仕事の生産性を上げる自分のコントール法 「良い1日」は作り出せる!
あなたにとって「良い1日」とは? どんな働き方ができれば、満足感を得て1日を終えることができるのでしょうか。そんなヒントが詰まった一冊を要約しました。本書で紹介されているテクニックを身に付けて、今よりも満足感のある1日を堪能してください。
タイトル:最高の自分を引き出す 脳が喜ぶ仕事術
著者:キャロライン・ウェッブ
ページ数:384ページ
出版社:草思社
定価:1,836円(税込)
出版日:2016年05月30日
Book Review
あなたにとって「良い1日」とはどんな日だろう。仕事が順調に進んだ日、誰かと深く分かり合えたと感じた日だろうか。壁にぶつかっていた問題に、新たな解決策がひらめいた日かもしれない。
本書の原題は“HOW TO HAVE A GOOD DAY”。すなわち、仕事をする上で「今日も良い一日だった」と感じる日を増やし、「今日は悪い日だった」と感じる日を減らすことが本書のテーマだ。
スーパーマーケットの店員やウェイトレスから、経営コンサルタント、エグゼクティブコーチまで、さまざまな職業に就いてきたという著者は、「仕事において頭と心の両方が満たされるには何が必要か」という命題について考えるようになり、行動科学や心理学、脳神経科学の立場から研究を重ねてきた。
脳の働きや人々の行動の理由を学ぶことで、わたしたちは「1日をもっとコントロールできるようになる」と著者は言う。今の環境にいながら、自分が本当に望むような「良い1日」を作り出すことも夢ではないのだ。
「最高の自分を引き出す7つの要素」として、本書では「優先順位」「生産性」「人間関係」「思考力」「影響力」「レジリエンス」「エネルギー」のそれぞれについて科学的な解説がなされている。紹介されているテクニックをまず1つ、日々の生活や仕事に取り入れてみてほしい。「今日は良い1日だった」と感じられる日が増えていることに気づくはずだ。
1日の方向性を定める優先順位
脳のフィルターを選ぶ
数年前のある朝、著者は目が覚めたときから気持ちが沈んでいた。興味のないプロジェクトに参加し、仕事の進め方も性格もまったく違う同僚のルーカスと共に、新しいクライアントとの会議に出席することになっていたからだ。苛立ちと疲労感で重い気持ちのまま、著者は暗く狭い会議室のテーブルについた。同僚のルーカスがプロジェクトについて説明をしたが、参加者同士が勝手に話し出し、著者は会議がうまくいかなかったと感じていた。その思いをルーカスに伝えると、彼の印象はまるで違っていた。会議の雰囲気は悪くなかったし、陽気な笑いが起こる瞬間もあり、目的を達成できたと感じていたのだ。
なぜこのような違いが起こったのか。それは、「その日に対する姿勢」が初めから違っていたからである。会議の目的を明確に把握していたルーカスに対し、著者はなりゆきに任せていたのだ。
人間は毎日、身のまわりで起こる出来事のほんの一部に注意を向けるだけで、それ以外の多くの仕事をフィルターで「除外」し、「自動操縦(オートパイロット)」で処理している。何がフィルターを通り抜けるかは、その日の優先事項や思い込みによって決まる。人間の脳は「注意に値すると決めたもの以外は見ない」という特性を持っているのだ。この性質を利用し、前日の夜、あるいは当日の朝に1日の方向性を設定し、目標を定める習慣を作ることで脳のフィルターが変わり、それに合わせて現実も変えることができる。
明るい環境を整える
あなたに気持ちが明るくなる歌や、考えごとがはかどる場所はあるだろうか。反対に、「2時間の電話会議」という言葉を聞くと、反射的に憂うつな気持ちになるかもしれない。脳には、「関連性」を重視するという特性がある。たとえばある夜、友人と楽しい時間を過ごしたときに流れていた歌を聴くと、楽しかった記憶が呼び起こされて明るい気持ちになる。ある日の午後、窓際の席で次々といいアイディアが浮かんだなら、その席に座ると効率のいい仕事ができるように感じられる。
環境を整えることは、仕事の達成度に大きな影響を及ぼす。心を広く持つために、開放的な空間を用意しよう。アートや奇抜なものがたくさんある部屋で創造性を高め、会議室ではない場所で、リラックスして話をしよう。何が効果を発揮するかは人によって異なる。デスクをすっきりと片づけるだけで、すっきりとものを考えるためのきっかけ作りができるかもしれない。
