なぜ彼らは、「新たな価値」を生み出すことができたのか?田原総一朗が対談で切り込む

各分野で第一線をひた走る若き起業家に、ジャーナリストの巨匠、田原総一朗。そんな彼が独自の視点で切り込む対談集を10分で読める内容に要約しました。「新しい価値」を生み出してきた先駆者たちの生き方や、挑戦へと駆り立てる原動力を解き明かしていく一冊です。

「稼ぎ方」の教科書

タイトル:「稼ぎ方」の教科書

著者:田原 総一朗

ページ数:264ページ

出版社:実務教育出版

定価:1,620円(税込)

出版日:2016年09月10日

 

Book Review

各分野で第一線をひた走る若き起業家に、ジャーナリストの巨匠、田原総一朗が独自の視点で切り込む対談集が登場した。読者の「そこをもっと詳しく聞きたい」というポイントを逃さず、細部にわたって掘り下げていく模様は読者の期待を裏切らない。
本書は必ずしも「いかに稼ぐか」というテーマのみにフォーカスしているわけではなく、「新しい価値」を生み出してきた先駆者たちの生き方や、挑戦へと駆り立てる原動力を解き明かしていく内容となっている。登場する若き起業家8人は、出自や活動のフィールドがてんでバラバラであるものの、全員に共通する点が3つあるように思われた。
1つ目は「失敗を恐れず、とにかくやってみる」こと。2つ目は「自分の中にある『やりたい』という気持ちに正直に行動する」こと。そして3つ目が「ものごとを見る目が卓越している」ことである。1つ目と2つ目に関して言えば、この8人はさまざまな失敗を積み重ねた上で確固たる実績を築いている。何度失敗しようとも、自分の気持ちに素直に従って果敢に挑戦を続ける。その姿勢が、常人と彼らを分かつ一番の違いだといえる。
こうした姿勢を持つ人にさらに備わると無敵さを増すのが3つ目の力だ。ここで言う「ものごと」とは、時代の潮目や相手の出方、市場の動向などを指す。本書に登場する8人は、機を敏感に察知し、一緒に事業を進めていく仲間とうまくつながっている。時代を切り拓く勇気を得たい方にぜひともお読みいただきたい一冊だ。

面白法人カヤック代表取締役CEO 柳澤 大輔氏

言葉が会社の風土や社員の意識をつくる

言葉が会社の風土や社員の意識をつくる

柳澤 大輔(やなさわ だいすけ)氏は大学時代の友人2人とともにカヤックを立ち上げた。大学在学時から起業の約束をしていたというが、実際に起業したのは、大学卒業後数年が経ってからだ。三者三様の道に進んで、そこで得た経験を持ち寄る方が面白いものをつくれると思ったからだという。
カヤックの「面白法人」という言葉の狙いは何か。柳澤氏によると、言葉は会社の風土や社員の意識をつくるため、社員一人ひとりが面白法人という名称に応えていこうとするのではないかという期待が込められているという。また、カヤックでは、会社が大事にしたい風土を醸成していくために、代表取締役の1人がCBO(Chief Branding Officer)という役職を担っている。社内コミュニケーションを盛り上げて、チームワークを良くするという仕事である。こうした点からも、カヤックがいかに面白い組織をつくることに力を入れているかがわかるだろう。

「つくる脳」は訓練で手に入る

「つくる人を増やす」というのがカヤックの経営理念だ。創業者の3人は会社をやりたいと思って経営しているため、もちろん面白さを感じているが、社員は必ずしもそうとはかぎらない。だからこそ、社員が面白さを感じるには、一人ひとりがどれだけ会社に主体的に参画できるかが重要になってくる。社員の主体性を促すために、あらゆる情報をオープンにし、提案もいつでも歓迎している。
これにくわえて、カヤックの社員全員が夢を持って行動できている秘訣は、「つくる脳」をトレーニングで身につけていることだという。つくる脳とは、「自分がつくっているのだから」と、自分を動かしていける脳を指す。カヤックではブレインストーミングを徹底的に行うことで、批判ではなく対案を生み出せるような「つくる脳」を鍛えていく。会社で起こった問題に対して、どうやったらよくなるか、自分ならどのように解決するか。こうした点を、当事者意識を持って常に考える中で、自分のやりたいことが見つかっていくのだ。

