ロジカルシンキングの入門書の決定版を10分で読める要約に

ロジカル・シンキングを身に付けたいと思っているビジネスマンは多いのでは? 本書には、マッキンゼーのエディターとしての著者たちの経験から紡ぎ出された、論理的にメッセージを伝えるためのポイントが凝縮されている。新入社員や若手社員にもオススメだ。

 ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル

タイトル: ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル

著者:照屋 華子、岡田 恵子 著

ページ数:232ページ

出版社:東洋経済新報社

定価:2,376円(税込)

出版日:2001年05月08日

 

Book Review

「論理的な思考力を鍛えたい」。「企画が通るよう、説得力のあるプレゼンができるようになりたい」。そんなニーズを持つ人たちにとっての、ロジカル・シンキングの入門書の決定版が本書である。
ビジネス上のコミュニケーションにおいては、顧客や取引先、株主、上司、部下などの多様な利害関係者に対し、自分や組織の考えをわかりやすく伝えて、納得を引き出し、彼らを巻き込んで成果を生み出すことが求められる。そのときの有効な手立てが、論理的なメッセージを伝えて、相手を説得し、期待する反応を得る「ロジカル・コミュニケーション」だと著者たちは述べている。この重要性には誰もが頷くものの、体系だった、シンプルで再現性のある論理的思考の技術を学ぶ機会がない、という人も少なくないだろう。
本書には、マッキンゼーのエディターとしての著者たちの経験から紡ぎ出された、論理的にメッセージを伝えるためのポイントが凝縮されている。そのポイントとは、話の重複や漏れ、ずれをなくす技術「MECE」と、話の飛びをなくす技術「So What?/Why So?」だ。これらの技術を習慣づけることによって、論理的思考力・表現力が飛躍的に向上するはずである。また、実践に即した例題とその解答例、より応用度の高い練習問題が数多く掲載されているので、「学んで終わり」から一歩も二歩も先に進めることができるはずだ。
論理的な思考力・表現力の土台を身につけたいと考える新入社員や若手社員、ロジカル・シンキングが体得できているかおさらいしたい方に、本書をおすすめしたい。

書いたり話したりする前に

相手に伝えるべきメッセージとは?

相手に伝えるべきメッセージとは?

自分の主張や、自分が重要だと考えていることを相手に理解してもらうには、どうすればいいのだろうか。ここで注意したいのは、「あなたが言いたいこと」ではなく、「課題について相手に伝えるべきメッセージ」を伝えられているか、ということだ。メッセージとは、次の3つの要件を満たす必要がある。答えるべき課題が明快であり、その課題に対して必要な要素を満たした答えがあり、そして、そのコミュニケーションの後に相手に期待する反応が明白であるという3点である。
何かを相手に説明する際には、「課題」「答え」「相手に期待する反応」がセットになっているかどうかの確認を怠らないようにしたい。検討を進めるうちに、往々にして、他の課題に注意が奪われ、当初の課題とすり替わってしまうことは多い。そこで、商談や企画書作成の最初に、「自分が今、相手に答えるべき課題は何か」と自問自答するのだ。例えば「案件Aの事業化に取り組むべきか」という課題の会議ならば、相手にもその課題を認識してもらうことが第一である。
次に確認すべき点は「相手からどんな反応を引き出したいのか」である。相手から意見や助言を得たいのか、何らかの行動をとってほしいのか、というように、相手に期待する反応を明確にすることで、自らが伝えるべき内容の深さや広がりが変わってくる。

相手に自分の「答え」が伝わるようにするには?

では、「課題」と「相手に期待する反応」を確認してやっと、「答え」の中身を考える段階に入る。課題に対する「答え」として備えるべき要素は、たったの3つだ。それは答えの核となる「結論」、結論の妥当性を説明する「根拠」、そして、結論が何らかのアクションを示す場合、どのように実行するかという「方法」である。結論・根拠・方法のいずれも、相手にとって明快で説得力があるものなのかを、伝え手が客観視することはなかなか難しい。そこで、次のポイントをチェックするとよい。

