「疲れることはしなくていい」社会を変えるのはソーシャルグッドな小さなアクション【高木新平・石山アンジュ】
AIにIoT、自動運転に宇宙旅行――。世の中の進化を感じさせるニュースはよく耳に入ってくるけれど、どうしてだろう、「社会がより良くなっていく」イメージが持てないのは。自分の足元に目を向けてみると、生きづらさはあまり解消されていないし、生活も豊かになっていく実感がない。「どうせ未来には期待できない」と、諦めモードな20代も多いかもしれない。
しかし、そんな閉塞感を打破し、ミレニアル世代の手で「より良い未来」をつくろうと奔走している人たちがいる。2018年12月に設立された一般社団法人Public Meets Innovation(PMI)の発起人、石山アンジュさんと、共同設立者であり理事の一人である高木新平さんだ。彼らはなぜ、パブリックとイノベーションをつなぐ場所を今、立ち上げたのか。
※この記事は姉妹媒体『woman type』より転載しています。
今の日本でイノベーションが起きにくい理由
――はじめに、PMIについて教えてください。
石山さん(以下、敬称略):PMIは、ミレニアル世代を中心とした官僚、政治家、弁護士などのパブリックセクター人材と、スタートアップやベンチャーの起業家や技術者などのイノベーターがフラットな立場で意見を交わし政策を議論をするためのコミュニティーです。次の50年を生きる当事者として、未来の「当たり前」を定義し、イノベーションが起こりやすい国づくりをしようとしています。
――石山さんがPMIを立ち上げたきっかけは?
石山:官民の距離が遠いことが原因となり、日本でイノベーションが起こりづらくなっていると感じていたことです。
私はクラウドワークスという会社で政府渉外を経て、2年前からシェアリングエコノミー協会という業界団体で公共政策の責任者をしています。ベンチャー企業と政府の間で、制度や法律的に課題となっているところに向き合うのが仕事です。
その中で、例えば、クラウドソーシングという新しい働き方が出てきたとき、そこに法律がなかったり、フリーランスが働きやすい環境をつくる制度が未整備だったり、シェアリングエコノミーという個人がサービスを提供するような新しいモデルには法律がまだなかったりという場面に直面しました。
その時に例えば、ベンチャー企業側は国の動きや制度についてあまり知識を持っていなかったり、一方で国も現場の情報を十分に持ち合わせていないまま、ルールが決められようとしている状況を知り、「官民に距離があるままでは、世の中はより良く進化しない」と痛感したことがこの組織の立ち上げ背景にあります。
――企業側も、政治の世界をよく理解できていないということがありますよね。
石山:そうなんです。どうやって国が法律や制度をつくるのか、知らない企業が多いと思います。お互いがお互いをよく知らないから、問題が余計に大きくなってしまう。
高木さん(以下、敬称略):だからこそ、官民をつなぐ場所が必要。そして、特定の問題をばりばり解決していく場ではなく、もっと漠然と、「こんな未来がくるといいよね」とか、「今の社会のこういうところが変だよね」みたいな感じで、自由に希望や違和感を議論し合う場所がこれまではなかったので、PMIではそういうことをやっていこうとしています。
理想の社会をどうつくるか、「希望」から逆算して考える
――具体的に、PMIではどのような活動を行っているのですか?
石山:月に1回、「政策Meet up」という議論の場を設けて、「アグリテック」「モビリティー」「フィンテック」など、さまざまなテーマでディスカッションをしています。テクノロジーが発展してさまざまな理想が叶う社会を想像し、どうすればそこに向かっていけるのか、何をすればいいのか、逆算しながら考えていきます。
――特に印象的だったディスカッションは?
