前田裕二氏の思考のすべてが詰まった「泣ける」と噂のビジネス書『人生の勝算』

秋元康氏や堀江貴文氏など、各界の著名人が「天才」と呼び、いま最も注目される起業家の一人である前田裕二氏の著書。彼の成功の裏側にある血の滲むような努力を知れば、彼の言う”ビジネス”の勝算が人生の勝算でもあることが分かるはず。

人生の勝算

タイトル:人生の勝算

著者:前田 裕二

ページ数:240ページ

出版社:幻冬舎

定価:1,512円

出版日:2017年6月30日

 

Book Review

秋元康氏や堀江貴文氏など、各界の著名人が「天才」と呼び、いま最も注目される起業家の一人。それが著者の前田裕二氏である。本書を開けばすぐに、彼の成功を生み出したのは、決して天賦の才能のおかげだけではないことに気づくだろう。彼の人生は「血の滲むような努力」のもとに築かれているといってよい。
幼くして直面した両親の死、お金を稼ぐために街中でギターを弾いた幼少期、逆境を糧に大きな成功をめざして、寝る間も惜しんでがむしゃらに働いた証券マン時代、身近な人の死、そして起業。彼の人生を辿るとそこには必ず大切な人の死が存在する。時間は有限だということがはっきりと心に刻まれているからこそ、彼は「天に召されるその一瞬前までやりたいことをやり尽くす」と自分を追い込んでいるかのようだ。
著者が立ち上げたSHOWROOMは、コミュニティ形成を重視した仮想ライブ空間をつくり、アーティストなどがライブを配信でき、ユーザーと双方向のコミュニケーションを楽しめるサービスである。コミュニティが今後さまざまなビジネスの成功の鍵だという彼の見解は、読みどころの一つである。
何より注目すべきは、彼の死生観だ。死は全ての人に平等であり、今この瞬間も確実に人生は終わりへと近づいていることを気づかせてくれる。
「人生の勝算」、それは彼が必死に自分と向き合った末、手に入れた「人生のコンパス」である。彼の生き様にふれれば、一度きりの人生を力強く生きようと思わずにはいられないだろう。

人は何にお金を払うのか?

弾き語りから生まれたビジネス戦略

弾き語りから生まれたビジネス戦略

著者は8歳の頃に両親を失い、いくつもの逆境を経験した。中でも、お金の不自由さは真っ先に払拭したいコンプレックスだったという。
当時小学生だった彼がお金を稼ぐために選んだのは、アコースティックギターによる路上での弾き語りだ。この経験こそが、後に事業を立ち上げる際の原点となる。
しかし、弾き語りを始めてすぐに壁にぶつかった。まず、行き交う人が立ち止まってくれない。歌がもっと上手になればいいのか、あるいは演奏技術を高めるべきか。そこで著者は、冷静にお客さんの立場になって考えた。「自分なら立ち止まるだろうか」。みすぼらしい感じの小学生の路上演奏なら、答えがNOなのは明らかだった。
著者は、演奏する曲をオリジナル曲からカバー曲へ変更した。提供するコンテンツを「未知から既知」にすることで、人々により大きな影響を与えられる、という仮説のもとである。結果は上々、立ち止まる人の数は徐々に増えていった。
しかし、すぐに収入という、第二の壁が目の前に立ちはだかった。音楽で食べることが最大の目的にもかかわらず、1ヶ月500円の売上ではあまりにも少ない。そこで、著者はセレブのイメージがある港区白金へと、場所を変えた。しかし、港区白金では、当時流行っていたカバー曲を歌っても道行く人は足を止めてくれない。今度は語り継がれていた名曲を演奏すると、街行く女性たちの興味をひくことができた。そうやって工夫を重ねるうちに、半年後のギターケースには、多いときには月10万円ほどのお金が入るようになっていた。

