『仮想空間シフト』を要約!時代の変化をどうやって力に変えるべきか

2020年3月以降、コロナ禍の影響により、在宅ワークという形で「仮想空間」へのシフトが始まった。これまで掛け声倒れに終わっていた「働き方改革」が進む中で、私たちのアイデンティティや自由という概念はどのように変わっていくのか。

仮想空間シフト

タイトル:仮想空間シフト

著者:尾原和啓、山口周

ページ数:200ページ

出版社:エムディエヌコーポレーション

定価:891円(税別)

出版日:2020年8月11日

 

Book Review

新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、物理空間から仮想空間へのシフトが顕在化しつつある。
本書は尾原和啓・山口周両氏が、私たちの働き方や社会はどう変わるのかを論じたもので、この対談も終始オンラインで行われたという。
著者たちのいう仮想空間へのシフトは2020年3月以降、東京などの都市圏における在宅ワークの導入というかたちで始まった。ミレニアル以下の世代にとってはすでに親しいものであった仮想空間が、その上の世代にまで広まったのだ。とはいえ、これはいずれそうなるはずだった未来の姿が、少し早く立ち現れたにすぎないという。「リアルファースト」から「仮想空間ファースト」への価値観のシフトは遅かれ早かれ不可避であった、というのが両氏の見方だ。
たしかに今はまだ、「仕事のやり方が変わった」という段階に過ぎないかもしれない。しかし今後、仕事→暮らし→社会→人生→国家(行政)という具合に、仮想空間シフトの波紋が広がっていくことが期待される。これまで掛け声倒れに終わっていた「働き方改革」も、大きく後押しされるだろう。
いずれは30年来の懸案であった「東京一極集中」が解消に向かい、インターネットという「知の高速道路」に乗り、より高度な教育が安価かつ世界中で受けられる未来が、著者たちの予想通りにやってくるかもしれない。そのとき、私たちのアイデンティティや自由という概念はどう変わるのか。
本書は、明るい未来に舵を切るための啓蒙の書だ。新しい社会の到来が待ち遠しいという方にこそ、ぜひお読みいただければと願う。

働き方の変化が始まる

物理空間から仮想空間へのシフト

『仮想空間シフト』を要約!時代の変化をどうやって力に変えるべきか

東京でオンラインによる在宅ワークを導入している企業は、2019年の段階では2割に満たなかった。しかし現在(2020年6月執筆当時)は、6割ほどまでに増加している。まさに新型コロナによる強制進化によって、オンラインとオフラインの主従関係が逆転したかたちだ。
その結果、多くの人が仮想空間(在宅やサテライト)でも仕事はできると気づいた。実際、日本生産性本部が20歳以上の雇用者約1100人を対象に調査したところ、全体の6割程度の人が「新型コロナ収束後も、このまま在宅ワークを続けたい」と答えている。
私たちの仕事と生活の空間は、リアルな物理空間から仮想空間へと着実にシフトしつつある。

1時間という単位からの解放

物理空間上での仕事は、参加者全員が同じ時間かつ同じ場所に集まることを前提にしている。打ち合わせはその代表例だ。その結果、集まる時間を調整したり、移動の時間を確保したりする必要が生じてしまい、1時間という時間の単位が社会を同期させるためのリズムになっている。
仮想空間は、この1時間という単位から私たちを解放してくれる。これからは打ち合わせの中身も、事前にチャットなどで意見交換をして、どうしても必要なことだけ仮想空間上で会議すればいい。いきなり本質的な話に入る「ホットスタート」を切ることができるだろう。また、有益な意見を出さない「ただ参加しているだけ」のような人がいなくなるので、どんどん話し合って物事を決めていけるようになるはずだ。
このように、仮想空間へのシフトは、仕事の生産性をはるかに上げてくれる。

課題はこれから顕在化してくる

仮想空間では、雰囲気や細かなニュアンスなど、どうしても伝わりきらない部分も出てくる。そのような状況で的確に意思決定を行うためには、ベースとなる人間関係が重要になる。
現在、仮想空間でうまくいっているケースも、これまでの人間関係の蓄積があったうえで、物理的な制限がなくなったぶん効率的になっただけなのかもしれない。言ってしまえば、今までの物理空間で築き上げてきた「貯金」で食いつないでいるだけの可能性がある。
したがって、この「空気が読みにくい」というコミュニケーション上の問題が顕在化してくるとしたら、徐々に人間関係が希薄になっていく来期以降だ。オンラインによる仕事を定着させるためには、しばらく注意が必要だろう。

