『リモートワークの達人』要約!“新しい働き方”で成果を上げるコツとは?

コロナ禍をきっかけに、多くの企業が在宅勤務を導入した。これを機に、「リモートワーク」は世界の働き方のニュースタンダードになるだろう。では、今後リモートワーク下で成果を上げるためには、どのようなポイントをおさえておくべきなのか。本書は、そのヒントを教えてくれる一冊だ。

リモートワークの達人

タイトル:リモートワークの達人

著者:ジェイソン・フリード、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン 、高橋璃子 (訳)

ページ数:272ページ

出版社:早川書房

定価:800円(税別)

出版日:2020年7月15日

 

Book Review

新型コロナウイルスの影響でリモートワークになった人は多いのではないだろうか。突然の働き方の変化に戸惑っている人もいれば、「どうやってリモートワーク体制をうまく回そうか」と悩んでいる経営者もいるだろう。本書はそんな、リモートワークという働き方に課題を抱えている人におすすめの一冊だ。
本書の著者は、IT業界で非常に有名なプロジェクト管理ツール「ベースキャンプ」を運営している企業の創業者と共同経営者だ。同社は、1999年の創業以来20年にわたってリモートワークで経営されてきた。そしてベースキャンプは、世界中に数百万人ものユーザーがおり、業績は好調だ。
本書には、リモートワークで大きな成果を上げてきた経営者だからこそ語れるリモートワークのヒントが詰まっている。リモートワークのメリットはもちろん、リモートワークの落とし穴や、さらにはリモートワークを円滑に行うための人材採用術にまで言及している。リモートワークだとテキストでのやり取りがメインとなるため、ちょっとした言葉のあやで空気が悪くなりかねない。そのため、人柄に注目して社員を採用すべきだというアドバイスは、リアリティに溢れていた。
リモートワークは今後、日本でも浸透する可能性が高い。実践的なノウハウが詰まった本書を読んで、来るリモートワークの流れに乗ろう。

リモートワークをすすめる理由

なぜ会社にいると仕事ができないのか

『リモートワークの達人』要約!“新しい働き方”で成果を上げるコツとは?

本当に集中したい場合、あなたはどこへ行くだろうか? 「会社」と答える人はほとんどいないだろう。会社だとしても朝早くの誰もいないうちか、みんな帰った夜中、あるいは週末を選ぶはずだ。仕事をしたい人にとって、昼間の会社は最悪だ。
昼間の会社はまるでフードプロセッサのような場所だ。同僚に話しかけられたり、どうでもいいミーティングに呼ばれたりして、まとまった時間が取れなくなってしまう。クリエイティブな仕事にはまとまった時間が必須なのに、会社ではそれが不可能だ。
そこでリモートワークの出番である。会社の外にいれば、誰にも邪魔されることなく仕事に集中でき、生産性は格段に向上する。
もちろん家で仕事をするにしても、テレビの誘惑がある。カフェで仕事をするなら、隣の会話が気になって集中できないかもしれない。しかし、そうした要因は、避けようと思えば避けられるものばかりだ。隣の会話がうるさいならヘッドフォンで音楽を聴けばいい。

通勤は人生の無駄づかい

通勤時間は、誰にとっても苦痛なものだ。朝は早く起きなければならないし、帰ってくるのは遅くなる。平日の時間は通勤時間に圧迫され、こまごまとした仕事を片づけていたら、週末の半分は終わってしまう。朝の渋滞はイライラを引き起こすし、混みあった電車やバスに乗るのは最悪だ。
通勤が体に悪いことは、科学的にも明らかになっている。通勤時間の長い人は太りやすく、ストレスが多く、ゆううつな気分になりやすい。さらには肥満やストレス、不眠や肩こり、高血圧などストレス性の病気も引き起こす。心臓発作やうつ病のリスクが高まり、離婚率が上がることも判明している。
通勤時間はまた、ビジネスにもネガティブな影響をもたらす。片道45分かけて通勤している人の場合、1日に1時間半、1週間で7時間半もの時間が通勤に費やされている。1年で300時間から400時間が通勤のために消えるのだ。
著者が自社の主力製品「ベースキャンプ」の制作にかかった時間は、400時間だ。400時間が自由に使えれば、かなりのことができるだろう。

