「知的生産のためのメモ」って何!?前田裕二『メモの魔力』を要約

2019年最も売れたビジネス書ランキングにランクインした本書の著者は、SHOWROOM代表前田裕二氏。とんでもないメモ魔の著者が、メモを取ることの意義や「知的生産」のためのメモの取り方、メモを通して自分の軸を見つける方法などを指南してくれるのが本書だ。たかがメモ、されどメモ。ビジネスパーソン必読!

メモの魔力

タイトル:メモの魔力

著者:前田 裕二

ページ数:254ページ

出版社:幻冬舎

定価:1,512円

出版日:2018年12月25日

 

Book Review

「僕にとってメモは『生きること』である」――本書を開くと、この一文が目に飛び込んできた。著者であるSHOWROOM代表、前田さんの講演を聞いた際、対談相手が話しているときに始終メモを取っている姿が印象的だったことを思い出す。さらにページをめくると、「メモによって夢は現実になる」「メモで自分を知る」などといった印象的なフレーズが続く。
著者はメモ魔で、映画や演劇を1作品観ると、多いときで100個以上のポイントをメモするという。そんな著者が、メモを取ることの意義や「知的生産」のためのメモの取り方、メモを通して自分の軸を見つける方法などを指南してくれるのが本書だ。本書からは、著者の、メモに対する溢れんばかりの情熱が感じられる。
本書を読むまで、要約者にとってメモは単なる「記憶の置き場所」にすぎなかった。見返すこともなければ、書いたことを何かに転用することもない。本書の表現を借りるなら「記録のためのメモ」しか体験したことがなかった。だが抽象と転用を身につけ、「知的生産のためのメモ」を活用すれば、自分をより深く知り、夢を叶えるための一歩を踏み出すことができると確信できた。
たかがメモ、されどメモ。本書はメモに関する思い込みをひっくり返してくれる。ビジネスパーソンはもちろんのこと、学生にもぜひ手に取ってほしい一冊だ。

メモで日常をアイデアに変える

記録のためのメモ、知的生産のためのメモ

「知的生産のためのメモ」って何!?前田裕二『メモの魔力』を要約

著者は毎日、大量のメモをとる。クリエイティブな思考や自分にしかできないような思考など、より本質的なことに時間を割くためだ。
過去のミーティングで議論した内容や参加者、打ち合わせ日時などといった情報自体は単なる「ファクト(事実)」だ。一方で、そのファクトから何が言えるのか、そこからどうアクションするのかを考えるのがクリエイティビティである。著者は、過去のファクトを思い出すことに時間を割かなくていいように、メモをとっている。メモを「第2の脳」として活用してファクトを記憶させ、自分の脳の容量を使ってクリエイティビティを発揮すれば、より多くの付加価値を生むことができるというわけだ。
メモには2種類ある。まず、ファクトを記録するためのメモ。もう1つが「知的生産のためのメモ」だ。本書では、後者の重要性が強調される。新しいアイデアや付加価値を生み出すためのメモ術である。

アイデアを生み出すメモの書き方

本書では、具体的なメモの書き方が指南される。だが著者は、メモの書き方よりも先に、「メモは姿勢である」ということを理解してほしいという。目的意識を持ち、あらゆる情報に対して毛穴むき出し状態でいること。常にアンテナを立て、得た情報から知的生産を行う意識を持つこと。知的好奇心と知的創造に対する貪欲なスタンスを大切にしよう。
ここから、著者のメモの方法論を紹介する。まず、ノートは見開きで使う。その理由は3つある。1つ目に、思考が窮屈にならないよう、メモのスペースを広くとるため。次に、左側に左脳的な「事実」、右側に右脳的な「発想」をと、脳の使い方によって書くスペースを分けるため。最後に、左から書いていくことによって「右側を埋めなくてはならない」という思考を導くためだ。
ノートを見開きにして、左ページに横線と縦線を1本ずつ、右ページに縦線を引く。左側に書くのは「ファクト」、客観的な事実だ。ミーティング内容をメモするのであれば、そこで交わされた会話を書きとめておこう。
右ページの左側には、ファクトを「抽象化」した要素を書く。左ページに書いたファクトから抽象化すべき要素を見つけたら、右ページへと矢印を引き、抽象命題を書く。
右ページの右側には、「転用」の要素を書く。この要素によって、抽象化した気づきをもとに、行動を変えることができる。「○○という真理・命題を受けて、これをこう変えてみよう」と、実際のアクションにつながる粒度まで落として書くのがポイントだ。
メモにおける「転用」の重要性は、強調してもしきれない。ファクトから得た気づきをアクションに転用することを通じて、自分の日々と人生が変わっていく。だから、ノートの一番右側も必ず埋めるようにしたいものだ。
著者のメモ術は、3点のエッセンスに集約できる。すなわち、(1)インプットした「ファクト」をもとに、(2)気づきを応用可能な粒度に「抽象化」し、(3)自らのアクションに「転用する」だ。

