どんなにスキルの高いエンジニアでも、その能力を伝えられなければ転職成功はおぼつかない。ましてや異なる業界で技術を磨いてきたエンジニアはなおさらだ。経験を分かりやすく伝えるためにはひと工夫が必要になる。農業機械のトランスミッション開発を手がけてきた竹内修氏の“ひと工夫”は、「経験した業務を要素技術レベルにブレイクダウンして伝えること」だった。
「自動車業界の人に対して『農業機械のトランスミッションを開発していました』と言っても、なかなか理解してもらえない。だから、『トランスミッションのギアに関するこの分野の開発を担当していた。だから御社ではこの分野の開発がやりたい』というように、技術的な話はできるかぎり詳細に伝えようと事前に整理していました」
農業機械のことは分からなくても、ギアに関する技術の話なら面接官である自動車エンジニアにとっても専門分野。要素技術というお互いに理解できる共通言語を使って、竹内氏は面接官とスムーズにコミュニケーションを取ることができたという。
こうしたアピールは「ギアに関する専門性を高めたかった」という竹内氏にとって、技術的なマッチングを図る意味でも理に適っていた。その希望どおり、現在竹内氏はオートマティックトランスミッションのギア設計を担当している。
「ギアの歯面の設計を担当しているのですが、前職と比べても突き詰めてやっているという実感があります。マツダでの開発を通して、改めてギア設計は奥の深い世界だと感じますね。一方で、1人の技術者が担当する分野は『広すぎず狭すぎず』で、開発の全体像も把握できる。自分の志向に合った環境だと思います」
前職にはなかった難しさも肌で感じている。コスト据え置きで性能の向上が望まれるのは自動車開発の現場ならでは。だが、竹内氏はモチベーションを落とさない。
「もともと好きなクルマという最終製品の開発を通して、市場の評価を受けてみたい。そこでの評価こそ技術者にとって一番の喜びだと思っていますから」
要素技術という“共通言語”でうまく経験を伝え、異業種転職に成功した竹内氏。開発を担当するトランスミッションを搭載したクルマが世に出るのはもう少し先だが、ひとまず開発に打ち込めるフィールドを得た。
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竹内 修氏
マツダ株式会社
ドライブトレイン開発部
AT設計グループ |
1995年に大学機械工学科を卒業後、工業機械メーカーに入社。主に農業機械のトランスミッション設計に従事。もともと自動車好きだったことに加え、同じトランスミッションを搭載する自動車へ技術的興味を覚えたことを契機に、2005年1月にマツダへ転職 |
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