『ビジネスを変える100のブルーオーシャン』を要約! 開花寸前の市場はどこ?
いま世の中では、どういった新しいサービス、ビジネスが登場しているのか。本書では、これから新たに花開く‟ブルーオーシャン”である市場の予測と、その規模、攻略法を解説してくれる。さまざまな分野の「イノベーションの萌芽」を知ることで、「新時代の波」を乗りこなすビジネスパーソンになれるはずだ。
タイトル:日経BP総研2030展望 ビジネスを変える100のブルーオーシャン
著者:日経BP総研(編著)
ページ数:232ページ
出版社:日経BP
定価:2,000円(税別)
出版日:2019年10月23日
Book Review
イノベーションと一口にいっても、何をすればよいかわからず途方にくれている方がいるかもしれない。「技術革新」という訳語にとらわれて、とてつもない技術力を求められるような気がすることもあるだろう。
しかし、イノベーションとは本来、社会の変化を的確に捉えたうえで、サービスやモノを受け取る人々の満足度を上げるための取り組み・工夫を指す。本書はそうしたことを対話形式で伝え、読者をリラックスさせるところからスタートする。そのうえで、これから新たに花開く市場、ブルーオーシャンの予測と、その規模、攻略法を実に明快に解説してくれる。
各章は、今後おさえておくべき「5つの構造変化」に沿う形で構成されている。社会構造や市場の鳥瞰図を参照しながら、興味に従って掘り下げられるような仕立てだ。扱う領域は、「健康・食・QoL」「人のデジタル化・超人化」「働き方を変える術」「シェアリング・サービス」「社会問題、SDGs、ESG」と実に多彩で幅広い。パラパラとページをめくるだけで興味がかきたてられる。また、いまどういったサービス、ビジネスが登場しているかだけでなく、今後見込まれる構造変化に即して、どんな部分が現状では不足しているのかまで検討している。その意味でも、新しいイノベーションの萌芽を、さまざまな分野で見出せる、貴重な一冊だ。
まずは本書をガイドに、身近な人びとを幸せにする工夫を続けていく。そうすれば、より大きなブルーオーシャンへと漕ぎ出すことができるだろう。
イノベーションのために
5つの構造変化
ビジネスを変える100のブルーオーシャン(競争相手のいない未開拓市場)は、5つの構造変化をとらえたイノベーションの先にある。その5つとは、「生存からQoL(クオリティ・オブ・ライフ)へ」「有形資産から無形資産へ」「クローズからオープンへ」「資源無限から有限へ」「テクノロジー集中から偏在へ」という変化である。それらの絡み合う変化を導き手に、顧客に新たな体験を提供することがイノベーションだ。
まず、ヘルスケア分野では、さまざまな技術革新が起きており、ビジネスチャンスが広がっている。個人情報、ライフログの活用や働き方改革、離れた場所を結ぶコミュニケーションサービスなどの無形資産は熱い分野だ。また、シェアリングやオープンソース、双方向システムという形で、オープン性が高まりつつある。さらには、環境に配慮したESG(環境、ソーシャル、ガバナンス)、SDGsの考え方は、重要度を増す一方だ。どの分野でもベースにはテクノロジーがある。
そうしたポイントを踏まえながら、本書は一つ一つブルーオーシャンを紹介している。
人生の質を上げる
健康をデータで管理し、予防につなげる
最初に検討するのは、人の健康や生活にかかわるQoLの分野だ。多くの人に直接的に関係するため、現在でも多くのビジネスが動いている。企業も、単なる社会貢献にとどまらず、従業員を含めた人びとに幸福を感じてもらうための事業設計、経営戦略を考える必要に迫られている。
では健康を管理するサービス、ビジネスではどのような動きが起きているのか。まず、メタボリックシンドロームやフレイルといった言葉に代表されるように、病気になる前から予防しようとする「未病」の考え方が進んでいる。具体的には、質のよい睡眠をとる取り組みを指すスリープマネジメントや、従業員の健康状態を把握するオフィス・ヘルスセンシング、寿命予測といった新市場が開拓されている。オフィス・ヘルスセンシングの市場規模は2025年で1兆1200億円が見込まれている。
また、健康経営では、たびたび病欠をする「アブセンティズム」や、健康問題で効率の下がった状態で勤務する「プレゼンティズム」への対応を重視する。従業員のバイタルデータについて、生体情報から活動情報、環境情報などをセンシングできると、それが健康経営の推進に役立つ。