石山:最近「アグリテック」についてディスカッションした時、「牛乳の生産量を維持するための莫大なコストをどう維持すればいいか」という議論になったんです。牛乳の生産には、広大な土地に充分な労働力、それらを維持する費用が必要ですが、結局、さまざまな理由から牛乳は大量廃棄され続けていると。
そこに対して、「バイオ」の実用化に取り組んでいるスタートアップ企業の20代社長が、「そもそも、僕らは“本物の牛乳”を飲み続ける必要があるんですか?」と話し出したんです。アメリカではすでに、本物の牛乳を飲んでいるのは少数、多くの人は人工の乳飲料を飲んでいたりする。そう考えると、今の水準で牛乳を生産し続ける必要性があるのか? と考えたわけです。私もそれではっとしました。
高木:官僚は本来、「未来をつくる」のが仕事。本当は彼らだって未来志向でありたいと思っているはずなんですが、慣習やしがらみに足を引っ張られてそれができないでいる。PMIに参加してくれているミレニアル世代の官僚には、「それだけじゃダメだ」と思っている人たちがいっぱいて、こうした場で「しがらみをすっ飛ばしたアイデアに接すると、刺激を受ける」と言ってくれます。
ミレニアル世代は「社会は不完全なもの」だと気付いている
――PMIの活動を通じ、お二人は「理想の未来」について常に考えていると思いますが、現状の課題については特にどんなことが気になっていますか?
石山:今は、分からないことだらけの時代。これからこの国がどうなるかは誰にも分からないし、何を前提として生きていけばいいのかも分からない。ひと昔前なら、「企業で働くこと」や「結婚して子どもを持つこと」で得られた安心感も、まったくないに等しい。どうすれば幸せになれるのか、今の日本では一人一人が模索しながら生きていく難しさがあると思うんです。
また、私たちミレ二アル世代は、“社会が不完全である”ということに気付いてしまった世代。「大人」も「会社」も「政治」も、完璧じゃない。何かを期待して待っていても幸せにはなれないし、豊かな暮らしはできないって分かっている。だから、身近なところでおかしいって思ったことには声をあげていかないといけないなって思います。
――お二人は、“ミレニアル世代だからこそ”起こせるイノベーションがあると思われますか?
石山:もちろん。私たちの世代は、「過去の成功を引きずっていない」ところが強み。“過去の栄光”がないからこそゼロベースで物事を考えられるので、「そもそも幸せって何だっけ」ということを全く新しい角度から定義できる。そして、そこから新しいイノベーションを生み出せるはずです。
高木:頻繁に海外の情報やコンテンツに触れていることもミレニアル世代の強みだと思っています。日常的にSNSを使っていると、普通に国外の情報も入ってきますから日本の状況を俯瞰的に見ることも得意なんじゃないでしょうか。
あと、今どきはテレビのリモコンに『Netflix』のボタンがついていたりするじゃないですか。海外発のコンテンツに触れることで自分に無かった感覚を取り入れることもできるから、「当たり前」を疑う目は育ちやすいと思う。
――「常識を疑う」目は既に持っていて、前例に縛られないフレキシビリティーがあるのが強みということですね。逆に、苦手なことは?
石山:先ほどSNSというキーワードが出ましたが、ミレニアル世代は近しい世代同士でコミュニティーをつくって横のつながりを持つのは得意だと思うんです。一方で、似た者同士で世界を閉じてしまいがち。「分かる人たちだけで分かり合えれば」といった感じで、まったく価値観が一致しないような他の世代とつながるのは苦手かもしれません。
高木:「変わらないものは変わらない」って、何かする前に諦めちゃう人は多いかもね。自分が何かアクションを起こせば社会は変わるという実感が、いまいち持ちづらいからかもしれない。
ソーシャルグッドなアクションは誰にでもできる
――「社会がより良くなれば」と思っていても、自分にできることと言えば「選挙に行く」くらいで、その他は具体的なアクションを起こすことは難しいと感じてしまいます。
高木:働き盛りのミレニアル世代が社会問題解決のためにプライベートで動く時間を確保するなんて、普通は相当ハードル高いですよ。週末デモに参加するっていうのも、気が進まないし。過激なのとか、無駄に疲れるのは嫌ですしね。そこまでしたところで何か変わるの? って思って当然だと思います。僕なんて、会社員になるまでは、選挙にすら行ったことがありませんでしたし。
――高木さんが行動を起こせるようになったきっかけは?
