たった3カ月で組織が生まれ変わるフレームワーク「OKR」って一体なに?
シリコンバレーのスタートアップからGoogleといった大企業までが取り入れている新しい目標設定のフレームワーク。それが「OKR」。KPIのように「パフォーマンスを評価する」だけでなく、「人を鼓舞し、能力を高める」ことにも重きを置いており、会社におけるゴールのモデルや存在そのものをつくり替えると期待されている。仕組みを通して、企業や個人を成長させたいビジネスパーソンにぜひチェックしてほしい。
タイトル:OKR
著者:クリスティーナ・ウォドキー 著/二木 夢子 訳/及川 卓也 解説
ページ数:224ページ
出版社:日経BP社
定価:1,620円
出版日:2018年3月19日
Book Review
これからはKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)ではなく、OKRの時代になるかもしれない――それが読了後まっさきに出てきた感想だった。
もちろんKPIとOKRは用いられる場面が異なる。KPIがまったく使われなくなるということはないだろう。だがOKRのほうがより本質的なところをついているし、組織や個人の成長に寄与する指標だと感じる。
ここでいうOKRとはObjectives and Key Results(目標と主な結果)の略称だ。インテルが開発したこの手法は、グーグルなど名だたるIT企業にも取り入れられ、大きな成果を出している。KPIのように「パフォーマンスを評価する」だけでなく、「人を鼓舞し、能力を高める」ことにも重きを置いており、会社におけるゴールのモデルや存在そのものをつくり替えるポテンシャルがある。まさに変化の激しい現代社会だからこそ生まれたしくみといえよう。
本書は2部構成となっており、前半では物語(小説)形式でOKRの難しさと有用性が、後半ではOKR運用のコツが、それぞれ詳細に語られる。OKRはかなり柔軟性に富んだ手法だが、一方でかならず守らなければならないルールもある。逆にいうとそれさえしっかり守っていれば、さまざまな規模や業態の企業で効果を発揮してくれるはずだ。
しくみを通して、企業や個人を成長させる。まさにかくあるべしだ。目標達成のための新たなバイブルとしてご活用いただきたい。
なぜ、やり遂げることができないのか
目標が実現しない5つの理由
誰にでもやりたいことはある。だがそれがどれだけ重要なものであっても、実現しないことは多い。なぜ目標は実現しないのだろうか。そこには5つの要因があると著者は見ている。
1つ目の要因は、ゴールに優先順位をつけていないことだ。「なにもかも重要というのは、どれも重要でないのと同じ」というわけである。たとえ同じぐらい重要に見えたとしても、優先順位はつけなければならない。それらを1つずつ処理していけば、成功する可能性は当然高くなる。
2つ目の要因は、熱意をこめて周りにゴールを伝えていないことである。ゴールを定めるだけでは不十分だ。ゴールは毎日チームに繰り返し伝えなければならない。しかも口頭だけでなく、あらゆる場面でリマインダーを送る必要がある。
3つ目の要因は、やり遂げるためのプランがないことだ。個人の意志の力に頼るのは非生産的である。意志の力は有限であり、使っていると摩耗してしまう。疲れていても脱線しないようにするプロセスが求められる。
4つ目の要因は、重要事項のための時間を設けていないことである。「重要でも緊急でもないこと」をやめるのは、それほど難しくない。しかし「重要だが緊急ではないこと」を真剣に考え、そのためのスケジュールを立てる人は少ない。重要事項をやり遂げるためには、時間をあらかじめ空けておくべきだ。
5つ目の要因は、繰り返さずにやめてしまうことである。OKRを導入しても、最初は失敗するものだ。だが成功する会社は、かならず再挑戦している。成功への唯一の望みは繰り返すことだ。ただしその際は、なにが機能してなにが機能していないのかを念入りに観察し、適切なフィードバックを加えていかなければならない。
成功への道:ミッションを定めよ
成功への道は複雑ではないが、とても険しいものである。夢をもつことからすべては始まるが、夢に到達するためには、重要事項にフォーカスし、いかなるときでも前へ進めるように計画し、失敗から多くを学ばなければならない。
OKRを導入する前にやるべきことがある。それはミッションの確認だ。ほとんどのスタートアップは、会社のミッションを掲げることに抵抗感をもつが、そもそも起業家は意識してるかどうかを問わず、創業時からミッションを抱えているものである。
ミッションはシンプルで覚えやすく、時間の使い方を占める指針となるように書かなければならない。よいミッションとは、全メンバーが覚えていられるぐらい短いものだ。人を鼓舞させる言葉で書かれ、それでいて方向性がはっきりしている。
