宇宙ビジネスの衝撃 21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ

現在ではグーグル、アマゾンといった「BIG5」と呼ばれるIT企業をはじめ、多くの民間企業が、独自に開発や投資を行う分野へと変貌を遂げた。私たちの生活を日々、劇的に変化させる宇宙ビジネス。その現状と未来について、宇宙ビジネスコンサルタントの著者がわかりやすく解説してくれるのが本書である。
私たちの生活を激変させる可能性が大いにある宇宙ビジネスについて、「知らない」ではビッグチャンスを逃してしまう時代になった。時代に後れないためにぜひ一読いただきたい。

宇宙ビジネスの衝撃 21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ

タイトル:宇宙ビジネスの衝撃 21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ

著者:大貫 美鈴

ページ数:264ページ

出版社:ダイヤモンド社

定価:1,728円

出版日:2018年5月9日

 

Book Review

かつて宇宙開発は、各国の国家機関が担うものだった。NASAやJAXAといえば、誰もが知っているだろう。しかし、現在ではグーグル、アマゾンといった「BIG5」と呼ばれるIT企業をはじめ、多くの民間企業が、独自に開発や投資を行う分野へと変貌を遂げた。私たちの生活を日々、劇的に変化させる宇宙ビジネス。その現状と未来について、宇宙ビジネスコンサルタントの著者がわかりやすく解説してくれるのが本書だ。
宇宙ビジネスに、これほどまでに注目が集まるのはなぜか。その1つは、宇宙にネットワークを張り巡らせることで手に入る、「地球のビッグデータ」が存在するからだ。企業が巨額の投資を惜しまないのは、それらのデータが第4次産業革命をも駆動させるほどのものだからだ。つまり、私たちの生活を激変させる可能性が大いにある。
宇宙ビジネスと聞くと、自分には縁のない未来の話だと思う人もいるかもしれない。だが実際には、すでに農業、畜産業、漁業といった多くの産業で、宇宙から届けられたデータの利用が急拡大している。宇宙は、過去にできなかったことを可能にする「可能性の宝庫」だ。そして、火星移住もゆくゆくは夢物語ではなく、現実化できるかもしれない。
宇宙ビジネスに縁がないと思っている人にこそ、時代に乗り遅れないためにも、いち早く読んでいただきたい一冊だ。

なぜ、IT企業の巨人は宇宙をめざすのか?

宇宙開発の商業化の契機

宇宙開発の商業化の契機

宇宙開発はもともと、NASAやJAXAなど、各国の国家機関が担っていた。そんななか、宇宙開発の商業化の流れが起きたきっかけは、2005年のアメリカ政府による政策変更といえる。スペースシャトルの後継機の開発は民間に任せて、NASAは一顧客として民間から打ち上げサービスを購入するという大転換があった。
2010年には、オバマ大統領が「新国家宇宙政策」を打ち出した。そこでは、民間企業の技術やサービスの購入、競争に通じる起業の促進、宇宙技術やインフラの商業利用、輸出の促進などがはっきりと示されていた。こうして、官民連携で宇宙開発の商業化が推進されるようになった。
宇宙ビジネスの世界市場「スペース・エコノミー」は、2005年に17兆円規模だった。これが、2016年には33兆円にまで拡大するという成長ぶりだ。これにともなって、世界の宇宙関連ベンチャーへの投資も急激に拡大している。

3つの宇宙空間と、事業化が活況を呈する「低軌道」

宇宙ビジネスの対象エリアは、「静止軌道」「低軌道」「深宇宙」の3つに大別される。
「静止軌道」は赤道上36000キロの軌道のことである。既に2000年以前から各国が気象衛星、通信衛星、放送衛星、測位衛星など、大型の衛星を打ち上げ、商業化に成功してきた。これらの衛星の寿命は通常、10年から15年だが、燃料の補給や修理によって、再利用、延命を図るサービスが始まろうとしている。
次に「低軌道」とは、宇宙と定義される高度100キロから2000キロ辺りまでを指す。2000年以降、この低軌道では様々な事業化が進んだ。例えば、高性能な小型衛星のコンステレーション(複数の人工衛星を連携させる運用法)により、精密な気象観測が可能となった。また、弾道飛行で約4分間の無重力体験ができる宇宙旅行が、新たな観光産業として注目を集め、実現に向けて加速している。
つづいて「深宇宙」とは、月、小惑星、火星などの遠い宇宙を指す。宇宙基地としての月開発、小惑星の資源開発、火星への有人宇宙飛行などをめざしている。

