中島 聡『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』を10分で読める要約でチェック

米マイクロソフト本社でWindows95の開発に携わった伝説のプログラマー、中島聡氏が記した1冊を要約しました。仕事を順調にこなすだけではなく、心にも余裕が生まれるようになるという中島氏のビジネスノウハウとは? あなたの明日からの過ごし方を変えてくれる一冊です。

なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である

タイトル:なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である

著者:中島 聡

ページ数:288ページ

出版社:文響社

定価:1,490円(税込)

出版日:2016年06月07日

 

Book Review

1日中仕事ばかりで、本来大事なことに使う時間がない。そのような悩みを抱えているビジネスパーソンも多いのではないだろうか。しかし、この本で紹介される「超速時間術」を実践していくことで、人生の過ごし方を変えられるはずだ。
著者の中島氏は、米マイクロソフト本社でWindows95の開発に携わった伝説のプログラマーである。今では当たり前のように身体化されているだろう「ドラッグ&ドロップ」を普及させた張本人だ。このような世界を変える発明を生み出せたのは、「時間を使いこなしたことによる功績」だという。それまでの彼は、自分より優秀だと感じるプログラマーに圧倒され、おまけに英語も話せなかったのだ。しかし、時間の使い方に向き合い、効率化することで、優秀な人たちを飛び越えるくらいに能力を高めることができた。成功のカギとなったのは、著者が半生をかけて生み出した「ロケットスタート時間術」だ。猛烈なスタートダッシュにより、心の余裕を生み出し、成果を次々と出していくという。
さらに、本書の魅力は、時間術のノウハウを紹介するだけでなく、「時間とは何か」の本質に迫っている点である。読み進めるにつれて、時間を使いこなすメリットを痛感し、諦めかけていた「本当は実践したかったこと」に時間を投資できるようになるだろう。あなたの明日からの過ごし方を変えてくれる一冊であることは間違いない。

なぜ、終わらない仕事が発生するのか

時間の使い方を誤っている典型例

時間の使い方を誤っている典型例

著者は以前、従順な部下であるAくんをマネジメントする立場にいた。Aくんは優秀なプログラマーであり、頼んだ仕事をいつも引き受けてくれる。しかし、彼は仕事の見積もりが苦手なため、「自分が理想とする完成日時」までに終えられると考えてしまうタイプだった。そのため、たとえば締め切りが1週間後の仕事を依頼したとき、ほかの案件に予想外の時間が取られ、締め切り前日に徹夜しても、結局は締め切りに間に合わない。Aくんのように、締め切り間際にラストスパートで仕事を終わらせようとするタイプは「ラストスパート志向」と言われ、仕事上では最も避けるべきタイプだ。
また著者には、Tくんという天才級の才能を備えた部下もいた。しかし、Tくんは才能と馬力に満ちているがゆえに、締め切り間際になって、設計されていない機能を追加してしまうのだ。納品間際に設計書にない機能を思い付きで追加すると、全体の計画に支障が出てしまう。仕事の出来にムラがあるため、能力が成果に見合っていないというタイプだ。この2人の仕事が終わらないのは、どちらも時間の使い方を間違えているからである。

応用問題を甘く見るのは禁物

このような失敗を防ぐには、仕事にかかる時間を正しく見積もる必要がある。仕事の見積もりは、数学のテストに例えるとわかりやすい。数学のテストは、前半に基本問題、後半に応用問題が用意されている。基本問題はただの計算なので、どれくらいで解けるのかがわかりやすい。しかし、応用問題となると、解答にかかる時間が予測しづらい。仕事が期限までに終わらない人は、この応用問題を甘く見ている。本来なら、複雑な応用問題に先に取りかかり、かかる時間を把握する必要がある。
日本人は徹夜してでもラストスパートで仕事を終わらせようとする。一方、アメリカ人は朝早くから働く。この違いに効率的な働き方のヒントが隠されている。家族を大事にしているアメリカ人は、朝7時から働きはじめ、夕方には仕事を終えて家族と過ごす。よって、必然的に生産性を上げなくてはいけない。しかし、残業が美徳とされる日本の職場では、そのような強制力がなく、プライベートより会社を重視し過ぎた挙句、仕事の生産性は落ちやすくなるのだ。

