プロ営業師・高山洋平が、遊びやサボりを推奨するワケ「仕事一筋でいられない時期が必ず来る」
「ビジネス書を読み、自分なりに仕事の仕方を変えてみても、成果になかなかつながらない」という20’sも多いのではないだろうか。
そんな悩める若者に対して、「町に出なさい」と優しく諭すのが、自称“営業のプロ”・高山洋平さんだ。
肩書きとは裏腹に、高山さんの日常は釣りやバーベキュー、飲み歩きなど、まさに遊び三昧。10月に刊行された初の著書『ビジネス書を捨てよ、街へ出よう プロ営業師の仕事術』(総合法令出版)の中でも、サボりや遊びの大切さを説いている。
まだまだ高山さんから営業の極意を学べると考えた20’s type編集部は、急遽取材を依頼。「ではここで取材しましょう」と指定された場所に向かうと、そこは中野の美容院だった。
「ここパパ友のお店なの、良い場所でしょ」と笑う高山さんに、苦笑いする取材陣。何なら私たちの到着時からすでにパーマをかけ始めていた。
ビジネスでクライアントと対峙する営業が、高山さんのようにゆるさ全開で大丈夫なのだろうか。疑問をぶつけてみた。
※本取材は2020年12月、緊急事態宣言が発令される以前に感染拡大予防に配慮して行っています※
街へ出て、やよい軒“おかわり処”の進化に思いを馳せる
――この度は、初の著書『ビジネス書を捨てよ街へ出よう』の出版おめでとうございます。
ありがとうございます。でも、こんな本はすぐに捨てて街へ出てください。これを読まなくても、ビジネスのヒントは日常のその辺に落ちていますから。
ただ、今はコロナ禍で実際に外出は控えてっていうこともあるだろうから、おいおいね。
――本の内容もまさにタイトルの通り、街でさまざまな人や物事を観察し教養を深めることが、結果的に営業力の強化、人生の豊かさにつながるというものです。そして、高山さんご自身も、常に街から学びを得ていると。最近は何か“収穫”はありましたか?
昨日『やよい軒』に行ったんですよ。『やよい軒』って「おかわり処(※)」があるじゃないですか。
※おかわり処……定食チェーン『やよい軒』の無料おかわりサービス。定食を頼むと、何度でも自由におかわりができる。
その、おかわり処に「出汁」が置いてあったんですよ。これを見て俺は思いました。『やよい軒』はついに、「おかわり問題」に一つの答えを出してきたなと。
――おかわり問題……。そういえば去年、『やよい軒』の一部店舗で「白米のおかわり有料化」を試験的に実施していましたね。
そう。その理由として、「おかわりをする人としない人が同じ値段なのは不公平だ」っていう意見があったんですね。でも、結局は試験期間が終わった後もおかわり処はなくならなかったし、今度は出汁のサービスまで始めた。
紆余曲折あったけど「やっぱり存分におかわりしてください」という、『やよい軒』の意思を感じます。さらに、これは“若者の深刻なおかわり離れ”に歯止めをかけるサービスなんじゃないかと思いました。
――若者のおかわり離れなんてありましたっけ?
(無視して)出汁サービスによって、いままでみたいにおかずの分量を計算しながらおかわりしなくてよくなったんです。おかわりしたごはんが余ったら、出汁茶漬けにしてシメればいいんだから。
『やよい軒』は漬物も取り放題だし、140円追加してほぐしシャケや海苔、わさびをトッピングするなどオリジナルのお茶漬けをセルフメイクしてもいい。
これはすごいことですよ。“おかわりの革命”だと思います。
――おかわり処の魅力はすごく伝わってきましたが、それがビジネスとどうつながるのでしょうか?
