーエージェントは、まだ無名のベンチャー企業でした。そんな会社に転職することへの不安はありませんでしたか。
いいえ、全く。それどころか、「この会社で働いたらどうなるかわからないけど、全力でやれそうだ!」としか思えませんでした。ワクワクするというより、ゾクゾクするという感じかな。「伊勢丹を辞めて社員20名の会社に転職する」と友人に話したら、みんな「曽山は頭がおかしくなった」と思ったらしいですが(笑)。
でもやりたいことをやらずに後悔するより、やってみて大失敗したり、赤っ恥をかいた方がよっぽどいい。将来どうなるか分からないベンチャー企業に飛び込むというリスクテイクをしたからこそ、今の自分があると思っています。
——転職後は、法人向けの広告営業の担当になりました。初めて経験する営業の仕事は、いかがでしたか。
転職したのは1999年ですが、インターネット市場が劇的に伸びていく時代の胎動を肌身で感じることができて、本当に良かったと思っています。
僕にとって衝撃的だったのは、あるクライアントの担当者がどんどん出世して、最後はその会社の社長になったこと。最初にお会いした時、その方は課長でしたが、ちょうどその会社がネット通販を始めるタイミングだったので、広告のご提案をしたら発注をもらえたのです。ところが広告を展開後、効果の振り返りを行った時に「全然ダメだね」とバッサリ。「広告に何十万円もかけて、売れたのはたった3件だよ」と。でも、そう言いながら顔は笑っているんですよ。
——結果が出ないのに笑顔だった? なぜでしょうか。
僕も戸惑っていたら、その方はこう言ったんです。「売れたのは3件でも、『ネット通販で商品が売れた』という実績ができた。うちの会社の歴史が変わったんだ」と。そして、「もっと工夫すれば費用対効果も上がるだろう。だから曽山さん、一緒に手伝ってください」と言われました。その後、僕が担当する間にその会社のネット通販の売上は拡大し、もともとその課長さんが非常に優秀な方だったこともあり、最終的に社長にまで上り詰めたのです。自分が営業を頑張れば、お客さまの会社が成長し、結果的にサイバーエージェントへの発注も増える。これほど面白い仕事はないと思いました。
“売上目標8割君”だった自分には、「逆算思考」が足りなかった
——やる気に満ち溢れる25歳を過ごしたとのことですが、当時やっておけばよかったと思うことはありますか。
当時は仕事に全力で取り組んでいたので、後悔していることはありません。ただ営業としては、100点満点という訳ではありませんでしたよ。売上はいつもそこそこで、“8割君”なんて呼ばれたこともあるくらいでしたから。
一方で、社内には優秀なスーパー営業マンがたくさんいます。僕が営業局長になった頃、入社から14カ月連続で売上目標を達成し続けるという偉業を成し遂げた営業マンがいました。後輩ながらすごいなと感服し、一体どうやって数字をクリアしているのかを聞いたら、「常に3つのシナリオをつくっている」と教えてくれたんです。
1つ目は、想定通りうまくいったパターン。今担当しているお客さまだけで、目標数字を達成できるシナリオです。2つ目は、一部が想定通りにいかなかったパターン。今のお客さまだけでは数字が足りない場合、穴埋めするシナリオを用意しておく。そして3つ目は、全ての想定が外れたパターン。最悪の状況になった場合に、どうリカバリーするかのシナリオも描いておく。この3つをあらかじめつくっておけば、どんな状況でも慌てず対応できて、最終的に目標を達成できるという訳です。
——“売れる営業”になるには、いくつかの戦略を事前に練っておくことが必要なのですね。
彼に限らず、優秀な営業に話を聞くと、基本的な考え方は共通しています。目指すゴールから逆算し、いつまでに何をすべきかを考え、複数のパターンを想定しておく。それを僕は「逆算思考」と呼んでいます。
それに対し、20代の頃の自分は「積み上げ思考」でした。目の前の現状だけを見て、「今より良くするにはどうすればいいか」を考える。着実な方法ではありますが、それでは常にシナリオが1つしかない。自分が“8割くん”だったのはそれが理由だと、今なら理解できます。
——ご自分を非常に冷静に分析されているのですね。売上がなかなか上がらないと、「業界の景気が悪いから」、「自社の商品の魅力がないから」などと言い訳したくなるものですが……。
もし結果が出ないのであれば、それは本人が現実を直視できていないからだということです。人間は傷つきたくないから、どうしても自分の弱点から目をそらしたくなる。でも、売上が伸びずに悩んでいるなら、周囲の人に「私はなぜ売れないのでしょうか」と逃げずに聞いてみてほしい。僕が後輩に聞いて初めて逆算思考の大切さに気づいたように、売れている人と自分との違いがきっとわかるはずです。
大躍進に必要なのは「意思表明」だ
——若手営業マンであれば、周りにいるライバルたちのことも意識せざるを得ないと思いますが、曽山さんはどうでしたか?
