人気クリエイターが実践する、成果を10倍にするメモの書き方

人気クリエイターの佐藤ねじ氏。クリエイターと聞くと天才肌を想像するが、彼はコツコツと努力を繰り返し、「天才クリエイター」に成りえたという。そんな努力家にスポットを当てた一冊を、本記事では10分で読める内容に要約。彼の成長の歴史を覗ける内容です。

超ノート術 成果を10倍にするメモの書き方

タイトル:超ノート術 成果を10倍にするメモの書き方

著者:佐藤 ねじ

ページ数:200ページ

出版社:日経BP社

定価:1,512円(税込)

出版日:2016年10月18日

 

Book Review

「今をときめく人気クリエイター」と聞くと、生まれながらに優れたアイデアが浮かんでくる「天才肌」というイメージを持つ人が多いのではないだろうか。しかし、本書はそんなイメージを見事に覆してくれる。努力によって、自分らしさが発揮され、周囲から高く評価される企画を次々に編み出していく。そんな「コツコツ派」クリエイター佐藤 ねじ氏のノート術の全貌をお見せする一冊だ。
著者は、文化庁メディア芸術祭、Yahoo!クリエイティブアワードなどの栄えある賞を受賞し、面白法人カヤックでアートディレクターとして活躍してきた人気クリエイターである。そんな彼も、仕事を始めて数年間はなかなか企画がヒットせず伸び悩んでいたという。天才肌の人たちが、突然ずば抜けた成果を出してしまうのを尻目に、自称メモ魔の著者は、ノートの使い方の試行錯誤を重ねた。飲み会や散歩中もペンを走らせ、メモをもとにアイデアを磨き、選りすぐりだけの「1軍ノート」に書き写し、企画へと昇華させる。そうするうちに、ヒットを連発できるようになったという。
本書の魅力の一つは何と言っても、著者の過去のノートや作品の写真、イラストが所狭しと並んでいることだ。これらをパラパラとめくるだけでもインスピレーションが湧いてきて、自分オリジナルノートをつくりたくなるだろう。イノベーティブなアイデアで周囲から注目されたい。そんな願いをかなえてくれる、1軍ノートという武器を手に入れていただきたい。

手書きメモからヒットを生み出す

コツコツ派が生み出したノート術

コツコツ派が生み出したノート術

社会人になると、下調べや勉強もほとんどせず成果をいきなり出す「天才肌」の人に出会ったことはないだろうか。天才肌とは正反対の「コツコツ派」である著者は、コツコツとメモを取り、発想法に関する本を読みあさった。そして、自分なりにアイデアを出す方法を試行錯誤し、独自のノート活用術を生み出した。
著者は打合せや会議以外でも、映画を観たり本や漫画を読んだりしたとき、さらには飲み会でも面白いことを耳にしたらメモをするという。一貫しているのは、「企画を考えるときの参考にする」というように、メモを何に活かすのかを決めているという点だ。アウトプットの目的を具体化し、興味があるものを書き留めていく。そうすれば、メモを見返すのがラクになり、メモの中から自分の好みのパターンが把握できる。これがオリジナリティある企画づくりの源になっている。

選りすぐりのネタを1軍ノートに集める

著者のノート活用術は、次の3つのステップから成り立っている。「毎日コツコツと、気になったことをノートにメモする」、「その中から、選りすぐりのメモだけを特別なノートに書き写す」、「選ばれたメモを頻繁に見返し、アウトプットに活用する」の3つだ。
このステップのヒントは、博報堂ケトルのクリエイティブディレクター、嶋浩一郎氏の本にあった。嶋氏は、普段のメモを取るノートを「2軍ノート」と呼び、一方、その中から選りすぐりの面白いトピックスだけを「1軍ノート」にまとめて、企画のネタとして活用しているという。2軍というネーミングによって、心理的ハードルが下がり、気軽に書き込めるようになる。
これを取り入れた著者は、2軍ノートから1軍ノートに書き写すときに、一工夫加えている。そこに書かれている内容を膨らませて、より面白くなるよう、さらに思いついたアイデアを追加するのだ。例えば「別の何かと組み合わせると……」、「違うシチュエーションに転用すると……」というように。
また、著者はイラストをつけることで、アイデアをカタログ化している。文字だけでもよいし、グラフィックデザインの仕事をしている人なら、印刷物を1軍ノートに貼って、ビジュアルメインにするのもよいだろう。折に触れてページをめくるだけで、インスピレーションが湧くにちがいない。