面白い評価方法が面白い会社を支える

カヤックの社員が「楽しく働く」を体現できている背景には、「サイコロ給」や「スマイル給」といったユニークな評価方法がある。サイコロ給は、電子のサイコロを振り、出た目に応じて報酬の一部を決める評価方法である。このスタイルを始めたきっかけは、起業をした際にお金のことでもめないようにするための工夫として、人の力が及ばないサイコロを取り入れたことだという。
サイコロ給を取り入れて数年後、柳澤氏はサイコロ給が別の意味合いを持つことに気がついた。完全に運任せのサイコロを使うことは、「人の評価を気にしすぎているとおもしろく働けない」、「おもしろく働くことを重視している会社」という社内外へのメッセージにもなる。それが結果的に会社の文化をつくることになる。また、これまで失敗した事業をホームページに掲載し、失敗しても挑戦したことを評価するのも、カヤックのユニークな特徴である。
このようなさまざまな工夫が、社員が毎日行きたくなるようなおもしろく楽しい会社を支えていると言えるだろう。

バルミューダ株式会社代表取締役社長 寺尾 玄氏

素人だからできる、本当に必要とされるものづくり

「グリーンファン」という名の扇風機をご存知だろうか。シンプルで洗練されたデザインとこだわり抜かれた機能で有名なバルミューダの代表的な製品である。バルミューダ製品は見た目がシンプルなこともあり、外国のメーカーだと思われがちだが、現代表取締役社長の寺尾 玄(てらお げん)氏がゼロから立ち上げた正真正銘の日本企業である。しかも、バルミューダを創業するまでものづくり経験はゼロだという。
寺尾氏は異色の経歴の持ち主である。高校を中退し、17歳でスペインやモロッコなどの地中海沿岸を放浪する旅へ出た。9カ月の旅から帰国した後は、それまでまったく経験のなかったロックの世界へと足を踏み入れ、デビュー手前までこぎつける。しかし大手レーベルとの契約破棄後、今度は心機一転、ものづくりを志し、バルミューダの前身「バルミューダデザイン」を創業した。はやりのITではなく、あえてものづくりの方向に進んだのは、どんなにソフトを磨いても「人間はハードウェアなしには生きていけない」と考えたからだという。

従来の扇風機の10倍の価格でも爆発的に売れた理由

グリーンファンは36,000円で売られている。一般的な扇風機の10倍ほどの価格にもかかわらず、発売当初から売れに売れているという。いったい何が普通の扇風機とちがうのか。
通常の扇風機が出す風は、当たり続けていると疲れてしまう。そのため多くの人は扇風機の首を振って利用している。しかし、これでは涼しい風がやってくるのは一瞬だけで、すぐに涼しくなくなってしまう。では、ずっと当たっていても気持ちよい自然の風を再現できたらどうか。こうしたアイデアを、特殊な二重構造の羽根で実現した発明品がグリーンファンだ。
グリーンファンの価格は、風が違うことにくわえて、消費電力が従来の扇風機と比べて10分の1で済むという省エネぶりと、優れた静音性をトータルで表現したものである。価格ではなく品質で勝負したことが、コモディティ化の進んだ市場で消費者に良いインパクトを与え、本来の価値が評価された。このように寺尾氏は勝因を分析する。
長らく大きな変化がなかった扇風機市場に、寺尾氏はまったく新しい発想で価値をもたらした。寺尾氏は、それができたのは素人だからこそだという。流体力学やエネルギー効率を考えるという発想もない。しかし、人が必要としているものについてとことん考えた結果、画期的な製品を発明できた。

可能性は常に無限大

寺尾氏がもっとも大切にしているのが、自身の持っている「可能性」だという。高校を中退して放浪の旅に出たのも、将来の進路を決めてしまうのがもったいないと感じたからだという。その後ロックミュージシャンをめざしたのも、可能性があると思ったためだ。
そんな寺尾氏は、バルミューダを家電メーカーとは規定していないと語る。家電メーカーという枠に入れてしまうのは、自分たちの可能性を否定することに他ならないからだ。
また寺尾氏はもの自体ではなく、それを使う人の人生に興味があるという。どんなものも最終的にはそれを使う人の人生をよくするためにある。だからこそ、人の人生を豊かにするという視点で、寺尾氏はこれからも可能性をせばめずに、ものづくりを続けていくのだろう。

