12の会社で著者が学んだキャリアの作り方とは?要約『どこでも誰とでも働ける』
いま日本の働き方は大変革期にある。「これからの時代は、どんな職場でも評価される人材になり、世界中のどこでも自分の好きな場所で好きな人たちと仕事をすることが可能となる」というのが本書の主張だ。
ではどうしたらそんなことができるのか?「転職」の価値観がアップデートされる一冊。自分らしい働き方を見つけたい人は必読である。
タイトル:どこでも誰とでも働ける
著者:尾原 和啓
ページ数:232ページ
出版社:ダイヤモンド社
定価:1,620円
出版日:2018年4月18日
Book Review
キャリアというのはなかなか自分の思い通りにはならない。希望の部門に異動できても、転職して年収アップに成功しても、それでもなおキャリアへの不安や悩みを払拭できない人は少なくないだろう。そもそも自分が何をやりたいのか、どういうキャリアをたどればいいのかについて確信を抱いている人は少ない。本書はそういう人たちにとって希望の光となるだろう。
要約では、主にキャリアのつくり方という観点で、本書から実践に役立つ考え方をまとめた。なかでも転職に関して著者が実行している戦略は必読の内容ばかりだ。それは単なる転職指南の域を出て、何十年も先を見越した、人生の歩み方指南とでもいえる内容になっている。
1つの会社で勤め上げるのか。あるいは転職でステップアップをめざすのか。それとも雇われの立場を捨て、自らをブランド化して起業するのか。いずれにせよ、理想のキャリアに近づくためには、多くの選択肢を未来の自分に残せるような生き方をしたほうがいい。そのためには、試行する機会を増やし、知識やスキルの幅を広げておくことが欠かせない。
「どこでも誰とでも働ける」。この働き方は、けっして限られた人たちだけの働き方ではない。地に足のついた戦略があれば可能だということを、著者は教えてくれる。あなたがキャリアの節目を迎えているのなら、もしくは働き方をアップデートさせたいのなら、本書を何度も読み返すことをおすすめする。
これからの日本の働き方
「どこでも誰とでも働ける」の2つの意味
シンガポールやバリ島を拠点にし、日本に定期的に帰国するという著者。意外なことに彼がやっていることは、日本のオフィスで働く会社員とさほど変わらないという。著者のような働き方をする人は、世界中で確実に増えている。
いま日本の働き方は大変革期にある。社会の仕組みやビジネスはインターネット化する一方だ。それにより企業と個人が対等(フラット)な関係でつながり(リンク)、知識などを分け合う(シェアする)方向へ進んでいる。
こうした環境に適応できるのは、何らかの専門性をもった人だけだ。これまで日本を守ってきた「島国という距離の壁」は、インターネットによって破壊された。そして、「日本語の壁」はAIによって取り去られようとしている。本書が提示するのは、これからやってくる変化の波を乗りこなすための心構えや方法である。
タイトルの「どこでも誰とでも働ける」には2つの意味がある。1つは、どんな職場で働いたとしても、周囲から評価される人材になること。もう1つは、世界中のどこでも好きな場所にいながら、気の合う人と一緒に働けることである。では、実際にどうすればいいのか。著者の提言を紹介していこう。
どこでも誰とでも働ける仕事術
試行回数を上げる
現在のように変化のスピードが速いネット時代においては、PDCAサイクルを回していては時すでに遅しとなる。それよりも、どんどんアイデアを実行して、軌道修正が必要だとわかった時点で適宜それに対応していく、DCPAサイクルを回すほうが望ましい。実行回数が多ければ、失敗してもすぐに取り返せるし、失敗が多い人ほど学びも多いということになる。
『LIFE SHIFT ライフ・シフト』で書かれていたように、人生100年時代が到来すれば、1つのことしかやらないというのはリスクになる。なぜなら、いまは価値ある専門技術でも、その価値がいつまでも続く保証はないからだ。
では、どのようにして新しい知識を身につければいいのか。もちろん転職も1つの方法である。だが、手っ取り早く、低リスクで始められるのは副業やボランティアだ。将来価値が高まる分野や技術がわからなければ、色々と試してみればいい。試行する回数を増やせば、確率論的に最適解が見つかる可能性が高まる。副業やボランティアであれば、たとえ見込み違いだった場合でも傷口は小さくて済む。
自分の名前で生きる