9時5時からの解放

リモートワークでは、働く場所が自由になるだけでなく、働く時間も選べる。
たとえばベースキャンプでは、平均労働時間を週に40時間とし、その時間配分は個々人に委ねている。その日の気分によってスケジュールを変えることも可能だ。このような働き方は、特にクリエイティブな仕事をする人に合っている。
クリエイティブな仕事で成果を上げるためには、集中力が高まる「ゾーン」に入ることが重要だ。どうしてもうまくゾーンに入れないときは、仕事をしないほうが効率的である。気晴らしをし、脳がフル回転してきたタイミングで仕事にとりかかるのだ。

リモートワークのコツ

コアタイムを決める

リモートワークを成功させるコツは、社内で共通のコアタイムを決めることだ。毎日4時間は同じ時間帯に働くのがいいだろう。コミュニケーションを円滑にし、一体感を醸成させるためだ。
ただしこれは、決して簡単なことではない。たとえばアメリカのシカゴにいる人とデンマークのコペンハーゲンにいる人でチームを組む場合、時差が課題となる。そこでベースキャンプでは、コペンハーゲンのコアタイムを現地時間の午前11時から午後7時まで、シカゴのコアタイムを午前8時から午後5時までと決めた。こうすると、コペンハーゲンにいる人も、シカゴにいる人も、4時間は同じ時間帯に仕事ができる。さらには仕事の前半(または後半)に、質問や割り込みに対応せず、じっくりと自分の作業に集中できる。朝か夜にたっぷり時間がとれるため、家族と過ごしたり、趣味に打ち込んだりすることも可能だ。

画面を共有する

リモートワークというと、相手の作業内容が見えないことを懸念する人がいる。この懸念は、画面共有ツールを活用することで払拭できる。そうしたツールを使えば、画面を共有して同じものを見ながら話しあう、プレゼンする、ウェブサイトの変更点をひとつひとつ確認する、フォトショップで一緒に画像を編集する、テキストファイルを見ながら一緒に編集するなどといったことが可能だ。慣れると、まるで相手が隣の席にいるかのように作業できるようになるはずだ。
リアルタイムでなくとも、画面を共有する方法は有効だ。たとえば新しい機能のデモをするとき、スクリーンで実際に動かしている様子を記録しておく。口頭で説明しながら画面上で操作をし、その様子を動画のスクリーンキャスト(画面上に見えるものをそのまま動画にしたもの)で記録するのだ。動画を閲覧した人は、まるで誰かが隣の席で操作しながら説明してくれているかのような感覚を得られるだろう。

情報にいつでもアクセスできるようにする

「次の作業は何?」「明日のプレゼンの資料どこにある?」「ジョンは来週手が空いてるのかな?」……リモートで働いていると、このような質問に対する回答を得るのに苦労するかもしれない。そうならないために、必要な資料や情報はいつでもみんながアクセスできるところに置いておくことが重要だ。ベースキャンプのような、資料や議事録、TODOリストなどといったファイルをすべてひとつの場所に管理できる製品を使うのがいいだろう。
加えてベースキャンプは、GitHubとリンクさせることもできる。GitHubは、共同作業のためのバージョン管理ソフトだ。GitHubにソースコードを保管しておくと、いつでも最新のコードにアクセスできる。コメントをやりとりする機能もあるため、急がない修正内容についてはここで話しあってもいい。

リモートワークの落とし穴

孤独から逃れられない

人は社会的な生きものだ。どんなに内向的な人でも、他人と関わりたいという本能的な欲求からは逃れられない。
リモートワークをしていると、いつの間にか孤独に陥っていることがある。メールはくるしチャットで雑談もできるが、それらはバーチャルなものだ。人とふれあうことの代わりにはならない。
とはいえ、つきあう相手は会社の人間でなくてもいい。恋人や配偶者、友人、近所の人たちなど、職場から離れていても、人とふれあう機会はつくれる。
家族も友人もいないという人は、環境を工夫してみるといいだろう。リモートワーカーどうしで空間をシェアするコワーキングスペースを利用するのも一つの手だ。電源完備だし、同じような働き方の仲間が集まるので励みになる。
孤独を甘く見てはいけない。意識的に外にでるようにしよう。

働きすぎてしまう

「自由は屈従である」とは、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』にでてくる言葉だ。
この言葉は、まるでリモートワークの落とし穴を言い当てているようではないだろうか。リモートワークは自由すぎるため、仕事とプライベートのバランスがとれなくなる。9時5時という縛りがないために、つねに仕事に縛られてしまうのだ。
つい働きすぎてしまう人は「1日分の仕事」という区切りをつくろう。1日の終わりにその日の作業を振り返り「1日分の働きをしたか?」と考えてみる。イエスと答えられたなら、その日はすっきりした気持ちで仕事を終えられるはずだ。
答えがノーなら、その日は不調だったということだ。それでも無理に残業するのではなく、なぜ仕事が進まなかったのか、それはなぜかと自問し、原因を見つけるにとどめよう。
このようにして、自分のペースをつかむ。起きてから寝るまで仕事漬けの生活よりも、こちらのほうがずっといい。

