有名エンジニア・澤円氏が教える働き方のヒント『あたりまえを疑え。』を要約
「全社員が同じ時間に出社しなければいけない」など、世の中に存在するさまざまな「あたりまえ」。そこに疑問を持ったとき、人は大きな成長への転換点を迎えると言う。マイクロソフト業務執行役員の澤円氏が若手ビジネスパーソンに送る、自分の殻を打ち破って成長を遂げていくための考え方と具体的なノウハウが満載の一冊。
タイトル:あたりまえを疑え。 自己実現できる働き方のヒント
著者:澤 円
ページ数:263ページ
出版社:セブン&アイ出版
定価:1,512円
出版日:2018年11月26日
Book Review
「全社員が同じ時間に出社しなければいけない」など、世の中にはさまざまな「あたりまえ」が存在している。たとえば、地方で暮らしていると、都会に比べてチャンスが少ないと感じる人もいるかもしれない。もちろん都会には人口が集中していて、チャンスも多いだろう。しかし実際には、多くの人が自分の力を発揮できずに埋もれている。その一方で、地方に住むメリットを生かして、都市よりも刺激的な仕事をしながら、幸せに生きている人もいる。「田舎だからうまくいかない」などと、自分で勝手に決めた「あたりまえ」から離れなければ、自分の殻に閉じこもってしまうだけである。
このように、すぐに「思うようにいかない理由」が頭をよぎるかもしれない。しかし、「○○だから無理」と思った瞬間、そこから前進することはない。大切なことは、そんな思い込みを捨てて、「どうすればできるのだろう?」と考えることだ。世の中の「あたりまえ」に対して疑問を持ったとき、人は大きな成長への転換点を迎える。
本書の著者である澤円氏は、「時間・タスク」「ルール・慣例」「コミュニケーション」「マネジメント」「自分自身」における「あたりまえ」に疑問を呈する。そのうえで、役に立たないあたりまえをズバッと切り捨て、成長を遂げていくための考え方と具体的なノウハウを紹介する。
本書を読むことで、自分のなかで勝手につくった「あたりまえ」をかなぐり捨てることができるだろう。自己実現に向けた新たな一歩の始まりである。
時間を疑う
自分と相手の時間の有限性を知る
時間は、すべての人に平等で、有限な資産である。時間が増えることはない。人生の終わりに向かって、残り時間は減っていく。
「残り時間を増やすことはできない」――このことを頭に刻み込んでほしい。なぜなら、いまあなたが直面している問題の多くは「時間を無駄にしていること」「時間の無駄に対する抵抗感が薄れていること」によって引き起こされているからだ。
時間の有限性と貴重さを理解できれば、未来は変わる。自分の時間の使い方が丁寧になるし、その時間をもっと有意義に過ごそうとするだろう。そうすれば、相手の時間を奪うこともなくなるはずだ。ひいては、自分だけでなくまわりの人を幸せにすることにつながる。
考える時間を確保する
多くの日本企業では、各部署で業務が異なるにもかかわらず、出社時間は皆同じだ。業務の効率だけを考えれば、全社員が同じ時刻に出社する必然性はない。時間で区切って仕事をする現場スタッフならまだしも、本部や本社のスタッフには、その必要はないだろう。それでもなぜ出社時間をそろえるのか。それは、「現場が早くから働いていて悪いから、それに合わせよう」という日本人特有の気質があるからではないかと著者はいう。
このような働き方では、本来クリエイティブな仕事をすべき人までもが同一性を求められてしまう。その問題の大きさを認識するとともに、生産性の高い時間の使い方とは何か、自分がもっとも価値を出せることは何かを常に問いかけ続ける必要があるだろう。
では、どうすれば自分の価値を見つけられるのか。そのためには、「ゼロを1にする」ための仕事、つまりこの世にないものを新たに生み出す仕事にどれだけの時間を割けるのかを考えてみよう。
新たなものを生み出すには、「考える時間」を確保する必要がある。著者の場合、「考える時間」は次の3つのフェーズに分けられる。1つ目は、ひとりの時間を確保し、自ら考えを深めること。2つ目は、多様な人たちとディスカッションすること。3つ目は、信頼できる誰かに話しながら、考えを構築・検証することだ。著者はこれらの3つを「ゼロを1にする」ための創造的な時間として確保するようにしているという。
タスクを疑う
タスクを効率的にこなす
「考える」時間をつくり出すには、タスクを効率よくこなす必要がある。そのために従うべき原則は3つある。
まず、できるタスクとできないタスクを理解することだ。できるタスクは自分で行う一方で、自分がやるとかえって時間がかかる優先順位の低いタスクは、迷わずアウトソーシングしよう。具体的には、得意な人にやってもらったり、ツールを使って自動化したりすればよい。
