正しい「見える化」できてますか?組織を変えるために本当にすべきこと

「見える化」という言葉が登場してから早10年以上。しかし世の中の「見える化」について、そのやり方に遠藤功氏は警鐘を鳴らしています。本物の「見える化」がどのようなものなのか、そしてそれを実践するためには何をするべきなのかを記した一冊を要約しました。

 見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み

タイトル: 見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み

著者:遠藤 功

ページ数:200ページ

出版社:東洋経済新報社

定価:1,728円(税込)

出版日:2005年10月20日

 

Book Review

「見える化」という言葉が登場してから早10年以上が経過し、今では多くの企業が「見える化」に取り組むようになった。だが、「見える化」という言葉を広く世に知らしめた著者は、世の中の「見える化」の取り組みの大半について、きわめて表面的なレベルにとどまっていると警鐘を鳴らす。正しい「見える化」は、実績値や計画をグラフやチャートにし、ボードや壁に貼れば達成できるものではなく、指標管理の仕組みを導入すればいいというものでもない。欧州系最大の戦略コンサルティング会社の日本法人会長であり、早稲田大学ビジネススクールでも教鞭を執る著者の主張は、数々の経験や分析を踏まえて導き出されたものであり、だからこそ説得力がある。
本書は、「見える化」を現場力の中核となるコンセプトに位置づけ、その考え方を整理し、体系化することで、現場力の一段の強化につなげたいという思いで執筆された。人の目で「見える」対象物は限られており、自分の目の前にあらわれたこと以外は、何も「見えない」のが常である。この事実にもとづき、自分の目の前にあらわれたことをきちんと「見る」こと、そして必要なことをきちんと「見える」ようにすることの徹底を説いたのが本書だ。ここで紹介されている理論、そして数々の事例を参照することで、本物の「見える化」がどのようなものなのか、そしてそれを実践するためには何をするべきなのかが、明確に「見えて」くるに違いない。

「見える化」とは何か

問題を明らかにするのが「見える化」の本質

問題を明らかにするのが「見える化」の本質

現在、「見える化」という言葉はさまざまな意味で用いられている。しかし、オリジナルの意味は、「問題を『見える』ようにする」ことである。
問題解決能力を高めるためには、なによりもまず問題が「見える」状態になっていなければならない。人間が外部から得る情報の8割は、視覚から得ていると言われており、実際、私たちの行動の大半は、目に見える情報にもとづいている。
だからこそ、実態や問題を包み隠さず、タイムリーに「見える」ようにすることが重要になってくる。人間が本来持っている責任感や能動性、やる気を信じ、企業活動上のあらゆる問題を浮き彫りにさせることこそが、「見える化」の本質なのだ。

問題が目に飛び込んでくる状態をつくりだせ

社会には、「見える化」を勘違いしているような取り組みが多数存在している。なかでも、1番多い勘違いは、さまざまな情報をオープンにさえすれば、「見える化」が達成できるというものである。確かに、多くの人たちが情報を共有すること自体は決して悪い取り組みではない。しかしそれは、相手が「見よう」という意思を持っていなければ機能しないものだ。
「見える化」の基本は、相手の意思にかかわらず、さまざまな問題が「目に飛び込んでくる」状態をつくりだすことである。「見る」ではなく、「見える」という言葉が用いられている理由もそこにある。「人間は問題が目に飛び込んでくれば行動を起こす」というのが、「見える化」の基本理念である。
情報の共有という同じ目的をめざしていたとしても、自然と目に飛び込んでくる「見える」状態なのか、それとも相手の「見る」という意思に頼ったものなのかで、その効果は劇的に変わってくる。それにもかかわらず、「見える化」を導入したという事例の大半は、IT(情報技術)を用いて情報をオープンにすることだけで満足してしまっている。
ITは「見える化」のための有用なツールではあるが、その目的によって正しく使い分ける必要がある。実際、ITは「見える化」には向いていないことも多く、むしろITによって「見えない化」を促進してしまう場合すらある。