「濃い常連客」を獲得する3つのステップ

半年間の試行錯誤の末、お金を稼ぐために最も大切なことは「濃い常連客」を獲得することだと著者は学んだ。そのためには次の3つのステップがあるという。
1つ目は、お客さんを、会話のキャッチボールが成立する「コミュニケーション可能範囲」に引き込むことである。通常、人は警戒心を抱いて素通りして行く。
著者の場合は、演奏項目を手書きで書いたボードを掲げることだった。小学生が歌うとは思えない歌謡曲を提示することで、道行く人が立ち止まらずにはいられない仕掛けをつくり、これが奏功した。
続いて2つ目のステップは、お客さんからのリクエストに時間差で応えることだ。リクエストされた歌を無理して歌うのではなく、来週の同じ時間に来てほしいと、次回の約束を取りつけた。その背景には、歌の上手さとは別の土俵で戦うため、聞いてくれる人とより深く心を通じ合わせるため、という狙いがあった。1週間後に練習を重ねた曲を披露すると、お客さんには、「自分のために1週間も練習してくれた」というストーリーを付加価値として提供できる。
そして3つ目のステップでは、仲良くなれたお客さんにオリジナル曲を披露する。初めは見向きもされなかったオリジナル曲も、「絆」という価値が加わることで、聴く人にとって特別な曲へと昇華するのである。音楽を通じてしっかりお金を稼げるようになった経験は、のちに著者がSHOWROOMを立ち上げる際の重要な原体験となった。

あらゆるビジネスの鍵「コミュニティ」

コミュニティは絆の集合体である。コミュニティの形成は今後あらゆるビジネスにおいて無視できないほど、重要な要素になる。なぜなら、コミュニティには現代人が望む価値が詰まっているからだ。コンテンツの裏側にあるストーリーが、消費においてますます重視されている。さらには、努力次第で誰もが良質なコミュニティを生み出すことができ、それによってビジネスも加速するからである。
より強固なコミュニティを形成するには、余白の存在、常連客の存在、仮想敵、秘密や共通言語、共通目的の5つの要素が欠かせない。これらを兼ね備え、コミュニティとしてうまく機能しているのが、AKBグループである。「ダンスは下手でも一生懸命頑張る姿」といった不完全性は、余白の存在にあたる。また、まるで運営側にいるかのような熱心さでメンバーを応援する常連客が存在する。グループ内でのライバルの存在は仮想敵そのものだ。また、ファンは動画配信サービスでメンバーを応援する際、同じアバターをドレスコードとするなどの共通言語をつくりあげている。さらには、支持するメンバーの人気をいかに高めるかというファン同士の横の連帯が強まっていき、「共通目的」を持つようになっている。これらの要素がAKBグループの強さの秘訣となっている。
現代人の多くは、完成されたモノよりも「自分の物語」を好んで消費している。SNSの投稿に「いいね!」をもらって嬉しいと感じる現象は、「自分の物語消費」の典型例だ。
また、「モノ消費からコト消費」といわれるように、人々にとっての価値は自ら参加することや体験することへとシフトしてきている。コミュニティの存在は、現代人が価値を見出すビジネスを作る上で必要不可欠といえるだろう。

天才からのアドバイス

人を好きになる達人に学ぶ

自分ではコントロールできない外部要因によって、挑戦を阻害されたくない。逆境をバネにして高みをめざす。これを自分の人生を賭けて証明したい。こうした強い信念のもと、著者が新卒で入社したのはUBSという外資系の投資銀行だった。入社の決め手は一人の天才、所属予定の部署のヘッドを務めていた宇田川氏の存在だ。
著者は入社後すぐに戦力になろうとして、宇田川氏に何を勉強すべきかと尋ねた。彼のアドバイスは「とにかく人に好かれろ」だった。
宇田川氏には大勢のファンがいた。それは社内外問わず、本社が入るビルの、全く関係ない受付の人でさえ、「彼のためなら休日出勤もいとわない」と答えたほどだ。そこまで彼が人々に好かれる理由、それは彼自身が人を好きになる天才だからである。ビジネスの相手はもちろん、店の店員やタクシーの運転手など、誰に対しても彼は最大の好意を持って接していた。
宇田川氏がこうした行動をとるようになった背景には、証券マンとしてトップにのぼりつめたときに感じた、個人の力の限界がある。より高みへ到達するには、ともに闘うチームが必要となる。そのため、誰からもサポートしてもらえる環境整備と、チームの育成に注力したという。
影響を受けた著者は、無条件で相手を好きになることを心がけている。人に好かれる能力よりも、人を好きになる能力の伸ばすことのほうが重要なのである。

