10分で読める要約『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』
部下を精神的に潰しながら、どんどん出世していく人物、それが「クラッシャー上司」。そんなクラッシャー上司の扱い方をレクチャーした一冊を要約しました。「働き方改革」が謳われている今こそ、部下を潰さない組織づくりが日本には求められています。
タイトル:クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち
著者:松崎 一葉
ページ数:203ページ
出版社:PHP研究所
定価:886円(税込)
出版日:2017年01月14日
Book Review
部下を精神的に潰しながら、どんどん出世していく人物、それがクラッシャー上司だ。
本書で述べられているクラッシャー上司の特徴は以下の通りである。部下をときには奴隷のように扱い、精神的に追い詰めて潰す。他人への共感性が欠如しているため、そのことに罪悪感を抱かない。しかも、基本的には仕事ができるため、会社としても処分がむずかしい。結果として、クラッシャー上司は部下を潰しながら、どんどんと出世していく。
著者によると、クラッシャー上司は日本に特徴的な問題であり、そもそも日本の企業文化そのものにクラッシャー的な傾向があるという。特に大企業の雇用形態はクラッシャー上司を生みやすい。「働き方改革」が謳われている今こそ、部下を潰さない組織づくりが日本には求められている。
本書では、まずクラッシャー上司の具体例が提示される。次に、なぜ彼らが部下を潰してしまうのか、クラッシャー上司の精神構造、および彼らを生んでしまう組織構造が紐解かれる。最後に、企業におけるクラッシャー上司対策が提示されるという構成になっている。
クラッシャー上司とされる人物像に、まったく心当たりがないという人はおそらくほとんどいないであろう。組織マネジメントに関心がある人、企業の人事担当者、教育に携わる人、なによりもクラッシャー上司に接したことのある人に、お薦めの一冊である。
クラッシャー上司の実態
自分こそが「善」だという確信
クラッシャー上司とは、部下を精神的に潰しながら、どんどん出世していく人を指す。部下を追い詰めていることに対して罪悪感がなく、部下の気持ちに共感することができない点が特徴だ。ただし、これらの特徴の程度には、人によって差があり、部下の潰し方も人によって異なる。ここではそのうち、3つの事例を取りあげ、クラッシャー上司の人物像を示していく。
まず、最初に挙げるのは、部下につきっきりで指導をして精神的に追い詰め、潰してしまったクラッシャー上司Aである。仕事の飲み込みが早く、飲み会でも気遣いができる評判のよい女子社員Fは、クラッシャー上司Aから期待され、厄介なクライアントの案件を任された。クラッシャー上司Aは、「お前ならやれるはず」「困ったら聞きに来い」「俺もキツイ仕事でしごかれてここまで来た」などとFを叱咤激励。Fは期待に応えようと全力で働いた。
しかし、クライアント側で担当者間の引き継ぎがなされていなかったことから、Fは依頼された設計の全面やり直しを言い渡されてしまう。すると上司Aは、Fのやり直しにつきっきりとなり、食事やトイレのタイミングまでFに合わせるようになった。そして、少しでもミスがあると、叱責をくりかえした。
依頼先への再度のプレゼンの後、Fは自宅で身体が動かなくなり、欠勤が続くようになった。産業医の面談により、うつ状態と診断。一方の上司Aには悪気はなく、自分の言動が「善」であると確信していたという。
共感欠如の完璧主義者
2つ目の事例は、完璧主義と呼べる程度を超えて、やらなければいけないと考えたことを徹底的にやるという、強いこだわりを持つクラッシャー上司Bだ。
入社3年目の男性社員Gは、明朗快活で根性もあり、営業戦力としてクラッシャー上司Bがいる営業2課に配属された。上司Bは、難攻不落といわれていた営業先をGに任せた。Gは当初、順調に受注を伸ばしていたが、営業先の担当者が変わったことをきっかけに、受注が減少してしまう。すると上司BはGに対し、次から次へ厳しい質問や要求を投げつづけるようになった。タフなことで知られたGも、思わず人前で泣きだしてしまったほどだ。
Gはそれでも懸命に自分を鼓舞し、改善策を提案。営業先からの評価も得られた。ところが、上司Bの態度は依然として冷ややかだった。結局、上司BはGを一言も褒めることなく、すぐさま次の営業先の仕事に取り組むよう指示した。自分の興味が向くもの以外への想像力がまったく働かず、他者に共感することもできない上司Bには、懸命に仕事をした部下を褒めることなど、考えもつかなかったのである。
