今さら聞けないAIのことが全部分かる『いまこそ知りたいAIビジネス』を要約

今や、AIに関するニュースを目にしない日はない。だが、その重要性はわかっているものの、自分の仕事やビジネスとの関連性をイメージできない人も多いのではないだろうか。本書では、シリコンバレーでAIビジネスを展開する石角友愛氏が、日本のAIビジネスの課題と可能性を分かりやすく解説する。

いまこそ知りたいAIビジネス

タイトル:いまこそ知りたいAIビジネス

著者:石角 友愛

ページ数:280ページ

出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン

定価:1,728円

出版日:2018年12月15日

 

Book Review

今や、AIに関するニュースを目にしない日はない。だが、そのトレンドから取り残されている人も多いのではないか。その重要性はわかっているものの、AIをどのようにビジネスに活用すればいいのかイメージできていなかったり、AIを導入するべき課題とそうでない課題の見分け方を理解できていなかったりしないだろうか。巷のAI議論には、そうした具体的な情報がごっそりと抜け落ちているように思える。
本書はそんな、何をすべきかが見えていないビジネスパーソンの救世主となるだろう。著者の石角友愛氏は、グーグル本社にて機械学習のシニアストラテジストとして勤務後、AIを活用したHRテックベンチャーや流通系AIベンチャーを経て、AIビジネスデザインカンパニー「パロアルトインサイト」を設立した。現在は、CEO兼AIビジネスデザイナーとして、企業のAI導入を支援している。まさにAIビジネスのプロだ。
著者は、AI導入で失敗しないためには、サンプルデータ分析が必須だという。サンプルデータ分析を通して、AI活用によって課題解決が見込めるかどうかを見極めるのだ。本書では、こうした知識が事例を交えて解説されており、AIの知識がない人でもシンプルに理解できるようになっている。
またAIビジネスに求められる人材として、データサイエンティストやAIビジネスデザイナーの役割についても言及されている。本書を読めば、AIビジネスについて理解を深められるはずだ。

日本のAIビジネス

AIを擬人化することの弊害

今さら聞けないAIのことが全部分かる『いまこそ知りたいAIビジネス』を要約

著者は、日本でAIが知られるようになる前から、グーグル本社で機械学習のシニアストラテジストとして勤務していた。その後シリコンバレーにて、パロアルトインサイトというAIビジネスデザインカンパニーを起業し、経営している。
AIビジネスとは、「AI技術を使って企業の課題を解決する方法を提案し、実装すること」。AIビジネスデザインとは、「経営者や事業担当者とデータサイエンティストの間に立ち、AIビジネスを創造する仕事」を指す。著者はAIビジネスデザイナーとして、50社以上の日本企業に対して、AI技術活用に関するアドバイスや実装、導入を行なってきた。その中で痛感したのは、日本企業のAIに対する認識不足だ。
AIビジネスに携わる人にとって、AIとは、学問領域の名前や機械学習、ディープラーニングなどの手法の総称を意味する。一方、一般の人の中には、AIをロボット的な何かだと認識している人もいる。
AIによる学習のアウトプットを擬人化する傾向もある。AIが予測した株価を紹介する際には、「予測ちゃん」というキャラが話しているかのような手法が取られる。AIは手法や学問領域の総称でしかないにもかかわらずだ。
この擬人化は、AIビジネスを考えるうえで弊害になりえる。抽象的な概念は抽象的なまま議論しないと、本質を見誤りかねないからだ。

中小企業ほどAI活用が重要になる

AIビジネスは、大企業だけのものではない。むしろ中小企業ほど、AIを導入すれば大きなビジネスインパクトを出せる可能性がある。
著者のもとに、街の歯科技工所と歯科医からAIを導入したいという相談が届いた。その歯科技工所は、歯科技工士が不足する中、AIを使って歯科技工物を機械的に製造したいというアイデアを持っていた。さらに、歯科技工物をAIで分析し、歯科医院の経営支援やコンサルをしてはどうかとも考えていた。歯科医は、予約システムや受付業務、カルテや薬剤の在庫管理へのAI導入を検討していたという。いずれも、実現可能性の高いアイデアだ。
マッキンゼー・グローバル・インスティチュートの発表によると、AIが不可欠な業種は16パーセント。AIを導入すれば業績が大きく伸びると予想される業種は、全体の69%にも達するという。