ミッションをつくる際は、次のシンプルな公式に当てはめるといい。「わたしたちは、[価値提案]によって、[市場]における[問題点を取り除きます/生活を向上させます]」。そして推敲を重ねる。価値提案を書くだけで十分な場合もあるだろう。
ミッションはOKRにおけるO(目標)と多くの面で似ている。だがミッションはずっと長持ちするものであるべきだ。ミッションは会社がレールから外れるのを防ぎ、OKRがフォーカスを定める際のマイルストーンとなる。ミッションなしでOKRを使っても意味はない。
OKRの基本
Oの条件
OKRとはObjectives and Key Results(目標と主な結果)の略語だ。Oには定性的なものを1つだけ、KRには定量的なものを3つ程度定める。そして大胆なゴールに向けて集中するのである。
Oは次の条件を満たすものでなければならない。
まず定性的で人を鼓舞する内容である。メンバーが毎朝、ワクワクしながらベッドを飛び出たくなるようなものが望ましい。チームに合った言葉で、仕事の意義と進歩を伝えよう。
次に時間的な縛りが定められていることだ。1カ月や四半期で実現できるものがいい。実現に1年以上かかる目標は、どちらかというと戦略やミッションに該当する。設定した期間内にやり遂げるのが難しく、それでいて実現可能な内容にするのが理想だ。
さらに各チームが独立して実行できることも重要である。スタートアップではあまり問題にならないかもしれないが、大企業では部署が相互に依存しあっているゆえの苦労がある。どこかの部署のせいで達成できなかったという類の言い訳が通用しないような内容にしなければならない。
KRの設定
Oに記した感覚的な言葉を、KRでは定量化(数字化)する。KRをつくる際のポイントはシンプルだ。「どうやったらOを満たしたとわかるのだろうか」と問いかければいい。
KRは3つ程度になることが一般的である。基準は測れるものであればなんでも構わない。たとえば成長率、エンゲージメント、売り上げ、性能、品質である。KRを賢く選べば、成長とパフォーマンス、売り上げと品質のように、相反するかもしれない指標を用いながら、うまくバランスをとることだってできるだろう。
なおKRを設定する際も、「難しいが不可能ではない」ものにしなければならない。自信度1を「まずムリ」、自信度10を「確実に達成できる」とすると、自信度5の状態がもっとも望ましい。「これを達成するにはあらゆる面でベストを尽くさなければいけないな……」と感じたら、それが適切な目標である。KRの設定とはすなわち、難しいが不可能ではないことを成し遂げるためにあるのだ。
OKRの実行
OKRのスケジュール
OKRをしっかり理解し、導入する心構えができたら、次のようなルーティンを回すといい。
まずすべてのメンバーに、会社が次の四半期に取り組むべきだと思うO(目標)を提出してもらう。こうすると全員がOKRへ主体的に関わってくれるようになるし、社風が健全に保たれているかもチェックできる。
次に経営幹部チームは半日のセッションを開き、提案されたもののなかからOを1つ選ぶ。ここではたっぷり時間をとり、十分に議論するべきだ。Oが決まったら、今度はKR(主な結果)を設定する。
経営幹部はその後、四半期のOKRを直属の部下に説明し、部門OKRを設定する。会社のOKRを決めたときと同じやり方で、今度は部門長とそのチームがOKRを定めるのだ。こうして定められた部門OKRは、CEOによって承認される。だいたい1時間程度で終わるはずだが、的はずれな部門長だった場合は、フォローアップに丸1日かけたほうがいい。
部門OKRが決まったら、部門長は会社と部門のOKRを下位のチームに渡し、それらのチームにもそれぞれOKRを設定してもらう。必要に応じてこのタイミングで、個人OKRを設定してもいい。個人OKRは最終的にマネジャーが承認する。メールですませず、1対1の面談でOKRを検討するのがベストだ。
最後に全員参加の会議で、CEOはその四半期OKRを設定した理由を説明し、直属の部下が設定した例をいくつか取り上げる。また前四半期のOKRにも触れつつ、主な達成項目を挙げる。
このルーティンを四半期ごとに維持しながら前進していこう。なおOKRの設定に2週間以上かかるようであれば、優先事項をしっかり見直したほうがいい。会社が結束するためのゴール設定よりも重要な仕事などないのだから。
OKRを習慣にする
O(目標)を達成できない原因の多くは、四半期のはじめにOKRを設定したにもかかわらず、そのまま忘れてしまうというものである。これを防ぐためには、OKRを毎週のチーム・ミーティングや状況報告メールに組みこむとよい。
