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「人生100年時代」のお金とキャリアの不安はどうしたらなくなる?

「AIによって仕事が奪われる」「将来年金がもらえなくなる」。こうした不安を煽るような言葉を目にすることが増えて久しい。そんな仕事とお金に関する漠然とした不安を、日本の政策ブレーンである経済学者の竹中平蔵氏と、ビジネス界きっての教養人の出口治明氏が対談で解き明かす!

人生100年時代のお金の不安がなくなる話

タイトル:人生100年時代のお金の不安がなくなる話

著者: 竹中 平蔵、出口 治明

ページ数:224ページ

出版社:SBクリエイティブ

定価:864円

出版日:2017年09月15日

Book Review

「AIによって仕事が奪われる」「将来年金がもらえなくなる」。こうした不安を煽るような言葉を、ビジネス書やニュースで目にすることが増えて久しい。ただ、実際には、単なる商品やサービスの販売促進の文言に使われていることも多い。具体的に何をしたらいいのかが分からず、将来への不安を漠然と抱いている方もいるだろう。
老後破産、年金崩壊、AI・IT革命、貧困、超高齢化、人口減少。本書では、こうした喫緊のトピックについて、知の巨人の二人が対談し、問題の本質をあぶり出していく。著者は、日本の政策ブレーンである経済学者の竹中平蔵氏と、ビジネス界きっての教養人の出口治明氏だ。二人の提示する解決策は、本書の「川を上れ、海を渡れ」の言葉通り、歴史を遡って得た教訓と海外の事例という、古今東西の英知に裏打ちされている。問題の本質と解決策が明らかになると、読者は、情報不足によって不安をかきたてられていたことに気づくだろう。また、一見すると突飛なアイデアも、二人の手にかかれば、私たちの生活を豊かにする理にかなった方法だと合点がいく。
年金制度の改革や社会の構造改革など、国レベルでの政策も大事だ。しかし、それよりも私たち一人ひとりが自身の人生の在り方を問うことのほうが重要だと、二人は強調している。今後のキャリアについて悩んでいる方や老後の生活に不安を抱いている方に、ぜひともお読みいただきたい一冊だ。

今、時代はどう動いているのか

革命の時代

革命の時代

竹中氏は、現在は技術革新に裏付けられた「革命の時代」であるという。18世紀の産業革命が人類の生活を一変したように、グローバリゼーションとデジタル技術よって社会的なインフラが変わり始めている。
例えば経済では、ソーシャル・ネットワーキング業という新しいビジネスが生まれている。その中でも、シェアリング・エコノミーやフィンテックは新しいインフラといえる。
まず、シェアリング・エコノミーとは、モノやサービスなどの交換・共有によって成り立つ経済分野のことだ。例えばUber(ウーバー)やAirbnb(エア・ビー・アンド・ビー)などが注目されている。Uberは、スマートフォン経由で一般人が自分の空き時間と自家用車を使い、ドライバーとしてサービスを提供できる。
また、Airbnbは、空いている部屋や家を貸したい人と借りたい人とのマッチングサービスとして、世界中で広がっている。これまでは、旅館やホテル、タクシーなどの社会的なインフラがなければ、安心して宿泊や移動ができなかった。しかし、スマートフォンとビッグデータを活用することで、国や都道府県が許可を与えなくても、安全と快適を確保できるようになった。こうした動きは、新たに施設をつくるのではなく、今あるものを活用して経済を活性化させる新しい事業のやり方だといえる。

フィンテックの加速

金融分野におけるビッグデータの活用が進めば、フィンテックがいっそう進むと竹中氏はいう。フィンテックとは、銀行が一括して提供しているサービスを細分化すること(アンバンドリング)である。新しいテクノロジーとビッグデータを組み合わせれば、銀行という社会的インフラがなくても、安心して預金も決済もできるようになる。
今まで誰かに送金するときは、銀行経由で手数料がかかっていたが、それがほとんど無料になる可能性もある。さらには、ビッグデータを活用した、顧客満足度の高いサービスを打ち出すなど、新たな事業機会につながることが予想される。