ツイッター公開で大ヒットした「レシートレター」

何気ないメモから著者が大ヒットを生み出した例として、「レシートレター」が挙げられる。購入した内容や金額などを示すだけの紙なのに、この一枚から浮気が発覚するなど、強烈なメッセージを放つレシート。このメッセージ性を活かして、妻への感謝の気持ちを伝える手紙をつくれば面白い、と1軍ノートにアイデアをしたためていた。
実際に作品化する際は、レシートの文字を「イツモ料理ツクッテクレテ、アリガトウ」のように変え、金額についても、アリガトウのところには39円と記載するなど、本物さながらのレシートをつくった。これを見つけた著者の妻が写真つきでツイッターにアップしたところ、4万リツイートを超えた。アップ日はちょうど11月22日で「いい夫婦」の日だった。このエピソードはテレビ番組などさまざまなメディアで紹介されるほどの反響を得た。このようにノート術を活用することで、著者は安定してヒットを出せるようになり、人生が変わったという。

2軍ノートに「種」を集める

手書きメモとデジタルメモ

2軍ノートとして、著者はツバメノートの横罫線を使っている。ポイントは、ページの上から5センチほどのところに横線を引き、上部にページ全体のサマリーとして「このノートで残したいものベスト3」をまとめている点である。これで振り返りがぐっとラクになるという。
そして、ページの真ん中に縦の線を引き、左側に事実や打合せの議事録などを記し、右側にはそれに対する考察や、思いついたアイデア、疑問を書いていく。また、強調したいところに「青」、のちに企画の参考になりそうな面白いところに「ピンク」、やるべきことに「黄緑」の色ペンでチェックをつけている。そのうえで、ピンクのしるしをつけた箇所から「これぞ」と思ったものを、1軍ノートに書き写す。このように、手書きメモのメリットは、情報に強弱をつけられるところだといえる。
一方、デジタルでメモを取る場合には、写真を撮ったら、そこにメモを追記できるというメリットもある。スマートフォンの写真メモを、エバーノートで管理すれば、検索も可能だ。手書きとデジタルを使い分けることがポイントとなる。

アイデアの種はとにかく書き留めておく

雑誌、本、映画、雑談など、あらゆるものに面白いアイデアの「種」が眠っている。慣れてくると常に頭が面白いものを探すモードになり、種が蓄積されていく。そして、いざ何かのテーマでコンテンツをつくる段になったとき、種をいかにたくさんストックしておくかが成功のカギとなる。2軍ノートに書かれている種の数を増やすことが、1軍ノートの質の向上につながる。
また、ノート術は仕事だけでなくプライベートにも応用できる。著者は毎朝、カフェでコーヒーを飲みながら、頭の中をメモに吐き出しており、これを「朝メモ」と呼んでいる。このとき公私混同でメモを取るのが効果的だ。見落としていたタスクやアイデアを改めて発見することができ、頭のデトックス効果も期待できる。

1軍ノートをつくる

書き写すことで得られるメリット

2軍ノートから、選りすぐりの内容に絞った1軍ノートにどれを書き写すかという判断基準は人によって異なる。デジタルコンテンツの企画や提案の機会が多い著者は、「アウトプットとしてイメージできるかどうか」を基準にしている。もし客先でのトークを磨くという目的意識を持った営業職の人ならば、「お客さんの前で、この話をして相手の心に刺さるかどうか」を基準にするとよい。
また、紙のノートが持つ最大のメリットは、「モノとしての存在感」である。1軍ノートは、普段2軍ノートとして使っているものよりも高級なものを使えば、持っているだけで嬉しくなる。
さらには、1軍ノートに書き写すというプロセスを通じて、学習効果も期待できる。書いて、読み返す中で、内容が記憶に定着していくからだ。自分のために「これだけは押さえておきたい」という内容をカスタマイズしていくため、より自分らしい一冊ができる。すると、自分の考え方の傾向や好みがわかるので、「こういう方向性なら自分はいいものがつくれる」というポイントがつかめてくる。こうして自分らしさに着目することが、長期的にアウトプットのレベルを上げてくれる。