効率のカギとなる「スラック」

仕事が終わらないとき、「もっと余裕を持っておけばよかった」と考えることがある。この心理的な余裕のことを「スラック」と呼ぶ。たとえば睡眠不足の人や、仕事に不安を抱えている人は、スラックを持ちづらい。
人はスラックがない状態が続くと、みるみる生産効率が落ちていく。そして、効率的な仕事の仕方に気付かず、がむしゃらに仕事にまい進してしまうのだ。暗闇のトンネルの中を進むかのような行為は「トンネリング」と呼ばれる。トンネリングにはまると、終わりが見えない中で処理能力が落ちていくので、結果として仕事は終わらないという悪循環に陥ってしまう。ここから脱するには、心の余裕を持つことがカギとなる。

時間を制する者は、世界を制す

仕事のリスクを考えて納期を重視する

正しい時間の使い方をマスターすると、どのようなメリットが得られるのだろうか。まずは時間を上手く使いこなすことで、仕事のリスクを測定できるようになる。上司から指示された納期に間に合わないと判断すれば、すぐに報告すればよい。
また、仕事の質を追求した結果、締め切りに間に合わないとすれば本末転倒である。仕事が終わる見通しが立っていない状態で、質を高めようとするのは問題だ。なぜなら、スマートフォンのアプリがリリース後にアップデートを繰り返すのと同じように、どんなに力を注いで仕上げても最初から100%の完成度をめざすのは難しいからだ。よって、まずはクオリティが低いことよりも、締め切りを守れないことを防ぐべきである。

プロトタイプを作って全体像を把握する

プロトタイプを作って全体像を把握する

著者がマイクロソフトでWindows95の開発をしていたとき、とにかくスピードが重視されていた。当時のWindows95には3500個ものバグがあったという。しかし、予定通りに発売するため、バグを残したまま発売に至った。大規模プロジェクトの場合、バグの数はある臨界点に達すると減らないため、発売後に修正を続けるのだ。
このように、多少のバグを残したまま大枠だけ完成させたものは、「プロトタイプ(試作品)」と呼ばれる。プロトタイプは、企画を任されたときに、全体のイメージを固め、企画を通りやすくするのに役立つ。もしもプロトタイプなしに製作に取りかかると、設計上では気付かないミスが発生するかもしれない。
覚えておくべきことは、すべての仕事は必ずやり直しになるということだ。それならば、細かいことは気にせず、全体像を描いた方が無駄なプロセスを省くことができる。

誤差への対応を想像する

締め切り当日をゴールに設定する人は、土壇場で不足している部分に気付いて慌てることが多い。たとえば、プレゼン資料を作ることに集中して、資料のコピーを取り忘れるといったことだ。こうした予想外に発生する追加の仕事を、著者は「誤差」と呼ぶ。誤差のせいで仕事が完成しないこともある。
たとえば、10時に渋谷のハチ公前で待ち合わせをしたとする。著者なら、9時半には待ち合わせ場所に近いスターバックスでコーヒーを飲むという。そして、9時50分にスターバックスを出て、待ち合わせ場所へと向かう。つまり、時間に間に合わせるには、締め切りの前に締め切りを設けるべきであり、締め切り自体を狙ってはいけないのだ。

「ロケットスタート時間術」とは

スタートダッシュで、スラックを作り出す

スタートダッシュで、スラックを作り出す

著者が半生をかけて導き出した仕事の方法を「ロケットスタート時間術」と呼ぶ。ロケットスタート時間術を実践するには、安請け合いして締め切りを守れないという状況を避けるために、プロジェクトに関わる全員が、「自分のタスクを必ず期限内に終わらせる」という強い意志を持たなくてはいけない。
まずはスケジューリングの段階で、指定された期間の2割を使って仕事に全力で取り組み、全体にどれだけの時間がかかるのかを調査する。次に、仕事が終わらない原因の9割を占める「締め切り間際のラストスパート」を防ぐため、一気にスタートダッシュをかける。もしも、10日で仕上げるタスクであれば、2割に当たる2日間で8割終わらせるつもりで取り掛かるのだ。
この2割の段階で、全体の6割未満しか終わっていなかったとしたら、上司にスケジュール変更を申し出る必要がある。逆に、8割方完成していれば、上司に「予定通り10日で大丈夫」と伝えればよい。そして、残った8日間で仕事の完成度を高めていく。そうすれば心地いいスラックが生まれ、次の仕事の準備もできるだろう。

