サイボウズ青野氏「会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。」を要約
「ブラック企業」という言葉がすっかり市民権を得た現代だが、「ブラック」なのは本当に会社なのだろうか。会社とはそもそも何なのだろ--。著者のサイボウズ株式会社の代表取締役社長・青野慶久氏は本書で、会社は「実体がないモンスター」であるとして、読者に「自分の楽しい人生を取り戻すためのヒント」を提案してくれている。自分らしく楽しい働き方を発見したいビジネスマンにぜひ読んでほしい。
タイトル:会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。
著者:青野 慶久
ページ数:221ページ
出版社:PHP研究所
定価:1,620円
出版日:2018年3月13日
Book Review
「ブラック企業」という言葉はすっかり市民権を得た。「うちの会社、ブラックだから」「そんなに残業時間が長いなんて、ブラック企業だね」などという会話がそこここで交わされている。ここでまず考えておきたいのは、「ブラック」なのは本当に会社なのだろうか、ということである。会社とはそもそも何なのだろう。ブラック企業をブラック企業たらしめているのは、いったい誰なのだろうか。私たちは、「会社のため」と言いつつ、誰のために働いているのだろうか。本文を読み始める前に、立ち止まって考えてみてほしい。
本書は、「働き方改革」に成功し、ユニークな働き方を認めていることで知られるサイボウズ株式会社の代表取締役社長・青野慶久氏による啓蒙書だ。本書の中で著者は、会社は「実体がないモンスター」であると看破し、会社のために働くという考え方へ疑問を投げかけている。さらに、楽しく働くための方法を提言するとともに、そのためのサイボウズでの取り組みも紹介している。「社長とは、独裁者である?」「社員を飼い殺しにしてきた日本のカイシャ」「年功序列の『我慢レース』」など、日本のサラリーマンに大きな衝撃を与える名言が次々と飛び出すが、目をそらさずに、ぜひ最後まで読み通してほしい。著者は、決して夢物語でない、現実的な「自分の楽しい人生を取り戻すためのヒント」を提案してくれているからだ。きっと本書は、自分らしく楽しい働き方を発見するための指針となってくれるだろう。
カイシャはモンスターだ
「カイシャには実体がない
本書で著者は、会社に対するこれまでの偏見から自由になるため、会社のことをあえてカタカナで「カイシャ」と書く。カイシャという言葉が指すものは、オフィスのビルではなく、また社員でもない。カイシャには、「これだ」と指させるような実体がないのだ。しかし、「会社法」に沿って運用されているカイシャは「法人」として認められ、法律の上では「人」として扱われる。つまりカイシャは、「妖怪」のように、人間が作り出した想像上の生き物なのだ。
カイシャは、口座を持つことができたり、社員が稼ぎ出したお金を保有して大金持ちになっていたり、人間より有名だったり、尊敬されていたり、「カイシャのために頑張ります!」と言われたりする。事業が成功するにつれ、カイシャの資産やカイシャが雇用する社員はどんどん増えていき、モンスターのように巨大化していく。
カイシャは代表取締役のもの
実体がなく意思もないカイシャは、誰によって操られているのだろうか。
カイシャのお金を動かす権利を持っているのは、カイシャの代理人である取締役たちと、取締役の代表である代表取締役だ。彼らは、自分の給料を倍に増やすといったこともできてしまうし、自分にとって都合のよい人を入社させることも可能だ。特に代表取締役の持つ権限は強く、非常に「美味しい」ポジションだと言える。
「カイシャのために働く」と言う人がいるが、実際には、実体のないカイシャのためではなく、そのトップにいる代表たちのために働いているのだ。だからこそ、カイシャのブランドやイメージよりも、代表取締役が信頼できる人なのかどうかをよく見ておかなければならない。それによって、仕事の楽しさが左右されるからだ。
「今の代表がイケてなくても、次はイケてる代表になる可能性もあるのでは?」と思うかもしれない。しかし、ここで忘れてはいけないのは、「次の代表を選ぶのは、今のイケてない代表」だということだ。人事権を持つ代表は、次の代表として、自分にとって都合のいい人を選ぶものだ。もしあなたが「このカイシャを何とかして変えたい」と思っても、カイシャを変える権力を手にするには、「イケてない人に選ばれ続ける」という我慢レースを耐え抜かなければならない。
どうしたら楽しく働けるのか?