何が言いたいかというと、出汁一つにどこまで“思いを馳せられるか”が大事だってことです。この出汁の出現を深く掘っていくと、『やよい軒』のビジネス的な戦略にも気付くはずですよ。おかわり問題のゴタゴタを経て、彼らは最終的に自社の強みであるおかわり処の魅力をより強化する道を選んだわけです。
――なるほど……。確かにビジネスに通じていると言えなくもないような……。
全ての物事をそれくらい無駄に深読みすると、この世の神羅万象の全てから何かしらの学びを得ることができます。それに、誰かに『やよい軒』の出汁サービスを教える時も、「若者のおかわり離れ」みたいに適当で大げさな考察を絡めて話した方が楽しいし、良さが伝わりますから。お客さんにプレゼンするときだって同じですよ。
学ぶほど「上には上がいる」ことに気付く
――実際、高山さんは(Twitterを見るかぎり)毎日のように外へ出て、遊び倒しています。「おかわり処からビジネス戦略が学べる」の他にも、遊んでいて得られることってありますか?(※編集部注:取材時の情報です。2021年2月現在は自粛中)
たくさんありますよ。特に俺は広告屋なので、さまざまな遊びから企画の種をインプットする意図もあります。それから何より、その世界を知れば知るほど、「上には上がいる」ことに気付いて謙虚になれるんですよ。
俺なんて、“プロ飲み師”を名乗っていますが、まだまだ初級なんです。プロにはギリギリ入れたけど、2軍レベル。街には本当にすごい、イチローレベルがゴロゴロいますから。
――2軍とイチローの差って何ですか?
佇まいですね。じっくり観察していれば、そのうち「この人はなんか違うな」って分かるようになります。例えば、こないだ東高円寺の名店『川中屋』に行ったんですけど、あそこはプロ揃いでした。BGMもない無音の店内で黙々と一人酒を飲んで、30分でパッと帰る。お客さん全員が一流のプロでカッコよかったです。フランス映画のワンシーンを観ている様な気持ちになりました。そこはもうフランスだったんです。
――確かに、その飲み方は渋いですね。
あとは、そうしたプロとの出会いが、自分のつまらない固定概念を壊してくれることもあります。例えば、日高屋でラーメンの中に「いわしフライ」をインして食べてる人がいたんですよ。天ぷらそばみたいに。これ、どう思いますか?
――正直、それはどうかと思います。邪道というか。
日高屋が好きな人からすると、邪道に映るでしょうね。でも、その発想にたどり着くのって、本当に日高屋を行き尽くした人ならではだと思うんです。逆に、“日高屋をものすごく極めた人”という見方もできる。俺にはもう天ぷらそばにしか見えませんでした。
――そういうものでしょうか……?
そういうものです。他にも、ラーメンにいきなり胡椒をドバドバかけるのは邪道だと言われがちですよね。まずは、ある程度食べ進めてから味変するべきだと。そういう人を見るとつい「素人だな」と見下してしまいがちなんだけど、本当にそうなんでしょうか?
――違うんですか?
素人だと断じる前に、その人が「何周目なのか?」を考えるべきだと思うんです。もしかしたらそのラーメン屋に通い尽くし、胡椒のタイミングを研究し尽くした結果、最初にかけるのがベストだと判断したのかもしれない。
つまり、その行為が無知ゆえのものなのか、4〜5周した上での結論なのかを見極めないといけないってことです。それを見誤ると、本来は俺たちより遥かに高みにいる人を見下してしまう恐れがあります。
――それも、“佇まい”から見抜くんでしょうか?
そうです。例えば、胡椒をかける所作がどれくらい手慣れているか。その手つきの美しさ一つから本物かどうか見分けるんです。それは、ビジネスにおいて人間を見極める際の訓練にもなります。ビジネスパートナーが信用に足る人物なのかどうか見抜く目を、街中で鍛えられるんですよ。
営業は月に2時間だけ。残りは全て遊びの時間に
――高山さんにとっては遊びも仕事のうちなのだと思いますが、営業活動などの実務はいつ行っているのでしょうか?
今は営業するのは月に2回くらいですね。トータル2時間くらい。2件あれば1件ぐらいは契約が決まるので、残りは遊んでます。と言うと聞こえは悪いけど、先ほども話した通り企画は遊びの中から発想することが多いので、営業以外の時間は種まきやインプットや受注クライアントの企画を考えています。
年々、営業に掛ける時間が減り、種まきの割合が増えています。若手の頃は営業にある程度の時間を割かないといけないから、遊びの時間をつくるのが大変でしたね。
――それこそ、寝る間も惜しんで遊んでいたという感じですか?
寝る間も惜しんでというか、朝まで遊んだときは眠いから日中にサボって睡眠時間を確保していました。
――思いっきり仕事に支障が出てますね……。
はい。でも、そうすると仕事する時間が短くなるわけですよ。でも売らないといけないから、短い時間で結果を残せるよう営業力を磨いたんです。そのうち、しっかり売りつつ遊べるようになっていました。まあ、俺の場合は売れてないときでも遊んでましたけどね。
――仕事に対してそんなスタンスで大丈夫なんですか?
