キャリア Vol.961

【宮藤官九郎×TBS磯山晶】 限界を決めない男・長瀬智也の凄さを語る 「一緒に働くと、心地いい」

『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』『ごめんね、青春!』など数々のヒットドラマを世に送り出してきた脚本家の宮藤官九郎さんと、TBSの磯山晶プロデューサー。

2021年1月、二人が4年ぶりにタッグを組んだ長瀬智也さん主演の金曜ドラマ『俺の家の話』が始まる。

俺の家の話

長瀬さんが宮藤さん脚本のドラマに主演するのは、『うぬぼれ刑事』以来11年ぶり。

能の家元を舞台に、プロレスラーとして活躍する長瀬さん演じる長男が、25年ぶりに実家へ戻り、父親の介護をしながら能楽師を継ぐホームコメディーだ。

久しぶりにタッグを組んだ二人は、本作の撮影を経て「かっこいい大人って、長瀬くんみたいな人ですよね」と絶賛。長瀬智也の「プロの仕事ぶり」に改めて感嘆したという。

エンタメの世界で長く仕事を続けてきた二人が考える、“いい仕事”を生む秘訣とは? お二人らしく、笑いを交えて話していただいた。

俺の家の話 脚本家 宮藤官九郎

脚本家 宮藤官九郎(写真右)
1991年より大人計画に参加。脚本家として2001年映画『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞他多数の脚本賞を受賞。その後、テレビドラマ『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』『あまちゃん』『いだてん〜東京オリムピック噺〜』など話題作の脚本を手掛ける。 05年『真夜中の弥次さん喜多さん』で長編映画監督デビュー。その他、俳優としてドラマ『カルテット』映画『幼な子われらに生まれ』などにも出演。パンクコントバンド「グループ魂」では“暴動”の名でギターを担当

チーフプロデューサー 磯山晶(写真左)
東京都生まれ。1990年上智大学文学部新聞学科卒業後、株式会社東京放送(現TBSテレビ)入社。『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)、『木更津キャッツアイ』(2002年)『タイガー&ドラゴン』(2005年)『空飛ぶ広報室』(2013年)『ごめんね青春!』(2014年) など数多くのテレビドラマをプロデュース。2016年からは編成部に所属し、現在はTBSスパークルチーフプロデューサー。宮藤官九郎氏とは『監獄のお姫さま』以来のタッグとなる

病気、出産、介護……ライフイベントは特別なことじゃない

――お二人は20代の頃って、どんな風に仕事をしていたんですか?

宮藤:僕は大学2年生の時に「大人計画」に入って、演出助手をしたり(主宰の)松尾スズキさんのアシスタントとして脚本を書いたりして、20代半ばくらいから何となーく食えるようになった感じです。

磯山:私は新卒でTBSに入ってテレビドラマのADをしていたんですけど、当時はADの仕事があまりにハードだったので、病気になって一回ダウンしてしまいました。「ADはもう辞めて、漫画家になろう」と考えていた時期もありましたね。

宮藤:ADから漫画家っていうのがまたすごいですね(笑)

磯山:高校の時に美術部に所属していたんですが、漫画を描いて賞を獲ったことがあったんですよ。だから、いけるかなと思って漫画賞に応募したら通って、単行本にもなって。その後、自分でドラマにもしました。

宮藤:そういえば、『木更津キャッツアイ』のマスコットキャラクターの猫も、磯山さんが描いたんでしたよね。

――そこからお二人は長く一緒に仕事をされてきましたが、お互いに変わったこと、変わっていないことって、ありますか?

磯山:宮藤さんが『池袋ウエストゲートパーク』を書いた時は、29歳でしたよね。あの頃から宮藤さんは、見た目も、仕事をする姿勢も何も変わってない。

宮藤:そうですか(笑)? 磯山さんは何か変わりました?

磯山:この5年の間に両親を相次いで看取ったことは大きかったですね。やっぱり介護しているときは、「この大変さはいつ終わるんだろう?」と思ってしまうんです。

でも、それが終わるのは「親が死ぬ時」なんだと気付く、そういうのがすごいドラマチックだなと。身近な中にある一番ドラマチックな出来事は親の生き死にや余命だった。

精神的に辛い時は、「これは『劇団親孝行』の公演だ、明るく演じよう」と思ってやっていました。そんな風に考えないとやってられないというのもあって、そういうのをドラマとして描けたら面白いなと思いました。

宮藤:20代の頃は、自分のことだけ、仕事のことだけ考えていればよかったですけど、30代になったら子育てが始まり、40代、50代になったら親の介護が始まる。僕の周りでも、介護に直面している人が増えてきました。

長瀬くん演じる観山も、父親の介護を理由に家に戻るわけですが、今回の台本を読んだ方たちから「分かる、分かる」っていう共感の声をいっぱいもらいました。

20代の皆さんにはまだ介護は遠い問題かもしれないですけど、本当は誰にとっても特別なことじゃないよな、って思います。

誰よりも腰は低く。ポジティブな言葉はマッハで伝える

俺の家の話 脚本家 宮藤官九郎

――20年以上、第一線で活躍されてきたお二人は、プロとして“いい仕事”をするためにどんなことを心掛けていますか?

