『管理ゼロで成果はあがる』を要約-個人が楽しく働くのが成果に繋がる!?

著者・倉貫義人氏が代表を務めるソニックガーデンは、オフィスも数字も評価もなしという、社員を「管理」しない会社だ。なぜ管理しないのか?なぜそれで成果が出せるのか? 本書では、組織で働く上で当然と思われるさまざまなルールを変えていくことが提言されている。これからの働き方を考えたい人に読んでほしい一冊。

管理ゼロで成果はあがる

タイトル:管理ゼロで成果はあがる

著者:倉貫 義人

ページ数:272ページ

出版社:技術評論社

定価:1,706円

出版日:2019年2月7日

 

Book Review

著者が代表を務めるソニックガーデンは、システム開発を行うエンジニア集団だ。この会社には、本社オフィスがない。管理職も部署も評価も、売上目標すらない。
その特徴を聞くと、個人あるいは数人で設立した会社が、単純なデータ入力や記事を書くような仕事だけを受けている姿をイメージするかもしれない。しかしソニックガーデンの社員35人は全員フルタイム勤務で、新卒採用もするし、教育にも投資するという。オフィスを構えるごく当たり前の企業と何ら変わらない部分も多いのである。
そんなソニックガーデンは、どのように組織をコントロールし、経営しているのだろうか。その疑問に答えをくれるのが本書だ。タイトルにある通り、「管理」はいらない。それでもお客さまに新しい価値を提供する創造的な仕事ができるどころか、むしろ効率的だ。そんなことが、本書をお読みいただくと理解できるだろう。
本書内で紹介されているソニックガーデンの実例については、システム開発の会社だからこそ可能な部分も多分にある。しかし管理をなくすことのそもそもの目的は、「組織として圧倒的な成果を出すこと」と「働く個人が圧倒的に楽しく仕事をすること」の両立だ。その実現は、組織として「高い生産性」を実現し、維持できてこそ可能となる。
この目的については、業界業種の違いはあまり関係ないだろう。同じ観点から自分の組織に対する問題意識をお持ちの方であれば、取り入れたいことがきっと見つかる一冊だ。

生産性を高める取り組み

「ふりかえり」でやり方を見直す

『管理ゼロで成果はあがる』を要約-個人が楽しく働くのが成果に繋がる!?

生産性が低い、部下が育たない、ノウハウが共有されない――そうした問題で遅れた進捗を、残業によってカバーしている組織は珍しくないだろう。だが、それもいつかは破綻してしまう。残業ではなく、抜本的にやり方自体を見直していかなければならない。
著者が代表を務めるソニックガーデンでは、仕事のやり方を見直す「ふりかえり」の時間を設けている。「なぜ、問題が起きるようになったのか」「問題をそのままにしておくと再発してしまうかどうか」といった視点から、業務のやり方や仕事のやり方を見直す。これは「進捗が遅れているからスケジュールを見直そう」などという、今起きている問題について話し合うものではない。
ふりかえりは、むやみやたらと意見を出そうとしてもうまくいかない。コツは4つだ。
1つ目は、「KPT」というフレームワークを使うこと。KはKeep(良かったこと)、PはProblem(悪かったこと)、TはTry(次に試すこと)を指す。ホワイトボードを使い、この3つの領域をふりかえっていく。
2つ目は、とにかくまずは全員で、KとPを出し切ることだ。1人ずつの気づきが出されれば、それは個人のものからチームのものへと変わっていく。KとPを全員で共有したうえで、チーム全体でTを議論すればよい。
3つ目は、Tを精神論にはせず、具体的なアクションに落とし込むこと。たとえばTを「ミスしないように気をつける」とすると、それが達成できたかどうか確認できない。あとから検証できる、具体的なアクションにまで落とし込む。
4つ目は、週に一度、1時間のふりかえりから始めることだ。頻度を短くするほど早く方向修正できるし、修正する量も少なくてすむ。はじめのうちは1時間かかるかもしれないが、やがて短時間で終えられるようになるだろう。
このふりかえりは、一度きりで終わらせてはいけない。繰り返し仕事の進め方を改善していくことで、最も生産性の出るやり方を見つけられるだろう。また「自分たちの現場は自分たちで改善していく」という意識がチームに根付くはずだ。

「タスクばらし」で重要な仕事に集中する

仕事を大きい単位のまま扱っていると、タスクの進捗状況が見えにくくなったり、重要度の低いことに時間をかけてしまったりする。そこでやるべきなのが「タスクばらし」だ。これは、4つの工程から成る。
まず、その仕事における目的とゴールの確認だ。目的とゴールにつながらないことは切り捨ててしまおう。
次に、仕事をタスク項目に分解していく。ゴール達成に結びつかないタスクが見つかれば、それも切り捨てる。タスクが大きすぎないように、1つのタスクは30分~45分に分けよう。
次に、見積もりだ。タスクに取り掛かる前に、頭の中でシミュレーションしてみる。イメージできなければ、少し手を動かし、取っかかりを得よう。
最後に、重要さと見積もりを組み合わせて優先順位を決める。シンプルに上から取り掛かればいいように、優先順位は一列に決めておきたい。
こうして優先順位を付けたタスクは、終了条件も忘れずに付ける。そうしないと、どのタスクが終わり、どこまで進捗したのかが見えづらくなるからだ。