勘違い企業の共通点

「見えている状態」とは程遠い状態にあるにもかかわらず、「見える化」できていると考えている企業にはいくつかの共通点がある。
まず、自分にとって都合の悪い情報を「見える化」していない。ポジティブな情報を「見える化」するなとは言わないが、そういった情報は工夫しなくても自然と見えてくるものである。重要なのは、本来「見せたくない」情報を明らかにすることだ。悪い情報を早く発見し共有できれば、手遅れになる前に手を打つことができる。
また、当事者や一部の関係者しか問題が見えていないという状況も厄介である。大事なのは、「組織」として、問題が「見える」ようになっていることだ。ここでいう「組織」が何を指すのかは、それぞれの問題の大きさや深刻度に応じて変わってくるが、関与すべき人たち全員に「見える」ようになっていなければ、「見える化」とは到底言えない。
加えて、「見える化」のタイミングが遅かったり、ずれていたりしては意味が無い。「見える化」においては、即時性がきわめて重要である。「遅くなっても、見えないよりマシ」という考え方は間違えている。情報には「鮮度」がある。特に、都合の悪い情報であればなおさらだ。
さらに、「見える化」をするときは「質」も大切である。「こんなことがあったらしい」という伝聞などの二次情報だけが見えても、それは本当に「見えた」ことにはならない。もちろん、問題を速報で共有するためには伝聞情報も必要だが、「見える化」の本質は、事実や一次情報を「見える」ようにすることだと留意すべきである。

何を「見える化」するべきか

「見える化」は単なるオペレーションではない

見たくなくても目に飛び込んできてしまう状態を生み出すためには、「見せる」という意思や行動が必要だ。残念ながら、仕組みや仕掛けだけでは、「見える化」は機能しない。企業活動においては、問題が露見する前に、小さな変化や予兆を暗示する出来事や数字が必ずあるものである。それをつかみ、積極的に「見せる」ようにしなければならない。
そして、「見せよう」とするのはあくまで人である。機械やITには「見せよう」という意思はない。真の「見える化」の実現のためには、「見せよう」という意思をもつ人づくりが鍵となる。
経営のあらゆる側面でもっと多くのものを「見せる」ようにし、「見せよう」とする人を育てることは、企業の競争力を高めるための本質的な活動である。「見える化」は決して、単なるオペレーション上の手法ではない。その意味で、「見える化」は経営思想そのものだといえる。その重要性を、企業のトップから現場の一人ひとりにいたるまで、徹底させることが、透明性の高い企業風土をつくりあげていくための唯一の方法なのである。

問題を具体的に「見える化」する

問題を具体的に「見える化」する

「見える化」の対象を大きく分類すると、「問題」「状況」「顧客」「知恵」「経営」の5つのカテゴリに分けることができる。なかでも重要なのが、「問題の見える化」だ。問題が発生するのは企業活動の最前線、すなわち現場である。この現場レベルで問題を「見える」ようにするのが、「見える化」活動の原点であり、出発点である。現場レベルでの「見える化」が機能していないのに、経営全体の「見える化」が実現されることなどありえないのだ。
「問題の見える化」を深く理解するためには、さらに対象を細かく分類して、「異常」「ギャップ」「シグナル」「真因」「効果」という5つのカテゴリに分けて考えるのが効果的である。
(1)「異常の見える化」は、現場で発生する異常事象そのものを顕在化させることを意味する。たとえば、不良品の発生が増えていると言われても、数値だけではなかなか実感が湧きにくい。そこで、不良品の山を隠さずに、誰の目にも物理的に「見える」状態にしておけば、誰もがそれを問題だと直接的に認知できるはずだ。
また、現場での業務が、計画どおりに行われているかを認知するには、定められた基準と現状との「ギャップ」を測定すればいい。これが(2)「ギャップの見える化」である。チャートやデータを活用し、ギャップを視覚的に異常事象として認識させるようにするべきである。
(3)「シグナルの見える化」は、異常やギャップそのものを「見える化」する前に、異常事象が発生しているという事実を「シグナル(速報信号)」として発信し、顕在化させることである。何か異常が発生しているというシグナルをタイムリーに告知することにより、問題解決を加速させることができる。
とはいえ、これらの「異常」、「ギャップ」、「シグナル」の「見える化」は、問題が発生したという事実を伝えるには有効だが、なぜそれが発生したのかという「根本的な原因」を「見える」ようにしているわけではない。そこで、(4)「真因の見える化」が求められることになる。目的を明確にし、より詳細なデータや事実を露見させれば、そこから真因が見えてくることもある。これこそが最も根本的な「見える化」だとも言える。
最後に、(5)「効果の見える化」も重要だ。「問題」を見えるようにするのは、問題解決を行うためである。さまざまな対策を講じて問題に対処したら、その結果についても検証しなければならない。学習する組織になるためには、効果測定を行い、その結果を「見える化」することが必要不可欠なのだ。