AIビジネスの最先端事例

アメリカの通販サイト「スティッチフィックス」

アメリカではすでに、あらゆるシーンでAIが活用されている。そのひとつが、270万人が使うファッション通販サイト「スティッチフィックス(Stich Fix)」だ。
スティッチフィックスの会員になったユーザーは、サイト上で85項目の質問に回答する。体型や予算はもちろんのこと、複数の洋服の写真を見て「大好き」「好き」「嫌いではない」「嫌い」を選択する質問もある。すると後日、個々のユーザーにおすすめの洋服が5着送られてくる。ユーザーはその5着のうち、好みの服だけを購入し、好みでないものは無料で返却できる。サービスの基本料金は月額20ドルだ。1着でも購入すると20ドル割り引かれるため、手数料は実質無料である。
スティッチフィックスの特徴は、あらゆるシーンでAIが活用されていること。そして、AIだけではまかなえない部分に人間のサポートが入っており、AIとスタイリストがそれぞれ得意とする領域で協働していることだ。実際スティッチフィックスには、75名以上のデータサイエンティストと、約3500名のスタイリストが在籍している。

マッチングを高める仕組み

スティッチフィックスでは、ユーザーに送る服を決定するアルゴリズムにAIが活用されている。先ほど説明した85項目の質問に加え、そのユーザーのピンタレスト(Pinterest、写真共有Webサービス)のアカウントを参照することによって、AIがユーザーの趣味趣向を分析し、おすすめの服を選んでいるというわけだ。
マッチング精度を高め、送った商品の返却率を下げるために、マッチング精度を上げる工夫がなされている。嗜好傾向が近いユーザーAさんとBさんがいるとする。この場合、Bさんにおすすめして購入されたスカートは、Aさんも気に入る可能性が高い。その仮説のもと、Aさんにも同じスカートがおすすめされる。アマゾンにある「これを買った人はこれも買っています」というレコメンド機能にも似た仕組みだ。この手法は、コラボレイティブ・フィルタリング(似たプロフィールの個人同士を比較検証するプロセス)という機械学習の手法である。
驚くべきことに、AIがおすすめした商品が本当に良いのかどうかの最終判断は、スタイリストが行なっているという。AIは、スタイリストがどの服を採用してどの服を却下したかのデータを蓄積し、さらに学習を繰り返す。こうしてデータを増やすほど、商品とユーザーのマッチングの精度を高められるというわけだ。このプロセスを「フィードバックループ」という。
配送の最適化にも、AIが活用されている。スティッチフィックスの倉庫はアメリカ全土に6カ所ある。どの倉庫にそのユーザーに適した商品があるのか、その商品がどの場所からどのくらい発注されそうかといった予想データと運賃コストとを掛け合わせ、どの倉庫から発送するのかを決めているという。

AIを導入したい企業がすべきこと

AIの実装にはデータ検証が必須

AIを開発し、実装するためのプロセスは、病院で治療を受けるプロセスと似ている。治療を受けるには、病状の把握と原因の特定、治療法の決定が必要だ。同様に、AIを実装するには、その企業が保有しているデータ検証が必須である。そのステップなくして課題解決のために最適なAIモデルを考え出すことはできない。
ある企業の失敗談が参考になるだろう。店舗ビジネスを展開しているその企業は、保有している膨大な顧客データをもとに、どの顧客にどのようにアプローチをすれば1人あたりの売り上げ単価と来店頻度を高められるのかを分析したいと考えていた。
AI実装を請け負う企業から提案を受け、発注したが、プロジェクトは1年後に頓挫してしまった。その理由として説明されたのは、「提供された顧客データが、データとして使用できるものではなかったから」。
問題は、データがどのような状態なのか確認もせず、プロジェクトに着手してしまったことだ。この失敗を受け、その企業が「今後もAI導入をしない」という結論に至ってしまうとすれば、非常にもったいないことである。時代に取り残されてしまうのだから。