思い込みを覆すのがヒットのカギ

ではヒットする企画の芽はどこにあるのか。著者は「◯◯はこういうもの」という思い込みが覆されたときに驚き、感心する。こうしたコンテンツをつくるには、世の中の当たり前に気づく必要がある。
著者は面白法人カヤックに在籍していたとき、貞子3D2 スマ4D公式アプリをつくり、新しい映画体験を可能にした。映画本編を観終わったあとに、貞子からスマホに電話がかかってくるという仕掛けがなされており、一家が騒然となったという声もあった。話題を引き起こせたのは、映画は上映時間が過ぎれば終わるものという思い込みを覆したことにある。

発想法を徹底活用

発想法を徹底活用

著者は発想法オタクであり、発想法を駆使してアイデアに磨きをかけている。例えば頭の中の思考を可視化するマインドマップや、複数人でアイデアを出し合うブレインストーミング、3×3のマスを用意し、中央に単語を入れ、そこから連想する単語を8マスに入れていくことでアイデアを整理するマンダラートなどである。
1軍ノートに収めた珠玉のメモたちは、アウトプットしてはじめて真価を発揮する。アウトプットの回数を増やすことの意義はいくら強調してもしすぎることはない。アウトプットを増やして、失敗を重ね、フィードバックの機会を増やせば、成長スピードが一気に上がるからだ。
その一環として著者は、ブログにアイデアを掲載し続けている。個人の作品であっても、そこから商品化してほしいなどという反響があり、ニュースになることも数知れない。

アイデアを転がし、アウトプットを増やす

原体験から、自分らしさを追求する

自分のつくった作品や提案が褒められるといった、アウトプットに対する原体験は何かを生み出すための原動力となる。この原体験を探ることが、自分らしさを仕事以外で追求するのに役立つ。
著者は美大にいた頃、オブジェや装置を使って場所や空間を作品とする表現手法、インスタレーションを学んでいた。社会人になって10年以上たってからインスタレーションに取り組むと、自分らしさが凝縮された作品ができたという。
その例は、街に落ちていたビニール傘や空き缶などの、さまざまなゴミにイルミネーションをつけた「きれいなゴミ」である。通常のイルミネーションでは、巻かれている木は枯れ木であることが多い。それならばゴミも光らせればきれいではないかという発想によるものだ。このように、原体験をもとにアウトプットの回数を増やす中で、独自性の高い企画を立てられるようになる。

2軍ノートの種をどうやって1軍ノート入りさせるのか?

2軍ノートに書かれた「種」をうまく転がし、1軍ノートに書くべきネタに昇華されるためのテクニックを、具体例とともに紹介する。
あるとき著者はオーストラリアで「事故車ばかりを展示しているショールームができた」というニュースを聞きつけた。「ショールームに並んでいるのは新車」という思い込みを覆し、驚きを生んだ。この事例を2軍ノートに書いた著者は、まず「事故車」と「ショールーム」に要素を分解し、それぞれの言葉から発想を広げていった。「事故車」は「欠損を抱えたネガティブなもの」で、「ショールーム」はポジティブなものを展示するという意味合いを持つ。つまり、この組み合わせの本質は「後ろ向きなものを前向きにとられて展示する」というものだ。この本質をパクって、「欠損」からケガや失恋、iPhoneのひび割れといった単語を書いていく。こうして、「iPhone画面の美しいひび割れ選手権」という企画が生まれ、1軍ノート入りを果たした。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • 佐藤 ねじ(さとう ねじ)

    株式会社ブルーパドル代表。アートディレクター/プランナー。
    1982年生まれ。愛知県出身。名古屋芸術大学デザイン科卒業。デザイン事務所を経て、2010年に面白法人カヤック入社。2016年7月に独立し、株式会社ブルーパドルを設立。デジタルコンテンツの企画・デザイン・PRを仕事にしつつ、「空いてる土俵」を探すというスタイルで、様々なジャンルの「ブルーパドル」を発見することを使命としている。代表作に『ハイブリッド黒板アプリKocri』『貞子3D2 スマ4D』『しゃべる名刺』『Sound of TapBoard』など。文化庁メディア芸術祭、Yahoo!インターネットクリエイティブアワード、グッドデザイン・ベスト100など受賞多数。

  • flier

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