Gの顔からは次第に笑顔が消えていき、半年後、ついに辞表を提出するに至った。
薄っぺらな悪意と薄っぺらな悪事
3つ目の事例であるクラッシャー上司Cは、悪意のあるタイプである。要領がよく、社内での立ち回りがうまいため、順調に出世してきたが、権力を手にすると薄っぺらな悪事を働くようになった。
総務部人事課の部長であるクラッシャー上司Cは、新たに自分の下に配属された課長Hと年齢が近いことから、出世競争の要注意人物であると捉えた。経営陣の間で、課長Hが褒められている噂を耳にすると、上司CはHのもとにやってきて、「ボクのこと、みくびっているのかなぁ」などと発言。さらに、H以外の部下を引き連れて飲みにいくなど、周囲から見てイジメと取られかねないような行動を取り続けた。
それでもHは、上司Cに気を遣いながら仕事をするように心掛けた。だがその約半年後、Hは耳鳴りやめまいを経験するようになり、その症状は1年半も続いたという。
幸いなことに、経費不正使用が発覚したことから、上司Cは左遷されることになった。それを境に、Hの身体的不調はまたたく間に回復していった。
クラッシャー上司の精神構造
基本的な精神構造は「未熟型うつ」と同じ
クラッシャー上司の精神構造は、未熟型うつ(新型うつ)の特徴と似ている。未熟型うつの事例にみられる特徴は、不健全な自己愛だ。つまり、根拠のない万能感があり、内省がなく、他罰的である。自分をとりまく状況を両極端に決めつけて、いつもゼロか百かの思考で判断し、他人の気持ちが分からない。そのため、情緒的に他人とつきあうことができず、うまくいかなくなると、逆ギレしたり、会社を相手に民事訴訟を起こしたりするなど、赤ちゃんが困った時に「ギャーッ」と泣きわめくような行為「赤ちゃん返り」を起こす。
クラッシャー上司と未熟型うつの違いは、仕事ができるか、できないかという点だ。クラッシャー上司は、いわゆる地頭がよく、高い問題処理能力を発揮でき、ロジカルシンキングが特異な傾向にある。だから良い結果を出せるし、次々出世していく。
クラッシャー上司は日本的な現象
クラッシャー上司を生む社会構造と価値観
クラッシャー上司に部下を潰されないようにするには、組織がコンプライアンス意識を持つことが重要だ。しかし、日本企業におけるコンプライアンスの意識はまだまだ低い。そもそも、日本の企業社会そのものにクラッシャー的な素養があるのが実態だ。
また、日本企業における雇用も、クラッシャー上司を生みやすい特徴を有している。欧米の雇用が「ジョブ型」なのに対し、日本の大企業の雇用は「メンバーシップ型」だ。
「ジョブ型」は、仕事に対して人がはりつくことを基本とし、職務範囲が明確になっている。このため、社員は、「それは私の仕事でないから、できません」と断ることができる。
一方の「メンバーシップ型」は、人に仕事をはりつかせることを基本とする。職務範囲が曖昧で、働く時間や場所は固定されていない。その結果、残業が際限なく生まれ、転勤の辞令を受けると断ることがむずかしい。
このような習慣が日本の企業に横行しているのは、「滅私奉公が善である」という価値観が根強く残っているためである。だから、クラッシャー上司からハラスメントを受けても、抵抗できない若者が出てくるのである。
「メンバーシップ型」には、さまざまな職場を経験していけることや、終身雇用を保障するといったメリットもある。しかし、終身雇用制度の崩壊が叫ばれるようになった以上、もはやメンバーシップ型のメリットは感じにくいのが現状である。
クラッシャー上司はイノベーションを阻害する
経済成長が鈍化するなか、企業は画期的な商品やビジネスモデル、つまりイノベーションを生み出す必要にかられている。
イノベーションを起こすためには、若手社員からアイデアを引き出し、上司が持っているスキルでそれらをまとめ、共に実現させていくというプロセスが不可欠だ。そこで上司に求められるのは、自分とは異なるタイプのさまざまな部下の思いを汲み取り、支えていくことである。
しかし、クラッシャー上司は、自分とは異なるタイプの部下を排除しようとするため、職場における人材の多様性を脆弱なものにしてしまう。ゆえに、クラッシャー上司が力を発揮する職場や企業では、イノベーションが起こりにくい構造になっている。
クラッシャー上司対策
ストレスを乗り越えるための資源を整える
