キャリア Vol.809

「変な若者が生まれ過ぎ」幻冬舎・箕輪厚介に20代のいい断り方を聞いたら“普通の話”が返ってきた

仕事のYES/NOボーダーラインを探れ!
働き方改革が進み、「効率よく働くこと」が推奨されるようになってきた。とはいえ、会社の中にはまだまだ「これって本当に必要?」と言いたくなるような仕事、慣習も残っているのでは?「無駄なことはしたくない」、それが20代の本音だけど、先輩たちはそうとも思っていないみたい……? 断っていい仕事、だめな仕事、どうやって見極めるべきなのか、さまざまな大人たちに聞いてみた

幻冬舎の編集者・箕輪厚介さんの著書『死ぬこと以外かすり傷』の中には、次のように書いてある。

「お前がやる意味ないと思っているのならここが別れ道だ。意味がないことを知りながら上司のために仕事をすることは真面目でも何でもない。むしろ不真面目だ。代案を考えて『意味ない』と言ってこい。疑問に思ったことを飲み込んで、言われた通りに仕事する。そんな無難な道を3回歩いたら二度とこっちに戻ってこれなくなるぞ」(『死ぬこと以外かすり傷』P41より引用)

今回の取材のテーマは「20代のいい断り方」。

てっきり「意味がない仕事は全部断れ」なんて答えが返ってくるかと思いきや、箕輪さんの口から出たのは至極まっとうな話。“型破り”なイメージが強い箕輪さんが今あえて、“普通の話”をする真意とは……?

箕輪厚介

幻冬舎・編集者
箕輪厚介さん

1985年生まれ。東京都出身。2010年双葉社に入社。ファッション雑誌の広告営業として4年間、タイアップや商品開発、イベントなどを企画運営。『ネオヒルズジャパン』与沢翼 創刊。14年から編集部に異動し『たった一人の熱狂』見城徹/『逆転の仕事論』堀江貴文/『空気を読んではいけない』青木真也 などを手掛ける。15年7月に幻冬舎に入社。『多動力』堀江貴文/『ブランド人になれ!』田端信太郎/『メモの魔力 The Magic of Memos』前田 裕二/『ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力』塩田 元規などの書籍編集を手掛け、ヒットメーカーとして活躍。18年1月末に設立した株式会社CAMPFIREと株式会社幻冬舎の共同出資会社、株式会社エクソダス取締役に就任。アーティスト「箕輪☆狂介」の出版プロデューサー
◆Twitter:@minowanowa
◆オンラインサロン:箕輪編集室
◆個人HP:波の上商店

実力がないうちは「断る/断らない」なんて次元にいない

今の僕は、先輩や上司からの依頼を断ることもありますし、意味がないと思えば言います。もちろん、生意気には言わないですよ?「すっごい分かるんですけど~」みたいな、可愛い気は出した上で指摘する(笑)

ただ、それは僕がこれまでに積み上げてきたものがあるからで、20代の子が同じことをするのはどうかなと思うし、依頼された仕事を「意味がない」って自分で判断して切り捨てるのはめちゃめちゃもったいない。

僕だって、20代の頃は仕事を断ったことなんてないです。自分の立場と実力を踏まえて、電話番したり、パワポで資料作ったり、すごく苦手な請求書の処理や経費清算だって先輩たちの分を全部代わりにやったりしてました。

箕輪厚介

「俺にもそんな時代があったなぁ」という顔をする箕輪さん(34歳)

そもそも実力がないうちは、「断る/断らない」なんて次元にいないんです。

僕やホリエモンが「やりたいことをやれ」みたいな論調をつくっていて、それはそれで真実ではあるんですけど、最初は「やるべきこと」をやるしかない。まあホリエモンみたいに最初から実力があれば、関係ないですが、僕は何もできなかったから。

僕が初編集にして編集長を務めた雑誌『ネオヒルズジャパン』を作っていた時だって、それ以外の細かい仕事も死ぬほどやってました。部署内の下っ端として皆がやらないような雑務をめちゃくちゃやりながら、同時に雑誌の仕事は何から何まで全部自分でやって

苦手な事務作業なんて本当に大変だったし、大したスキルも磨かれなかったと思います。ただ、当時はチームの中でそれぐらいしかできることがなかったから、そうせざるを得なかったってだけ。何もできないくせに偉そうなことだけ言っても痛い奴じゃないですか。

いつだってブレイクする前は、人の4倍ぐらいの業務量になるんですよ。与えられた仕事と同時に自分のやりたいことをやろうとしたら、大体そのくらいの業務量になります。

でもそれを突破することによって、その他大勢とは違うところに行けるんです。

「自分の取扱説明書」書いてる若手、お前は宮崎駿か?