「抽象化」でファクトをアイデアに変える

著者によるメモの例を紹介しよう。著者はある打ち合わせで、「東京・大阪それぞれの街中で宣伝用のチラシを配布した」というプロモーション事例の話を聞いた。先方の担当者が聞かせてくれたのは、「大阪で配るチラシにアメちゃんをつけると、ものすごい勢いでチラシがはけた」という話だった。東京で同じことをやってみると、大阪の3分の1程度の効果しかなかったという。
著者はそこで、左ページに「大阪でチラシを配る際、アメちゃんをつけると東京の3倍の効果があった」というファクトを書きとめた。その上で、「この情報を受けて、何か言えることはないか。気づきはないか。他に応用可能な法則はないか」と「抽象化」して右ページの左側に書く。この場合、「大阪人は東京よりも、直接的で目に見えるメリットの訴求に弱い」という気づきが挙げられる。
次に、「転用」だ。著者は、「僕が運営しているSHOWROOM(インターネット上の仮想ライブ空間)にも、大阪人のそんな気質が反映されているのでは?」といった仮説を立てた。そして右ページの右側に「SHOWROOMでも同じことが言えないか、地域別の利用動向データを調べてみる」と書き込んだ。
SHOWROOMでは、パフォーマンスへの賞賛を表すために、ユーザーがギフトを投げ込むことができる。ギフトの中には有料のものもある。地域別にユーザーのお金の使い方を検証してはどうかと考えたのだ。
実際にデータを分析してみると、大阪のユーザーの課金単価が、東京よりも少し低いことがわかったという。その情報をもとに著者は、大阪人も納得するようなハイクオリティのコンテンツを用意し、それに対して前払い式で対価を支払うようなビジネススキームを思いつく。さらには、チケットが入手困難な芸人のネタをプレミアムコンテンツとしてSHOWROOMで配信するというアイデアも浮かんだ。
こうして「大阪でアメちゃん付きチラシをたくさん配った話」から、2つの新たなビジネスモデルアイデアが生まれた。

「日付」「サマリー」「標語」を書く

ここでは、メモのより細かいポイントを紹介する。
左ページの左上には、打ち合わせの日付を書いておく。振り返りのときに重要な情報となるので、必ず書きとめるようにしよう。
次に、打ち合わせのアジェンダを一言で書く。思いつかなければ、「○○と××に関する打ち合わせ」と書けばよい。
その下には、打ち合わせの中で最も重要なことを書き込む「サマリー欄」を作っておく。ここは、打ち合わせが終わったらすぐ書くようにしよう。あとで見返したとき、そのときの感覚をすぐに取り戻せるようにするためだ。
メモのボディの部分には、見聞きした情報のうち、自分のアンテナに引っかかってきたことを「ファクト」として書いていく。それほど頭を使う必要はない。「へー!」と思うことや、なんとなくメモしておきたいと思ったことをそのまま書きとめる。
左ページの左側には、「ファクト」欄に書いたことについて、標語やキーワードを書いていく。つまり「一言で言うと何か」だ。改めて時間を取るのではなく、打ち合わせ中に書いてしまえばよい。ここからここまでの話は「販路拡大に向けた三大戦略の話」、ここからは「アイドルのパラドックス」といったように、ファクト欄に書いたことをグルーピングしていく。そうすれば、議論の内容をより高い精度で理解できるようになるはずだ。

メモで思考を深める

抽象化の3類型「What」「How」「Why」

「抽象化」によって、知覚した情報を知的生産につなげることができる。これこそ著者のメモ術の根幹となる部分だ。
著者は抽象化において、「What型」「How型」「Why型」の3つの「問い」を活用している。「What型」は、目の前にある現象や考え方を抽象化して言語化するもの。目の前の現象が持つ特徴を深掘りして考えるのが「How型」。そして、別の企画に転用するため、ある映画がヒットした理由などを考えるのが「Why型」だ。
なかでも、「Why型」は重要である。「Why?」という問いによって抽象化した内容は、転用可能性が高く、転用したときのインパクトも大きいからだ。ビジネスパーソンなら、「世の中でヒットしているもの」「自分の琴線に触れるもの」「顧客からの要望」「社内で起きている問題や課題」の4項目については、常に「Why?」と問いかける習慣を持ってほしい。