クラッシャー上司対策としてまず重要なのは、人(社員)がストレスフルな状況にあっても、それを乗り越えていけるだけの資源(リソース)を整えていくことだ。
GRR(Generalized Resistance Resources)は、「汎抵抗資源」と訳され、さまざまなストレスに抵抗するためのあらゆるリソースを意味する。なかでも絶対に欠かせないものは、何のためにそれをするかが、納得できることである。実際、社員が腑に落ちる理念を掲げている企業はGRRが高い。
企業が社員のGRRを高めるには、CSR(Corporate Social Responsibility)の概念を取り入れることが効果的である。ここでのCSRとは、ボランティアや寄付活動といった社会貢献ではなく、従業員、顧客、取引先、株主などの利害関係者と、良好な関係を保ちながら経営を続けることを指している。つまり、社会的責任をきちんと取れる企業になるべきということだ。
CSRの整っている企業で働いている社員は、「社会のため」に働いているという意識を持っているため、思いきり働けるようになる。また、社員の精神状態に対して鈍感になりがちな日本企業も、CSRを念頭に置くことで、正しい配慮ができるようになると考えられる。
心の資源を培う
ストレスを乗り越えるための心の資源を、SOC(Sense of Coherence:首尾一貫感覚)と呼ぶ。SOCは(1)有意味感(情緒的余裕)、(2)全体把握感(認知の柔軟性)、(3)経験的処理可能感(情緒的共感処理)の3つに分けられる。これらは、アウシュビッツから生還した人たちの中で、心身ともに良好な健康状態を保つことができた人に共通していた特徴である。
(1)有意味感とは、辛いことや面白みを感じられないことに対しても、何らかの意味を見いだすという感覚である。有意味感がある人は、望まない部署に配属された場合でも、「これも経験」「やってみたら以外と面白いかもしれない」と前向きに取り組むことができる。
(2)全体把握感とは、時系列(プロセス)を見通せる感覚だ。全体把握感にすぐれた人は、効率的な業務計画をつくれるため、周囲と協調した業務体制をとることができる。
(3)経験的処理可能感とは、今までの成功体験にもとづいて、「ここまではできる」と確信し、未知の領域については早期に援助を求めることができる感覚である。成功体験があり、助けの必要を感じた時に早急に他人に援助を求められる人ほど、メンタルが強く、成長しやすい。
職場にいるクラッシャー上司への対策
自分の職場にクラッシャー上司がいる場合、まず大切なのが、なぜ彼らが部下を潰すような言動をするのかを理解することである。
クラッシャー上司は情緒不安定で小心者であり、その根底には不安と焦燥感がある。クラッシャー上司の言動に対して、「辛い生育環境があったのだろう。お気の毒さま」などと「上から目線」で眺めることができると、いくらか気楽に接することができるようになるだろう。
また、会社の同僚たちと被害者感情を共有し、閉塞感から脱出することも大事である。クラッシャー上司の言動が始まった時にどう対応するか、同僚たちでマニュアルをつくることも、被害者感情のシェアとなるため有効である。
さらに、自分の身を守るためには、自分の限界点を知り、心身が破たんする予兆を認識しておくことも必要だ。ストレス反応の核にあるのは「億劫感」と「認知の歪み」である。その核からどのような症状が噴出するかは人によって異なるが、いずれにせよ、自分が健康的なときのストレス反応を把握し、的確にモニタリングしつづけることが大切である。
※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介
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松崎 一葉 (まつざき いちよう)
筑波大学医学医療系 産業精神医学・宇宙医学グループ教授。
1960年茨城県生まれ。1989年筑波大学大学院博士課程修了。医学博士。産業精神医学・宇宙航空精神医学が専門。官公庁、上場企業から中小企業まで、数多くの組織で精神科産業医として活躍。またJAXA客員研究員として、宇宙飛行士の資質と長期閉鎖空間でのサポートについても研究している。「クラッシャー上司」の命名者の一人。 主な著書に『会社で心を病むということ』(新潮文庫)、『情けの力』(幻冬舎)、『もし部下がうつになったら』(ディスカバー携書)がある。 -
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