3つのチェックポイント

まず、1つ目「結論」については、「課題の答えの要約」になっているか、課題と、答えの核となる結論が整合しているかどうかを確かめたい。例えば「A社は製造小売業に参入すべきか」という課題に対し、「参入の是非を検討するには、事業の収益性と競合の動向を十分に分析する必要がある」という結論を述べるだけでは、「要するに、参入するのか、しないのか?」という「答え」が欠けてしまっている。
また「どうにでも解釈できるような曖昧さ」をできるだけ排除することが必要だ。「状況に応じて」、「場合によって」という曖昧な言葉ではなく、例えば「製品Aの売上が前年比105%を上回ったら」などと、定量または定性的な中身を具体化すれば、誰にとっても基準が明確で、実施の足並みがそろう。
次に、2つ目「根拠」を正しく伝えるには、どうすればよいか。陥りがちなのは「Aが必要だ。なぜならAがないからだ」というロジックだ。例えば、営業力の強化を提案するなら、営業力の弱体が収益性にどのように悪影響を及ぼしているのか、他の施策もある中で、なぜ営業力強化が特に重要なのかを説明してはじめて「根拠」を伝えたことになる。
また、根拠には「客観的な事実としての根拠」と「伝え手の判断・仮説としての根拠」の2種類がある。根拠を述べるときに、どちらの根拠なのかを明示しないと、話の信ぴょう性が半減してしまう。さらには、答えを導くための「前提条件や判断基準」を示すことも不可欠だ。
最後に、3つ目「方法」については、「他の会社や、10年前でも通用するような公理になっていないかどうか」、「具体性があるかどうか」をチェックすべきだ。「自分が施策を実施する立場なら、何を知っていれば具体的に行動できるか」を自問自答することが、具体性の物差しとなってくれる。
上記のポイントを意識することで、結論・根拠・方法がぐっと明快になり、相手を論理的に説得するコミュニケーションが可能となるのだ。

論理的に思考を整理する技術

MECE(話の重複・漏れ・ずれをなくす技術)

MECE(話の重複・漏れ・ずれをなくす技術)

わかりにくく、説得力のない話には、聞き手や読み手から見て「話の明らかな重複・漏れ・ずれ」と「話の飛び」という共通する2つの欠陥がある。
そこで、話の重複・漏れ・ずれをなくし、伝え手の結論を相手に自然に理解してもらう技術として、「MECE」を紹介する。MECEとは、「ある事柄を重なりなく、しかも漏れのない部分の集合体として捉えること」を意味する。
例えば、自部門に入ってくる情報を整理して説明しなければならないと仮定しよう。説明方法には、次の3つのアプローチがある。
まずは、「日経新聞」「週刊東洋経済」……などと思いつくままに述べる「羅列アプローチ」である。次は、外部から入る情報を、曜日別、時間帯別といった一定ルールのもとに述べる「仕分けアプローチ」だ。そして最後が、自部門に入ってくる情報を全体集合として、漏れも重なりもない部分集合にどう分けるのかを考え、その分け方を提示したうえで列挙していく「MECEアプローチ」である。例えば、「定期・不定期」で情報を大別し、定期情報を月刊、週刊などの頻度ごとに、不定期情報については、ネット配信、紙媒体などの形態ごとに分類し、それぞれの中身を述べていくのだ。このアプローチだと、話が細部に入る前に、伝え手の答えの「全体集合」と、それを構成する「部分集合」が明示されるため、相手はそれを理解の枠組みにして、頭の中を整理しやすい。MECEは、大きな重複や漏れ、ずれがないと思える議論の土俵を明快に示し、そこに相手を乗せ、理解を促す技術なのだ。
1つの事柄に対し、さまざまなMECEの切り口から、相手にとって一番わかりやすい切り口を選んで説明できる人こそ、真の説明上手だといえる。相手に自分の結論を理解してもらうという観点から、適切な切り口になっているかを意識することが肝要だ。

知っておくと便利なMECEのフレームワーク

MECEには、「これを押さえておけば、大きな重複・漏れはない」と見なせるフレームワークがある。その代表例の一部を紹介する。
1つ目は「3C(4C)」という事業や企業の現状分析のフレームワークである。企業や業界の現状を全体集合に見立てたとき、顧客・市場(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つ、またはチャネル(Channel)を含めた4つの要素を網羅して説明することで、おおよそ漏れも重なりもなく全体像を捉えることができる。
2つ目は、マーケティングの4Pだ。4Pとは、ターゲットとする顧客に、どんな特性を持つ商品(Product)を、どんな価格(Price)で、どんな流通(Place)を使って、どんな訴求方法(Promotion)で届けるのかという4つの要素を指す。この4つのPがターゲット顧客と一貫性を持っていれば、伝え手のイメージが相手に伝わりやすくなる。