焦ったことはありますよ。同じ広告営業で活躍していたメンバーが、子会社の社長に次々と抜擢されたりしていましたから。僕よりあとに入社した人もいたので、当時は「なぜあの人が?」と心中穏やかではありませんでした。
当時は悔しくて素直に話せなかったので、人事本部長になった時、その人たちに話を聞きに行ったんです。「なぜ社長になれたのか、人事として参考に聞いておきたい」と。すると彼らは揃って同じことを言いました。「藤田社長に、『自分も社長になりたい』って言ったからだよ」って。
——えっ? そんな単純な理由で、社長になっていたんですか?
そう、びっくりですよね(笑)。でも、これはものすごく大事なことなんです。つまり、「意思表明をすればチャンスは増える」ということ。僕は心のどこかで「自分はこれだけ頑張っているのだから、わざわざ口に出してアピールしなくても、社長になってくれと声が掛かるだろう」と思っていた。でも、そうではなかったのです。
しかも彼らが意思表明をした時点では、藤田から「社長になりたいなら、こういう点が足りない」とダメ出しされたそうです。これは裏を返すと、「目標を達成するには、何をすればいいか」という第三者の知恵を借りられたということ。これは意思表明した人だけが得られる大きな特権です。
意思表明も、リスクテイクの1つです。「これをやりたい」と公言すれば、「まだ力不足だ」とか「君には無理だ」とか、ネガティブな反応も返ってくる。それを怖がらずにリスクを取る人だけが、インパクトのある仕事を成し遂げるものだ。人事として多くの社員を見続けた結果、今の私はそう感じています。
——曽山さんは営業から人事にキャリアチェンジし、現在は取締役として重要なポジションを担っています。ご自身は「ビジネスパーソンとしての成功」とはどんなものだとお考えですか。
今の私なら、「社会を動かすこと」と答えます。自分の手で社会を動かすような仕事ができたら、これほど素晴らしいことはない。ただ、現在25歳の人が「自分はこんな社会をつくりたい」というビジョンを描くのはなかなか難しいでしょう。
だから若手にアドバイスするとしたら、「煩悩のままにやりたいことを書き出してみよう」。「金が欲しい」でも「異性にモテたい」でも何でもいいので、カッコつけずに自分の気持ちを素直に見つめてほしい。内面から自然に湧き出す煩悩こそ、自分を動かす最大の原動力になるからです。そこからスタートして全力で仕事に取り組むうちに、いつか自分の煩悩と社会を動かすことがリンクする時が来たらベストだよね、というくらいに考えればいいと思います。
若い頃は答えが見つからず、かつての僕のようにモヤモヤしても、それは当たり前のこと。25歳のモヤモヤは、とても健全な悩みだということを、ぜひ伝えておきたいですね。
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取材・文/塚田有香 撮影/大室倫子(編集部)
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