来るべき仕事

デジタルネイティブの価値観

急速な仮想空間へのシフトは、社会の仕組みがミレニアル世代(1981年生まれ~)やZ世代(1996年生まれ~)のようなデジタルネイティブの価値観に近づいたことを意味している。
こうした世代の若者について、「草食化している」とか「ハングリーさが足りない」などと上の世代の人は評価しがちだ。だがそれは、まったくもってピントを外している。そこにあるのは、「何に対してハングリーなのか」という価値観のずれだ。
NHKが2018年、全国の16歳以上の5400人を対象に調査したところ、「着るものや食べもの、住まいなど、物質的に豊かな生活を送っている」という問いに対しては、80%が満足していると答えた。同じく「環境がととのい、安全で快適に過ごせる地域に住んでいる」という、社会全体の物質的な満足度に関する問いに対しても、87%が満足だと答えている。もうモノは溢れていて、そこに対する渇望はないのである。

やりがいの需給ギャップ

その一方で、「自分の仕事や働きにやりがいを感じられない」という人は非常に多い。これは、やりがいのある仕事を求めている人が多数を占めるなか、それを供給している企業が少ないということを表している。やりがいの需要と供給のギャップがきわめて大きいのだ。
「意味合い」「目的」を主たるモチベーションとするのが、ミレニアル以下の世代の特徴である。言い方を変えれば、みなが仕事をエンターテインメントとして消費したがっている。魅力的な課題(イシュー)さえ示すことができれば、優れたタレントを集められる可能性は高い。

目的と手段の混交

いまの日本で、「この仕事にはどのような意味があるのか」をきちんと語れるリーダーがどの程度いるだろうか。
たとえば「今回のプロジェクトの目的はシェアードサービスセンターの導入です」などと言われても、それは目的ではなく手段である。シェアードサービスセンターを作ると、どんな価値が生まれて、会社や社会がどう変わるのか。その先にあるものこそが、本来の目的のはずだ。
すべての仕事は、どこかで企業価値の向上に繋がっているはずである。「売上を上げるかコストを下げるか」だけではなく、そこに「その仕事の目的」がパチっとはまっていなければならない。

明日から始められること

個人の仕事のポートフォリオ

働く個人に視点を移すと、本当に安定した収入を得るためには「複数の収入源」を持つべきだ。今回のコロナ禍を通じて、このことを肌で感じた人も多いに違いない。社会全体でも副業解禁の流れが生まれており、副業や兼業はどんどん身近なものになっていくと予想される。
とはいえ本書の読者の多くは会社に勤め、メインとなる収入源を持っているであろう。その状況からいきなり「1つの収入源に依存するな」と言われても、ハードルが高く感じられるかもしれない。
しかし個人の仕事のポートフォリオ――どのような仕事をいくつやって、どのようなバランスで収入を得るかという設計図を作ること――は、これからの時代において非常に重要だし、実際にやってみると楽しいものである。それは1人ひとりの新しいアイデンティティを開拓し、より大きな自由を得ることにつながるはずだ。

小さく踏み出す

現在「キャリアに悩んでいる」とか、「アフターコロナの働き方に不安がある」という人は、とにかく打席に立つべきだ。会社の外側のプロジェクトに少し参加してみるとか、仮想空間でできる副業を見つけてみるとか、そういう小さなステップの積み重ねが人生を大きく変えてくれる。
まずは「階段のステップを小さくする」ことを心がけよう。短期間で大きな変化をしようとしたり、完璧な姿になろうと考えたりすると、どうしても行動力が鈍ってしまう。最初の変化は小さなものでいいし、失敗したらすぐやり方を見直し、もう一度トライすればいい。そうやって軽く構えることで、行動力を高めるのである。副業をはじめとして、行動をすることのコストはどんどん下がっている。いくらでもチャンスはあると心得るべきだ。

社会の変化

東京一極集中の解消

さらにスケールを大きくして、今後社会としてどのような変化が起きるのかについて見ていこう。これは直近の1~2年の話ではないが、仮想空間にシフトした働き方や暮らし方が主流になれば、いずれ起きる変化である。
まず、住む場所が多様化することは間違いない。30年来、あの手この手をつくしても解消されなかった東京一極集中が、はじめてリバースする可能性がある。好きな地方に住み、東京の企業と仮想空間を通じて仕事をするといったライフスタイルが、大きなトレンドになるだろう。そして地域に根差した特色のある店でお金を使うようになれば、地域の中でお金がまわるようになる。地方分権型の社会の到来である。