リモートワーク時代の人材採用

ライティングスキルを重視する

いったんリモートワークに慣れると、働く人どうしの距離は関係なくなる。ならば、国外の人材にも目を向けてみよう。
たとえばコペンハーゲン在住の起業家アレックス・カラビは、ウェブデザイン会社を経営しているが、北欧だけでなく世界中の人材を採用している。さまざまな土地にデザイナーがいるほど、デザインもまた多様なものになるからだ。
ただし、外国の人材を雇う場合には言葉の壁が立ちはだかる。会話には問題がなくても、読み書きは苦手ということもあるだろう。リモートワークでは、文字によるコミュニケーションが主となるため、スピーキングスキルよりもライティングスキルを重視するのがおすすめだ。

人柄で選ぶ

リモートワークにおいては、良質なコミュニケーションが不可欠だ。文字だけでやり取りすると、ちょっとした言葉のあやが大きなケンカに発展しかねない。利己的で口の悪い人が集まっているとチームの雰囲気は最悪になる。
だからこそ、前向きな人や、みんなの気持ちを思いやり、チームの雰囲気を盛り上げてくれるタイプの人を集めよう。気持ちは伝染するものだから、いやなやつを雇ってはならない。
ベースキャンプでは、大量の応募者の中から、書類の段階で2~3人の候補者に絞り込み、1人ずつシカゴの本社へ来てもらう。スキルがあることはわかっているので、ここで見るべきは人柄だ。
本社に来てもらったら、一緒に仕事をすることになるメンバーとともに、ランチを食べながらカジュアルに話をする。ランチの後は、マネジャーとの軽い面談だ。その後は1日オフィスで自由にすごしてもらう。仕事をしてもいいし、しなくてもいい。
候補者が帰ったあとに、一緒にランチに行ったメンバーから候補者の印象を聞く。一緒に働きたいと思ったか、店の人に対する態度はどうか、他人を見下していないか、会社の雰囲気にあいそうか。その後、能力と人柄について話しあい、最終的な判断をくだすという流れだ。

プロジェクトでスキルを確認する

採用においては、履歴書だけで能力を判断するのではなく、実際に働いてもらうほうが効率的だ。1週間か2週間、給料を支払った上でお試し採用をして、小さなプロジェクトをやってもらおう。デザイナーならウェブサイトや製品の新しいデザインを考えてもらい、プログラマならアプリケーションをつくってもらう。
空想上のパズルを解いても、仕事ができるかどうかはわからない。リアルなプロジェクトに取り組んでもらうほうが、より候補者の仕事ぶりを知れる。

一読の薦め

新型コロナウイルスという予期せぬ波によって、リモートワークは日本でも一気に普及した。この状況が収束した後も、継続してリモートワークを採用する企業が出てくることは十分に考えられる。そうした中、個々人が新たな働き方に適応し、最高の成果を発揮するために、本書は大いに役立つだろう。
リモートワークを採用するか否かを判断する立場にある方はもちろん、アフターコロナの働き方を考えたい方にもお読みいただきたい一冊だ。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • ジェイソン・フリード(Jason Fried)

    世界的に著名なソフトウェア開発会社「ベースキャンプ」(2014年に「37シグナルズ」から社名変更)の創業者・CEO。
    同社は1999年の創業以来20年にわたりリモートワークで業績を上げ続け、プロジェクト管理ツール「ベースキャンプ」は世界中で数百万のユーザーに愛用されている。ハンソンとの共著に本書のほか、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーとなり日本でもITエンジニア大賞(ビジネス部門)を受賞した『小さなチーム、大きな仕事』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)、『NO HARD WORK!』(早川書房)、Getting Realがある。

  • デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン(David Heinemeier Hansson)

    ベースキャンプ共同経営者。
    オープンソースのウェブ開発フレームワーク「Ruby on Rails」の開発者。Ruby on RailsはTwitter、クックパッド、Hulu、Airbnbなど100万を超えるウェブ・アプリケーションに使用されている。

  • 高橋璃子 (訳)

  • flier

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