20代なんて失うブランドも何もないんだから、いろんなことをやりまくって「これ好きじゃないわ」「これは合わないわ」っていうのを知った方がいい。少なくとも仕事はいろんなことをやった方がいいと思います。

大した実績も残してない奴が「自分の取扱説明書」みたいなものをnoteやTwitterに書いて、「こういう仕事はお受けしていません」って制限かけてるのをたまに見ますけど、こりゃスケールしないなって思いますよ。何を勘違いしてんだ、お前は宮崎駿かよって(笑)

箕輪厚介

それこそ、たなかくん(元ぼくのりりっくのぼうよみ)みたいに、何やっても才能があってオファーが来まくる人はそういうことはやんなきゃいけない。でも、まじで大したことない人が地区予選みたいなレベルでプロ選手みたいな顔してますね。まあ、いいんだけど。

好きな人と仕事して好きな案件ばっかりやってると、得意だから回せるようにはなるんですよ。でも、そこにたどり着く道の途中には、無駄な不純物みたいなものがあったはずで。

小学生の時の友達とのケンカとか、就活の失敗とか、大学時代の一人旅とか、いろんなものがあって今の自分が形成されてるのに、そういう事実を忘れて「今の自分」を守ろうとすると、今の自分をつくったような経験はもう積めないじゃないですか。それはもう、維持と見せかけた退化ですよ。

僕だって、この先は断ることもしようって思っているけど、それでもやっぱりたまにはクソみたいな企画もやんなきゃなって思う。そのくらい、無駄をやるって大事。それが何かこう、灰汁っていうか、雑味みたいなものになる気がするんですよね。

編集者は自分の全ての経験が引き出しになる仕事なので特殊かもしれないですけど、他のビジネスパーソンも結局は同じだと思うんです。単純作業やマニュアル仕事はAIに代替されると言われるこれからの世の中で、その人の人間的な魅力の重要性が増していく

最終的には「1時間話してどれだけ面白いか」みたいなことに集約される気がして。その時にダルビッシュさんくらいのレベルで野球の話ができればめちゃめちゃ楽しいんだけど、そこら辺の営業とかライターが中途半端なその道の話しかできないとなると、もういいよって思う。

そういう意味でも自分の幅を狭めるようなことはしない方がいいですよね。常に「自分の知らない世界にもっと面白いものがあるんじゃないか」っていうアンテナは立てておかないと。

「良い企画ですね!」と嘘をつき、「クソだな」の本音は忘れるな

石野卓球さん(@TakkyuIshino)の言葉に、「自分に嘘をつくぐらいなら他人に嘘をつけ」っていうのがあって。僕、超好きなんですよ。それ真実だなと思って。

クソみたいな仕事が来て、でも自分が新人で、今はこの会社である程度信頼されなきゃいけない時期だと判断した時に、「めっちゃ良い企画ですね!僕にやらせてください!」って嘘はアリだと思うんです。その矛盾は、若い時はしょうがない。

箕輪厚介

でも、それを自分の本心だと思ったら終わり。人の意見に合わせてると、それがいつの間にか本当に自分の意見のようになって、結果として自分がいなくなっちゃう。「死んだ目のサラリーマン」って言われる人たちは、自分の心の声がなくなっちゃってるんですよね。

だから、「クソ企画だわ」って本音を自分にはちゃんと言うこと。そのうち実力が付いて影響力が増せば、「その企画クソつまんないですよ」って言ってもおかしくない立場になれます。

同時に仕事の良し悪しを見極める目を養うためには、「こういう人いいな」ってロールモデルを3人ぐらい持つこと。僕が幻冬舎に転職した頃は、それこそ『20’s type』を今読んでいる人と同じような状態だったんですよ。

俺、どういう人になりたいんだっけ? っていう。

だから、見城徹みたいなキラーコンテンツを作れる編集者だったり、秋元康さんや鈴木おさむさんみたいな縦横無尽にいろんな企画ができる人だったり、そういう人をふわっとイメージしてました。

そして、具体的な目標を3つ持って紙に書くこと。幻冬舎に入った時は、

・真っ当な編集者として30万部以上売れる本を作る
・幻冬舎×ネット企業でいろんな企画をする
・箕輪って名前で幻冬舎関係なく活躍する

っていうのを書いて目標にしてましたね。

そして、どんな小さな仕事でも「今の仕事はこの3つの目標のどれに該当するか」を常に何となく意識する。時々ロールモデルを頭に浮かべて、そういう方向にざっくりとでも進んでるかなって思い返したりもしてました。

「断らない」ことにすら「企み」を持て

結局、「断る/断らない」に正解はないんですよ。どっちでもいいんです。自分の頭で考えて、自分の中で筋を通せばいいだけ。「これは俺が断る/断らないと決めた」ことが大事なんです。

