ストーリーは、人を動かす最良の手段–10分で読める要約「プロフェッショナルは『ストーリー』で伝える」

プレゼンの場など、ビジネスシーンでのストーリーテリングの有効性が語られてから久しいですが、皆さんは正しくストーリーテリングを活用できていますか? 今回はその正しいやり方をレクチャーした指南書を要約しました。その効果と価値を再確認できるはず。

プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える

タイトル:プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える

著者:アネット・シモンズ 著/池村 千秋 訳

ページ数:344ページ

出版社:海と月社

定価:2,592円(税込)

出版日:2012年12月03日

 

Book Review

ビジネスシーンでのストーリーテリングの有効性が説かれるようになって久しいが、スキルとして身につけている人はまだ少ないのではないか。本書は、ストーリーテリングを「人を動かすための魔法の剣」だとし、その手法を丁寧に解説した指南書である。
「ストーリー」と聞くと、その中身やインパクトが重要なように思えるが、実際はそうではない。むしろ大切なのは、自分にとってそのストーリーが「本物」であることと、そのストーリーをどのように語るかである。ストーリーを語るうえで最も恐れるべきは、聞き手に拒否反応を示されてしまうことだが、本書を読めば、その危険は極力回避できるだろう。
ストーリーを語れば、結論に至るまでの矛盾や葛藤も伝えることが可能で、事実の羅列にはない奥行きが生まれる。そのため合理的でない人間は、完全なデータよりも不完全なストーリーのほうに説得されることがままあると著者は述べる。これまでデータ集めや論拠ある説明に心を砕いてきたロジカルな人にこそ、ぜひおススメしたい1冊である。
ストーリーテリングの有効性を伝えるにも、ストーリーを語るほうが早いかもしれない。事実のみを突きつけて意見を変えるように迫るのが「北風」なら、温かなストーリーを語り、自発的に意見を変えさせるのはまさに「太陽」のやり方だ。「北風と太陽」の結末を知っている人なら、ストーリーテリングの価値をきっと理解できるに違いない。

ストーリーは、人を動かす最良の手段である

はじめの一歩は、信用を勝ち取ること

はじめの一歩は、信用を勝ち取ること

偉大なリーダーはみな、人を鼓舞し、自ら行動を起こさせるためにはストーリーの力が不可欠だと知っている。人を動かすのに必要なのは、客観的な事実やデータではなく、信用だ。ストーリーは、聞き手の信用を勝ち取るための手段となる。
人を動かすときに役立つのは、次の6つのストーリーである。
(1)「私は何者か」というストーリー
(2)「私はなぜこの場にいるのか」というストーリー
(3)ビジョンを伝えるストーリー
(4)スキルを教えるストーリー
(5)価値観を具体化するストーリー
(6)「あなたの言いたいことはわかっている」というストーリー
相手の信用を得て、話に耳を傾けてもらうには、(1)と(2)のストーリーを省略してはいけない。人はカモにされまいといつも身構えているため、まずはその警戒を解く必要があるからだ。「私は何者か」を語ることで相手との結びつきを確立し、「警戒すべき人」から「よく知っている人」に昇格しよう。私的なエピソードや自分の弱みなど、人柄が伝わるようなストーリーを語れば、相手は心を開いてくれる。
さらに、「なぜこの場にいるのか」を語ることで、聞き手から不当な搾取をするつもりはないことを伝えるべきだ。実は聞き手は、語り手が利己的な目的を持っていてもあまり気にしないものだ。嘘をついて私利私欲を隠すくらいなら、堂々と公開してしまったほうがよい。大切なのは、その動機が邪なものでなく健全であると示すことと、相手に敬意をもって語り掛けることである。
誰でも人を疑うよりは信用したいものだ。ストーリーを使って、語り手を信じるための材料を伝えよう。