マルチタスク禁止と仮眠で効率を上げる

著者は、指定された期間の最初の2割で仕事に全力で集中するとき、マンガ『ドラゴンボール』の主人公、孫悟空の必殺技「界王拳」をイメージするという。このとき注意すべきことは、何倍の界王拳を使うのかという具体的な数字まで決めることである。たとえば、最初の2日間は20倍の界王拳をイメージして、最大の能力を発揮するのだ。
また、集中力を上げるには、マルチタスクを放棄する必要がある。マルチタスクは、仕事が進まなくなる最たる原因だからだ。たとえば、仕事中にメールに気を取られると、メインの仕事の効率が落ちてしまう。やるべき仕事は、メールを早く返すことではなく、仕事を終わらせることだ。よって、界王拳を使っているときは、メールや電話を無視し、可能な限り会議への出席も避けるのが望ましい。
さらに、脳の疲れを取るためは、適度な仮眠が効果的だ。著者曰く、眠気が残らず目覚めのよい仮眠の時間は18分だという。毎日少しずつ時間を変えながら昼寝をし、自分に合った仮眠時間を探すことを著者は薦めている。このように、ロケットスタート時間術の真髄は、高速で仕事を終わらせることではなく、「余裕」を生み出すことにある。

ロケットスタート時間術を使いこなす

長期の仕事を縦に切る

ロケットスタート時間術は、複数の仕事を同時に請け負っているときには、実行に移しづらい。そこで、ここからは、自分の抱えている仕事に合わせてカスタマイズさせる方法を紹介していく。実際には、1ヶ月や半年先に納期が設定された、長期スパンの仕事も多いだろう。その場合は、仕事を縦に切っていくことがポイントとなる。
本の編集者の仕事を例とする。文芸書などの場合、1冊を仕上げるのに1年かかることもある。まずは、原稿の執筆に5ヶ月、修正に3ヶ月、チェックや印刷工程に4ヶ月などと、1年をざっくりと3つに切り分けるのだ。さらに、それぞれの工程を、10日~2週間程度になるまで小さく縦に切り分けていき、それぞれの仕事をロケットスタート術によって終わらせていく。

複数の仕事を並行するときは、1日を横に切る

では次に、複数の仕事を並行してこなす場合、どのような時間の区切り方を考えればよいのだろうか。たとえば、本の編集者が一定期間に1冊5ヶ月程度かかる本を、3冊同時並行でつくらなければならないと仮定する。まずは、1冊を仕上げるための工程を小さく縦に分ける。その後、1日を朝・昼・夜の3つに、つまり横に切り分けるのだ。もしも1日12時間働くとしたら、4時間ごとに、1冊ずつ編集の仕事をあてはめていく。
注意すべき点は、1つの案件に取り組んでいる最中に、ほかの案件について考えないことである。マルチタスクを防ぐことで、集中力を保つのだ。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • 中島 聡(なかじま さとし)

    1960年北海道生まれ。早稲田大学高等学院、早稲田大学大学院理工学研究科修了。 高校時代からパソコン系雑誌『週刊アスキー』において記事執筆やソフトウェアの開発に携わり、大学時代には世界初のパソコン用CADソフト「CANDY」を開発。学生ながらにして1億円を超えるロイヤリティーを稼ぐ。 1985年に大学院を卒業しNTTの研究所に入所し、1986年にマイクロソフトの日本法人(マイクロソフト株式会社、MSKK)に転職。1989年には米国マイクロソフト本社に移り、Windows95、Internet Explorer3.0/4.0、Windows98のソフトウェア・アーキテクト(ソフトウェアの基本設計・設計思想〈グランドデザイン〉を生み出すプログラマー)を務め、ビル・ゲイツの薫陶を受ける。 本書は、早咲きであった著者の「時間術」をまとめたもの。学生時代から、そして米マイクロソフト本社においても、「右クリック」「ダブルクリック」「ドロップ&ドラッグ」を現在の形にするなどWindows95の基本設計を担当し、またWindows98ではOSにインターネット・ブラウザの機能を統合することで、マイクロソフトのブラウザのシェアを世界一にするなど、大きな成果を上げ続けた秘訣こそが、この「時間術」だった。 2000年に米マイクロソフトを退社し、ソフトウェア会社のUIEvolutionを設立してCEOに就任、現在に至る。人気ブログ「Life is beautiful」及びメルマガ「週刊Life is beautiful」でも有名。

  • flier

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