結局、受注の喜びっていうのは一過性のものなんですよ。どんなにすごい営業パーソンでも、一生売り続けるのは難しい。俺もプロ営業師を自称しているけど、要所要所の良いところで契約を決めているだけで、「42カ月連続達成!」「年間MVP5年連続受賞!」とかではまったくないから。
でも、それでいいんですよ。俺は。仕事なんて、人生のほんの一部でしかないんだから。逆に「自分には仕事しかない!」なんて考えちゃうと、結果が出ないときに人生全てが否定されたような気になっちゃいませんか?
――確かに、逃げ場がなくなってしまいますね。
だから遊ぶんですよ。仕事から帰ってきてビジネス書を読むのもすごく立派だけど、その時間を少しだけ遊びにも振り分けるといいと思います。その遊びがスパイスになって、人間としての深みが出ます。できれば、何かに徹底的に凝ってみてほしいです。狂ったように何かに凝っている人って、おもしろいですからね。
かまやつひろしの『ゴロワーズを吸ったことがあるかい』の歌詞にも「狂ったようにこればこるほど 君は一人の人間として しあわせな道を歩いているだろう」とあります。本当にその通りだと思います。
仕事一筋から離れたときに、友達の大切さが分かる
もう一つ、俺が遊んできて良かったなと思うのは、友達ができたことですね。大人になると友達をつくるのが難しくなるって言うけど、それは街に出て遊んでいないからです。もちろん今日明日でいきなり友達はできませんよ。
でも、何年も同じ場所で遊び続けていると、こうやってインタビューの場所を提供してもらえるような強い関係性の友達がつくれるわけです。
――仕事ばかりしてきた人が定年後、気付けば親しい友達が誰もいなかったというような話も聞きます。
20代くらいまでは仕事一筋で戦っていてもいいと思います。問題は、その時期が過ぎた時。「仕事だけが全てじゃない」って思えるタイミングが、いつか来るんですよ。たぶん。俺はきました。
その時に初めて、これまでの遊びで培ってきた教養や友達の存在のありがたさが分かる。だから俺、いま幸せですもん。遊んできて本当によかったなって思います。
――高山さんがこうまで「ビジネス書を捨てよ」と力説する理由が分かったような気がします。
もちろん、ビジネス書も素晴らしいんですよ。でも、ビジネス書だけを読んでいても友達はできないじゃないですか。それは映画や漫画だってそうなんだけど、ビジネス書よりは友達と共通の話題にしやすい。特に、飲み屋ではすごく重要な教養になります。
友達はさ、あなたがどういう仕事哲学を持ってるかとか、どれくらい仕事ができるかとかまったく知りたくないからね。仕事ばかりしてると、飲み屋で話すことがなくなりますよ。
だから、今すぐ街へ出ましょう。コロナが終わったら。という内容が書かれたビジネス書を書きました。是非、買って頂き、捨てて頂ければ幸いです。
取材・文/榎並紀行(やじろべえ) 撮影/高橋圭司
取材協力
I WANNA GO HOME CONCENT 【アイワナゴーホーム コンセント】
住所:東京都中野区新井1ー23ー23
営業時間:10:00~20:00(月曜日~金曜日)/10:00~19:00(土曜日、日曜日、祝祭日)
書籍紹介
『ビジネス書を捨てよ、街へ出よう プロ営業師の仕事術』(総合法令出版)
・マンガ・コンビニ・チェーン系グルメ・個室ビデオ=「社会人の教材」
・味変調味料=「社内コミュニケーションの促進剤」
・きわどいジョーク=「新規営業のツール」
……このおじさん一体何者?
「仕事が楽しくない」「なかなか結果が出ない」「コミュニケーションが苦手」……、そんな悩みを抱えるビジネスマンにとって、この本は大きなブレイクスルーとなるでしょう。本書は、最近伸び悩んでいる若手社員に、ちょっと変わった広告会社「おくりバント」の社長が“仕事のイロハ”を教えるというストーリー形式で、社会人が楽しく働きながら突き抜けるための学びやコミュニケーションの技を紹介します。
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