聞き手のメリットを提示する

語り手の人柄と目的を知って安心したところで、ようやく聞き手は本題を受け入れる準備が整う。「(3)ビジョンを伝えるストーリー」は、キング牧師の「アイ・ハブ・ア・ドリーム」に代表されるように、大仰なものになりがちだ。しかし、文字にすると白々しくなってしまいそうでも、実際に口で語れば、大きな感動を生むことができる。「自己陶酔的だ」と思われるのを恐れずに語る勇気が肝要となる。
「(4)スキルを教えるストーリー」は、技能を授ける際の時間を短縮するのに役立つ。ストーリーを用いれば、相手に「なにを」するのかだけでなく、「なぜ」「どのように」それをするのかを学ばせられる。表計算ソフトを覚えさせたいなら、どこをクリックするかを教えるよりも、テンプレートを作ったことでどれだけ業務が改善したかのエピソードを語り、スキルを獲得する意義を実感させるほうが効果的である。
「(5)価値観を具体化するストーリー」は、「誠実」「仕事を楽しむ」といった「お題目」になってしまいがちな理念を、聞き手自身のものにすることが可能だ。「(6)『あなたの言いたいことはわかっている』というストーリー」は、聞き手の反論をあらかじめ予想した上で、それを穏やかに切り崩すのに有効である。

ストーリーにできて事実にできないこと

裸の真実に服を着せる

ストーリーを語ることは、そのままでは受け入れられにくい真実に服を着せる役割を果たす。「いつ」「誰が」「どこで」といった文脈が加わることで、事実は究極の真理となる。「部下を批判することは避けるべきだ」という結論を伝えるだけでは、聞き手は反発するかもしれない。だが、「馬を前に進ませようとして激しく鞭打つ男は、じきに自分の足で歩く羽目になる」という格言を語ればどうだろうか。聞き手はおのずと自分の状況に置き換えてストーリーを解釈し、こちらの伝えたいことを悟ってくれるだろう。

ストーリーは相手の中で育つ

もちろんストーリー以外にも人を動かす手段はいくつもある。報酬や美辞麗句、強制などはストレートすぎて、相手の抵抗を受ける可能性が高い。その点ストーリーは相手に強要するようなことはなく、一度受け入れられれば、相手の頭の中でどんどん育っていく。
実際、人の行動を動かしたいと思っても、相手が実際に行動する場面すべてに立ち会って指図できるわけではない。しかしそのストーリーがきちんと受け入れられていれば、必要な場面で相手の脳の中で自然に再生されて、語り手の意図に沿った行動をとってくれるようになるだろう。

ストーリーは相手の思考の流れを司る

事実だけを伝えるということは、箱庭の中に石だけを配置して、水を流すようなものだ。頭(箱庭)の中に事実(石)を収めることはできるが、相手の思考(水)が事実を通って進むかどうかは、偶然に委ねられてしまう。ストーリーは、石と石とをつなぐ仕切り板の役割を果たす。仕切り板があれば、伝えたい事実すべてに順序立てて到達できるように、相手の思考を誘導できるというわけだ。

ストーリーの語り方

言葉以外の要素に気を配る

ストーリーを語る際には、一貫したメッセージを打ち出すことが重要だ。おどおどした態度で勇気について話しても、説得力は得られない。話している最中に態度にまで気を配るのはほぼ不可能に近いため、あらかじめ練習しておく必要があるだろう。
実際、相手に伝わるメッセージの85%は、言葉以外の要素である。表情や姿勢、声のトーンといった要素に磨きをかけて、発するメッセージの精度を上げよう。

ジェスチャー・表情

ジェスチャー・表情

ほどよいジェスチャーは、相手の脳内に絵を描くことができる。まずは自分の頭の中に物語の情景を思い浮かべ、それを指さしたり、自分がその場面にいるかのように振る舞ったりするとよい。自分でその情景が「見えて」いれば、自然に手を動かせるはずだ。
また、感情を伝えるための強力な武器となるのが表情だ。表情を活用すれば、くどくどと言葉で語ることなく、一瞬で意思を伝達できる。
しかし表情は、本来隠しておきたい感情まで相手に伝えてしまう。語り手が内心怒っていたり、意気消沈したりしていたら、いくら言葉で取り繕っても、表情に現れてしまうだろう。そのため挫折感や無力感は、ストーリーを語るうえでの最大の障害となる。
だから自分自身が悲観的なときは、無理に相手を鼓舞するようなストーリーを語ろうとはせず、まず自分自身を鼓舞することが大切だ。俳優は喜びの表情を浮かべるときに、筋肉の動きを意識したりはせず、喜びの感情で自身を満たすことを考える。ストーリーテラーも、その能力を身につけるべきだ。