まず毎週月曜日、チーム・ミーティングでOKRの進捗をチェックし、会社の目標達成に向けたタスクにコミットする。おすすめは(1)今週の優先事項、(2)今後4週間の予定、(3)OKR自信度状況、(4)健康・健全性指標、以上4つからなるマトリクスを作成することだ。このマトリクスを土台にしつつ、たとえば「この優先順位はOKRの達成につながるか」、「OKR達成の自信度が下がっているのはなぜだろうか」、「新しい大きなことに取り組む準備はできているか」、「従業員を追いこんでいないか」などを話し合う。もちろんこのマトリクスにとらわれすぎる必要はないが、できるだけシンプルなしくみにとどめたほうがいい。優先事項の数は少なめに、更新頻度を短くするのがコツだ。
金曜日になったら今度はウィン・セッション(勝者のセッション)をおこなう。これはきわめて重要で、各チームが見せられるものをなんでも見せ合う場だ。エンジニアなら作業中のコードを、営業なら成約にいたった顧客を、ビジネス開発部門は取引の概要を紹介しよう。こうしたセッションをおこなうと、メンバーそれぞれが特別なことをしている気分になれるし、共有できるものをつくることが楽しみになる。またそれぞれが各部門の仕事に感謝し、他のメンバーが日々何をしているのか理解できるようにもなる。ビール、ワイン、ケーキなどメンバーの好きなものを用意するなど、「自分は大切にされている」という感覚をもってもらえるように工夫しよう。
最初はたいてい失敗する
残念ながらOKRにはじめて挑戦する企業はたいてい失敗する。だが失敗自体が問題なのではない。チームがOKRに幻滅し、再挑戦しなくなることが問題なのだ。
失敗の原因はいろいろある。たとえば四半期ごとのゴールが多すぎたり、目標に数字を入れてしまっていたりするのは、Oの設定を見誤っている証拠だ。また自信度レベルの設定を忘れていたり、自信度レベルの変化を追跡し忘れてしまったりしても、KRがうまく機能しなくなる。達成度をチェックする金曜日に厳しい話をしてしまうのも、モチベーションを削ぐだけだから控えたほうがいいだろう。
OKRをうまく導入するうえでは、3つの方法が考えられる。
1つ目の方法は、最初のうちは会社のOKRを1つだけ定め、下位のチームのOKRを設定しないことだ。会社全体のシンプルなゴールを設定して、経営幹部がみずからそれに取り組む。そうすれば次の四半期で、部門や個人もスムーズにOKRを設定できるようになるはずだ。
2つ目の方法は、全社でOKRを導入する前に、1つのチーム内で導入することである。最初に選ぶべきなのは、ゴール達成のためのあらゆるスキルを備えている、独立したチームだ。成功したチームがあれば、それをモデルケースにして、OKRを社内で広められる。
3つ目の方法は、OKRをプロジェクト単位で適用するところから始めることだ。大きなプロジェクトを立ち上げるたびに、その目標はなにか、達成したとどうやってわかるのかを確認する。そうすることで、OKRのアプローチをメンバーに伝えるのである。
一読の薦め
本書の巻末には付録として、デザイン思考を使ったOKR設定ミーティングの進め方や、OKRワークシートが掲載されている。また部門ごとのOKRの運用について詳細に解説されているのも嬉しいところだ。実際にOKRを運用するにあたっては、ぜひとも本書をお手にとっていただきたい。きわめて「使える」一冊である。
※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介
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クリスティーナ・ウォドキー (Christina Wodtke)
ウォドキー・コンサルティングのプリンシパルとして、企業を洞察段階から実行段階に移行するためのトレーニングを行っている。また、カルフォルニア美術大学とスタンフォード大学夜間講座で、次世代のアントレプレナーを対象に教鞭をとっている。
これまで、リンクトイン、マイスペース、ジンガ、ヤフー、ホットスタジオ、イー・グリーティングスなどの企業の再設計と初期製品の販売を主導。さらに、コンサルティングスタートアップを2社、製品スタートアップを1社設立し、デザインを扱うオンラインマガジン、ボックシズ・アンド・アローズを創刊した。インフォメーション・アーキテクチャ・インスティチュートの共同創業者でもある。
カンファレンスから大学、理事会まであらゆる場所で発言し、インターネット上の多くのサイト、特にeleganthack.comで持論を展開している。 -
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