『パラダイムシフト 新しい世界をつくる本質的な問いを議論しよう』を要約
コロナ危機をきっかけに在宅勤務を体験し、オフィスに行かずとも仕事ができると実感した人は多いだろう。著者は、この世界的なパラダイムシフトの機こそ社会の問題と向き合い、本質的な「問い」について考えるチャンスだと主張する。そうした「問い」のもとに未来を切り拓く21名のインタビューをまとめた一冊。
タイトル:パラダイムシフト 新しい世界をつくる本質的な問いを議論しよう
著者:ピョートル・フェリクス・グジバチ
ページ数:320ページ
出版社:かんき出版
定価:1,600円(税別)
出版日:2020年12月2日
Book Review
2020年のコロナショックで、私たちはさまざまな我慢を強いられた。目に見えぬ感染のリスクに怯え、世界中で大規模な経済活動の縮小が起きた。つらい状況にはちがいないが、発見もあった。新型コロナウイルス感染防止対策として在宅勤務に切り替える企業が続出した。オフィスに行かなくても仕事はできるということを、多くの人が実感したのではないだろうか。
コロナ危機をきっかけとして、いたるところで既存のパラダイムに大激震が走った。こうしたタイミングこそ社会の問題と向き合い、本質的な「問い」について考えるチャンスだと著者は主張する。本書には、そうした「問い」のもとに未来を切り拓く投資家、起業家、教育者など21名のインタビューが掲載されている。
彼らの声は、働くことや教育のあり方、そして自分自身の生き方まで幅広い視点から本質に迫り、新たなパラダイムへと向かう私たちの背中を押してくれる。
パラダイムが変わると、判断の物差しも変わってしまうため、新しいパラダイムは受け入れがたいものだ。また、世の中が激変しているときには認知バイアスによって思考が偏りやすい。だからこそ、バイアスの存在に自覚的であることは、適切な意思決定をするうえできわめて重要だ。
変化に対して悲観的すぎても楽観的すぎてもいけない。自分はどう生きたいのか、私たちはどんな選択をするべきなのか。要約者は「本質を見失ってはいけない」と、著者に優しく諭された気がした。世界は私たちの行動次第でもっとよくなる。そんなふうに、自分軸で生きていく勇気をくれる一冊である。
パラダイムシフトのチャンスの到来
本質的な「問い」を探求する
新型コロナウイルスがパンデミックを引き起こし、世界が一斉に急ブレーキを踏んだ。グローバルサプライチェーンが分断され、多くの人が「世界の問題」は「自分の問題」だと気づいたのではないだろうか。
人類にとって命の危機となる脅威がトリガーとなって、さまざまな社会の問題をあぶり出している。かつてエイズが流行したとき、同性愛者への潜在的な「差別」が表面化した。同じように今回のコロナの流行では、都市部の人口一極集中など、数々の問題が明るみに出た。
問題は、オフィス通勤ができなくなるといった表面的変化ではない。重要なのは、そのような変化が生じている本質的な意味を問うことだ。世界を動かしている構造とシステム、そしてバランスに目を向ける。そのうえで、社会問題の解決に向けて企業はどうあるべきか、私たちはどのような生き方を選択すべきかについて、真剣に考えなければならない。世の中が大きく動いているいまが、古いパラダイムを変えるチャンスなのだ。
本書ではパラダイムシフトにおける本質的な「問い」を探求する。そこで重要なのが次の4つのステップである。
まずは、自分自身に自覚的になり、自分が何者であるかを認識する。次に、世界の状況を俯瞰し、どんな潮流の中にいるかを理解する。さらには、自分には想像している以上に多くの選択肢があることを自覚する。そして最後に、自分の選択による影響について考え、その責任を持つようにする。
新しいパラダイムへの転換をリードする
パラダイムとは思想や価値観、社会観念のことである。そしてパラダイムシフトとは、そうした思考パターンの転換を意味する。各世代には特有のパラダイムがあり、戦前、戦後、団塊ジュニア世代、ミレニアル世代というように、世代の変遷とともに変化していく。
人は新しいパラダイムを拒むものだ。本来なら理想を追求して、新たなパラダイムをつくり続けるべきだが、「通約不可能性」によってそれができない。通約不可能性とは、自分のパラダイム以外では自分の価値観を説明できなくなる状態を指す。価値観という物差しは、パラダイムが変わると機能しなくなる。だから新しいパラダイムを受け入れられないというわけだ。
しかし、それを踏まえて、自ら新しいパラダイムへの転換をリードすることはできる。通約不可能性がある前提で、異なる価値観の世界へと橋渡ししていくのだ。そういう意識を持つことで互いの理解を深められる。このとき重要なのが「止揚(アウフヘーベン)」という考え方である。一度否定したパラダイムを全面的に捨て去るのではなく、すでにあるパラダイムがもつ優れた要素を保存し、より高い次元で活かすというものだ。
人類の生存という究極的な問いの前では、パラダイム同士の衝突は無意味である。大局的な視点で世界の問題に向き合うことで、新しいパラダイムを受け入れられる。ひいてはそれが、真のグローバリズム、人類の一体感につながっていくにちがいない。
厄介な問題にどうアプローチするのか?
