世の中にニーズがあってこそ技術に価値が出る技術者にとっての発想力の大切さ
「技術者は技術のみに精通していれば良い」という考えは過去のもの。エンジニアにこそ、自分の技術がどう活かせるのかを発想できる能力が求められている。
そんな発想力の重要性、発想力を高めるための行動を、2人の識者に聞いた―。 【Word/MASARU YOSHIHARA(E-type) Photo/TETSUJI OSHIMA】2008年5月号より
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経歴
1981
東京理科大学・理学部化学科に入学し、都立高校の化学教師、最終的には校長を目指す
1984
教職の道を断念し、大手メーカーが顧客のソフトウエア会社(※1)に入社
海外向け固定通信における局用交換機のデジタル化プロジェクトで、モジュール開発のリーダーに
海外向け固定通信における局用交換機のデジタル化プロジェクトで、モジュール開発のリーダーに
1989
先に独立した上司に背中を押され、28歳で起業(※2)
受注は多いが入金とのタイムラグで黒字倒産の危機を迎え、ストレス性の胃痛に悩まされる
受注は多いが入金とのタイムラグで黒字倒産の危機を迎え、ストレス性の胃痛に悩まされる
1999
設立10周年を機に経営ビジョンを策定、IPOの準備に入る
2000
ITバブル崩壊でリストラを余儀なくされIPOの目標も見直す(※3)
2004
エンジニアの雇用を守るため、起業家輩出を促す独立支援制度を導入(※4)
【FUTURE】
地方での人材の掘り起こしや新規事業にも積極的に取り組む
【FUTURE】
地方での人材の掘り起こしや新規事業にも積極的に取り組む
※1 まったく触れたことのないPC業界へ
当時は非常に狭き門だった教員採用試験に受からず、教職の道を断念してソフトウエア会社に就職。コンピューターには触ったこともなかったが、求人が多く、これから伸びる業界という理由でコンピューター業界を選ぶ。入社後はスパルタ方式でプログラミングの基礎を叩き込まれる
※2 上司の誘いを断るために起業
独立する上司から新会社への参画を何度も誘われ、「5年後に会社を興すから…」と断ると「だったら今すぐ起業しろ」と言われ起業を決断。高収益第一主義だった前の会社を反面教師に「顧客第一」と「人間尊重」を理念に掲げ、創業メンバーと7人での起業を果たす
※3 会社か社員か… 本来の目的に立ち返る
「IPO(株式公開)を目指す」と公言したため、銀行や証券会社、ベンチャーキャピタル、監査法人が寄ってくる。上場の準備に追われ、策定した経営ビジョンの多くが遂行できないという本末転倒の事態に。「IPOの本来の目的は働く社員のため」と考え直し、軌道修正する
※4 再雇用ありの独立支援制度を
「独立起業で得られる成功の醍醐味を社員にも味わってほしい」と、再雇用ありの独立支援制度を導入。輩出した起業家のもとで、アクティスのエンジニアが別の事業分野で力を発揮するといった、新しい終身雇用の形もイメージしている
発想の基本は“人間尊重”
組み合わせで付加価値を高める
組み合わせで付加価値を高める
株式会社アクティス 代表取締役社長
東野義明 氏
東野義明 氏
ソフトウエア会社に入社して4年。東野義明氏は開発チームのリーダーに成長していた。だが、収益第一主義の会社にいる限り、顧客満足は追求できない。28歳でアクティスを設立、「全く予想していなかった社長業」の道を歩き始めた。
前職で顧客だった大手メーカーの信頼を得た同社は、通信のデジタル化やIT化を追い風に350人規模の会社に成長。東野氏は設立10周年を機に、「顧客第一」「人間尊重」を基本とするビジョンを策定し、IPOの準備も開始した。
「ITバブル崩壊で、IPO目当ての人たちはクモの子を散らすように去っていきました。結果的にはよかったと思っています。当時の私は、経営者はこうあるべきだと力みすぎていましたから」
自分のスタイルを模索する日々が続いた。策定した経営ビジョンが具現化されたのは4年前。ある銀行の支店長との出会いがきっかけだ。
「部下に『自分の好きな人に金を貸せ』と言う“人重視”の銀行マンで、IPOも『何のためにを明確にしてから』と言います。初心に帰って楽になりました」
2004年には独立支援制度を導入。多様な職場や職種が用意されていれば、エンジニアの安定雇用とやりがいの両立が可能となる。起業家輩出の手段である独立支援制度を社員の終身雇用と結び付ける発想は、人間尊重そのものだ。
M&Aを活用した今後の成長戦略についても、東野氏の発想は一貫している。
「事業領域の拡大と新規顧客の獲得が狙いですから、リストラや社風を押し付ける強引な企業買収は考えていません。組込み系開発でニーズが高い第三者検証ビジネスなどへの進出を検討中です」
経営の方向性が定まった東野氏は、IPOへの再挑戦を視野に入れている。
前職で顧客だった大手メーカーの信頼を得た同社は、通信のデジタル化やIT化を追い風に350人規模の会社に成長。東野氏は設立10周年を機に、「顧客第一」「人間尊重」を基本とするビジョンを策定し、IPOの準備も開始した。
「ITバブル崩壊で、IPO目当ての人たちはクモの子を散らすように去っていきました。結果的にはよかったと思っています。当時の私は、経営者はこうあるべきだと力みすぎていましたから」
自分のスタイルを模索する日々が続いた。策定した経営ビジョンが具現化されたのは4年前。ある銀行の支店長との出会いがきっかけだ。
「部下に『自分の好きな人に金を貸せ』と言う“人重視”の銀行マンで、IPOも『何のためにを明確にしてから』と言います。初心に帰って楽になりました」
2004年には独立支援制度を導入。多様な職場や職種が用意されていれば、エンジニアの安定雇用とやりがいの両立が可能となる。起業家輩出の手段である独立支援制度を社員の終身雇用と結び付ける発想は、人間尊重そのものだ。
M&Aを活用した今後の成長戦略についても、東野氏の発想は一貫している。
「事業領域の拡大と新規顧客の獲得が狙いですから、リストラや社風を押し付ける強引な企業買収は考えていません。組込み系開発でニーズが高い第三者検証ビジネスなどへの進出を検討中です」
経営の方向性が定まった東野氏は、IPOへの再挑戦を視野に入れている。
【私が妄想する新サービス】
日本の農業を活性化する仕組み
母の実家が新潟で農業をしていることもあって、約40%という日本の食糧自給率の低さに危機感を持っています。そこで、日本の農業を活性化する仕組みがあればと思います。例えば、行政機関とも連携して、農業を集団教育する場を設け、後継ぎや担い手不足に悩む農家へ順次派遣していくんです。農業従事者が高齢化し、後継ぎがいない農家がある一方で、定職に就きたくても就けないフリーター、就労教育を受ける機会に恵まれないニートが増えています。その2つをめぐり合わせる一石二鳥のアイデアではないでしょうか。
母の実家が新潟で農業をしていることもあって、約40%という日本の食糧自給率の低さに危機感を持っています。そこで、日本の農業を活性化する仕組みがあればと思います。例えば、行政機関とも連携して、農業を集団教育する場を設け、後継ぎや担い手不足に悩む農家へ順次派遣していくんです。農業従事者が高齢化し、後継ぎがいない農家がある一方で、定職に就きたくても就けないフリーター、就労教育を受ける機会に恵まれないニートが増えています。その2つをめぐり合わせる一石二鳥のアイデアではないでしょうか。