抽象化思考のフロー

抽象化思考においては、次の3つのステップを経る。すなわち、(1)具体情報を正確に受け取る、(2)具体情報から、気づき、背景、法則、特徴など、他に転用可能な要素を抽出する、(3)抽出したものを別のものに転用する。要するに、思考の流れは、具体→抽象→転用の形で進んでいる。
見聞きした情報から、「ここから法則性が導き出せないか」「こうなった理由や背景は何か」「これの特徴は何か」といったことを考えて、より抽象度の高い概念を導き出すこと。それが「抽象化」である。

メモで自分を知る

自己分析で「軸」を見つける

本書で著者が伝えたいのは、メモのノウハウではない。「自分を串刺しにする本質的な人生の軸」、すなわち「自分が何をやりたいか」を明確にするべきだということだ。自分の人生の軸がわかっていなければ、どんなノウハウを学んだところでさしたる意味はない。
AI時代においては、機械にできないような人間らしい生き方をしている人や、人間の感情そのものの価値が重んじられるようになるだろう。「自分は何者か」「何がやりたいのか」「これから何をやっていくのか」という問いに答えられることが、ますます重要になっていくはずだ。
そこでメモが可能にしてくれるのは、「自分を知ること」つまり「自己分析」だ。自己分析によって自分のやりたいことが明確になれば、あとはそれをやるだけ。迷うよりも、やりたいことをはっきりさせ、それに集中したほうがいい。

自己分析の鍵は「具体化」と「抽象化」

自己分析において重要なのは、とにかく多くの「自分を知るための問い」に答えることだ。ただし、やみくもに質問に答えるだけではいけない。ここでも「具体化」と「抽象化」をセットで行おう。自分の回答を抽象化し、そこで得た気づきを別のことに転用する作業だ。
例えば、「長所は?」という問いに対し、「辛抱強い」と答えたとする。ここで止まるのではなく、もう一歩踏み込んで具体化してみよう。「なぜ?」を繰り返して深掘りし、抽象化していく。自分はなぜ辛抱強いのか? 自分の辛抱強さを形成した原体験は何だったか?  と、辛抱強い自分を俯瞰し、抽象化していくのだ。
効果的な自己分析のフォーマットは「意識の具体化×抽象化」で表される。まず「具体化」だ。通常の自己分析と同様に、自分の意識に目を向ける。次に、「Why?」と問いかけて深掘りする。これが「抽象化」である。
具体化だけでは、自分の本質にたどり着くことはできない。具体化と抽象化がセットになってはじめて、有効な自己分析となる。

一読の薦め

本書では、著者が情熱を傾ける「メモ」について、あらゆる角度から語られている。要約で紹介した以外にも、「メモによって鍛えられる5つのスキル」や「4色ボールペンによる『色分け』で判断能力を上げる」などといった実践的な情報や「『言語化』で夢は現実になる」などといった心を奮い立たせてくれる言葉は、「知的生産のためのメモ」を習慣化したい人にとって非常に有益なものだろう。
また本書には、3つの仕掛けが施されている。1つ目が、著者の手書きのメモが公開されていること。2つ目が、自己分析に使える問いが1000問収録されていること。3つ目が、著者がSNSで募集した、約1000人の「人生の軸」が掲載されていること。これらを本文とあわせて熟読すれば、「メモの魔力」をより深く理解できるに違いない。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • 前田 裕二(まえだ ゆうじ)

    SHOWROOM株式会社代表取締役社長。
    1987年東京生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行に入行。11年からニューヨークに移り、北米の機関投資家を対象とするエクイティセールス業務に従事。数千億~兆円規模の資金を運用するファンドに対してアドバイザリーを行う。13年、DeNAに入社。仮想ライブ空間「SHOWROOM」を立ち上げる。15年に当該事業をスピンオフ、SHOWROOM株式会社を設立。同年8月末にソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合併会社化。著書『人生の勝算』はAmazonベストセラー1位を獲得。

  • flier

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