複雑で厄介な問題に対処するとき、問題の種類を見誤ると解決が遠のいてしまう。トランプ政権は、それにより新型コロナウイルスの封じ込めに失敗した。
問題の種類は4つに分類できる。1つめの「明らかな問題」は原因が明確で過去の経験から対策が講じやすい。また2つめの「込み入った問題」は何がわからないかがわかっているので、専門家に相談すれば答えは得られる。
これに対し、3つめの「複雑な問題」は誰にも正解がわからない。
新型コロナウイルスの感染拡大は、このうち3つめの「複雑な問題」に該当する。ところがトランプ政権は、これを「明らかな問題」か「込み入った問題」、つまりコントロール可能な問題だと判断した。それが感染者数を指数関数的に増やすことにつながったといえる。政策の失敗は社会的弱者を直撃する。社会不安は問題の連鎖を招き、「Black Lives Matter」のような抗議運動にまで発展した。
「複雑な問題」と「混沌とした問題」は、何がわからないかがわからない問題であり、自分自身の適応の問題である。大切なのは、私たち自身が問題の主体であることを意識し、自身に問うことだ。適切な答えを導くものは、適切な問いしかない。
自分の思考パターンを意識する
認知を歪める思考パターンに気づく
今回のパンデミックのような大きな変化の際には、思考にバイアスがかかっていないか注意しなければならない。バイアスはパラダイムをつくり、またパラダイムはバイアスをつくる。パラダイムの変革をめざすには、自分の思考パターンを把握する必要がある。
そもそも人間の認知を歪める思考パターンには、「一般化」「省略」「歪曲」がある。「一般化」とは、根拠が不十分なまま早まった結論づけをしてしまうことを意味する。「省略」とは、結論の飛躍により物事を悲観的に見てしまうことだ。たとえば「東京は感染リスクが高い」とした場合、どのような根拠のもとにそう結論づけられるのかを、具体的に掘り下げなければならない。そして「歪曲」とは、因果関係を正しく把握しないまま自分の失敗や弱み、脅威を過大評価し、反対に成功や強み、チャンスを過小評価することである。
特に状況が刻々と変化しているときに、こうした思考パターンが生じやすい。適切な意思決定をするためには、自分の思考の偏りを認識することが必要だ。
認知バイアスとうまく付き合う
思考パターンの裏には「認知バイアス」が潜んでいる。認知バイアスとは無意識に働く心理的動作をいう。いつウイルスに感染するかわからないような状況下では、人は生命維持モードのスイッチが入りやすく、認知バイアスにとらわれやすい。認知バイアスの例をいくつか紹介しよう。
まず、感染拡大の中、根拠なく「コロナ危機が去ってすぐに元の状態に戻る」と思い込もうとするのが「正常性バイアス」である。都合の悪い情報から目を背けていると、人々の行動変容に気づけない。
つづいて、悪いニュースを耳にしてもまさか自分の身には起こらず、何とかなると考えるのが「楽観主義バイアス」である。
また、自分に都合の良い情報ばかりを集めて反証の情報を無視する傾向を、「確証バイアス」という。正しい判断ができなくなるため危険な行為といえる。
ただし、認知バイアスの性質を逆手にとって、楽観主義バイアスをリーダーシップの発揮に活用するといったことも可能だ。大切なのは認知バイアスを避けることではない。自分の認知の仕方を客観視し、バイアスを自覚することである。
「働く」の意味を問い直す
インテンショナルワーカーのすすめ
毎朝決まった時間に起き、電車に乗ってオフィスに向かう。そんな日常がコロナ危機によって崩れ去った。多くの人がオフィスに出勤できず、上司に細かな指示を仰ぐことができなくなり、各自が自律的に働くことを余儀なくされた。そうした姿こそが本来働き方改革がめざすものである。
働き方とは、アウトプットを生み出すために最適化されプログラム化されたものであるべきだ。単に決められた仕事をこなすのではなく、アウトプットから逆算して考え、意図的に動かなければならない。こうした働き方を「インテンショナルワーカー」という。
生き方も同様である。自分の人生のゴールを明確にイメージし、そこから逆算する。そうすれば、アウトプットを最大化するための最適な働き方、ゴールまでの最短ルートが見えてくる。
