キャリア Vol.633

“リーマン・ショック世代”の先輩はなぜ怖い? 2008&2009年入社の人を集めて理由を探ってみた

「若手のころにリーマン・ショックを経験した世代の先輩が怖い」

最近、20代が多く働く職場でこんな声を耳にした。リーマン・ショックとは、アメリカの大手証券会社リーマン・ブラザーズが2008年秋に経営破綻したことによって生じた、世界的な金融危機。現在20代前半の人にとっては中学生のころの出来事だ。

リーマン・ショックの影響は日本にも及び、当時新卒社員だった2008年入社世代と、内定前後で世の中の状況が一変した2009年入社世代の中には、辛酸を嘗めた人も多かった。10年が経った今、当時若手社員だった“リーマン・ショック世代”は30代になり、20’sから「怖い」とささやかれる存在に。なぜ、リーマン・ショック世代の先輩は怖いのか。座談会でその理由を探ってみた。

リーマンショック世代

石垣さん(仮名):2008年、Web系企業に新卒入社。約3年営業として勤めた後に転職し、昨年独立
上野さん(仮名):2009年、ネットメディアを運営する企業に新卒入社。約5年勤めたのち、金融系企業に転職
深川さん(仮名):2009年、人材系企業に新卒入社。現在入社11年目の中間管理職。

「内定は取り消さないけど、月給は2万円下がる。それが嫌なら辞めてね」

−−リーマン・ショックが起きたのは2008年の秋。2008年入社の人は入社半年後に、2009年入社の人は内定後に影響が及びました。当時どんなことがあったんでしょうか?

深川さん:私は2009年入社ですが、内定者全員、入社前に人事と個別面談をしました。「会社は厳しい状況だけど、覚悟はあるのか」と問われて。今思えば、あわよくば内定を辞退してほしかったんだろうなと思います。

上野さん:僕も2009年入社で、同じく内定者だった時に緊急の呼び出しがありました。会社の状況に関する説明会で、「内定は取り消さないけど、月給が2万円下がる。それが嫌なら辞めてね」みたいな話が人事からありました。優しいのか厳しいのか、いまだに分からないですね(笑)

深川さん:私も月給は1万円下がりました。さらに賞与も出なくて。1年目の年収は350万円程度と聞いていたのに、蓋を開けてみれば200万円台でしたね……。

−−ただでさえ少ない1年目の収入が下がるのは死活問題ですね……。2008年入社の石垣さんはいかがですか?

石垣さん:リーマン・ショックが起きた数日後、会社のセミナールームに全社員が緊急で呼び出されたんですよ。そこで「早期退職希望者を募集する。退職者には給与3カ月分を支払うし、業務時間中の転職活動もOK」って発表がありました。僕は1年目だったから、「給与3カ月分ももらえるんだ!」くらいの感じだったんですけど、周りの大人たちは青ざめていて。その時の光景は強烈に覚えています。

−−その後の社内の雰囲気はどうなってしまうのでしょう……?

石垣さん:昨日まで新卒の僕をかわいがってくれていた大人たちが急変して、リストラを推進する側とそうでない社員の間で空気がすごく悪くなりました。お互いに目も合わせないし悪口を言い合っていて。大人たちの恐ろしい内紛を目の当たりにしましたね。その後約半年経って僕は子会社に転籍したんですけど、100人くらいいるキレイなオフィスから、10人くらいの寒くてトイレが臭いオフィスに移って、物理的にも環境は大きく変わりました。

リーマンショック世代

コスト削減をして生き延びようとしている会社に営業をかける切なさ

−−2009年入社のお二人は社会人のスタートから景気が最悪だったと思いますが、入社後のしんどかった出来事について教えてください。

深川さん:周りがどんどん辞めていきました。毎週退職者がいて、隣で優しく教えてくれた先輩が1週間後にはいない。それが当たり前の日常だったから、「会社ってこんなものなのかな?」と思っていたけれど、今考えたらおぞましい状況だったと思います。

上野さん:僕はマナー研修が無駄につらかったですね。例年の業者ではなく、僕らの時だけ軍隊式だったんです。話をするときに目をそらしたり、荷物の置き方が悪かったりすると、いちいち怒鳴られる。めちゃめちゃ厳しくて、研修中はずっと責められていました。しかも配属後に「体育会系のマナー研修を受けた新卒が社風に合わない」って言われて、「あの時間は一体何だったんだ!」っていう(笑)

−−どうして上野さんの年だけ、そんな厳しいマナー研修に変更になったんですか?