代表のビジョンと自分の夢を重ねる
意思を持たないカイシャは、生身の人間である代表の意思に従って進む。だから、楽しく働くためには、代表のビジョンと自分の夢が重なっているのが理想だ。100パーセント重なっているというのはありえないにしても、部分的にでも重ね合わせることができ、カイシャに入った後も自分の夢を探求していくことができればよい。
仕事を楽しめている人は、ビジョンの重ね合わせができているかどうかの確認作業を怠ることがない。ビジョンの重ね合わせを常に意識し、代表の理想が何なのかをよく観察してその理想と自分のやりたいことを重ねるように心がけているから、高いモチベーションを維持できるのだ。
「やりたい」「やれる」「やるべき」を満たす
著者が代表を務めるサイボウズでは、楽しく働き続けるための思考法を「モチベーション創造メソッド」と呼ぶ。その方法においては、モチベーションが高い、つまり「ワクワクして仕事に取り組めている」状態とは、「やりたい」「やれる」「やるべき」の3つの条件が重なっている状態だと定義される。ここでの「やるべき」とは、周囲から期待されているかどうかだ。周囲から感謝されたり評価されたりすることがわかっている仕事であれば、モチベーションは高くなる。この3つのいずれもが欠けないようにしつつ、3つの「円」を意識して重ねていくのが「モチベーション創造メソッド」だ。
ただし、「やるべき」の観点において、「周囲からのどの期待にどれだけ応えるか」という選択を迫られることがある。いくら「やるべき」であっても、すべてを完璧にこなすことはできないからだ。「今週はやりますが、来週からはペースを落とします」などとして、「やるべき」の中から「やりたい」と「やれる」の交わるところを探し出し、自分の意思と覚悟によって選択しなければならない点には注意したい。
強みの掛け算でユニークな人材になる
楽しく働くためには、自分から情報を発信し、それに共感してくれる社内や社外の人を仲間にするという方法もある。ただし、人に見つけてもらうには、ユニークさが必要だ。埋没しないユニークさを身につけるためには、1つのスキルだけでなく、スキルを「掛け算」するという発想を持つとよい。
例えば、複数の仕事を持ち、「複業」でスキルを磨くというのが一つの手だろう。10人に1人のありふれたスキルは、2つ掛け合わされることで100人に1人のものとなる。さらに多くのスキルを掛け合わせていって自分の強みを最大化し、ユニークな人材になれば、様々な場所で楽しく働ける人になれるだろう。
楽しく働けないカイシャは弱っていく
これからのカイシャで起こること
「量」よりも「質」が重視されるようになっている昨今、組織に求められる成果も、質の勝負になりつつある。そこで必要なのは、ニーズの多様化に応えるための差別化戦略や独自のこだわり、そしてアイデアである。これらは、多様な個性から生まれる。つまり、カイシャにおいて多様な個性が重んじられる時代になるのである。
多様な個性が重視されるようになると、年功序列ではなく、個性に応じて給与が決まるようにならなければならない。今後は、プロ野球選手のように、その人のスキルが業界の中でどのくらい評価されるのかに沿って、つまり「市場性」が重視されて給料が決まるようになるだろう。
また、「自分の労働力の60パーセントをA社に提供し、残り40パーセントをB社に提供する」といったように、自分のスキルを複数のカイシャに切り売りできるようになっていくだろう。少子高齢化に伴って人手不足が深刻になっている日本では、フルタイムで働けない人でも採用される時代になりつつあるのだ。フルタイムで働く人しか採用できないカイシャは、労働力が不足し、事業を縮小せざるを得なくなるだろう。
「すごい雇用」をするカイシャが生き残る
どこのカイシャからも求められる「優秀」な人を採用するのは、リスクが少ない「すごくない雇用」だ。
それに対して「すごい雇用」とは、フルタイムでは働けない人や在宅勤務しかできない人など、制限が多い人を採用するものだ。こういった「採用するのに勇気がいる人」に活躍してもらうには、一人ひとりの個性に注目しなければならないだけでなく、それを生かすための戦略が必要となる。そのため、「すごい雇用」には高いマネジメント力が求められるが、「すごい雇用」を実現するカイシャが増えていけば、楽しく働くことができる人もまた増えると言えるだろう。
今までは、カイシャにとって、つまり代表にとって都合のいい「優秀」な人だけが雇用され、女性や高齢者、障害者などは積極的に雇用されてこなかった。しかし、少子高齢化により、今までと同様の「すごくない雇用」を続けるカイシャは、人手不足に陥ることになる。
サイボウズではどのように楽しく働いているのか
「フラスコ理論」でアイデアを生み出す