社会起業家 牧浦 土雅氏

常にチャレンジングな環境へ

常にチャレンジングな環境へ

牧浦 土雅(まきうら どが)氏ほどエネルギーあふれる若者は、日本では数少ないと言ってよい。弱冠13歳で中学を離れて、単身イギリスに渡り、現地のボーディングスクールに入学。イギリスで3年、スコットランドで2年過ごした後に帰国し、通っていた中学校の校長を介して知り合った社会起業家、税所 篤快(さいしょ あつよし)のプロジェクトに参加し、今度はルワンダに渡った。
ルワンダで2年間活動した後は、タイでデータ関連事業などに挑み、2015年現在はインドネシアを拠点に、輸送用ドローンを使った新事業を進めている。20代前半の若さでこれだけのキャリアを積んできたとは驚異的だ。そんな牧浦氏のルーツとも言えるルワンダでの活動について紹介したい。

マイナスの状況から信用を得て、仲間を増やす

ルワンダで取り組んだのは、e-Educationという途上国の学習支援プロジェクトである。都市部と農村部の教育格差を埋めるために、ルワンダの最高の先生の授業をDVDに焼き、それを農村部に配布する活動だ。
牧浦氏はとにかく人を巻き込むのがうまい。小さく行動して信用を得て、仲間になってもらい、さらに大きな活動を行う。ビジネスで言うところのPDCAサイクルを自然に回しているのだ。
たとえば、最高の先生の授業を撮影するためにはまず最高の先生を見つけなければならない。しかし、異国の地で右も左もわからない状態で、それを見つけるのは至難の業だ。そこで、牧浦氏は国立大学で一番のルワンダ大学に行き、自分のやろうとしていることを話し、共感してくれる人たちでチームを作るという並々ならぬ巻き込み力を発揮した。
また、政府に活動の許可を取りに行ったときのことだ。当時訳あってe-Educationの活動が政府に目をつけられていたため、団体の名前を伏せて別のアプローチをする必要があった。そこで牧浦氏は、日本からルワンダの教育を調査しにきたリサーチャーという体で政府関係者に会った。他の国で成功したモデルの実験をさせてほしいと説得し、信用を得ることに成功した。交渉の肝は、「日本人である」という希少性を最大限生かすことだという。

ルワンダの食糧問題に「巻き込み力」で立ち向かう

ルワンダでは、食糧問題の解決に向けた活動にも取り組んだ。ある日たまたま農村部を訪ねていた牧浦氏は、大量のトウモロコシが積み上げられているのを目にする。それは去年の余りものの農作物で、輸送チャネルがないために販売ができずに、積み上げておくしかないものだという。
一方で牧浦氏は、隣国コンゴから流入してきた難民たちの食糧が不足していることを別の機会に耳にする。そこでピンときた牧浦氏は、国連職員にその状況を話し、農家のトウモロコシを買い取って難民キャンプに届けられないか提案する。しかし、国連職員は難民のマネジメントで手一杯だった。そのため、牧浦氏が自らトラックを運転してトウモロコシを輸送することに決めた。この行動を機に、「もっと広範囲にやってほしい」という国連からの要請で合弁ベンチャーを設立することになり、結果的にかなりの雇用を生み出す事業となったのだ。
このように牧浦氏は、フットワーク軽くアイデアを形にしていく中で、人々の信頼を勝ち取り、人々を仲間にしていくプロだ。彼がこの若さでこれほどの実績を築いてこれたのも、巻き込み力の高さがあってのことだろう。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • 田原 総一朗(たはら そういちろう)

    1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年にフリー。以後、テレビ、ラジオ、雑誌、ネットなど様々なメディアで活躍。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。現在、早稲田大学特命教授として大学院で講義をするほか、「大隈塾」塾頭も務め、『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会などテレビ・ラジオに多数出演している。 『日本の戦争』(小学館)、『塀の上を走れ 田原総一朗自伝』(講談社)、『起業のリアル』(プレジデント社)など、多数の著書がある。

  • flier

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