2つ目は、やると決めたひとつのタスクに集中することだ。ひとつのタスクに集中して取り組むと、スピードが上がり、作業を早く終わらせることができる。
3つ目は、タスクにかかるスピードを把握することだ。タスクごとの所要時間を把握しておくと、もし急用が入ったとしても、予定を調整しやすくなる。たとえば、ある作業が2時間かかるなら、前後1時間ずつ振り分けるなどといったふうに調整できるだろう。
特に重要なのは、できるタスクとできないタスクを把握し、自分が得意なタスクに集中することだ。その間、他の人にはその人が得意なタスクを担当してもらう。著者はこのアウトソーシングを「時間の貸し借り」と呼んでいる。
たとえば著者は、プレゼンが得意分野だ。プレゼンで大切なのは、コンテンツと当日のパフォーマンスである。それらをベストなものに仕上げるためには、プレゼンに集中できる最良のコンディションを作らなければならない。そこで、コンテンツの材料となるクライアントのプロファイル分析や事業内容の精査については他者と協働し、「他者の時間を借りる」ようにしているという。それができるのも、著者が「プレゼン」という分野において他の人にはない強みを持っているからだ。
ボトルネックを見つけ、解消する
仕事全体のスピードを左右するのはボトルネックだ。これは、世界的ベストセラー『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット著、ダイヤモンド社)で言及されている「全体最適論」だ。端的に言うと、自分が最高のスピードを出せる状態にするには、ボトルネック(遅れを引き起こす障害)がどこにあるのかを知り、それをどう改善するかがポイントになるということだ。ボトルネックを取り除けば、最速のスピードで突っ走れる。
一般的にボトルネックになるのは3つだ。習熟度が低いこと、やり方が自己流であること、そして、興味がなく嫌々やっていることだ。
熟練度が低かったり、やり方が自己流だったりする場合は、練習を重ねたり、上手な人に教わったりすることで解決できる。やればやるほど上達し、モチベーションも上がっていくだろう。
では、興味がないことや嫌々やっていることに対しては、どうすればいいのか。著者のアドバイスはひとつ。「自分の人生に意味がないのなら、やめてしまおう」だ。嫌なら逃げてしまえばいい。
もちろん、これは万人にあてはまる方法ではない。だが「やらない」「逃げる」という選択肢は常に持っておきたいものだ。
「外のものさし」を持つ
いま、個人の選択肢が無限に広がりつつあるが、一人ひとりが持つ時間の総量は変わらない。そんな時代だからこそ、著者は「時間の貸し借り」という考え方を大切にしたいという。時間を貸し借りし合えば、無駄な時間を過ごさずに済み、そのかわりに自分の時間を有益に使える。そうして自分の幸せを追求していけばいいのだ。
時間の貸し借りをして相手の役に立つには、自分の得意分野をつくることが重要だ。得意分野をもたないと、相手と対等に時間を貸し借りできない。その結果、他人の時間を奪うことにもなってしまいかねないだろう。
では、どうすれば自分の得意分野を見つけられるのか。得意分野をつくるときに覚えておきたいのは、「外のものさし」を持つことだ。自分はマーケットのなかでどの立ち位置にいるのか。相手にどんな価値を与えられるのか。「外のものさし」によって自分を客観的に評価すれば、自分が提供できるバリューが見えてくるはずだ。
アウトプットする場をもつ
「外のものさし」を持つために、アウトプットする場を外にもとう。外の世界にさらされれば、そこで自分がどう評価されるのかがわかるからだ。
外の世界でアウトプットするということは、アウトプットせざるをえない状況に身を置くということでもある。ただ「アウトプットしなければ」と思っているだけでは、いつになっても状況は変わらない。アウトプットせざるを得ない状況を強制的につくりだそう。
自分の立ち位置を客観的に捉えることができたら、それをはっきりと言語化する。肩書や役職にとらわれない、本当の自分の力を見極めるには、自分のコンテンツをアウトプットし続けることが大切だ。アウトプットの手段はブログでもツイッターでも、街頭演説でもなんでもよい。次第にそれに賛同してくれる味方が増えてくるだろう。味方から良質なフィードバックを得れば、自分の考えをより深めていくことができる。同時に「外のものさし」を持つことにもなり、より広い視点から自分を客観視でき、さらなる目標を設定することができるという好循環が生まれる。
