キャリア Vol.808

「今の25歳は‟社会のお荷物”になる可能性も」大手が中途採用を本格化した先に、20代に待ち受けている現実

先輩のアドバイス、それってホント?
大手各社が中途社員を積極的に採用し、トップカンパニーが次々に「終身雇用の限界」を明言し始めた2019年。「新卒で入社した1社で一生働く」というこれまでの常識が、名実ともに崩壊しつつある。転職のカタチも一層変わっていくはずだ。そこでさまざまな見地から、今まさに20代がアップデートしておくべき「転職の新常識」を探ってみた!

今、大手企業の中途採用市場が、大きな変革期へとさしかかっている。2019年11月にトヨタ自動車が「採用の5割を中途から採る」と方針を固めたと発表し、同社代表の豊田章男さんは「終身雇用を守っていくのは難しい」と明言した。

トヨタ自動車同様、今までは新卒入社で下からキャリアを積み上げていくのが当たり前とされていた大手企業も、続々と中途採用を強化していく動きを見せている。

数年前から「終身雇用がなくなり、年功序列は崩壊する」とは言われていたけれど、いよいよ本格的に日本のキャリアの根幹にあったものが崩れてきたということだろう。

ではこれまで当たり前とされてきたこれらの仕組みが崩れたら、改めて今の20代にはどんな影響があるのか。組織人事コンサルタントとして30年近くさまざまな企業の人事・採用を見てきた株式会社人材研究所の曽和利光さんに話を聞いた。

人材研究所

株式会社人材研究所 代表取締役社長 曽和利光さん

組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。2011年に株式会社人材研究所を設立し、人々の可能性を開花させる場や組織をつくるために、大企業から中小・ベンチャー企業まで幅広い顧客に対して諸事業を展開中。著書に『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』(ソシム)『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)ほか

深刻な‟最適な人材”不足で、即戦力を渇望する大手企業

2008年のリーマンショックをきっかけに一度は落ち込んだ企業の中途採用活動は、2009〜2010年を底に活況を取り戻し、年を追うごとに求人数は右肩上がりに増えている。この傾向は東京オリンピックや大阪万博が終わった後も10~20年は続くだろうと、曽和さんは話す。

「中途採用が大きく盛り上がっているのは、もはや景気だけがその要因ではありません。世界最悪のペースで少子化が進んでいる日本では、これから先、人口構造が変わって圧倒的に若手が少なくなっていく。すると新卒が採用しにくくなるので、企業はどんどん中途採用に頼るようになっていくのです」

それに加えて、年々簡単な仕事はテクノロジーに置き換わり、人に求められるのは専門性や難易度の高い仕事になってきた。

「例えば営業の仕事を見てみると、“昔ながら”の根性や忍耐力だけでは成果に繋がらない時代になりました。テクノロジーを用いて『賢く、効率的に』が今の仕事のキーワード。その結果、仕事の専門職化が進み、分業化が起こっています。その結果、『対象となる専門性を持った人材がいない』という事態が起こっているのです」

これから慢性的な人手不足が続くことが予想される中、企業は採用の対象年齢を広げ、優秀な人材には中途採用でアプローチしようと考えている。その背景には企業の「育成能力の減退と、即戦力の渇望」があると曽和さんはいう。

「かつて企業は新卒で総合職を採用して、10年掛けて一人前のビジネスパーソンに育てていました。ところが、時代は変わり大手企業もベンチャー企業のように『短期間で売り上げを上げろ』と要請されるようになっています。長期的に人材を育成するこれまでのシステムが通用しなくなり、すぐ結果を出せる即戦力が求められるようになりました」

ところが新規ビジネスを立ち上げても、社内に即戦力となる最適な人材がいない。それはかつての就職氷河期に採用を限りなく絞ってきたことにも一因がある。

「そこで企業は社外に目を向けるようになりました。大手企業が求めているのは、中小企業やベンチャー企業で、数多くの判断経験を積んできた人。主体的かつ自律的に仕事ができ、2~3人など小規模でもいいのでリーダー経験がある人です。社内で何か新しい業務を立ち上げたことのある人はなお評価が高いでしょう」

以前のように海外でMBAを取ったり、大手企業で輝かしい成果を上げたりといったいわゆる“キラキラ人材”である必要はない。企業は、自社では育てられない、現場の中核を担う人材を欲しているのだ。

20代は「ただ仕事をするだけではスキルが磨かれない」状況にある

人材研究所

では今後、企業がより一層即戦力採用を強化するようになったとき、20代のキャリア形成にはどのような影響が出てくるのだろうか。

「これまでの個人のキャリアは、会社の安定性や永続性を重視するいわゆる『就社』が一般的でした。しかし今の状況が続けば、かつて日本企業で伝統的に行われてきた『総合職採用』は姿を消し、求職者側が一緒に働きたい上司やミッションを選ぶ『プロジェクト別採用』へ移行していくことが考えられます。つまり今後、20代は自分がより成長できる環境を求めて会社を選ぶ必要があるのです」