ストーリーを疑似体験させる

上手な語り手は、本筋と関係ない枝葉の部分を軽視することはない。一見無関係に感じられる部分には主観的・感情的要素が込められており、具体的に語れば語るほど、ストーリーの魅力が上がるからだ。
人を動かすには、論理的・理性的な思考よりも、感情に訴えかけるほうが効果的である。音やにおい、味までも伝わるように、自分の体験を細部まで表現しよう。語り手がそのエピソードを経験したときに苛立ちを感じたのであれば、聞き手にもその苛立ちを感じさせるとよい。ボディランゲージや、沈黙と発声のタイミングを意識すれば、それが可能になる。

「本物」のストーリーを語ろう

ストーリーを語る際には、語り方が不自然にならないことが極めて重要である。不自然な声のトーンや芝居のようなジェスチャーは、嘘っぽく、あるいは物欲しげに見えてしまう危険性がある。人を動かしたいと思うばかりに一心不乱になりすぎると、聞き手は「必死さ」のにおいを嗅ぎ取り、不安を感じるようになる。
もし必死な話し方になってしまうとしたら、語り手自身の不安や懐疑が表れたり、それを取り繕おうとしたりするからだ。語り手は「本物」のストーリーを語るべきである。人の感情や態度を良いほうに動かしたいと思うなら、まずは自分の感情や態度を好ましい状態にし、それがストーリーを通して相手に伝播されるのが理想的である。

反対派をどう動かすか

相手を「悪」と決めつけない

相手を「悪」と決めつけない

聞き手に新しい視点を提示する際には、反対や抵抗を受けることもあるだろう。ストーリーの優れた点は、段階を追って新たな考え方に誘導できるので、抵抗を受けにくくなることだ。
しかし中には、動かしにくい「反対派」も存在するに違いない。しかし、自分は正しく、相手は間違っていると考えるのは望ましくない。そうした前提に立つと、語り方は自然と説教臭くなり、相手に対する否定的な感情が漏れ出てしまう。そうなってしまうと、話を聞いてもらうことは不可能となる。
対立する意見であっても、お互い、初めは崇高な動機から出発していることが多いものだ。論破しよう、恥をかかせてやろうと思うのではなく、相手の中に善良な感情があると信じ、それを呼び覚まそうという姿勢で語りかけよう。

相手のストーリーに耳を傾けよう

ストーリーに抵抗を示す人々が示す典型的反応は、「懐疑」「憤怒」「嫉妬」「無力感」「無関心」「強欲」の6つだ。こうした反応を示す人々に態度を改めてもらうには、相手の共感を勝ち取り、協力してもらえるようにしなくてはならない。「懐疑」には「証拠」、「無力感」には「希望」をというように、相手の心情に沿ったストーリーを選んで語るとよいだろう。
また、否定的な感情を拭い去り、新しいストーリーを受け入れさせるためには、相手に既存のストーリーを捨て去ってもらう必要がある。古い考えを取り除かずに新しい考え方を植え付けても、メッキのようにすぐ剥げてしまうだろう。
新しい価値観を入れるスペースを作るには、相手の価値観を吐き出してもらい、それをじっくりと聞くことが有効だ。ここで「聞く」とは、うわべだけ聞いたつもりになったり、「傾聴」のテクニックだけを用いたりすることではない。親身になって、真剣に耳を傾けることである。話を聞いてもらえたという満足感から、それだけで相手が態度を変える可能性もあるし、相手がどうしてそういう風に考えるようになったのかを理解すれば、語るべきストーリーが見つかるはずだ。セラピストになったつもりで、適切な質問を投げかけよう。
人はみな、「関心を払われたい」という欲求を持っている。「聞く」という行為は、相手への関心を端的に示す手段だ。聞く行為によって人々の間の断絶は結びつきに代わり、仲間意識が生まれる。そうすれば、人を動かせるようになる確率は飛躍的に向上するだろう。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • アネット・シモンズ

    マイクロソフト、IBM、NASAなどを顧客に持つコンサルティング会社、グループ・プロセス・コンサルティングの創業者。
    さまざまな組織に、いかにコラボレーションを活性化させるかを指導する一方、ビジネスシーンにおけるストーリーテリングの第一人者として、講演でも活躍。著書に『感動を売りなさい』(幸福の科学出版)、『テリトリー・ゲーム』(トッパン)などがある。

  • flier

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