宮藤:誰よりも腰を低くすること、ですかね……。

磯山:それをいつも心掛けているんですか?

宮藤:そう。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」っていうことばがあるじゃないですか。もうね、実る前から頭を垂れておく、っていう(笑)。人に対して、常に「ありがたい」という気持ちを持ってね……。

磯山:たしかに嫌われちゃうと仕事しづらいから、なるべく嫌われないようにしたいですけどね(笑)。あとは「いいな」と思ったときは、すぐに「いい!」って表明する

宮藤:磯山さんは脚本を読んだときとか、演技を見た後にすぐ反応してくれますよね。

磯山:そう思っていないときは何も言いませんけど(笑)。「すばらしい、うれしい、これが好きだ」っていう感想って、どうしても忘れがちじゃないですか。

だから、ポジティブな感想は、思った瞬間にマッハで伝えます。そうしたらやっぱり、一緒に仕事をする方々もホッとするだろうし、頑張ろうって思えるんじゃないかと思うので。

「限界を決めない」長瀬智也の仕事に対するスタンス

――これまで、あらゆるプロとお仕事をされてきた二人が、「こんな大人はかっこいい」と思う人ってどんな人ですか?

磯山:長瀬(智也)くんですね。“かっこいい”を自然体で体現している人なんですよ。彼は今、プロレスと能を両方稽古していて。

この間長瀬くんと話したら「俺はスーパーマンじゃないよ」と愚痴るくらい負担をかけちゃっているんですが、もうびっくりするくらいプロレスの受け身もうまいし、一年くらい前から苦手だって言っていた体づくりもしてくれています。

俺の家の話

宮藤:限界を決めずに振り切って演じてくれるから、気持ちいいんですよね。最初にちょっと説明したら、すぐに本質を捉えてくれて、その後は細かい質問は一切しない。

磯山:そう。実際のお芝居では細やかな気配りをしながら緻密な演技をしてくださるんですけど、画面から伝わるのはスケールの大きさで。普通の人じゃ絶対できないことを成立させてくれるんですよね。

だから、作る側にとってはどんな設定でも成立させてくれるスーパマンです(笑)

そして、戸田(恵梨香)さんもかっこいいですね。『流星の絆』で、看護師になりきって桐谷(健太)くんを騙すっていうシーンがあったんですけど、あの七変化ぶりというか、魔性の女な感じがとても魅力的だと思いました。

今回は、西田敏行さんから結婚を迫られる謎の介護ヘルパーっていう、ちょっと難しい役どころなので、戸田さんの魔性っぷりをまた見たいなと思ってオファーしました。

俺の家の話 脚本家 宮藤官九郎

宮藤:西田さんも凄いですよね。長瀬くんと介護する人・される人、という関係性になったとき、悲壮感が全然ない。互いに軽口叩き合いながら介護し、介護されている。

「明るい介護」っていうのは、西田さんじゃないと表現できないと思います。

磯山:台本の何倍もアドリブで喋っていました。セッション感が凄かった(笑)

――お二人が、「かっこいい大人」でいるために意識していることはありますか?

宮藤:えぇ……!? 特にないですよ。強いて言えば、お財布の管理を奥さんにしてもらうとか(笑)

磯山:それ、どんな関係があるんですか(笑)?

宮藤:かっこいいかどうかを意識しているわけではないけれど、僕が憧れる大人は謙虚というか、おごり高ぶらない人。だから、お財布にお金がない状態にしておけば、若手のころのそういう気持ちを忘れないでいられるかなって。

磯山:なるほど、そういうことはあるかもしれないですね(笑)

――初心を忘れず、謙虚に、ということですね。お二人とも、今日はありがとうございました!

番組情報

金曜ドラマ『俺の家の話』1月22日(金)22時スタート

宮藤官九郎と長瀬智也が11年ぶりにTBSの連ドラでタッグを組む。長瀬智也さん演じるのは、ブリザード寿というリングネームで活躍するプロレスラーの観山寿一(みやま・じゅいち)。そこへ西田敏行さん演じる父親・観山寿三郎(みやま・じゅさぶろう)が危篤だという知らせが届く。寿三郎は全国に一万人以上の門弟を持つ能の家元かつ人間国宝だ。「父、危篤」の知らせを受けた寿一は25年ぶりに実家へ戻り、父の介護を手伝うことに。他に戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、桐谷健太ほかも出演し「濃すぎる家族」が織りなす、まったく新しいかたちのホームドラマだ。

>>公式HP

取材・文/石川 香苗子 


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