どうすればいい情報をうまくアウトプットできるか。それは、いい情報を発信することに尽きる。「鶏が先か卵が先か」という話だが、いい情報を発信すれば自ずといい情報を受信できるものだからだ。アウトプットすればいい情報が集まり、それがさらにいいアウトプットにつながる。常にアンテナを張り、受信した情報はすぐに発信しよう。そうすればアウトプットに対するフィードバックが得られ、自分の客観的な立ち位置を把握することにもつながるし、自分の存在に気づいてくれる人が増える。
自分自身を疑う
「なりたい自分」を外面で表現する
著者は長髪で、営業マンとしてはかなり特徴的な髪型をしている。この髪型で仕事がいい加減だと、周囲からの風あたりは強くなるだろう。だから顧客や社内の期待値を超える働きをして、長髪をユニークな自己プロデュースとしてとらえてもらえるように努力している。この髪型が自分を律するためのツールになっているのだ。
自己投資においては、「他者からどのように見られるか」「どんなところを見せたいか」という「外面」を意識することが大切だ。そのためにはまず、「なりたい自分」を言語化してみよう。たとえば著者は、髪型や服装と同様、自分にとって理想的な体重をキープしている。なぜなら、著者にとっての「なりたい自分」は「太っている自分」ではないからだ。「なりたい自分」のイメージを言語化し、それに基づいて体を管理する習慣をつけている。
外面は、他者との接点になる。パソコンと同じで、どれだけ高機能であってもディスプレイが汚れていたり、白黒だったりしたら、機能として十分ではない。自分の内面をきちんと伝えるために、インターフェースの美しさを保ちたいものだ。
一次情報をつくって発信する
いい情報を発信するためには、自分だけの「一次情報」をつくることだ。一次情報とは、自分が体験した情報のことである。
自分だけの一次情報をつくるには、他の人よりも得意なことを3つ掛け合わせるとよい。一つひとつはそれほど得意でなくても、それが3つ掛け合わせられると、あなただけのユニークなものになる。そのオリジナリティーがあなただけの一次情報になるわけだ。
「自分には得意なことなんてない」という人もいるだろう。そんな人は、あえてネガティブな体験を活用してみてはどうだろう。たとえば著者の妻は、ADHD(注意欠陥/多動性障害)で、子どものころから苦しんできた。だがいまではすっかり幸せに暮らしており、その経験を活かし、まわりの人を幸せにするための情報発信をはじめたという。ネガティブな経験をもとに他の人たちに勇気を与えることができたなら、それはあなたにしかできない「得意なこと」に違いない。
一読の薦め
今回は、「時間を疑う」「タスクを疑う」「自分自身を疑う」に絞って要約した。本書では、さらに「ルール・慣例」「コミュニケーション」「マネジメント」に関する「あたりまえ」にも疑問が投げかけられている。今まで疑わなかった「あたりまえ」にメスを入れることで、新たな次元へと踏み出すことができるだろう。
特にマネジメントの章では、「マネージャーの仕事は部下に対して、数字を上げろと命令や指示を出すことだ」などといった「あたりまえ」もバッサリ切り捨てられている。マネージャーだけでなく、中堅社員の方にもぜひお読みいただきたい。
本書を読み込み、「あたりまえ」を疑えば、自己実現に向けてアクセルを踏み込むことができるはずだ。
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著者紹介
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澤 円(さわ まどか)
1969年生まれ、千葉県出身。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、97年にマイクロソフト(現日本マイクロソフト)に入社。情報共有系コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任し、2011年、マイクロソフトテクノロジーセンター・センター長に就任。18年より業務執行役員。06年には十数万人もの世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツが授与する「Chairman’s Award」を受賞。現在では、年間250回以上のプレゼンをこなすスペシャリストとしても知られる。著書には、『外資系エリートのシンプルな伝え方』(kadokawa/中経出版)、『マイクロソフト伝説マネジャーの 世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)などがある。
Twitter:Madoka Sawa/澤 円(@madoka510) -
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