仮想都市東京

そう考えると、そもそも東京という都市が、ある種の仮想空間であることに気づく。今となっては仮想空間上で作れるものを、わざわざ資源を使って物質空間上に実現していたということだ。逆に言うと東京という都市の役割は、仮想空間上で作れてしまう。
人が密集した都市という空間につけ入るのがパンデミック(感染症の広範囲に及ぶ流行)だ。今回のできごとは、近代国家を支える都市が分散するきっかけを作った。その意味で人類史に残る事件、ターニングポイントと言えるのではないだろうか。

知の高速道路

仮想空間シフトの恩恵を最も受けるのが教育であろう。これまで良い教育を受けさせようとすれば、やはり都会に出る必要があった。だが教育の仮想空間シフトが起きれば、その点でも地方に住むハンデはなくなる。インターネットを通じて、トップクラスの教育コンテンツを安価に利用できるからだ。教育のコストが下がることによって、「知の高速道路」が整備されたのである。
日本の場合、世界のコンテンツを学ぶ際には言語の問題があるかもしれない。しかしそれも、AIによる自動翻訳が発達すれば解決するだろう。日本の子どもの多くが、ハーバード大学のような一流の授業を日常的に学ぶ、そんな未来が身近に迫ってきている。

環境問題にも光明が

仮想空間シフトは、都市化の代償である環境問題にも光明をもたらす。新型コロナの感染拡大を封じ込めるためにロックダウン(都市封鎖)を行なった結果、大気汚染がかなり改善されたというニュースが流れた。空気が澄んだおかげで、インド北部から数十年ぶりにヒマラヤが観測できたとのことだ。工場からの排水がなくなり、ガンジス川の水質も改善した。
コロナが収束して移動の制限が解かれたとしても、以前のような過密な交通による環境破壊は世界的に緩和されるであろう。今は経済成長と地球環境がトレードオフの関係になっているが、経済が仮想空間上で成長するようになれば、そのジレンマも解消できるはずだ。

価値観ディバイド

これまで社会で語られてきた「デジタルディバイド(分断)」は、テクノロジーを「使えるかどうか」という観点に着目したものだった。しかしそれは、テクノロジーが誰でも使えるシンプルなものになったことで、解消に向かいつつある。
代わって生じてきているのが、「それを使おうという価値観を持っているかどうか」という「価値観ディバイド」だ。ミレニアム世代は「物理空間と仮想空間は対等のもの」と思っているし、Z世代に至ってはむしろ仮想空間を優先する「仮想空間ファースト」の価値観を持っている。一方でそれより上の世代は、あくまで「物理空間が主で仮想空間はサブにすぎない」と感じている「リアルファースト」だ。この価値観のディバイド(分断)は大きい。分岐点は46歳前後とみる。
今は上の世代が力を持ち、社会のルールを作っているが、仮想空間ファーストの価値観が主流になったとき、リアルファースト世代が社会から取り残されないようにしなければならない。そのためにも、今回のオンラインワークへのシフトを一過性のものとせず、社会に定着させることがポイントとなるだろう。

一読の薦め

お二人の対談の内容は多岐にわたり、要約で取り上げたのはその一部にとどまる。「仮想空間シフト」のインパクトの大きさは、ぜひ本書にあたってみてほしい。最終章では「これからの世界を生き抜く10のアクション」として、尾原氏が読者へのアドバイスを簡潔にまとめている。また、「おわりに」における山口周氏の「過去はこれからをどのように生きるのか次第でいくらでも変えられる」というメッセージは秀逸だ。読むだけで価値観と今後の行動が少し変わる、そんな一冊である。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • 尾原和啓(おばらかずひろ)

    1970年生まれ。フューチャリスト。
    京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab取締役)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、グーグル、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に『アフターデジタル』(日経BP)、『ネットビジネス進化論』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)、『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)など。

  • 山口周(やまぐちしゅう)

    1970年東京生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。
    慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーン・フェリー等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後に独立。現在は「人文科学と経営科学の交差点で知的成果を生み出す」というテーマで活動を行う。株式会社ライプニッツ代表、一橋大学大学院経営管理研究科非常勤講師、世界経済フォーラムGlobal Future Councilメンバーなどの他、複数企業の社外取締役、戦略・組織アドバイザーを務める。著書に『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。

  • flier

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