当たり前のことを徹底的にやり切る

宇田川氏のアドバイスは、決して特別なものではない。挨拶をする、誰よりも早く来て勉強する、 思いやりを持って人に接する、 日経新聞は毎日隅々まで読む。至極当たり前のことを、全力でやり切ることだった。
証券ブローカーにとって日経新聞や会社四季報を毎日読むことは、「当たり前」といってよい。しかし意外にも、この当たり前の基本をやり続けている人は少ない。だからこそ、それをやり続けるだけで、ライバルと圧倒的な差をつけられる。
この宇田川氏からの教えを忠実に守るべく、著者は入社以来、早朝出社を続けた。出社は朝の4時半~5時頃。出社してからマーケットが開く9時までの間に新聞を隅々まで読み込み、実務の準備を済ませた。そして、9時からは顧客に電話をひたすらかけ続けた。
著者が自分自身に課していた「当たり前」とは、質を量でカバーすることだ。周りの先輩から変わった奴だと面白がられるほど、持ち得る全てのエネルギーを仕事に注いだ。それが著者の証券マン時代だった。

人生のコンパス

モチベーションの本質

著者はなぜこれほどまでにがむしゃらに、ありったけのエネルギーを仕事に費やせるのだろうか。その答えは「モチベーションがあるから」の一言に尽きる。仕事の成否は、モチベーションによって大部分が決まる。モチベーションは、高速で目的を達成するための燃料となるからだ。
ただし、モチベーションを維持し続けるには、「見極める」ことが必要である。著者の場合は、SHOWROOMを通じて世の中をもっと楽しいものにしたい、努力が正当に報われる仕組みをつくりたい、という明確なビジョンがある。その実現に向けてすべてのエネルギーを投入できている。
鉱山で宝石を掘り当てるレースをするとしよう。その場合、まずはどこに宝石がありそうか、情報収集して仮説を立てることにエネルギーを注ぐ。そして、宝石が埋まっている可能性が高いポイントを探し当てたら、一気に迷わず宝石が見つけるまで掘り続ける。ほとんどの人は、この「見極める」という作業を蔑ろにし、とりあえず動き出している。動いていると「頑張っている感」も得られるため、しばらくは続けられる。しかし、疲労もあいまって「このままで大丈夫なのか」と不安になる。そして大抵の場合、挫折する。
モチベーションが高まらない人の多くは、見極めが甘い。それは、自分自身の人生という大きな航海に、方角を示すコンパスも持たずに乗り出していることと同じである。今もし途方にくれているのなら、いったん引き返してでも人生のコンパスを得るほうが、長い目で見てベストな方法である。

自分の価値観を言語化する

自分は何を幸せと定義し、どの方向に進みたいのか。これを指し示す「人生のコンパス」をもつことは非常に重要だ。そのためには、徹底して自分と向き合い、人生で何を成し遂げたいのかを見極めなければならない。
必要なのは自己分析を重ね、自分の価値観を言語化していくことだ。著者が自分の人生について書き出した自己分析ノートは、積み上げれば30cmに及ぶという。自分の価値観もわからないまま、例えば給与面や休みの多さといった表層的なことで進路を決めてしまうと、後悔する可能性が高い。自分の価値観を言語化するには、ロールモデルとなる他人の価値観を聞いて比較対象とするのも有効だ。もし、途中で違うと感じたら、いったん戻って、また別のコンパスと地図を持って航海に出ればよい。
著者は身近な人の死を何度か経験し、人生には終わりがあるということを強烈に意識するようになった。だからこそ、1日の密度をできるだけ濃くしたいと、人一倍願っているのだ。人生のコンパスを持つということは、自分の命を大切にするということでもあるといえる。

一読の薦め

本書には、「人生のコンパス」という言葉が何度も登場する。その意味を深く理解すれば、かけがえのない自分の人生を今一度見つめ直せるだろう。
要約では著者の起業の原体験となる部分を中心に取り上げた。SHOWROOM起業の試行錯誤の日々や、今後の展望については、ぜひ本書をじっくりお読みいただきたい。著者がいかにして人生の勝算が見えるようになったのか。その背中を追うことで、間違いなく全速力で走るエネルギーが湧いてくるはずだ。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • 前田 裕二 (まえだ ゆうじ)

    SHOWROOM株式会社 代表取締役社長
    1987年東京生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行に入行。2011年からニューヨークに移り、北米の機関投資家を対象とするエクイティセールス業務に従事。株式市場において数千億~兆円規模の資金を運用するファンドに対してアドバイザリーを行う。その後、0→1の価値創出を志向して起業を検討。事業立ち上げについて、就職活動時に縁があったDeNAのファウンダー南場智子に相談したことをきっかけに、2013年5月にDeNAに入社。同年11月に仮想ライブ空間「SHOWROOM」を立ち上げる。2015年8月に当該事業をスピンオフ、SHOWROOM株式会社を設立。同月末にソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。現在は、SHOWROOM株式会社 代表取締役社長として、SHOWROOM事業を率いる。

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