やる気を高める

生産性を上げ、仕事のクオリティを保つためには、メンバーのやる気も必要だ。だが「やる気を出せ」と言われて出せるものではないし、やる気は他人がコントロールできるものでもない。だからメンバーには、自分で考える必要がある仕事を用意し、その仕事に主体性を持って取り組んでもらうことが必要だ。誰にでもできる「作業」ではなく「仕事」をやってもらおう。
仕事の全体像と目的を伝えることも重要だ。そうすれば、仕事の一部の工程だけを担当する人であってもより高い目線で仕事ができ、チームに貢献している実感も持てる。目的に向かってよりよいアイデアを出せるかもしれない。
そのほかにも、「仕事を依頼する」のではなく「問題の相談をする」ことでともに解決をめざすこと、社会にとって意義がある事業を通して前向きに働けるようにすること、仕事の結果をこまめにフィードバックすること、ちょっと難しい仕事を任せて「フロー状態」をつくりだすことなども有効だ。

管理をなくすセルフマネジメント

LV1:与えられた仕事を1人でできる

管理をなくして成果をあげるためには、メンバーそれぞれが自ら考えて動く「セルフマネジメント」が必要だ。ここでは、メンバーがめざすべきセルフマネジメントの3つのレベルに焦点を当てていく。
レベル1は、自分に与えられた仕事を1人でできる段階だ。自分の仕事の中身を分解してタスク一覧をつくり、順番と優先順位を決められる。時間管理をしながら仕事を終え、報告までできる状態だ。
組織の観点では、「今どこまでできているのか」「残りはどれくらいの時間がかかるのか」といった自分の状況を、依頼者や周囲の人たちに伝えられなければならない。仕事は1人でできるものではないから、報告・連絡・相談は必須だ。
自分の観点では、きちんと休息をとれること。つい残業しすぎてしまってはいけないし、誰かが管理しないと休めないようでもいけない。

LV2:与えられたリソースで成果を出す

レベル2は、自分に与えられたリソースで成果を出す段階だ。ここでは、自分に与えられた時間や予算の中で、やる仕事とやめる仕事を決めて成果を出す、プロジェクトマネジメントのスキルが必要だ。「どのような仕事をすると大きな成果になるのか」「どうすればコストをかけずにすむのか」といったふうに、より俯瞰的な視点が求められる。
組織の観点では、関係者や上司と相談しながら問題を解決する。細かい報告や連絡というよりも、組織内の人間と雑談しつつ問題解決につなげる能力が必要だ。
自分の観点では、継続的に安定したパフォーマンスが出せること。適切に休息を取って健康を維持し、精神的な浮き沈みに左右されないことが求められる。特に、メンタルを安定させ、まわりの評価に一喜一憂しない姿勢を保たなければならない。

LV3:自分で仕事を見つけて成果を出す

レベル3は、自分で仕事を見つけて成果を出す段階だ。会社やチームにとって良いと思えることであれば何でもやり、そのためのリソース管理も行う。
これができるようになるには、自分の所属する会社や組織のビジネスモデルを理解していなければならない。お客様は誰か、お客様の課題をどう解決するか、それに付随してどんな人・お金の流れが発生するか……こうしたことを理解して初めて、会社や組織にとってプラスになるアクションを取ることができる。
組織の観点では、セルフマネジメントができる人同士が協力しあいながら、大きな成果を出していく。より大きな成果を求めて、対等な関係にある人とコミュニケーションを取り、協働するレベルだ。
自分の観点では、自分自身で目標設定や課題設定をすること。このレベルにある人は、マネージャーや上司から指示を受けずとも戦略的に動けなければならない。

人を支配する管理をなくす

階層をなくしたホラクラシー組織

少子高齢化が進む日本では、組織のヒエラルキー構造を支える若年層が不足しつつある。そこで注目されているのが、肩書きや役職のないフラットな組織構造である「ホラクラシー」だ。
ホラクラシーを採用すれば、社員たちの主体性が増し、生産性が向上する。管理コストが減るから、より価値や利益に直結する仕事に集中できる。さらには、上下関係から生まれるストレスや社内政治がなくなり、風通しのよい会社になる。
ホラクラシー型の組織では、決裁者がいない。社長が決裁するわけでもない。その構造のもと、ソニックガーデンでは、誰もが自由に経費を使ったり、有給休暇を取ったりすることができるという。
それでも問題が起こらないのはなぜか。有給休暇に関していえば、周りの人に迷惑をかけないように調整しているから。経費精算に関しては、すべての情報を全社員で共有しているからだ。みんなにすべて見えている状態だから、管理者は必要ない。

