「賃金」を巡る雇う側と働く側の意識の「壁」

経団連の調査は能力重視 賃金を巡って、雇う側と働く側の意識の「壁」が築かれつつあるのではと危惧します。まずは雇う側の意識を探ってみます。去る10月25日、経団連が「2012 年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」を公表しました。

雇用

経団連の調査は能力重視

賃金を巡って、雇う側と働く側の意識の「壁」が築かれつつあるのではと危惧します。まずは雇う側の意識を探ってみます。去る10月25日、経団連が「2012 年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」を公表しました。いわゆる能力給を導入している企業が過半数を超え、定期昇給制度があると回答した企業の58%が「年功的な昇給割合を減らし、貢献や能力を評価する査定昇給の割合を増やす必要がある」と回答。また28%が「一定の職位・職階の従業員を除き、年功的な昇給を廃止し、査定昇給とする」との見解を示しました。こうした結果について、経団連は「個々人の貢献度や能力評価の結果を、より一層重視しようとしている」と分析しています。

グラフ:キャリアデザインレポート2012 制度、賃金体系の賛同度調査

料金体系

働く側は根強い“安定志向

今度は働く側の方です。キャリアデザインセンターが25~34歳の若手ビジネスパーソンを対象に行った意識調査(キャリアデザインレポート2012 次の制度や賃金体系について、どの程度賛同できますか)で、経団連調査の「能力給」にあたる業績給・業績連動型賞与(成果報酬型賃金)の賛否を尋ねたところ、「大いに賛同できる」「賛同できる」を合わせると54%。一見、企業側と拮抗していそうですが、定期昇給昇給制度(年功序列型賃金)の賛否については、「大いに賛同できる」「賛同できる」は計53%。年俸制の賛否については「どちらともいえない」が最多の45%に上りました。こうした結果から、「仕事の成果に応じた待遇は望んでいるものの、ある程度の安定は欲しい」という働く側の意識が垣間見えます。

リーマンショックを境に意識の変化

2005~06年、「ヒルズ」族がもてはやされた頃には「稼ぐが勝ち」(堀江貴文・元ライブドア社長)といった風潮もあってか、働く側の能力給志向も高くなっていたとみられます。「ヒルズ族」の成功に刺激され、大企業の若手社員が「会社の歯車」的な立場に不満を持って退社してベンチャーの起業に乗り出したり、幹部として転職したりする動きも目立ちました。しかしキャリアデザインセンターの過去5年(07~12年)の調査結果を見ると、「業績給・業績連動型賞与」への賛同が年々広がっているとともに、「定期昇給制度」の賛同率も年々上昇しています。「長期雇用制度」も近年は約7割と高止まり傾向にあります。「定昇」「長期雇用」とも08年を境に数字の変化があることから、リーマンショック後の雇用環境悪化が働く側の心理に影響し、安定志向につながっていそうです。

「壁」を乗り越えるための創意工夫を

雇う側と働く側の賃金を巡る意識かい離は切実な問題です。優秀な社員のパフォーマンス低下、あるいは退職もあるだろうし、ひいては会社の業績悪化につながりかねません。ただ、幸いにも、働く側の能力給への理解が進んでいることも調査でうかがえます。中小企業の人事コンサルティングを手掛ける山元浩二氏(日本人事経営研究室代表取締役)は、「人間は不安を持ったままでは100%の力を発揮できない」として、会社と社員が共に納得できる仕組みづくりを提唱します(出典;『小さな会社は人事評価制度で人を育てなさい』中経出版)。雇う側と働く側―ともにやりがいを求めた創意工夫をしたいところです。


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