著者がプロフェッショナルとしての仕事のやり方を学んだ場所は、マッキンゼーだった。同社では、コンサルタントは社会人1年目の新人であっても、高額報酬を請求する。なぜならコンサルタントはみな、プロフェッショナルとみなされるからだ。
プロフェッショナルという言葉の語源は、自分が何者で、何ができて何ができないかを「プロフェス(公言)」することである。自分の名前で生きる勇気をもつことが、プロフェッショナルの条件といってよい。
自分の名前で生きるためには、自分に何ができて何ができないかをプロフェス(公言)することになる。会社のブランドも肩書も役に立たない。だが、プロフェスを繰り返すことは自分に責任をもつことであり、そういう姿勢がプロフェッショナルへ近づくことを可能にする。逆にいえば、会社名に隠れて個人の名前で生きようとしないことが、これからはリスクになっていくだろう。
人生をゲーム化する
嫌な人間や人の足を引っ張る人間というのは、どこにでもいるものだ。本書に書かれていることを実践した結果、社内で目立つこととなり、頭の固いおじさんたちに妬まれることもあるかもしれない。そんなときは、仕事をゲームととらえてみるとよい。
ゲームはすぐに攻略できないほうがおもしろい。ラスボスが強いゲームのほうが、何度もトライしたくなるし、裏技を探してなんとか攻略しようと熱くなるものだ。しかし、ゲームにのめり込む人も、リアルな世界に戻ったとたん、裏技などそっちのけになり、正攻法でいこうとする。
しかし、仕事をゲームととらえればどうか。すると、上司が意地悪であればあるほど、攻略までの過程を楽しめるようになる。そして、自分に対する否定的な意見など気にならなくなるだろう。
また、たとえ嫌な上司がいたとしても、仕事上の関係である以上、そのつきあいは期間限定である。そもそも、今の会社や上司の評価が唯一絶対のものではない。相手が違えば、自分への評価は変わる。たった1つの評価軸に縛られず、失敗を恐れずに新しいことに挑戦するようにしたい。
人生100年時代の転職哲学
会社を辞めるつもりはなくても、転職活動は毎年する
自分の価値を知るには、転職サイトに登録して労働市場からフィードバックをもらうのがいちばんだ。実際に転職するかどうかはさておき、著者自身も毎年登録内容を更新して、自分への客観的評価を知るのだという。
なぜ毎年転職活動をするのか。それは、自分の市場価値を把握するためだけではない。将来価値が高まりそうな分野を見極め、自分がこれから先、その分野に進むべきかどうかの参考材料にするためでもある。
要は、相手の会社が自分をいくらで買いたいかを提示するのと同様に、こちらも相手の会社が3年後に成長するかどうかを冷静に見極めるということだ。
一社に長く勤めている人で、会社を辞めたら仕事がなくなると心配する人がいる。このように自信がもてないのは、自分の価値を正しく把握できていない可能性が高い。自分の価値を知り、「いつでも辞められる」という覚悟をもったときにはじめて、会社と対等な関係になれる。そして、自分の考えを臆することなく主張できるようになる。現状を変えられる人というのは、「辞める覚悟」をもって、「辞めずに取り組む」人なのである。
キャリアをずらす戦略
社内異動または転職をするとき、「業界」(異動の場合は事業部)と「職種」のどちらかをずらすと、自分の成長を加速できる。たとえば、建築業界で営業職をやっている人が、医療業界の技術職に転職することは現実的ではない。しかし、医療業界の営業職なら実現可能性は大いにある。これは業界をずらすパターンで、営業というスキルを活かしながら新たな業界知識を得られる。
こうして業界(または事業部)や職種を横へスライドさせながら異動や転職をしていくと、一箇所にとどまるより、はるかに広範な知識とスキルを手にすることが可能となる。キャリア形成の方法としてはかなり理想的といえる。
ただし、仕事は自分一人では完結しない。そのため、会社やお客様の期待値をつねに上回る成果を出してこそ評価されるということに留意したい。
AI時代に通用する働き方のヒント
課題を発見する力
AI時代において、人間に求められるのは、解決すべき課題を発見する力である。すでに認識された問題というのは、AIが人間のかわりに解決してくれる。
日本人の多くは、エンジニアリングにおいてもっとも大切な資質は、指示された解決策を着実に実行することだと思っている。しかしグーグルでは違う。グーグルのエンジニアに求められるのは、解決すべき課題を自分で設定し、それを最後までやり抜く力である。やり抜く過程を通じて、自分自身を成長させられる。だから彼らはできるだけ大きな課題を見つけてくるし、それをなんとかしようとする過程を楽しんでいる。