評価をなくす

単純労働は評価しやすい。誰がやっても同じで、やればやった分だけ成果になるからだ。
これとは真逆なのが、創造性が求められる仕事だ。個人ごとの売上だけで評価できるものではないし、リスクを防ぐ働きは、リスクが起こらない限り評価されない。しかも専門性が高い仕事だと、上司よりも部下のほうがその分野に詳しいことさえある。悪い評価をされた人はやる気をなくしてしまうかもしれないし、いい評価をされたからといってやる気が長く続くわけでもない。
従来の評価の問題を解決するために、ソニックガーデンでは、評価をなくすというシンプルな方法を取ることにした。つまり、職種ごとに基本的に給与はほぼ一律にして、賞与は山分けにするという形式だ。結果、マネジメント側の負担も大きく軽減された。
評価制度はなくしたが、メンバーそれぞれが考えているビジョンと会社としてのビジョンや経営方針を合わせる「すりあわせ」は続けている。双方のビジョンがマッチした仕事や環境においてこそ、メンバー個人の最大のパフォーマンスが出るし、会社の成果も最大になるからだ。

ビジョンをすりあわせる

組織のビジョンに共感しているメンバーにとって、それが働く上でのモチベーションになるのは間違いない。しかし本当にがんばれるかどうかは、もう一歩進んで、自分の仕事が自分自身のためになるかどうかにかかっているはずだ。組織とメンバーのビジョンのすりあわせは、この「自分自身のため」を徹底的に議論し、お互いが納得して腹に落とすところまでやってこそ、意味がある。
たとえばソニックガーデンでは、すりあわせの手段の一つとして「ビジョン合宿」を採用している。旅館などに1泊2日で泊まり込み、パソコンやスマートフォンは使わずに徹底的に対話するというプログラムだ。個人のビジョンと会社のビジョンをすりあわせ、自分のことと会社のことを俯瞰して考えるよい機会となっている。

一読の薦め

本書では、組織で働く上で当然のごとく存在しているさまざまなルールを変えていくことが提言されている。要約に挙げた以外にもたとえば、会議や社内業務を見直したり、教育や通勤をなくしたりするといったことだ。
ただし著者は、どんな会社でも全く同じように実行できるわけではないだろうとも述べている。そこで要約でも細かい方法論より、管理をなくす肝となる考え方の部分を中心に紹介した。
最も大事なことは、「個人が楽しく働くこと」と「組織として成果を出すこと」を両立させることだ。その両立のために一般的に実施されているのは「ひたすら努力し、きちんとしようとし、よりよくしようとひたすら取り組みを増やしていく」ことではないだろうか。それではうまくいくはずがない。
本書はそんな取り組み方には限界を感じ始めた人、特に管理職に就いている人にとって大いに参考となるだろう。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • 倉貫 義人(くらぬき よしひと)

    株式会社ソニックガーデンの創業者で代表取締役社長。1974年生まれ。京都府出身。
    小学生からプログラミングを始め、天職と思える仕事に就こうと大手システム会社に入社するも、プログラマ軽視の風潮に挫折。転職も考えたが、会社を変えるためにアジャイル開発を日本に普及させる活動を個人的に開始。会社では、研究開発部門の立ち上げ、社内SNSの企画と開発、オープンソース化をおこない、自ら起業すべく社内ベンチャーを立ち上げるまでに至る。
    しかし、経営の経験などなかったために当初は大苦戦。徹底的に管理する方法で新規事業はうまくいかないと反省。徐々に管理をなくしていくことで成果をあげる。最終的には事業を軌道に乗せて、その社内ベンチャーをマネジメント・バイ・アウト(経営者による買収)することで独立を果たして、株式会社ソニックガーデンを設立。
    ソニックガーデンでは、月額定額&成果契約の顧問サービス提供する新しい受託開発のビジネスモデル「納品のない受託開発」を展開。その斬新なビジネスモデルは、船井財団「グレートカンパニーアワード」にてユニークビジネスモデル賞を受賞。
    会社経営においても、全社員リモートワーク、本社オフィスの撤廃、管理のない会社経営などさまざまな先進的な取り組みを実践。2018年には「働きがいのある会社ランキング」に初参加5位入賞と、「第3回ホワイト企業アワード」イクボス部門受賞。
    著書に『「納品」をなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』(日本実業出版社)がある。
    プログラマを誇れる仕事にすることがミッション。
    「心はプログラマ、仕事は経営者」がモットー。

  • flier

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