時間をもっと有効に使う生産性
シングルタスクを続ける
仕事中に電話をしながら書類に目を通す。または、昼食をとりながらインターネットを閲覧することや、会議中にメールをチェックしたことは、誰でも一度はあるだろう。私たちは、同時に複数の作業をすれば、1日の中でもっとたくさんの仕事ができると思いがちだ。しかし研究により、マルチタスクが生産性を低下させることが明らかになっている。2つの作業を並行して行った人は、同じ作業を1つずつ行った人と比べて時間が30%長くかかり、間違いも2倍になるのだという。また、マイクロソフトの従業員を対象にした研究では、仕事中にメールが届いた場合、返信をしてもしなくても、それまでやっていたことに完全に戻るには15分かかったという。
脳が得意なシングルタスクの状態で、よく働くようにするには、似たような作業をまとめること、それぞれの作業に最も適した時間帯を決めること、携帯電話の呼び出し音やパソコンのポップアップ表示など、集中を妨げるものを排除することが有効である。
脳の休憩時間を設定する
たとえば、誰かが納得できないことを言っているとしよう。黙って頷くか、反対だとはっきり言うか。反対を伝えるには、どのような言葉を選ぶか。脳は日々、小さな意思決定をし続けている。意思決定は脳のエネルギーを大量に消費する。決断をする機会が増えるほど、脳のシステムが疲れ、正しい判断をすることが難しくなる。休むことなく働き続けても、1日の成果を最大化することはできないのだ。
何の作業もしていないときでも、脳は吸収したばかりの情報を符号化することや整理することで、学びや洞察を深めている。休憩することや、振り返る時間を確保することで、脳がより効果的に働くようになるのだ。
脳を効果的に稼働させて、仕事の生産性を向上させるには、少なくとも90分に1回の休憩を取ること、最も元気な時間帯に意思決定をすること、会議や打ち合わせに、あらかじめ休憩時間を設定することが有効である。
知的で、創造的な自分になるための思考力
ひらめきにたどり着く
誰にでも、作業が進まなくて途方に暮れた経験があるはずだ。堂々巡りの迷路に迷い込んで出口が見つからないときには、ひらめきが突破口となる。ひらめきを得るには、脳神経がいつもの回路ではなく、「新しい」連結を作るような刺激が必要になる。
もっとも簡単なのは、自分自身に対して、探求心が湧くような「質問」をすることである。なかなか仕事が進まずイライラするときには「これをどう解決するのが理想的だろう?」と質問する。思考の障害となるものを取り除きたければ「何も制限がなければどうしますか?」と自問してみるのだ。
それでも解決方法が浮かばないときには、思い切って、考えるのをやめてみよう。考えていないときにこそ、脳は多くの情報を処理している。ほんの2、3分間、別のことに意識を移すだけで、新しい見方ができるようになる。
ぐっすり眠って脳を活性化
現代のビジネスマンは、日々膨大な量の仕事や、次々やってくる締切に追われている。心身が限界に達したと感じるときには、睡眠をきちんととり、脳をしっかり休息させることが重要だ。睡眠が不足すると、IQが少し下がるという驚くべきデータもある。
人間は、90分から120分のサイクルで、浅い眠りと深い眠りを繰り返すことで情報を処理し、目が覚めたときには、前日の経験をよりよく理解できるようになっている。短い睡眠ではこのサイクルが働かず、記憶力や学習能力が低下する。
眠りたいのに眠れないときには、ベッドの中でスマートフォンやタブレットを使っていないかどうか見直してほしい。ブルーライトが多く含まれる光を浴びると、脳がまだ昼間だと勘違いし、眠りにつきにくくなる。「関連づけ」が得意な脳の性質を利用して、寝る前の行動パターンを習慣化し、できるだけ毎晩同じ時間にベッドに入ることもおすすめだ。
仕事や家事が忙しくて、どうしても必要な睡眠時間を確保できない時期には、短時間の昼寝をすることも有効だ。NASAの研究によれば、毎日25分の昼寝をするだけで、仕事の成果や注意力が大幅に改善することが分かっている。
脳のための有酸素運動