取り組む価値があり、しかも難易度の高い「いい課題」を発見したら、「おもしろそう」だと感じた仲間が、どこからともなく集まってくる。そして解決策を生み出し、世の中を変えていく。こうしたハッカー的な姿勢が、これからのAI時代で活躍する人の資質といえる。
ストリートスマートの思考法
ハッカーのように、課題発見力をビジネスに活かすコツは、「すきまを突く」ことだ。世の中の人がなんとなくやってはいけないと思い込んでいることについて、臨機応変に、そもそもの本質に立ち返って考えられるかどうか。この能力に優れた人は「ストリートスマート」と呼ばれる。
たとえば、あるプロジェクトで「かけられるコストは100万円以下」という制約条件が与えられたとしよう。プロジェクトマネジメントでは、クオリティ、コスト、納期のバランスを取ることが非常に重要だ。「100万円以下のコストで3月末日まで」というと、クオリティが目的関数で、コストと納期が制約条件となる。ところが、クオリティを高めようとするとコストが上がり、制約条件を守りづらくなる。
そこで、「そもそも100万円というのは妥当な数字なのか」と問うのが、ストリートスマートの考え方だ。「コストは売上目標の20%以内」ということなら、売上を倍にできればコストの制約条件も倍になる。コストが倍になれば、クオリティをさらに高められるし、納期も短縮しやすい。そうすれば、競合他社を出し抜くことも可能になるだろう。
こんなふうに、与えられた数値目標や社内の暗黙のルールを疑ってみる。それが思わぬ切り口の発見につながることもあるので、ぜひ試してもらいたい。
複数の検索ワードをもつ
業界やプロダクト、サービスに関する専門知識を「エクスパティーズ」(Expertise)という。たとえば、消火器を販売するとしたら、消火器の使い方や消防法の知識、そして保険の知識がエクスパティーズにあたる。ここでの保険の知識とは、「いまの法律ではこれだけ備えがあれば十分だが、保険の申請のことを考えてここまで準備しておけば保険金が下りやすくなって安心」とまで、説明できるようなレベルの知識のことだ。
現在属している業界のエクスパティーズは、仕事をしていれば身についてくる。だが3年後、5年後にその業界で求められるエクスパティーズを先取りしておけば、それが自分の強みになってくれるだろう。
おすすめの方法は、つねに自分なりの「検索ワード」を5つくらい設定し、目的意識や問題意識をもって情報収集することだ。漫然とネットで検索し続けても暇つぶしにしかならない。自分にとって重要な、興味のあるキーワードを意識的に調べるからこそ、関連情報も含めた意義ある情報が入ってくる。そうするうちに、その分野について圧倒的に詳しくなり、世界が広がるにちがいない。
一読の薦め
本書のはじめに、あるスイス人の話が紹介されている。そのスイス人は、日本市場向けに美少女ゲームをつくっているスイスの小さなベンチャー企業の経営者である。儲かるならなぜ日本に来てビジネスをしないのかと、著者は尋ねた。すると、自分の会社には、「スイスできれいな空気を吸いながら美少女ゲームをつくれるなんてサイコー!」という、優秀なエンジニアが集まるからだという。
このように、自分独自のスタイルで働ける環境は世界のあちこちで整ってきている。実際にそういう働き方を体現している人も増えている。それを少しでもうらやましいと思うのなら、こうした変化をぜひ自分事として真剣に考えてみてほしい。そのとき、本書がきっとあなたの足元を照らす光の道標となってくれるはずだ。
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著者紹介
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尾原 和啓 (おばら かずひろ)
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)、Fringe81(執行役員)の事業企画、投資、新規事業などの要職を歴任。現職の藤原投資顧問は13職目になる。ボランティアで「TEDカンファレンス」の日本オーディション、「Burning Japan」に従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。
著書に『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)などがある。 -
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