高木:ネット選挙解禁の時にやったSNSキャンペーンがきっかけですね。運良く政治家まで自分たちの意見が届いて、世の中が「変わった」と実感できたんですよ。
石山:実感は大事ですね。一度自分で経験してみないと、「これって本当に意味があるの?」という疑いはずっと消えない。そして、「社会をより良く」とか聞くとすごく大きなことのように思えるかもしれませんが、もっと身近なところでできる小さなアクションから始めて、自分の行動によって起こった「変化」を感じていくのもいいんじゃないでしょうか?
―とういうと?
高木:妊婦さんが目の前にいたから席を譲ったら感謝された、とか。家の花壇に花を植えたら、道行く人がちょっと笑顔になった、とか。そんなことでもいいんじゃないかな? 誰かが嬉しいと思うことをコツコツやっていくっていうのが、本当の第一歩じゃないかと思うんだけど、どうだろう?
石山:そう思います。ミレニアル世代には、そういう「ソーシャルグッド」な視点で物事を考えたり、行動できる人が多いはず。震災を経験しているので、「助け合い」がいかに大事か、意味を成すのか、よく知っていますしね。
高木:世の中にはいろいろな苦しみやつらさがあるっていうことを、自分の身を持って体験するっていうことも、すごく大事だと思います。僕がこうやって社会についていろいろと考えるきっかけになった経験は、二つあって、一時期ニートになったことと、子どもができたことなんです。そこから、これまでに見えなかった世界が鮮明に見えるようになりました。「こんなのおかしい」「社会を変えたい」と思うことが増えたのも、立場が変わってからのことでした。
――20代でお子さんができて見えた景色とは?
高木:「バリアフリー」って概念は知っていたけど、独身時代はそれほど重要とは思っていなかった。でも、いざベビーカーで街を歩くとそれはもう大変で。電車に乗りたくても、通路が狭くて通れないとか、エレベーターがなくてホームに上がれないとか、しょっちゅうあります。すると、介護でも同じ問題が発生するよな、とか、災害のときはどうなってしまうのか、とか、いろいろ考えるようになって。親になったからこそ分かったことですね。
石山:そういう、自分が困った経験をSNSで発信したり、ブログに書いてみたりするのも「社会を変える」一つの手。共感してくれる人が現れて、それがいつの間にかムーヴメントとなって政治の場で議論されることだってあるはず。昨年の「#Me Too」などがいい例ですね。
高木:僕は、今政府が推進している「女性活躍」についても一言物申したいことがあるんですが、言っていいですか(笑)?
石山:もちろん!
高木:二人目の子どもができた時、僕の妻が切迫早産になったんですよ。それで、一時期、上の子を連れて仕事に行かなきゃいけないことになって。それはもう大変でした。その時、今の女性活躍のやり方はおかしいと思うようになった。
将来的に科学が発達したらどうなるかは分からないけど、現状、子どもを産めるのは女性しかいないわけじゃないですか。なのに、女性に「働け働け」って言うばっかりなのって、何か変じゃないですか? それより必要なのは、「男性の家庭進出」だし、「男性の育休義務化」だろ、と。1週間くらいちょろっと休暇とってみました、みたいなのじゃなくてね。
石山:子どもの有無に関わらず、こういう問題の「芽」はすぐ側に落ちているものですよね。まずは身近な人とその「芽」について思ったことを議論してみるとか、ネットで発信してみるとか、問題を言葉にするところから始めてみるといいですよね。そういう小さなアクションがたくさん集まって、社会は変わっていく。私はそう信じています。
取材・文/石川 香苗子 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER) 企画・編集/栗原千明(編集部)
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