話の飛びをなくす技術

結論を説明するとき、伝え手はよく「したがって」や「よって」「このように」という表現を使う。こうした表現の前後で論理の飛躍がなく、伝え手の言いたい結論と根拠、結論と方法とのつながりを、相手に難なく理解してもらうために必要なのが、「So What?/Why So?」の技術である。
「So What?」とは、手持ちの情報やネタの全体から、課題に照らしたときに言える重要なエキスを抽出する作業のことである。すなわち、「結局どういうことなのか?」を問うことである。
一方、「Why So?」は、「So What?」で出てきた要素の妥当性が、手持ちの情報や材料できちんと証明されることを検証・確認する作業である。つまり、「なぜそのようなことが言えるのか?」を問うのである。
例えば、A、B、Cという個々の情報をSo What?したものがXであれば、XにWhy so?と尋ねたとき、その答えがA、B、Cになっているという、背中合わせの関係をつくることが、話の飛びをなくすためのコツである。つまり、手元にある要素以外にも情報やデータがなければ、そのようなことは言えないという場合にはSo What?の関係は成立しない。
この「So What?/Why So?」の技術をマスターするには、普段から「要するに、この情報から何が言えるのか」、「要するに、この話の要点は何か」と考える習慣をつけるしかない。

論理的に構成する技術

論理の基本構造を成立させる3要件

論理の基本構造を成立させる3要件

結論、根拠、方法を、漏れ・重複・飛びのない状態で整理できれば、論理的なコミュニケーションの「部品」はそろったことになる。しかし、相手に結論について納得してもらうには、部品同士の関係性がきちんと把握できる状態になっていないといけない。よって、結論と根拠、もしくは結論とその方法という複数の要素が、結論を頂点に、縦方向にはSo What?/Why So? の関係で階層をなし、また横方向にはMECEに関係づけられた構造をつくること、つまり「論理構成」が不可欠となる。
1つの論理構造内のすべての要素は、次の3つの要件を満たす必要がある。
(要件1)結論が課題の「答え」になっている:論理構造のピラミッドの頂点に置くべき結論が、課題に合致していることを確認する。
(要件2)縦方向に結論を頂点としてSo What?/Why So? の関係が成り立つ。
(要件3)横方向に同一階層内の複数の要素がMECEな関係にある。
この要件を念頭に置くことで論理的に思考を組み立てることができる。実際に論理を組み立てる際には、「縦方向にどこまで階層をつくるべきか」「横方向には、いくつの要素に分解すればいいのか」と迷うかもしれない。縦方向の階層化については、結論を相手に提示したときに、相手がどこまでWhy So? と尋ねてくるかを想定しておくことがカギとなる。また、同一階層内に展開する横方向の要素は、多くても4つか5つ以内にとどめることが望ましい。
あくまで、相手が納得してくれるだけの、過不足のない論理であればよく、ピラミッド構造はコンパクトであればあるほどよい。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • 照屋 華子(てるや はなこ)

    東京大学文学部社会学科卒業。(株)伊勢丹業務部広報担当を経て、1991年、経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーにコミュニケーション・スペシャリストとして入社。現在、同社と嘱託契約にて、顧客企業へのコンサルティング・レポートや提案書、記事等、さまざまなビジネス・ドキュメントを対象に、論理構成・日本語表現の観点からアドバイスを提供するエディティング・サービスに従事。 また、論理構成をはじめ、ビジネス・ライティング、口頭説明についての多数のトレーニングを顧客企業やコンサルタント対象に実施するとともに、ロジカル・コミュニケーションの手法の開発や論文執筆に関するエディティング等にも取り組んでいる。

  • 岡田 恵子(おかだ けいこ)

    慶應義塾大学法学部法律学科卒業。(株)日本交通公社出版事業局を経て、1989年、経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。コミュニケーション・スペシャリストとして、顧客企業向けコンサルティング・レポートの論理構成や表現委関するエディティング・サービスやコミュニケーション戦略の立案・実施支援に従事。また、コンサルタントや顧客企業への論理構成のトレーニング等に携わる。1998年に独立。現在、マッキンゼー社をはじめとする企業への各種コミュニケーション・サービスの企画・提供、研修プログラムの開発・実施、論文や書籍の執筆サポート、取材・編集業務等を行っている。

  • flier

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