2018.02.17
キャリアの分かれ道はどう選ぶ?-私たちのキャリア入門第5回
人生において、決断が必要な場面はたくさんあります。就職、転職、結婚など、決断を迫られた時にどのように意思決定をしてきましたか?今回は、重要な局面での決断方法について考えていきましょう。

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【プロフィール】

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授 高橋俊介
キャリア開発の研究で第一人者として知られる。東京大学を卒業後、日本国有鉄道に入社。1984年、米プリンストン大学工学部修士課程を修了し、マッキンゼーアンドカンパニ?に入社。89年には世界有数の人事組織コンサルティング会社ワイアットの日本法人(現ウイリス・タワーズワトソン)に転職し、93年より同社代表取締役社長に就任。97年に退任、独立後も、人事コンサルティングや講演活動を続けている。
キャリアを理屈のみで考えるのが危険な理由
決断方法には「功利的意思決定」と「直感的意思決定」があります。まず、功利的意思決定とは、簡潔に言うと理屈で決めることです。ですが、キャリアや結婚のようなものは予測可能性と管理可能性が低い。なので、理屈だけで考えるのは危険なのです。
以前、ワーキングマザーに対するインタビュー調査を行った時のこと。ワーキングマザーに話を聞く前に、そのワーキングマザーと同じ会社に勤めるお子さんを持たない女性にもインタビューをしてみました。すると、子どもを育てながら働くことに対してネガティブなイメージを持っている方ばかり。時間的にきついし、キャリアも不利になると考えていました。そのネガティブなイメージをワーキングマザーの方々にぶつけてみると、返ってきたのは「その通りです」という答えでした。大変そう、という印象は正しいというのです。
一方で、ポジティブな要素も出てくるんですよね。自分だけで仕事を抱え込まなくなったこと、人に助けてもらう能力が身についたことなど、子育てと仕事を両立する中で得たものもたくさんあったのです。
そういったポジティブな印象は、お子さんを持たない方へのインタビューでは出てこない。見えている要素だけで物事を判断するのが危険な理由が分かりますね。まだ見えないことが、人生やキャリアには非常に多い。人生は計算できないということです。
しかし近年は、計算づくで物事を考えている若い方が多いように思います。なぜでしょうか?大学入試を例に考えてみましょう。昔とは違い、今ではAO入試など様々な選考方法がありますよね。なので学生は、なるべく勉強せずに、より効率的に合格できるような方法を探すのです。これは、正しい答えを最短で導くことを求める日本の教育によるものであると考えられます。
直感的意思決定の重要性
では、重要な決断はどのようにするのがよいのでしょうか?それこそ、直感的意思決定なのです。まずは、その重要性をご説明するために、脳科学者であるスタニスラス・ドゥアンヌの『意識と脳』という著書の中にある、アダマールという数学者による「数学的発見に必要な4つのステップ」に関する記述についてご紹介します。
数学的な発見の過程には、「準備」「孵化」「解明」「検証」という4つのステップがあるそうです。まず、命題を意識的に吟味する「準備」。つまり理屈で考えてみるわけですね。ですが、上手くはいかないことの方が多い。そこで、解明に向けて無意識の作用が働き出すのです。無意識のうちにその命題について考えるようになる「孵化」の段階です。すると、朝目覚めた時や何気なく歩いている時に「解明」への糸口が降りてくる。もちろんその後は緩慢で努力が必要な「検証」を意識的に行う必要がありますが、論理的であると考えられる数学発見においても、直感的なひらめきが欠かせないのです。
感情予測機能を鍛えることで、直感的意志決定が強くなる
『キャリア発達における意思決定論』という著書を持つハリィ・ジェラット博士によると、キャリアに関する意思決定にも、合理的意思決定だけではなく直感的意思決定が必要だといいます。とはいえ、直感が正しいかどうか確認するために合理的な検証は必要ですし、直感的意志決定の精度を上げていくために脳の「感情予測機能」を強化しなければなりません。
感情予測機能とはどのようなものか、例を挙げて説明します。就職・転職先を探している時に、会社見学に行くとします。その会社の人と会話をして、雰囲気を知ろうとしますよね。そこで、毎日この会社に通うことになった時に、自分は生き生きと働けそうか否かを想像してみるのです。その時予測できた自分の感情がポジティブかネガティブかで判断する。この時に必要なのが感情予測機能です。
感情予測機能は、使えば使うほど精度が上がっていくとジェラットは述べています。仕事をしているとつい現実的になってしまい、ありもしないような妄想をしなくなっていきます。時には、こんなことをしたらどうなるだろうか、と妄想してみる。そうしていくうちに、感情予測機能は強くなっていくのです。
キャリアの決断はフェーズごとにする
今回はキャリアに関する決断についてお話ししてきましたが、もう一つ意識していただきたいことがあります。キャリアの決断を分かれ道を選ぶような決断で描くのではなく、フェーズをデザインすることで描いていくということです。
そもそもキャリアというのは毎日考えるようなものではありません。ですが、節目ごとに決断が必要となる。そこで、これまでのキャリアを振り返ってみてください。あなたのキャリアの節目はどこだったでしょうか?「社会に出てからがむしゃらに働いてきたけれど、その後良い上司に出会って成長できた」「これまでと全く異なる職種に変わって、キャリアの幅が広がった」などですね。節目が見えてきたら、各フェーズをネーミングしていきます。あの2年間はがむしゃら期、といった具合です。すると、自分が歩んできたキャリアが明確になっていきます。
あなたは次のフェーズを、どんな名前の付くフェーズにしたいですか?そう考えてみると、キャリアのヒントになるのではないでしょうか。
「バランス」ではなく「インテグレーション」で考えるワークライフ
フェーズ分けをしていく過程では、仕事面だけではなくプライベートについても考慮する必要があるかもしれません。結婚したり、子どもが生まれたり、家族の介護が必要になったり。仕事とプライベートについて考える時によく使われる言葉に「ワークライフ・バランス」というものがありますが、私はバランスという言葉は使いません。ワークライフは「インテグレーション(統合)」だと考えています。
仕事とプライベートを分けて考えようとしても、同じ人の人生なので完全に区別することはできません。仕事を何割、プライベートを何割、と決めても上手くいかないですよね。今は仕事だけに集中したいと思う期間があってもいいですし、育児を全力でするために仕事を休んでも良い。ワークとライフのバランスを常に取ろうとするのではなく、人生全体でバランスを取ろうと考えれば良いのです。そういう意味でも、やはりフェーズで考えるのが重要だと思います。
【連載】私たちのキャリア入門
会社任せにしていてもキャリアを築くことができた一昔前とは異なり、「キャリアは自ら切り開いていくものである」という認識が一般的になった現代。変化の激しいこの時代で、いかにして自分らしいキャリアを築いていくかが重要です。
本連載では、キャリア学の権威である慶應義塾大学大学院・特任教授の高橋俊介氏が、20年近く行ってきた調査に基づいた「キャリアを切り開くヒント」を解説します。想定外の事態に直面しても、焦らず、自分らしく働き続けられる力を身につけていきましょう。
企画・撮影協力/ ビジネス・ブレークスルー(BBT)
この記事の内容は、動画で詳しく見ることができます
※このコンテンツは、2016年にtypeメンバーズパークに掲載された動画を新たに記事化したものです。
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