ゴールドラッシュを彷彿させる宇宙ビジネス

これまで開発対象としての宇宙は、専門家だけが携われる世界というイメージだった。しかし、この15年の間、ITビリオネアたちの宇宙開発参入が投資を呼び込み、市場の創出・拡大につながった。各国の宇宙予算、いわゆる公的なマーケットは、もはや全体の25%に満たない。民間のサービスやプロダクトが大きく伸びてきたのである。しかも、10数年でほぼ2倍という市場スケールになった。小惑星の資源開発や月の開発、火星への有人宇宙飛行が、もはや夢物語ではなくなったといってよい。
この拡大の勢いは、一攫千金を狙って多くの人が金を採掘しようとした19世紀アメリカの「ゴールドラッシュ」にたとえられるほどだ。未開拓の空間に広がる無限のビジネスチャンスをつかもうと、多くの企業や投資家たちが殺到しているのである。

宇宙ビジネスを牽引するITの巨人たち

イーロン・マスクのスペースX

2002年、イーロン・マスクはスペースXという会社を立ち上げて、宇宙ビジネスに参入した。スペースXは、2008年に打ち上げに成功し、その後「ファルコン9」や、今では世界一の巨大ロケットである「ファルコンヘビー」を開発した。ロケット製造としては後発の新興企業だ。
にもかかわらず、商業衛星の打ち上げサービス市場で躍進している。すでに50回以上ロケットの打ち上げを行っているだけでなく、NASAに代わって、国際宇宙ステーション(ISS)に向けた、アメリカの補給便サービスまで引き受けている。スペースXが手がけているのは、これまでNASAが打ち上げてきた大型ロケットの事業化であり、市場シェアを急速に伸ばしている。
その理由は、徹底的なコストダウンにある。通常の大型ロケットだと、打ち上げ費用は100億~200億円ほど。しかし、スペースXの打ち上げは60億円台だ。ロケットの再利用で、さらに30%の削減が予定されており、ロケットの価格破壊といわれる。
スペースXは当初から量産を視野に入れ、「アジャイル開発」というIT業界の手法を取り入れて、製造を効率化していた。このように、従来のロケット開発にはない視点を採り入れていたのである。航空宇宙産業の経験者を積極的に採用して、同社は6000人規模の会社になっている。

ジェフ・ベゾスのブルーオリジン

世界最大のインターネット通販大手、アマゾン・ドット・コム。その創業者、ジェフ・ベゾスも、2000年にロケットを開発する会社、ブルーオリジンを設立した。アマゾン創業の1994年から、わずか6年後のことである。
ベゾスは将来、宇宙に100万人の経済圏ができると見込んでいた。となると、有人宇宙飛行を見据えて、安価で安全なロケットが必要になる。そんな考えのもとベゾスは、宇宙旅行ができるサブオービタル(準軌道)機や、大型ロケットの開発に取り組んでいった。
しかし、100万人が宇宙に住む経済圏を築くためのネックは、アクセスにある。そこで、高い輸送コストを下げるために、スペースアクセス、つまり輸送手段の開発から着手した。試験機による宇宙空間までの飛行実験には、すでに何度も成功している。
しかも驚くべきことに、2017年には、ブルーオリジンに毎年1000億円の投資を行う、とジェフ・ベゾスは発表している。これは日本の宇宙開発予算の、約3分の1にあたる。ブルーオリジンが開発しているのは、垂直離着陸型のサブオービタル機「ニュー・シェパード」である。一般的に宇宙とされる高度100キロ超えまで到達する。上空で先端に搭載されている有人カプセルを切り離すと、カプセルは弾道飛行をする。その間、約4分間の無重力状態が体験できるという。

グーグル、フェイスブックの取り組み

グーグルやフェイスブックも、宇宙ビジネスに注力している。
グーグルは地球観測、通信、宇宙資源など幅広い分野に投資している。同社が宇宙ビジネスで大きな話題になったのは、2014年に500億円でシリコンバレーの小型衛星ベンチャー、スカイボックスを買収したことである。その値段の高さは驚きをもって伝えられた。結局2017年には、スカイボックスを競合に売却した。だがグーグルは、イーロン・マスクのスペースXが計画しているブロードバンド事業に、1000億円以上の投資をしている。
また、17億人を超えるアクティブユーザーを抱える、フェイスブックも宇宙開発に力を入れていることで有名だ。インターネットのインフラ普及への取り組みとして、宇宙ビジネスに参入してきた。
マーク・ザッカーバーグは、インターネットインフラが十分ではない人々が地球上に40億人いると語る。現在、地球上の6割は、インターネット接続がスムーズにできない。この6割の開拓を可能にするものとして大きな注目を浴びているのが、低軌道に打ち上げられる小型衛星である。小型通信のコンステレーションでは、数十、数百という単位で飛ぶことになるため、周波数の割当が必要となる。
周波数は限られたリソースだ。携帯電話の周波数などの合間を縫うように、小型衛星用の地球観測や通信コンステレーションの周波数をとらなければならない。フェイスブックは、ドローンに衛星も加えたマルチプルな運用で、グローバルなネットワークの構築をめざしている。