こうしたバイタルデータは、医療適正化コンシェルジュのサービスにも活用できる。医療適正化コンシェルジュとは、過去の健康、医療、介護の情報をもとにした、個人向けの助言を意味する。個別のデータによって、特定の病気にかかる可能性を予測し、予防を促すことができれば、医療費の削減にも効果があるだろう。もちろん、繊細なプライバシーデータを扱うため、セキュリティの充実化や利用者との合意形成プロセスの精緻化には、細心の注意が必要といえよう。
生活を豊かにする
生活をより豊かにすることをめざす分野も、ブルーオーシャンの宝庫である。たとえば、ライブエンターテインメントにおけるIR(統合型リゾート)。IRは、外国人観光客を満足させ、言葉の壁を超えて日本の文化を知ってもらうためのもの、ナイトタイムエコノミーの拡充としても考えられる。
また、地方や田舎への期待も熱い。「アグリツーリズム」と呼ばれるものがそれだ。アグリツーリズムとは、都市部に住む人が、地方の農村・漁村へ旅行し、田植えなどの現場を体験することを指す。その背景にあるのは、地方創生や自然と触れることによる癒しへのニーズだ。すでに、体験型授業、「地域みらい留学」といった形でスタートしているものもある。今後はITを応用したVR(仮想現実)での体験も考えられるだろう。
くわえて、人生の終わり、介護や終活をサポートする新しいサービスも登場している。たとえば、IT、AI(人工知能)を活用した完全介護ロボットや、葬儀・墓・資産などの準備と運用を、これまでにない視点で捉えたビジネスなどだ。
人のデジタル化、超人化
個人情報をどう使うか
次に、人そのもののデジタル情報をどう活かしていくかというテーマに目を向けていく。今後は、個人が自分の情報を主体的に貸し借りできるようにしたり、人間の機能自体を強化したりする方向にも進み得る。人間とテクノロジーがどこまで一体化していくか。その見極めも大事になるだろう。
では個人の情報をどのようにして能動的に利用すればいいのか。この観点から、「情報銀行」という考え方が生まれた。情報銀行とは、個人の属性や行動、購買記録などの情報を個人から委託されて管理し、情報を必要とする企業や自治体などに提供する仕組みを指す。個人はPDS(パーソナルデータストア)を使用して、自分の意思で情報の受け渡しを管理できる。課題となるのは、個人がそれを利用するメリットの周知と、データ活用の広がりを設計できる人材の育成・確保といえる。
働き手個人のスキル・実績・信頼度などの情報については、企業側が利用する動機も多々ある。副業やアルムナイ(自社退職者)の再雇用が話題となる昨今、2030年には終身雇用、定年退職制が崩壊するともいわれている。そのため、働き手の市場価値とニーズを把握できる仕組みを求める声は大きい。
「超人間」という海
人間機能の拡張に関しては、さまざまな側面で研究が進んでいる。AI学習による「クローン・エージェント」はその一種だ。個人の行動や感情の変化をデータから学習し、その人が何を求めているのか、どうしたいのかを先回りして提案するシステムである。情報に基づいて、当人以上の確度でレコメンド、アラートを提示できる。場合によっては購買や手続きを代行できるため、まさにエージェントといえる。その市場規模は2030年において、グローバルで10兆円が見込める。
さらには、触覚情報を人工的に再現するハプティクスや、それを利用したテレイグジスタンスなどにも、可能性の海が広がっている。テレイグジスタンスとは、遠隔地のロボットや触覚機器を通じて、その場にいるかのように感じ、行動することを指す。今後の応用可能性は実に広い。
労働自体をデザインする
真の働き方改革へ
働き方、働く場、働き方自体をどう変えていくか。今度はこうした分野でのイノベーションを見てみよう。
政府主導で「働き方改革」が叫ばれるようになったが、時短の目標や残業の規制にばかり目が行き、そうした手段が目的化している面もある。成果物の価値を向上させるための取り組みが、結果として時短、残業抑制につながるのが理想だ。
たとえば、企業人が調べものに費やしている時間を、人件費に換算すると、年間25兆円になるという。こうした現状から、速さと正確さを兼ね備えた情報コンシェルジュが求められている。また、メールの整理やスケジュール管理、会議室取得など、一人ひとりの業務を最適化するAIアシスタントも、サービス化が進む一方だ。
流動的な労働環境へ
これからは、プロジェクト単位でチームを形成する、「タスク型のジョブマーケット」が主流になっていく。それに伴い、労働者それぞれのキャリアを尊重するサービスやビジネスが、ますます重要になるだろう。経団連も「新卒一括採用」を廃止し、大学新卒でも通年採用する方針を打ち出した。
こうしたことに伴い、働く人にとって、企業との契約やキャリアプランは、いっそうパラレル化(複線化)することが予測できる。それにより、フリーランスを中心とした個人のための権利擁護、保険、福利厚生サービスなどのニーズが、今以上に高まってくるはずだ。