時間との競争に負けた国は滅びる

ドイツは2011年から「インダストリー4.0」という言葉を使いはじめた。翌年の2012年、アメリカやイギリスもビッグデータを整理するための準備をはじめている。
一方、日本の場合、2016年になってはじめて成長戦略の中で、「第四次産業革命」という言葉が出てきた。ヨーロッパやアメリカに比べると、4、5年のギャップが生じている。このスピード感の欠如が日本の弱さといえる。
ITやソーシャル・ネットワーキングの分野では、ファースト・ムーバー・アドバンテージが働きやすい。はやく開始・実行したほうが、あとから開始・実行したものよりも優位に立てるという原理のことだ。加えて、出口氏は最初にやった人だけが基準やルールをつくることができるという。一度栄えた国や社会は、時間との競争に負けると滅んでいくことは、歴史を振り返ると一目瞭然である。

老後のお金の不安と向き合う

公的年金保険は破たんしない

現在、年金について、さまざまな俗説が世間にあふれている。例えば、「公的年金保険は破たんする」「将来年金がもらえないようになる」といった内容だ。これに対し、出口氏は「日本の公的年金保険は破たんしない」という。
日本の税収は年間で約58兆円(2016年度)であるのに対して、歳出は約97兆円である。税収よりも多くのお金が使えるのは、国債を発行してお金を調達しているからだ。国債が発行できれば、公的年金保険が破たんすることはない。
一方、国債の買い手がいなくなったとき、財政は破たんする。日本では国債の多くを銀行、証券会社、保険会社などの金融機関が保有している。仮に日本政府が債務不履行を宣言して、国債が紙くずになったとしたら、政府が倒れる前に国債を抱えている金融機関は全部破たんする。これは国よりも安全な金融機関はないことを意味する。出口氏は、国が潰れたら、公的年金保険どころの問題ではないため、悩んでいても仕方がないという。

年金の改革

「老後破産」や「下流老人」などの言葉は、国民年金保険をベースに考えた議論にすぎない。
出口氏は、パートやアルバイトを含む非正規雇用者の社会保険の適用拡大をして、パートやアルバイトでも厚生年金保険に移行すれば、この問題は収束するという。社会保険の適用拡大の効用として次の3つが挙げられる。
1つ目は、年金財政が安定することだ。厚生労働省の財政検証のオプション試算(2014年)では、賃金月額5.8万円以上のすべての被用者に適用を拡大した場合、約1200万人が厚生年金保険に移ることになる。結果、年金財政が大きく改善するという。
2つ目は、社会保険のセーフティネットとしての機能が向上することだ。パートやアルバイトでも厚生年金保険の備えがあれば、思い切って転職ができる。これが労働の流動化につながる。
3つ目は、3号被保険者(会社員や公務員の配偶者で、年収が130万円未満の人)の問題が解決されることだ。3号被保険者については、配偶者が保険料を支払っていれば自分が払わなくても年金を受給できるという不公平性が問題視されている。今は専業主婦の多くがパートで働いているため、正規・非正規にかかわらず、全員厚生年金保険に移行すればよい。
加えて、竹中氏は、年金の改革は若い世代も含めたセーフティネットの根本改革と一緒にやってはじめて意味があるという。具体的には、給付付き税額控除(税額控除と手当給付を組み合わせた制度)をあわせて、最低所得保障をすることだ。
現在は、少しでも働くと生活保護が減らされてしまう。本来、最低所得が保障されていて、働くほど所得が増えていくのが望ましい。一定の収入がない人は税金を納めず給付金を受けとり、一定の収入を超えるとそれに応じた税金を支払う。こうした考えが究極のセーフティネットになると竹中氏は考えている。

まずは「何がしたいのか」を考える

お金や健康の心配は際限なく膨らんでいく。しかし、竹中氏と出口氏ともに、「老後に備えてどれくらいお金を用意しておけばいいのか」よりも、「自分が何をしたいか」を考えるほうが大事だという。やりたいことが決まれば、有限のお金と、有限の命の使い方を前向きに考えられるからだ。
これを促すために、アメリカの大学教育では、次の3つが重要視されている。「クリティカル・シンキング」「クリエイティブ・シンキング」「エフェクティブ・コミュニケーション」である。クリティカル・シンキングは、物事を批判的な側面からも分析し、本質に迫ることだ。クリエイティブ・シンキングは、自由な発想で新たなものを創造することである。そして、エフェクティブ・コミュニケーションは、相手との対話により深い理解を促すと同時に、自分自身へ問いかけるという意味も含んでいる。自分と向き合い、どのように生きたいのかを先に決めてからお金や健康について考えるほうが健全だといえる。