宇宙ビジネスが産業や生活を変える

地球のビッグデータが産業を変える

地球のビッグデータが産業を変える

IT関連の技術に多くの資金が流れているのは、宇宙をインターネットの延長として捉えているからである。宇宙にネットワークを張り巡らせることで、「地球のビッグデータ」が手に入る。これが、さまざまなビジネスを生み出すと期待されているのである。
例えば、天気予報。高性能な小型衛星のコンステレーションで大気を計測し、ビッグデータを解析する。これによって、精度の高い気象情報が得られるようになってきた。こうした小型衛星による地球観測が、農業や畜産業、漁業を劇的に効率化・精密化することが期待されている。
また、地球観測衛星に搭載されているセンサーによって、栽培している作物の生育状態や糖度などの作物の質も、小型衛星で把握できる。これによって農家は作物の状況を把握し、必要な場所だけに肥料をまくなど、農業をさらに効率化させられる。
衛星を使った精度の高い気象データは、金融や保険、サービス、健康産業などの生産管理を根本から変えようとしている。コンビニエンスストアが、商品発注量の判断や流通に気象データを活用しているのは、有名な話だ。梅のおにぎりは暑い日に売れる。寒くなったらおでんが売れる。こうした情報が棚に並べる商品のバランスを検討する際に、大事なヒントとして用いられているのだ。

火星移住計画はもはやSFではない?

宇宙開発のそもそもの目的は何か。その1つは、複数の惑星に人類が住めるようにするというものだ。人口の急増や資源の枯渇、食糧問題や水の危機。こうした危機が地球で起きたとき、別の惑星にも住めるようにしておくという思想があった。
そこで、居住できる可能性が高いと考えられているのが火星だ。太陽系の中では、地球に環境が似ている惑星である。薄い大気があり、重力も3分の1だという。
火星への取り組みを進めている民間企業で、注目を浴びているのが、イーロン・マスクのスペースXである。2016年9月、イーロン・マスクは壮大な計画を発表した。火星に居住地を建設する「火星移住計画」である。今後10数年以内に、地球と惑星との間で数千人を輸送する事業をスタートさせる。それから約40年から100年後には、火星を100万人が自給自足できる居住地にするというビジョンを描いている。
具体的なイメージとしては、巨大な火星行きの惑星間輸送システムで火星まで約80日かかる日数を、最終的には30日まで短縮するとしている。また火星行きのチケットも、1枚10万ドル(約1000万円)まで値下げする計画だという。
このように火星探査は、政府主導でもなく、NASAが行うのでもなく、民間の起業家によって実現されるかもしれない。こうした事実に、宇宙商業化の勢いを著者は感じている。

一読の薦め

本書の最終章では、宇宙という未来産業を創造していく宇宙ベンチャー企業が多数紹介されている。地球のモニタリング情報を提供する衛星会社の「アクセルスペース」、「人工流れ星」というユニークな事業に取り組む「エール」など、事業内容を知るだけで心躍る読者も多いのではないだろうか。宇宙ビジネスの現在と未来を知る上で、読み逃しできない一冊として本書をぜひおすすめしたい。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • 大貫 美鈴(おおぬき みすず)

    宇宙ビジネスコンサルタント/スペースアクセス株式会社 代表取締役
    日本女子大学卒業後、清水建設株式会社の宇宙開発室で企画・調査・広報を担当。世界数十か国から参加者が集まる宇宙専門の大学院大学「国際宇宙大学」の事務局スタッフを務める。その後、宇宙航空開発研究機構(JAXA)での勤務を経て独立。現在は、宇宙ビジネスコンサルタントとして、アメリカやヨーロッパの宇宙企業のプロジェクトに参画するなど、国内外の商業宇宙開発の推進に取り組む。清水建設の宇宙ホテル構想提案以降、身近な宇宙を広めるためのプロジェクトへの参画はライフワークになっている。アメリカの宇宙企業100社以上が所属する「スペースフロンティアファンデーション」の、アジアリエゾン(大使)としても名を連ねる。新聞や雑誌、ネットでの取材多数。
    経済産業省国立研究開発法人審議会 臨時委員
    国際宇宙航行連盟 米国連邦航空局 商業宇宙飛行安全委員会 委員
    国際宇宙航行連盟 起業・投資委員会 委員
    国際宇宙安全推進協会 サブオービタル宇宙飛行安全委員会 委員
    国際宇宙航行アカデミー 準メンバー
    国連宇宙週間 理事
    国際月面天文台協会 理事

  • flier

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宇宙ビジネスの衝撃 21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ
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