「画一的」であることを重んじてきた日本人だが、生活必需品が普及するにつれ、「みんな」が欲しがるものはなくなってきた。そして価値観が多様化するなかで、画一的に働くことで生み出されてきた製品やサービスは魅力を失ってしまった。つまり、人材の多様な個性を生かして面白い企画を考え出さなければ、競争力を失ってしまうのだ。
そのような課題を解決するためにサイボウズが辿り着いたのが、「フラスコ理論」というマネジメント手法だ。フラスコに多様な人材を入れて混ぜてみることで、化学反応が起き、アイデアが生まれるというイメージだ。ビーカーではなく、口が絞られたフラスコにたとえているのは、ビジョンが明確であることを表している。個性的な人材が入っているものの、全員がビジョンに向かって方向づけられていることで、気持ちが一つにまとまっているのである。
これは、多くの日本企業とは対照的だ。多くの日本企業では、本来多様だったはずの人材を同じように働かせ、同じように給与を与え、同じように昇進させることで、似たような人材に集約させてしまっているのだ。結果として、化学反応が起こりづらく、アイデアが生まれにくくなっている。
化学反応に欠かせない「公明正大」と「自立」
多様な人材が化学反応を起こすために欠かせないのが、「公明正大」と「自立」という触媒だ。
公明正大とは、嘘をつかないことと情報を隠さないこと。互いに嘘をついた状態で引き起こされた化学反応は、成果に結びつかないだろう。また、情報を隠したままフラスコを振っても、化学反応は起こらないかもしれない。
自立とは、問題を自分ごととしてとらえ、主体的に行動するということ。積極的に意見を出さなければ、フラスコは無反応に終わってしまう。
「公明正大」と「自立」という触媒がそろい、面白い化学反応が起こると、それに興味を持った人がフラスコの中に集まり、混ざり、さらなる化学反応を起こすことになる。社員に限らず様々な背景から意見が出され、その掛け合わせが面白いアイデアへと昇華されていくのだ。
化学反応を起こすための人材投入
フラスコの仕組みを生かし、画期的なアイデアを生み出すためには、社員一人ひとりの多様な個性に磨きをかける必要がある。個性を促進するために、サイボウズでは、2つの仕組みを用意している。
1つ目が、「働き方の多様化」だ。社員は、働く時間や場所を自由に選択することができる。それによって一様でない経験を積んでもらうことがねらいだ。実際、著者は、育児休暇を3回取得した。その結果、他の上場企業の社長が持っていない知見を手に入れたのだ。
2つ目が、「複業」だ。サイボウズの社員は自由に複業することを許されている。複業によって地域や業界を超えた知識、人脈を得て、カイシャに還元してもらうことでイノベーティブなアイデアを生み出しやすくするためだ。
加えてサイボウズでは、社外からもたくさん人材を投入するために「ハブ・オフィス」を用意している。交通の利便性の高い場所にオフィスを置いて人を集め、大部屋で社内外のイベントを開催したりして、インターネットとは異なる、リアルに人が集まるからこそ生まれるワクワク感や一体感を生む仕掛けを作っているのだ。
一読の薦め
要約では紹介しきれなかったが、本書では、未来のカイシャがどうなっていくのかについても、さらに視点を広げて考察されている。「イケてない会社」でくすぶり続けている方、楽しく働きたい方はもちろんのこと、グーグルやアップルといった巨大IT企業の発展や少子高齢化、人工知能などによって仕事がどう変わっていくのかを考え、その未来に備えたい方にとっても必読の一冊だ。
※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介
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青野 慶久(あおの よしひさ)
1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現・パナソニック)を経て、1997年、愛媛県松山市でサイボウズ株式会社を設立。2005年、代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を7分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。2011年から事業のクラウド化を進め、2017年にクラウド事業の売上が全体の60%を超えるまで成長。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーや一般社団法人コンピュータソフトウェア協会の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。
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