2018.02.16
「好きを仕事に」は間違い?-私たちのキャリア入門第4回
あなたは今の仕事が好きですか?自分に向いていると思うでしょうか?今の仕事は、もともと好きだったことですか?それとも違いますか?「好きなことを仕事にすること」と「今の仕事を好きだと思うこと」は、似ているようで異なる意味を持ちます。今回は、「好きなことを仕事にすべきか?」というテーマについて考えていきましょう。

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【プロフィール】

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授 高橋俊介
キャリア開発の研究で第一人者として知られる。東京大学を卒業後、日本国有鉄道に入社。1984年、米プリンストン大学工学部修士課程を修了し、マッキンゼーアンドカンパニ?に入社。89年には世界有数の人事組織コンサルティング会社ワイアットの日本法人(現ウイリス・タワーズワトソン)に転職し、93年より同社代表取締役社長に就任。97年に退任、独立後も、人事コンサルティングや講演活動を続けている。
キャリアにおける「好き」と「向き不向き」の話
ある会社が「ジョブエントリー制度」を導入した時のことです。今の職種に関係なく次にやりたい職種に立候補できる制度なのですが、結果、圧倒的な人気を集めたのは広報だったそうです。十数人の定員の広報に、数百人の希望が集まったといいます。おそらく、ドラマなどに出てくる広報の華やかな側面に憧れている方が大半でしょう。似たような例で、人気の女優さんが飛行機の整備士を演じた時には、整備士という仕事を志す人が増えたそうです。
広報にせよ、整備士にせよ、実際には大変なこともたくさんあるはずです。しかし、憧れや夢物語で仕事を選んでしまうケースは少なくありません。では、「この仕事が好きだ」「やっていて良かった」と思える仕事は、どうすれば見つけられるのでしょうか?
私の場合も、最初は「好きなもの」を仕事にしようと考えました。鉄道が好きだったので、日本国有鉄道(現在のJR)に入社したのです。ですが、入社して1年も経たないうちに、鉄道が好きだということと鉄道の仕事が向いているということは、全然違うことなんだと気付きました。
食べ物が好きだからといって飲食業が向いているとは限りませんよね。逆に、やってみてはじめて仕事の意義に気付くこともあります。向き不向きは、やってみないと分からない。その対象が好きであるということと向き不向きはあまり関係がないのです。
さらに、仕事の内容は時代と共に変化していきます。例えばタクシー運転手の場合、以前は自分次第で稼げる仕事だったので、休憩を自由に取ったり、乗客を選んだりすることができました。しかし、GPSとデジタル無線が普及してからというもの、大手のタクシー会社はブランド戦略を重視するようになり、運転手を管理するようになったのです。次も自社のタクシーを選んでもらえるように、ワンメーターでの乗車だったとしても丁寧な対応が求められる。時間を問わず決められた場所で待機しなければならない。かつての自由なスタイルで働いていた運転手にとっては肌に合わないですよね。このように、時代の流れと共に向き不向きが変わってしまうような職業は非常に多いのです。
キャリアに必要なのは「ナンバーワン」か「オンリーワン」か?
得意な一芸で勝負するようなキャリアを「ナンバーワンキャリア」だとすれば、似て非なるものに「オンリーワンキャリア」というものがあります。例えば、アナウンサーやプログラマといった専門性の高い職種の場合、どんなに優れたスキルを持っていても明確に「ナンバーワン」という順位をつけるのは難しいものです。ですが、IT分野に詳しいアナウンサーや会計知識を持ったプログラマだったとしたらどうでしょうか?二つのスキルを掛け合わせることで、替えのきかない「オンリーワンキャリア」となるのです。
もちろん、どんなスキルでもよいというわけではなく、時流に乗ることを意識する必要があります。少し前であれば、フィンテックやビッグデータなどの分野を先取りして勉強する。そして、自分の専門性にするのです。すでに世の中に浸透している分野には専門家と呼ばれる人が何人もいますが、真新しい分野であれば、少し勉強しただけでも専門家になれる。私はこれを「先物キャリア」と呼んでいます。
先物となる分野をいち早くキャッチアップするためには、前回(vol.3)お話しした「開いた関係性」の中でアンテナを高くしておくことが大切です。積極的に情報収集をして勉強していくことで「フィンテックのことはあいつが詳しい」といった評判へとつながり、オンリーワンキャリアが確立されていくはずです。
「キャリアの背骨」を持つ
先物キャリアとは別のアドバイスをするとしたら、ずっと追及していきたいと思える分野を見つけるとよいでしょう。今の仕事に直接関係がなくても構いません。これが「キャリアの背骨」になるのです。
私の知人に、マーケティングの仕事をしながら臨床心理士の修士号を取った方がいます。全く関係のない分野にも思えますが、人の心理というのはマーケティングでも大いに生かされるものです。現在はキャリア形成支援に関する仕事をしているそうですが、メンタル面からキャリアと向き合うためには臨床心理学が必要ですよね。将来はまた異なる仕事に就くかもしれませんが、心理学という「背骨」を持っているからこそ、その専門性を軸にキャリアを築いていくことができます。
このように、今の仕事には関係がなかったとしても、一生追い続けたくなるような専門性を持てば、自分らしいキャリアを積み上げていくことができるでしょう。
二つの質問で分かるあなたのキャリア
「オンリーワンキャリア」と「キャリアの背骨」について解説してきましたが、ここで二つ質問をしてみましょう。
質問1.あなたのキャリアは自分で切り開いてきたと思いますか?