AI診断を行なえば失敗を避けられる

このような不幸な事例を作り出さないためには、企業が保有する一部のサンプルデータを提供してもらい、分析する必要がある。そうすれば、企業が抱える課題に対してどのようなアプローチがありえるのかを見きわめられるからだ。著者の会社では、このプロセスを「AI診断」と呼ぶ。手順は次のとおりだ。
(1)サンプルデータに、任意のラベルづけをする。
(2)ラベルづけされたAとBのデータにどのような差があるのかを探す。
(3)その差を今後どのようなAI技術で解析、抽出し、課題解決につなげるかのプランを考える。
参考例として、サブスクリプション型サイトを運営している企業を取り上げる。その企業はサイトの基本的な機能を無料で提供しており、プレミアム機能を使いたいユーザーは月額料金を支払う。こうしたビジネスモデルでは、有料会員の解約防止が課題となる。
ステップ(1)では、会員のうち、過去30日以内に解約したユーザーをユーザーA、それ以外の既存アクティブユーザーをユーザーBとラベルづけした。ステップ(2)でデータを解析したところ、クリックや保存などの行動の平均値に関しては、ユーザーAとユーザーBでは差がみられなかった。その一方で、最初の数日間の行動量に関しては、ユーザーAとユーザーBとの間に何倍もの差があったという。
そこでステップ(3)として、この差をもとに、1カ月以内の解約者、1週間以内の解約者、1日以内の解約者、そして分単位での解約者の特徴を分析した。すると「数分後にこのユーザーが解約する可能性は何パーセントなのか」を算出するAIモデルを作ることができる。
次の段階は、そのユーザーを解約させないための施策を考えることだ。ポップアップで「こんな機能もあります」と知らせる、営業担当者が電話をかけるなどといった施策が考えられるだろう。最後にその施策をABテストし、最適な施策に落とし込む。

解決したい課題を見つける方法

「AI導入をしたいが、何から手を付けていいかわからない」企業はどうすればいいか。ある運送会社の事例を取り上げて説明しよう。
その会社ではまず、社内の課題の棚卸しを行なった。出てきた課題は、「本社受付にAIを導入してコストを減らしたい」「トラックの積載量を増やして無駄を減らしたい」「長く勤めてくれる社員を予測して採用したい」などだ。
次に、これらの課題をAIで解決できるのかどうかを見極めた。見極めの基準は2つ。データを採れることと、そのデータに基づいた仮説検証ができることだ。
たとえば「長く勤めてくれる社員をAIに予測させたい」という課題であれば、採用データをもとに「辞めない人材」を予測して採用し、採用した人の勤務期間を検証する必要がある。これには数年単位の時間がかかるだろう。また、離職理由の特定が難しいという課題もある。よって、定量的な検証が必要なAIには向いていないと結論づけられた。
データが揃っており、仮説検証ができそうであれば、課題を解決した場合のビジネスインパクトを検証する。「効率化の大小」と「売上増加の大小」の2軸で見るとよい。
たとえば、受付業務をAIで置き換えたとする。これで削れるコストは、数名分の人件費だけ。一方、2トントラックの積載量を3Dで可視化し、フルに積載して無駄のない配送を実現できれば、大きなコスト削減につながる。後者のほうがビジネスインパクトは大きいといえる。
このように、課題を可視化すると、どの分野にAIを導入すべきかがわかりやすくなるはずだ。

一読の薦め

AIが人間の仕事を奪うという「AI脅威論」がまことしやかに囁かれる中、自分の仕事もAIに取って代わられやしないかと不安な人もいるかもしれない。そんな人は本書を読み、AIが具体的にどのようにビジネスに利用されているのかを知るといいだろう。AIは単なる脅威ではなく、千載一遇の好機にもなると理解できるはずだ。
AIをビジネスに活用している事例を知ることは、今後のキャリアを考えるうえで、確実に役立つはずだ。すべてのビジネスパーソンに一読をおすすめしたい。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • 石角 友愛(イシズミ トモエ)

    パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー
    2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAIプロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテックや流通AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手がける。シリコンバレー在住。
    著書に『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)、『私が白熱教室で学んだこと』(CCCメディアハウス)など多数。

  • flier

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