つまり、成長できる職場や環境を主体的に選んで、自らスキルを上げ続ける努力をしなければ、企業が求める「即戦力」が磨かれることはないということだ。

「これまでは、企業が半ば強制的に残業させたり、ハードな仕事を押し付けたりすることで、ある意味強引に個人の能力開発を行ってきました。つまり上の世代は、ある程度会社の言う通りに働いていれば、自然とスキル開発ができていたんです。

しかしこれからは先ほどお伝えした通り、企業の育成力は下がり、手厚い研修や先輩の指導もなくなる。『ただ仕事をしていればスキルが磨かれるわけではなくなっていく』。これが今の20代が置かれている状況です」

またこれからは、「20代の若手と30~40代の中堅で同じポジションを争うこともあるだろう」と続ける。

「これまでであれば『世代のバランスを考えて2つポジションを用意しよう』と考えていたところを、『このポジションなら採用枠は1つでいい』と合理的に考える動きも広まっています。もちろん20代と30~40代で採用基準は異なりますが、これまでほど若手であることが有利にはならなくなるでしょう」

さらに「多くの企業は『求める人材のハードルを下げてまで採用しない』と覚悟を決めている」という。

「特に大手企業は、バブルの時代に『人数がそろえばいい』と大量採用したことへの強い反省があります。会社への適性を軽視して採用した人材が、今になって負債となっている。だからこそ、企業は採用に対して慎重になっているのです。成果を上げられない人材は、会社にとってコストですから」

今の25歳は、社会のお荷物になるかもしれない?

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これまでの話から見えてきたのは、いくら売り手市場だと言われていても安心はできないということ。企業が転職市場に良い人材がいないと判断すれば、「人間を採用すること自体を諦めてしまうかもしれない」と、曽和さんは将来起こりうることへ警鐘を鳴らす。

「採用に取り組んでも優秀な人材に出会えないと分かれば、企業は従来の人材採用を取りやめるようになっていくでしょう。例えば、今25歳の人が30代半ばになる頃には、RPAなどのロボットによるタスク処理や、BPOなどの外部委託、外国人採用など、日本人以外の戦力で人材不足を賄うようになります」

そしてその日は、今の20代が30代になった頃に訪れる可能性が高い。働き盛りの30代で良いキャリアを歩むために、どのような観点で日々の仕事に臨めばいいのだろうか。

「繰り返しになりますが、自ら成長できる環境に身を置くことが大前提。そして一つのスキルが身に付くまで諦めずに能力を磨いた方がいいですね。企業が人材育成に力を入れなくなった今、20代の皆さんは自主的にスキルを磨き続ける意識を持つことが大事です。そうしなければ、あらゆるスキルが中途半端なまま30~40代を迎えてしまい、どこへ行っても通用しない人材になってしまう可能性があります」

およそ10年後、現在25歳前後の若手は「働き方改革第一世代」とラベルを付けられ、企業や社会のお荷物になってしまう可能性さえあると曽和さんは言う。

「何か能力を身に付けたいなら、その作業が無意識レベルでできるようになるまで、ある程度は繰り返し鍛錬する必要があります。でも、働き方改革の真っただ中で入社してきた今の20代は、『仕事が終わってなくても残業はするな』『業務を詰め込み過ぎるな』と言われ、仕事が制限される環境で育っている。

決して残業した方が成長できるという意味ではなく、企業側が仕事の配分やバランスを手探りしているなかで育成されてきた人材ということです。上の世代は企業に専門性をむりやり身に付けられているし、下の世代になればきっと効率的にスキルを身に付ける育成法が確立されているはず。そのはざまにいる今の25歳くらいの人たちが今後、『働き方改革第一世代は使えない』と括られてしまう可能性があるわけです」

大企業から中小企業までさまざまな組織の人事・採用の現実を見てきた曽和さんは、「そうならないために、目の前の仕事から逃げずにスキルを身に付けるべきだ」と諭してくれた。

「これだけ転職しやすい時代ですから、つらいことがあったら仕事を辞めたくなる人も多いでしょう。しかし実はそういうときこそ、自分の強みが身に付く一歩前の良い合図。それを乗り越えることで、自分にとっての『強み』が磨かれ、転職市場ではさらに有利に働くはずです」

日本のキャリア形成の根底にあった「終身雇用」がなくなりつつある今、20代は主体的に自分のスキル・強みを磨くことが一層求められているのだ。

取材・文/石川 香苗子 撮影/大室倫子(編集部)

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