つまりは「断らない」っていうことにすらも「企みを持つ」ってこと。

箕輪厚介

与えられる仕事は思考停止になりがちだけど、それをただ「やだな~」「俺社畜だわ」とか思いながら淡々とこなしてたら、そりゃダメでしょうよ。本当に何の意味もない。「何も身に付かないけど、新人の初期段階として必要なコストだから払おう」くらいのことは意識すべきだと思います。

例えば、「プロフィールチェックの依頼が局から来たのでこの内容でOKしておきました」って下の子からメッセが送られてきて。僕はあんまり内容を見ずに全部「いいね」のスタンプで返すんですけど、いざ番組でプロフィールが紹介されたら、代表編集本が5年前の本になってたんです。

それってもう、完全にやらされ仕事というか。僕もOK出してるから責めないし、何も言わないけど、そうなっちゃダメですよね。たとえ雑用みたいな仕事であっても、何のためにやるのかを考え自分で企みを持ってやらないと。

局からもらったプロフィールが古かったなら、「2019年一番売れてるビジネス書『メモの魔力』担当編集者」って一言を加える。プロフィールの枠を使って『メモの魔力』の宣伝をしようと考えるだけで、そいつは仕事ができる奴になれるんですよ。

炎上しそうな発言なのは承知してますけど、例えば「薬物は悪いものだから悪いんです」っていうのは思考停止な発想で。ルールはその時代の多くの人の合意形成でなされてるもので、歴史をさかのぼれば人殺しもオッケーだった時代もあるわけですよね。

これって何でダメなんだっけ?」っていうのはその都度考えた方がいい。ルールにただ従ってるだけの人じゃ、価値は生み出しにくいんですよ。なぜなら価値って希少性だから

ダイヤモンドが高価なのはキレイだからじゃなくて数が少ないからで、同じように、大多数の空気や「こうすべき」に惑わされず、自分の頭で考えてオリジナルな行動をすることに価値が生まれるんだと思います。

だから、「大室先生が断るなって言ってた」「箕輪さんが断れって言ってた」じゃなくて、「なるほど、じゃあ自分だったらどうしようか」って考えるのが大事ですよね。

何だかもう、変な若者が生まれ過ぎ

最近はこんなまともな、普通のことしか言わなくなっちゃった。何かもう、変な若者が生まれ過ぎてるんですよ。

今の僕は幻冬舎に入った当時の僕が憧れていたような働き方ができているし、20代の子たちからすれば「楽しそうにしてるな」って見えてるとは思うんですよ。

でも、実際はあんまりやりたいこともないし、迷子なんですけどねむしろ何もやりたくない(笑)

箕輪厚介

強いて言えば、もうちょっと痩せたいかな~。あと、もうちょっとフットサル上手くなりたいかな」と、全然型破りじゃない欲望を語る箕輪さん

まぁそんなことはさておき、僕みたいになりたい奴の気持ちはすごい分かるんです。

でも、僕と価値観が違う奴が僕と同じように行動したって、痛い奴になるだけ。それなのにTwitterでケンカしたり型破りな企画やったりする奴って、見ててつらいんですよ。

勘違いも多くて、『多動力』って本を出したら「3日連続1日でバイト辞めました!」とか、『ハートドリブン』を読んだら「数字とか興味ないんでハートで動きます!」とか若い子たちから言われちゃって。いや、そういうことじゃないだろって何回も言ってるんですけどね……。

この前、箕輪編集室でメンバーへの還元企画をやろうと思ったんですよ。「一生に一度のお願いを書いてください。僕が一人の願いをかなえます」って書いたら、異常な勢いでコメントが来て。

で、翌日に僕が書いたのが、「全部てめぇでやれ」っていう返事(笑)

自分で言い出したくせに、何だよって感じなのは分かってるんですけどね。「箕輪へのお願いごと」を見たら、今すぐ自分でできるじゃんってものばっかりだったんですよ。

結果的に、僕が生み出してしまった“インスタントに人生変えたい奴ら”に、自分で説教するっていう謎のプレイになりました(笑)

僕はいつも誤解されがちなんですけど、基本的に真っ当なことを言っているはずなんです。でも、やっぱり即時性があってキャッチーなことにだけみんなが食いついてしまう。さっきも言いましたけど、インスタントに人生変えたいからなんでしょうね。でも、そんなの無理。「断る/断らない」の話もそうですけど、そんなものはないんです。

繰り返しになるけど、どんなことでもスタートが自分で決めたことであれば、結果は何でもいい。自分の頭で考える癖さえ付いていれば、間違えたってもう一回考え直せばいいだけ。何事も「自分以外の誰かが決定権を持ってる」って思った瞬間に心が死んでいきます。自分が人生のハンドルを握ってなきゃダメですよ。

取材・文/天野夏海 撮影/栗原千明(編集部)

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