オープン時代の到来
シェアリング・サービス
ITの進歩により、これまでは考えもつかなかったものがシェアできる世の中になりつつある。その多くはサブスクリプションのモデルだ。これは、一定料金を支払って、サービスなどを提供する形態を指す。
利用すればするほど履歴が残るため、利用者側の嗜好が反映されたレコメンドが可能となる。一方、事業者側には、一定の収入が見込めるため、ビジネスを安定化させやすいというメリットもある。
つづいて、Services on MaaSというブルーオーシャンについてだ。運転手が不要な自動運転車が2020年代半ばには実現するという。すると、車両が動く部屋になり、移動時間とサービスの掛け合わせで、新たな稼ぎの場が生まれる。たとえば、移動時間に英会話を教わるといったことが可能となるのだ。このServices on MaaSの国内潜在市場規模は8兆円といわれている。
そのほか、意思決定に関わるリスク情報などの基盤を整備し、提供するサービス、グローバル法務をAIで支援するサービスのニーズも広がっていく。
地域、地球と共存するために
SDGsとESG
社会や地方、自然環境などの持続可能性を高めていくSDGsやESG。両者の取り組みは、もはや新しいビジネスの常識といっていい。企業は、さまざまなコミュニティと持続的に共存していかなくてはならない。そのため、安全を担保する仕組み、地方創生と活性化への取り組み、環境問題への対処、エネルギー関連といった分野に、新市場が期待できる。
コミュニティを守るものの具体例の1つは、昆虫や動物の感知能力を応用した天災予報である。昆虫や動物にセンサーをつけ、天災発生前後の行動変化をセンシングする。常時観測が可能になれば、一定量のデータを取得できる。そのため、統計分析によって予測モデルをつくり出すことも可能になってくる。
SDGsと地方創生をかけ合わせた取り組みも盛んだ。地域内での消費を増やし、地域経済を活性化させる域内限定ポイントサービスは、その一例である。また、コンパクトシティの考え方から、非居住区を計画的につくっていく「まちたたみコンサルティング」も登場するだろう。
また、温暖化防止の一環として、新しい再生可能エネルギーが模索されている。たとえば、再生可能エネルギーを効率よく利用するために交流配電網や給電網を直流に変換していく機運は、世界的に高まっている。
需要家のもとでつくられた太陽光や蓄電池などの分散エネルギー資源を、IoTでネットワーク化し、1つの発電所のように運用するVPP(仮想発電所)、建材一体型太陽光パネルなどが、今後より活性化することが見込まれている。
まずは身の回りから
イノベーションへのヒント
100のブルーオーシャンを眺めて、その広大さに途方にくれる人もいるかもしれない。そうしたときは、小さなことから始めてみるとよい。そうすれば、旧市場の中に新市場を見つける、あるいは想定とは全く異なるテクノロジーの使用方法を思いつく可能性が高まる。規制を過度におそれる必要はない。
そのうえで、グローバルの動きを知るためには、社内外に多くの接点、チャネルをもつことも大切である。異文化の人、感性豊かで専門性も備えた人が集まるような魅力的なビジョンや環境を整え、発信していくようにしたい。
一読の薦め
要約では100のブルーオーシャンの一部を紹介している。ぜひ本書を手にとって、関心のある分野から目を通し、現在関わっているビジネスとの関連性について思いを馳せていただきたい。具体的なビジネス例、テクノロジーの事例なども豊富なのが本書の魅力だ。成長の手がかりを得て、ブルーオーシャンへ漕ぎ出してみてほしい。
※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介
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日経BP総研(編著)
日本経済新聞社の100%子会社、日経BPのリサーチ&コンサルティング部門。
日経ビジネスなどの経営誌、日経トレンディなどの生活情報誌、日経アーキテクチュア、日経エレクトロニクス、日経コンピュータ、日経メディカルなど技術情報誌の編集長や記者経験者など総勢80名を抱える。研究員の知見、人脈、情報発信力を生かし、企業や団体の経営改革、人材戦略、事業創出、マーケティング・顧客開拓を支援している。編著書に『ビジネスを揺るがす100のリスク』がある。 -
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