株式会社ワイキューブ 代表取締役
安田佳生氏
18歳で渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後、リクルートの営業職を経て、1990年にワイキューブを設立。『千円札は拾うな。』(サンマーク出版)など著書も多数
昔は『量』を重んじていましたが、最近は『質』に変わりました。稼ぎ方が重要だと思うようになったんです。お金を持つと選択肢の幅が広がり、自由になれるしカッコいいですよね。でも、『稼ぎ方がイケてないのはカッコ悪い』と思うようになったわけです」
稼ぐことに対する自身の理念について、安田佳生氏はそう話す。意識が変わったのは、20代後半の頃。ちょうどワイキューブ自社での新卒採用を開始した頃だ。当時、いろんな社長と出会ったことが、その理由だったという。
「理念を持たず、金銭欲や権力欲で事業をしている社長が多かったんです。例えば、六本木ヒルズみたいな所に住み、高価な車に乗って、銀座で遊び、自分の店を作って……なんていうのが、有名な社長のカッコいいと言われる生活。そういうのを見ていて『イケてないな』と思うようになったんです」
仕事の面白さと収入は比例する
意識の変化とともに、経営のやり方も変化したという。例え社長でも役職手当などの権利収入は得ず、会社の株は持っても値上がり益は得ない。そして、辞める時は株を額面で置いていかなければならないというルールを社長の安田氏が自ら決めた。
「だからうちの会社では、私より給料の高い社員も、そのうち出ると思います」
安田氏が社長を務めるワイキューブの職場環境は、かなり特殊だ。市ヶ谷本社1階には、充実したワインセラーと社員専用のカフェがあり、社員のために菓子を焼くプロのパティシエもいる。そして地下には150万円のビリヤード台を2台置いた社員専用のバー。さらに、恵比寿には社員用の店があり、ここでシャンパンを飲みながらスーツを仕立てるための採寸を行うことも。全ては、社員のモチベーションアップのためにやっているという。そうした同社の既成概念を超えた会社のあり方は、マスコミにもたびたび取り上げられている。
「会社というものは、お金をどんどん貯めても安定しません。最大の安定は社員のやる気と能力だと思うんです。だから、メンバーがやる気を出して、能力を高めてくれることに投資し続ける。例えば、いいソファーや暖炉は家にあってもいいけど、会社には必要ないと皆が思っていますよね。そんなふうに必要がないと思われているものにお金を使います。会社にいる時間も生きている時間なのですから、家にいるより快適な会社があってもいいと思うんです」
例え会社が楽しくなくても、仕事は稼ぐ手段と割り切り、プライベートで楽しめばいいと考える人もいるだろう。しかし、「たしかに、仕事は金を稼ぐ手段ですが、同時に、人生で一番おもしろい出来事でもあります。だから、仕事を稼ぐ手段だけにしておくのは、もったいないですね」と、安田氏は指摘する。
「仕事の面白さと収入は比例します。生活のために、面白くないことや興味のないことを我慢してやろうと思えば思うほど、収入は減っていくものだと思います。自分がより興味あることとか、より楽しいことを追求していけば、収入は増える。仕事がつまらないと思っている人と、仕事が面白いと思っている人の収入を比較したら、相当の差があると思いますよ。だから、楽しいと思うことを職業にしたほうがいいと思います」
目指しているのは「社員給料が日本一の会社」
「会社とはこうあるべきだ≠ニいう基準があると思います。これはあってもいいが、ここからはなくてもいいという基準です。私は、その枠を超え、既存の会社のあり方の概念を変えたいんです。その1社目をみんなで作るというのが、私たちが共有している夢なんです。雇っている人、雇われている人の垣根もなくし、オーナーがいない会社になる。株主に還元もしません。プライベートと仕事を時間で切り分けるのでなく、自分の中で切り分ける。社内にカフェがあっても昼間から酒が飲めても、飲む自由もあれば飲まない自由もあるわけです。仕事に関しては、貰った給料以上の成果は出す。そこだけ約束すれば、あとは自由という会社です」
そんな価値観を持つ安田氏が目指しているのは、ワイキューブを社員の給料が日本一高い会社にすることだ。
20代にするべきは「能力アップ転職」
「この『社員の給料日本一』は、どうしても取りたいタイトルです。それには、社員の平均年収を2000万円くらいにしないとダメです。社員の平均年収は、1000万円くらいまでならもっていけますが、そこから先は難しい。2000万円は1000万円の2倍だけれど、仕事の量を2倍こなすのは無理ですよね。そのためには仕事の質を変えないと無理です。年収2000万円の人は、年収1000万円の人が2人いてもできない仕事をしているんです。年収1000万円の人の5倍くらい仕事ができないと、年収2000万円は稼げない。それを社員の平均にするということは、うちの会社の仕事を質的に相当変えないといけないということです」
そのため同社では今、従来手掛けてきた採用の領域を広げ、顧客のブランド構築や営業のシステム作りなどを支援する領域へと事業拡大を図っている。
「そうすれば、顧客1社当たりの単価が上がりますし、お客さんの収益も最大化できます。なぜビジネスモデルを転換するのかというと、最大の理由は社員の給料を増やすためなんです」
そんなふうに社員の給料を増やすことを考えてくれない会社に勤めている人は、どんな転職をすれば年収アップが実現するだろう。最後に、次のようなアドバイスをもらった。
「若いときは、目先の年収アップを考えるのではなく、能力アップ転職を目指すべき。例えば、時給は安くても3年くらい携わったら能力がアップするというような仕事をしたほうがいいんです。単年の収入など増やしても意味ありません。人生の総収入を増やすことを考えること。特に20代のうちは、稼ぐことよりも能力を高めることに主眼を置いて仕事選びをしたほうがいいですよ」