上野さん:新卒に対する社内の目が厳しい中で、人事としては厳しく育てていることを示したかったみたいです。コスト削減のために派遣社員や業務委託の人を切っている時に、戦力にならない新卒が入ってくるわけじゃないですか。既存社員からすると「なぜ内定を切らなかったのか」って話なんですよね。

深川さん:当時は景気が悪くて、多くの会社が人を切っていましたよね。私はそんな中で、求人広告の新規営業をやっていたんです。人件費を削ってどうにか生き延びようとしている会社に対して、「採用しませんか?」ってアプローチをする日々は、かなりつらかった。「誰にも必要とされない、世の中に何の貢献もしていない無価値な仕事だ……」と感じてしまっていましたね。

−−周りの人はどんどん辞めるし、仕事のやりがいも見出せない。すごくキツい状況だと思うんですけど、深川さんはどうして辞めなかったんですか?

深川さん:個人的な意見ですけど、同期が続々と辞めていくのを見て、ダサいと思ったことが大きかったですね。「こんな仕事がしたかったわけじゃない」みたいなことを言うんですよ。半年もやってないのに、なんで分かったようなことを言ってるんだろうって。それに、3年は頑張るって自分で決めていたから、つらいから辞めるっていうのは違う気もしました。つらいという理由で辞めることを、自分の中で正当化できなかったんです。

リーマンショック世代

−−上野さんと石垣さんはいかがですか?

上野さん:仕事が面白かったから続けられたと思います。僕は編集希望だったんですけど、実際の配属はWebサイトの改善を行う部署で。最初は「何それ?」って思ったけど、やってみたら案外向いていたんです。まぁ、偶然ですけどね。

石垣さん:良く言えば夢を追っていたし、悪く言えば騙されていた(笑)。当時僕が扱っていたサービスは、全く前例がなかったんです。だからこそ、当たればデカかった。もともとインターネット業界に入ったのも、成り上がれるチャンスがあることが魅力的だったからなんです。まぁ、結局は売れずにサービスも潰れましたけどね。

厳しい環境で得たものは「自分の武器を身に付ける意識」と「ど根性」

−−リーマン・ショックの時代に、厳しい状況だったからこそ得たものもあるのでしょうか?

上野さん:自分のスキルや強み、専門性を意識するようになったのは、リーマン・ショックの影響が大きいと思います。いつでも転職できるように、リーマン・ショックがもう1回起こっても生き残れるように、「これが自分の武器」と言えるようにしておこうっていうのは、入社間もないころから意識していました。この感覚は同世代の傾向としてある気がしますね。

深川さん:会社はいつでも潰れるっていう意識は強くあって、だからこそ自分の力で生きていく力を身に付けなきゃいけない。こういう感覚は他の世代に比べて、リーマン・ショック世代は数倍強いと思いますね。給料や賞与をもらって、土日にしっかり休んで週5出社する生活は当たり前じゃない。キレイなことを言うと、こんな感じですね。

−−他にはいかがでしょう?

深川さん:ど根性を得ました(笑)。「こんな時に求人広告なんて出すわけないだろ!」「頭おかしいんじゃないか?」って怒られながら、それでも毎日テレアポや飛び込み営業をしていましたから。

石垣さん:僕は前例のないWebサービスを売っていたわけですが、景気が悪い中で、そんな得体の知れないものに手を出す会社はほとんどなかったんですよ。全然売れない中で、「何とかして頑張ろう!」っていう感じで踏ん張っていた。その時に培われたビジネスマインドは今も残っていると思います。

上野さん:当時は業務量が変わらない中、多くの会社がコスト削減のために派遣社員や業務委託の人を切ったから、一人一人の業務量の負担は大きかったんです。アシスタント業務をやってくれる人がいなくて、何でも自分でやっていた。そういう中で培われた根性っていうのは、僕らの世代に共通しているんじゃないかな。

石垣さん:最低限の人員しかいなかったから、夜中まで働いていたこともあったし、営業に関わることは端から端まで全部やりました。その分“修羅場力”は付いたし、幅も広がって良かったのかもしれない。ただ、自分の基準みたいなものは当時できてしまったものだから、それはあまり良くないとは思います。つい人にも厳しくなってしまうというか……。それが20代の人から「怖い」と言われる理由なんでしょうね。


後編では「20’sが抱いているリーマン・ショック世代へのイメージ」を本人たちにぶつけてみた。どうやらリーマン・ショック世代にも「変わらなきゃ」という葛藤がある……?

>>後編:「根性論が多い」「量をこなして残業するなって矛盾じゃない?」20’sの疑問を“リーマン・ショック世代”にぶつけてみた

取材・文・構成/天野夏海

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