働き方の問題は、もはや人事の問題ではなくなった。経営者が会社のあり方を、個人が自分の人生を考え直すのが働き方改革だ。
では自分はどう生きたいのか。サイボウズ株式会社代表取締役社長の青野慶久氏によると、働く意味を問い直すにはトレーニングが必要だという。学校のカリキュラムをこなすうちに、私たちは自問自答をやめてしまう。しかし本来は、自分が欲するものを探求することが幸福の追求につながるのだ。
教育を問い直す
個人最適のアダプティブな学び方
日本の企業は新入社員を採用し、研修後に適性を見極めて配置してきた。企業が求めるのは長く働いてくれる人材である。そのため学校側は、生徒に従順さを教え、安定就労できる人材に育ててきた。
しかし、ビジネスの現場で必要なのは、既存のカルチャーにフィットするような人材ではない。既存のカルチャーに捉われない自由な発想ができるイノベーティブな人材だ。ビジネス構造が様変わりする中、学校教育の現場でもパラダイムシフトが起きるのは避けられないだろう。
学びの本質は「問い」を持って学ぶことにある。自分に足りないものを自覚し、「知りたい」という強い好奇心を持ち、課題の解決に向けて学んでいく。これが本当の学びだ。
広島県教育委員会教育長の平川理恵氏は、「教育のチョイス」を提唱している。学校で授業を受けるか、就職に向けて自宅で企業研究をするかどうかは、生徒の進路や状況に応じて選択できてよいと提言する。端的にいえば、個々に最適化したアダプティブな学びである。
今後オンライン授業が一般的になると、時間と空間の制約はなくなる。すると「不登校」という言葉もなくなるだろう。いまこそ学校のあり方を問い直すチャンスである。
生きる意味を問い直す
自分軸を持つ
コロナの危機に際し、疑心暗鬼になったり自己中心的になったりする人の姿が見受けられた。このように翻弄されるのは、自分の軸を持っていないからだ。自分に軸がある人は、パラダイムの変化で一時的に軸がブレたとしても、しっかりと立て直すことができる。
変化の波をうまく乗りこなしているように見える人は、普段から自分軸に従って選択肢を用意し、ちょうどよいタイミングを待ち受けていたのである。変化の予測や変化への適応にことさら長けていたわけではない。彼らにとっては、「もともと考えていたことが、コロナショックで早まった」だけだ。
絶体絶命のピンチは千載一遇のチャンスだと語るのは、アルビオンアート株式会社代表取締役の有川一三氏である。ピンチの真っ只中にあるときはそう思えなくても、何とか自分を説得して行動していると、必ずチャンスに変わるときがくる。
自分の軸は何か。人生で果たすべき使命は何か。意味のある生き方ができているのか。パラダイム大転換のいまこそ、振り返りのチャンスである。
一読のすすめ
本書の各章には、各分野で活躍する21人のインタビューがちりばめられている。テクノロジーやゲーミング業界、教育分野の専門家、スタートアップ経営者、投資家など、領域はさまざまだ。それぞれの使命感のもとに社会をリードしている人々の話は示唆に富み、読み応えがある。
混沌とした現状を打破し、一歩先へ足を進めたい人には本書が心強い道しるべとなるだろう。今すぐ手に取ることをおすすめする。
※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介
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ピョートル・フェリクス・グジバチ
プロノイア・グループ株式会社代表取締役、株式会社TimeLeap取締役
連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。ポーランド出身。
モルガン・スタンレーを経て、グーグルでアジアパシフィックにおける人材育成と組織改革、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。
ベストセラー『ニューエリート』(大和書房)ほか、『0秒リーダーシップ』(すばる舎)、『PLAY WORK』(PHP研究所)など著書多数。 -
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