人生100年時代の働き方

労働の流動化

労働の流動化

AIやIT化が進むと自動化される職業が増えるため、労働力が余るという意見がある。対して、竹中氏はAIやIT化を前向きに受け止めるべきだと主張している。18世紀の産業革命の際、「仕事を奪われるのではないか」と恐れた労働者は、機械を破壊する運動を起こした。しかし、結果、産業革命によって労働の効率化や生産性の向上、労働者の生活水準の向上がもたらされた。
機械化によって仕事を失った職人たちが、新しいニーズに応えるような産業を生み出していったからである。そこで鍵となるのが、新しい産業を試せる場や、仕事にあぶれてしまった人が新しい仕事に移行できる仕組み、労働の流動化だ。
人材育成という観点では、リカレント教育がますます重要な役割を果たす。出口氏は、労働の流動化の成功例としてフィンランドを取り上げている。1992年、フィンランドは破産の危機に陥っていた。当時、フィンランドは、旧ソ連との貿易に大きく依存しており、ソ連の崩壊で対ソ連の輸出が減ってしまったためだ。
そこで、当時フィンランドの史上最年少で首相に就任したエスコ・アホ氏は、失業者にお金を支給するのではなく、全員に無料でIT関係の職業訓練を受講させた。これからはパソコンを使う能力が仕事に欠かせないと考えたためだ。その結果、2000年ごろには、フィンランドは国際競争力ナンバーワンの国になり、ノキアなどの先端企業を生み出すことに成功した。

対応力、レジリエンスを身につける

環境が大きく変化している現代において必要なのは、強さや賢さではなく、「対応力」であると出口氏はいう。MITでも「強さより復元力(レジリエンス)が大事」といわれている。対応力は、環境の変化に条件反射する力ではなく、物事の原点に立ち戻り根底から「考える力」を基本とする。世界がどう変わるのか、社会がどう変わるのか、未来を予測したところで誰にも分からない。「今世界で何が起きているのか」を把握することが大事だ。
では、考える力をつけるためにはどうすればいいのか。それは、日常で「なぜ、なぜ、なぜ」と問い続けることだ。問いを繰り返して、自分で腹落ちするまで考える癖をつける。ウエイトトレーニングと同じで、考える力も、一定の負荷をかけなければ身につかない。

明確なビジョンを持つ

最近は、「起業」がキャリアにおける選択肢の一つとして明確に意識されるようになった。孫正義氏(ソフトバンクグループ創業者)、南部靖之氏(パソナグループグループ代表)、澤田秀雄氏(H.I.S.代表取締役会長兼社長)の3人は、かつてベンチャー三銃士と呼ばれていた。この3人の成功の背景には共通して、信念とパッション、「自分は何をやりたいか」という明確なビジョンがあった。
もちろん、現時点で「やりたいことがない」という人もいるだろう。竹中氏は、「楽しそうと思えることをまずはやってみればいい」という。続けているうちに自分の考えがまとまってきて、「本当にやりたいこと」が明確になってくるからだ。

一読の薦め

要約では、時代の流れ、老後のお金の不安、これからの働き方というテーマを中心に取り上げた。他にも、アメリカのトランプ現象や医療問題、東京オリンピックなど、私たちが日頃ニュースで耳にする問題の本質に両氏は踏み込んでいる。読後には、政治・経済への新しい見方を手に入れていることだろう。今後の人生やキャリアについて思索したい方には、ぜひ知の巨人の対談をお読みいただきたい。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • 竹中 平蔵(たけなか へいぞう)

    1951年、和歌山生まれ。一橋大学経済学部卒業後、日本開発銀行入行。大阪大学経済学部助教授、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年より経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣、郵政民営化担当大臣などを歴任。現在、東洋大学国際地域学部教授、慶應義塾大学名誉教授。ほか、公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、アカデミーヒルズ理事長、(株)パソナグループ取締役会長、オリックス(株)社外取締役、SBIホールディングス(株)社外取締役、世界経済フォーラム(ダボス会議)理事などを兼職。

  • 出口 治明(でぐち はるあき)

    ライフネット生命創業者。
    1948年、三重県生まれ。京都大学を卒業後、日本生命に入社。企画部などで経営企画を担当するとともに、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2008年にライフネット生命保険株式会社を開業した。2018年1月より、立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任。

  • flier

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