思考力を強化する簡単な方法がある。それは、体を動かすことだ。よく知られている通り、運動によって集中力や記憶力が高まり、反応速度が向上する。運動によって脳の働きを研ぎ澄ますには、中程度の有酸素運動を20~30分行うだけで十分であることが分かっている。たとえば早足で会議室に向かい、戻ってくるだけでも効果がある。まったくやらないよりは少しでもやった方がいい。じっと座っているより、短い時間でも立ち上がって軽度の運動をした方が、認知力を高めることになる。
適度な運動には、気分を安定させ、不安を和らげる効果もある。運動をするための時間は「消費」ではなく、思考力を高め、日々のストレスに対処するための「投資」だと考えよう。
逆境や問題に賢く対処するレジリエンス
冷静さを保つ
仕事をしていれば、不安や怒り、苛立ちを感じる瞬間が必ずある。そんなとき、マイナスの感情を短時間で和らげるにはどうすればいいだろうか。行動科学では、ネガティブな感情に名前をつける、「感情のラベリング」の有効性が証明されている。感じていることを紙に書き出す、同僚や友人に話すことは、感情を和らげる効果がある。
自分自身からいったん距離を置くことも、問題を解決するための助けになる。「いまから1ヶ月後、1年後の自分はこの問題をどう考えるだろう」と自問することや、「友人がまったく同じ状況にいるとしたら、何とアドバイスをするだろう」と客観的な視点に立つことで、次に何をするべきかが明確になるはずだ。
不快な状況を乗り越えたいときには、「すばらしい!このことから何を学べるだろうか」と質問をすることが有効だ。新しいことを学ぶと満足する脳の性質を利用し、ポジティブな精神状態をつくり出すのだ。
腹式呼吸をする
困難な状況に陥り、ストレスにさらされると、誰でも呼吸が浅く、速くなる。こんなとき、体の反応をコントロールすることで心を落ち着かせることが可能となる。楽な姿勢をとり、深くゆっくりと息を吸って空気を取り込めば、身体はそれを脅威が過ぎ去った兆しととらえる。中でも効果的なのが「腹式呼吸」だ。腹部が膨らむぐらい深く呼吸をするのだ。このような呼吸を90秒続ければ、ストレスホルモンの濃度が下がり、建設的に考える力が戻ってくるだろう。
熱意と楽しみを高めるエネルギー
エネルギーを補充する7つの方法
気力が途切れてしまったけれど、何とかもうひと頑張りしなければならない。そんなときにも、脳科学と心理学を活かして、気持ちを高めることができる。最も簡単な方法は、自分が過去に経験したポジティブなことを3つ、思い浮かべることだ。ささいなことでも、人生の明るい面をとらえようとする神経回路を強化する効果がある。
2つ目は、他者に親切にすること。3つ目に、周囲で起こるおもしろいことを見つける習慣を身につけること。4つ目は、大きな目標に近づくための小さな目標を設定し、短時間で達成感を味わうこと。5つ目に、1日のうちに少しでも、誰かとつながる時間を作ること。6つ目は、他者から押しつけられたものでない、自分自身で設定した目標を持つこと。
そして最後に、たとえ心から笑うことが難しくても、笑顔を作ってみること。無理にでも笑顔を作ると、脳はそれを「嬉しい」という意味だと解釈し、本当に気分が高揚するのだ。
忙しく働きながらエネルギーを維持するには、自分自身をよく知ることも大切だ。自分が何によってエネルギーを消耗するか、活力を与えてくれるものは何か。自分のパターンを知り、最高の状態であなたの1日を終わらせよう。
※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介
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キャロライン・ウェッブ
セブンシフト社CEO、マッキンゼーの社外シニアアドバイザー。
ケンブリッジ大学、オックスフォード大学院で経済学を学ぶ。民間エコノミストを経て、マッキンゼー入社、パートナーとして上級管理職や経営層のリーダーシップ育成分野に従事し、2012年退社。行動科学に基づいてプロフェッショナルのパフォーマンス向上を目指すコンサルティング会社セブンシフト社を立ち上げる。コロンビア大学ビジネススクールやロンドン・ビジネススクールでリーダーシップ論を指導した経験もある。 -
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