質問2.あなたのキャリアは今の会社の外でも通用すると思いますか?
質問1に関しては、本連載のvol.1でもお話ししましたが、「自分らしいキャリアを築いてきた」という人と「自分でキャリアを切り開いてきた」という人は、強い相関関係があるという調査結果があります。質問2は、キャリアを会社任せにしていないかどうかが分かる質問です。
キャリアにおける一番の悲劇こそ、「辞められないから勤め続ける」ということです。他にいっても通用しないからこの会社にいる、という状況になってしまうと、いわゆるブラック企業の食い物になってしまう恐れがあります。他にいってもやっていけるけど現状に満足しているのでこの会社にいる、という気持ちの方が、良い仕事ができそうな気がしますよね。
よって、二つの質問にイエスと答えた人は自分らしいキャリアを築いてきた人と言えるでしょう。
「好き」を仕事にするよりも大切なこと
好きなことを仕事にするのもよいですが、それよりも大切なのは、好きな人生を歩むことではないでしょうか。どんなに好きなことを仕事にしたとしても、それ以外が伴わなければ仕事ばかりの人生となってしまいます。
私の友人に、ロンドンで金融関連の仕事をしている人がいました。当時はロンドンが金融の中心地だったため給与水準がとても高かったのですが、友人はロンドンという街がどうしても好きになれなかった。結果、給与が半分になるにも関わらず、パリに移住したのです。たとえ給与が減ってしまったとしても住みたい街に住むんだ、と。
重要なのは、ワークとライフを統合するという考え方だと思います。人生全般が重要なのです。例えば、アウトドアブランドのパタゴニアはサーフィンのできる場所に本社を置いています。良い波はいつ来るか分からないからこそ、すぐにサーフィンに行ける場所に本社を置いたのだそうです。サーフィン好きが自分の得意な仕事をしながら、合間で趣味を楽しむ。これこそワークとライフの統合ですよね。
最後におまけですが、仕事は結婚に似ているように思います。好きな人と結婚したとしても、上手くいくとは限りませんよね。一目見て好きだと思うこともあるとは思いますが、結婚して幸せな人生を歩めるどうかはすぐには分かりません。時間を掛けて付き合っていくことで分かるものです。仕事も同じですよね。好きな仕事と、好きな人生を送れる仕事。どちらを選ぶのがよいか、ぜひ考えてみてください。
【連載】私たちのキャリア入門
会社任せにしていてもキャリアを築くことができた一昔前とは異なり、「キャリアは自ら切り開いていくものである」という認識が一般的になった現代。変化の激しいこの時代で、いかにして自分らしいキャリアを築いていくかが重要です。
本連載では、キャリア学の権威である慶應義塾大学大学院・特任教授の高橋俊介氏が、20年近く行ってきた調査に基づいた「キャリアを切り開くヒント」を解説します。想定外の事態に直面しても、焦らず、自分らしく働き続けられる力を身につけていきましょう。
企画・撮影協力/ ビジネス・ブレークスルー(BBT)
この記事の内容は、動画で詳しく見ることができます
※このコンテンツは、2016年にtypeメンバーズパークに掲載された動画を新たに記事化したものです。
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