「見える化」がもたらす恩恵

「見える化」は能力を育む

「見える化」は能力を育む

「見える」ことはあくまで「入り口」にすぎない。「見える」ことがきっかけになり、人の心の中に何かが育まれ、それが「見える」前とは違う思考や行動を生むのである。もちろん、「見えれば解決する」といった単純な問題は、決して多くない。しかし、「よい見える化」は、「見える」という刺激を通して4つの能力を育んでくれる。
第1の能力は「気づき」だ。情報やデータ自体に目的があるわけではない。この「気づき」を発見させることこそが、「見える化」の真の目的である。
第2の能力は「思考」である。事実が「見える化」によって明らかになることで、思考は抽象的なものから具体的なものへと変化する。
第3の能力は「対話」だ。「見える化」によって、組織内で共通認識が出来上がってくる。さまざまな壁が打ち壊されると、自然と「対話」が促進されていく。
そして、それは第4の能力である「行動」に結実する。何をしたらよいかという答えや仮説を得た人間は、それを実行したいという欲求を持ち始める。そこから具体的な「行動」がもたらされるのである。

「見える化」の極意

「見える化」の10カ条

「見える化」には目的に応じて、さまざまなバリエーションがある。しかし、「見える化」を効果的に行うための本質的な約束事は、以下のようにまとめられる。これを「『見える化』の10カ条」と呼ぶ。
まず、最初に取り組むべきは(1)現状の整理である。現状、どの程度見えていて、見えていないのか、そういったことを洗い出すのが「見える化」の第一歩だ。特に、(2)「見せたくないもの」ほど「見える化」することを心がけよう。見せられないと思う情報ほど、「見せる化」の意義は大きい。
とはいえ、人間の「見る」能力には限界がある。一度にあれもこれも「見ることはできないため、(3)「見せる」ものを絞り込むことも重要だ。また、(4)鮮度・タイミングにも気をつけるべきである。悪い情報ほど、早く「見える」ようにしなければならないからだ。さらに「見える化」を、どのような道具を使って実現するかという方法論も考えなければならない。(5)アナログとデジタルを使い分けることも、効果的な「見える化」には欠かせない。
特に、「見える化」を実行するうえでは、なんといっても(6)わかりやすく、シンプルにするということを心がける必要がある。消化不良を起こすような「見える化」は、かえって組織内に新たな問題を発生させてしまう。(7)現場の当事者自身が「見える」ように、仕組みづくりをしていかなければならない。
加えて、「見える化」の目的は問題解決だということも、忘れないようにしたい。「見える化」によって問題が「見える」ようになっても、それをそのまま放置していたら意味がない。(8)本当の勝負は「見えたあと」なのである。
そして、(9)それぞれの現場で取り組んだ「見える化」の実績や成果、失敗などを共有し、全体の知恵として活かすことを心がけるべきである。「見える化」を通じて、現場同士が互いに刺激し合い、学習していく環境をつくりあげるのだ。そのためには、(10)経営トップが「見える化」を牽引しなければならない。経営トップが「見える化」の重要性を熱く説き、導入、定着を推し進めなければ、真の「見える化」は実現できないだろう。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • 遠藤 功(えんどう いさお)

    早稲田大学ビジネススクール教授。
    株式会社ローランド・ベルガー会長。 早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。 三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。 早稲田大学ビジネススクールでは、経営戦略論、オペレーション戦略論を担当し、現場力の実践的研究を行っている。また欧州系最大の戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーの日本法人会長として、経営コンサルティングにも従事。ローランド・ベルガードイツ本社の経営監査委員でもある。中国・長江商学院客員教授(2008年より)、日新製鋼株式会社経営諮問委員などを兼任。 著書に『現場力を鍛える』『ねばちっこい経営』『プレミアム戦略』(いずれも東洋経済新報社)、『MBAオペレーション戦略』(ダイヤモンド社)、『企業経営入門』(日本経済新聞社)、『ビジネスの“常識”を疑え!』(PHP研究所)などがある。 『現場力を鍛える』はビジネス書評誌『TOPPOINT』の「2004年読者が選ぶベストブック」の第1位に選ばれた。また本書で2006年(第6回)日経BP・Biz Tech図書賞を受賞。 個人ホームページ:http://www.isaoendo.com

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