技術的に難しい話を相手に説明する場面
時として技術者は技術のことが解らない人へ説明をしなくてはならない場面に遭遇します。
この場合の「技術がわからない」には様々なレベルがあります。人それぞれだと思いますが、一番すぐに思いつく場面ですと、発注者と受注者の関係でしょうか。発注側はシステムについては精通しておらず、受注側が精通しているケースですね。別の場面もすぐに思いつきます。例えば進捗報告の場で、ある技術に精通している部下が"まぁまぁ"知っている部門長へ説明するという場面もこのケースに該当します。つまり、同じ技術系の人間同士においても、こういった場面はあるもので、きわめて日常的な場面と言えるかと思います。
技術的な要素を含む話の提案を技術的なことを理解するのが辛い人にするのはとても骨の折れる作業だと感じる人が多いと思います。今回はこういったケースでどのように提案をする、つまり自分の意思を表現し伝えると良いかという課題について取り組んでみます。
必ずしも技術の話が必要か、今一度考えよう
技術者にとって、技術的な内容の解説をすることはとても楽しいものです。上司に自分がどれだけ頑張っているかアピールすることにも繋がると思うこともあるでしょう。しかし、冷静になってみる必要があります。本当に思いついた説明が相手に伝わるのでしょうか?
どのような場面でもそうですが、説明をするときには重要なコツがあります。筆者が説明をする時に気をつけているポイントは以下の3つです。
- ・伝えたいことと伝えるべきことを認識する
- ・結果?全体像?具体的な道の順に話す
- ・全てを伝えようとしない
伝えたいことと伝えるべきことを認識する
目的を認識しようという話です。例えば、難しい技術の話を説明しなければいけないと自分では考えているとき、実はその説明は不要かもしれないと考えたことはありますか?意外と説明したいという思いで話し始めてしまっているケースが多いように思います。
技術的な説明というのは「道具」の説明であるケースがほとんどです。つまり道具の効果、使い方といった内容を話すことになります。しかし道具というものは、あくまで目的を達成する為に使うものです。誰かに作業をさせるための説明であれば、道具の使い方を説明することは有効かも知れませんが、聞き手が道具を使う人では無い場合はもしかすると道具の説明がそもそも不要なことがあります。
これは技術者にありがちな罠からの脱出を意味します。この方法がどんなに素晴らしいかを説明しても、相手が「?」という雰囲気の場合は相手のことを洞察できていないことを意味します。
相手に伝えるべきことは、相手が持つ目的に合致している内容である必要があります。
もしプロジェクトの遅延というテーマで話し合いがあるときに、「なぜ遅延しているか」と問われた時に思わず技術的な説明をすることがあります。当事者からすると、それは重要な問題なので、自分がどんなに頑張っているかをあらゆる角度から技術的に話したくなります。しかし、このケースで求められていること、つまり相手の目的は「遅延の解消」にあります。ということは、相手に伝えるべきことは「遅延を解消するための施策」です。こういった場面で「なぜ遅延しているか」について回答してもあまり前向きな事態にはならないでしょう。それよりもできる限りあっさりと「なぜ遅延しているか」については答え、その上で「遅延を解消するための施策」に話題を移すことがポイントになります。
結果?全体像?具体的な道の順に話す
相手に「伝えるべきこと」が把握できたら、次にすることはその人にとっての「結論」を伝えることです。
先ほどのプロジェクトが遅延しているという場合のやり取りにおいては、伝えるべきことは「遅延を解消する施策」です。つまり、結論として最高なのは「遅延は解消されます」という落ちでしょう。そう言い切るのが難しいと思う場合は「遅延解消に効果がある」というオチだと良いと思います。
まず結果、そして全体像です。プロジェクトの遅延をしている要因に気がついている場合であれば、まずは「遅延している要因としてこういったものが上げられる」と話を進めるのが良いでしょう。一つ一つを細かく伝えることが目的ではありません。説明をする上で、イメージを共有することが目的です。
そして最後に、具体的な施策として、何をすると良いかという話に進めます。
比較的説明が苦手な人は、この流れが全く逆な場合が多いと思います。
全てを伝えようとしない
最後のコツは私もよく失敗するのですが、全てを語らないということです。
契約の場面であれば、全てのことをきっちり話すことが目的なので、細部に至るまで話をする必要があるでしょう。しかし、多くの場面では、ある程度の合意形成が行われればあとは実施する人の裁量に任されることがほとんどです。
説明や交渉の目的を忘れてはいけません。相手が納得出来れば、それで良いのです。もしそれ以上を求めてきたら、その時に対応するようにしようという程度で手をひきましょう。
相手の気持ちになるテクニック
相手の気持ちを察することはとても難しいです。よく相手のことを考えて話そうと言いますが、筆者もどれくらいできているか自信は全くありません。
しかし、テクニカルにプロセスを決めて、それに従うのであれば練習した分だけ上達します。今回はそのプロセスを示しました。何かを提案する時に、技術的な内容が含まれると技術者はその内容を理解させようと苦慮します。しかし、残念ながらその説明は不要であることが多いです。
ここまで説明したプロセスを使ってストーリーを考えてみて下さい。